西伊豆の海岸線に沿って汽船が通っている
バスに乗ってそれを見ると
たとえば崖の高みから
静かな日には 青い平野であるか、とも思われる
けれどしんじつ海である
そのキラキラ光るみどりの表を
ゆっくりと、ちいさく走っている船。
たとえば崖の高みから
静かな日には 青い平野であるか、とも思われる
けれどしんじつ海である
そのキラキラ光るみどりの表を
ゆっくりと、ちいさく走っている船。
その船に私は乗っていた、
甲板は私にとって充分広かった
海は船べりに満ちていた
海は岸辺にも満ちていた
私の掌には一個の赤いりんご
掌にあまるその大きさとほど良い重みを
私は心地よくささえていた、
甲板は私にとって充分広かった
海は船べりに満ちていた
海は岸辺にも満ちていた
私の掌には一個の赤いりんご
掌にあまるその大きさとほど良い重みを
私は心地よくささえていた、
十月、熟れたりんごに満ちあふれる秋と
潮にささえられた一艘の船と
船にささえられた私と。
潮にささえられた一艘の船と
船にささえられた私と。
海よ
私は掌の中に海の重さを感じていた、
遠景に富士が
雲一つなく立っていた
私は甲板に立っていた
すべてがゆれた
私は掌の中に海の重さを感じていた、
遠景に富士が
雲一つなく立っていた
私は甲板に立っていた
すべてがゆれた
西伊豆の海岸線に沿って汽船が通っている、
村道から見るとわずかな島影にも姿をかくす
それはちいさな、船である。
それはちいさな、船である。