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千里眼09

时间: 2020-05-27    进入日语论坛
核心提示:孤独 手ごろな間取りの空き部屋がなかったせいで、ひとり暮らしには不相応に広い4LDKに住むことになった。それが美由紀の借
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孤独

 手ごろな間取りの空き部屋がなかったせいで、ひとり暮らしには不相応に広い4LDKに住むことになった。それが美由紀の借りている三〇一号室だった。当然、家賃もそれなりに値が張る。いまは自衛官時代の貯金を切り崩しているが、早く臨床心理士の資格を取得しなければ払えなくなる日もそう遠くない。
それでもこの部屋には利点もあった。リビングルームの隣にある無音室がそれだ。見た目はふつうの八畳サイズの洋間だが、分厚い扉を閉めると内部の音はほとんど外に漏れださなくなる。
美由紀はバイオリンで、ヴィニアフスキの協奏曲第二番三楽章を奏でていた。左手の指使いは自己流だった。そのため半音階は独特の響きになる。それが美由紀自身には好ましく感じられた。
だが世の中には、自分なりのやり方では通用しないものもある。美由紀は演奏をつづけながらぼんやりと思った。
ターゲル検査ソフト、Dの一九四のA三の表情が読みとれなかった理由が、おぼろげにわかってきていた。あれは男性の女性を見る目だったからだ。実感する感情と表情の観察をリンクさせてきた学習法では、かつて自分が抱いたことのない感情までは理解することはできない。女性の男性に対する恋愛感情は察することができるだろうが、その逆は無理ということだ。
万人の心が読めてしまうかもしれないという技能に孤独を感じながら、それが完璧《かんぺき》でなかったことに、また不満を募らせている自分がいる。複雑な心境だった。
ふとそのとき、聴覚になにかを感じて、美由紀は手をとめた。
かつてコックピットでも、エンジン音のわずかな変動を聞きつけて気流の状態を推し量ることができた。いまもその直感に似た感覚で、かすかな電子音のメロディを聞きつけた。エリーゼのために。厚い壁を通じてわずかに、だがたしかに聞こえてくる。
バイオリンを置いて、足ばやに無音室をでる。心理学を勉強したいまとなっては、この能力も科学的に理解できる。選択的注意、あるいはカクテル・パーティー効果と呼ばれるものだ。赤ん坊に添い寝する母親は、外から聞こえてくるクルマの音には目を覚まさなくても、わが子がむずかる声を聞きつけるとすぐに覚醒《かくせい》する。意識的に注意を向けておいた音色、音階には、自然に引きつけられるものだ。
スニーカーを履いて玄関から廊下にでる。誰もいない。音も消えていた。三〇二号室の扉は閉じている。
それでも、侵入者はいる。美由紀は確信していた。忍び寄って、ノブを握りひねった。開錠されている。すばやく扉を開け放った。
明かりは点《つ》いていない。暗がりのなかで懐中電灯の光だけがうごめいていた。室内を物色しているようすの人影が、あわてたように振り向く。
「管理人さん」美由紀は落ち着きはらった声で告げた。「鏡子さんの部屋でなにを?」
「ああ……ええと……いや」管理人は困惑したようすで、闇のなかから這《は》いだしてきた。
「留守中になにかあるといけないから、見回りがてら立ち寄っただけだよ。きみこそ、どうしたのかい」
美由紀はちらと靴脱ぎ場の床に置いてあったメロディ電報を見やった。また音楽が鳴りだしている。
「この手の電報って、光センサーでスイッチが入る仕組みなの。だから開きっぱなしにして暗闇に置いておけば、誰かが侵入しようとしたとき廊下の明かりに反応して鳴りだす。鏡子さんの帰宅時間はもっと遅いでしょ。おかしな動きがあれば確かめるのが隣人の務め」
「そうか……。あ、いや」
「ほかに人もいないみたいだし、管理人さん、どうして合鍵《あいかぎ》でこの部屋に入ったの?」
「いや……どうしてと言われても……」ばつの悪そうな顔の管理人が、廊下の明かりの下に立った。
その腰につけたウェストポーチは膨れあがっている。鏡子の室内から盗みとったものであることは明白だった。調べるまでもなく、管理人が一種の異常な趣味に興奮を覚えるタイプであることは、その挙動からわかる。
「警察を呼ぶわ」と美由紀はいった。
「ちょっと待て」管理人は鋭くいって、美由紀にすがるように近づいた。「待てよ!」
その瞬間、ここ二年ほどに学んだものとは別の直感、自衛官時代に養った危険を察知する勘が働いた。
管理人の右手に握られた銀いろの刃《やいば》が背に振り下ろされる寸前に、美由紀は身を翻してかわした。すかさず美由紀は踵《かかと》を低く蹴《け》りだす斧刃脚《ふじんきやく》を管理人のむこうずねに浴びせた。脚を浮かせたまま引き戻し、今度は高く燕旋脚《えんせんきやく》を放って管理人の手首をしたたかに打ち、凶器をその手から吹き飛ばした。
中年男は身体を鍛えているわけではないらしく、よろよろと後ずさって尻餅《しりもち》をついてしまった。感覚も鈍いようだ。打たれた手足にようやく痺《しび》れるような痛みを覚えたらしく、苦痛の呻《うめ》き声とともに床を転げまわった。
美由紀はため息をついた。やはり通り魔もこの男の犯行だったか。きのうの時点で、なにもかもわかっていたような気がする。
あるいはそれも、表情から感情を読みとったがゆえのことかもしれない。
 たったひとりの中年男を連行するだけにしては、大仰すぎるほどの光景がマンションのエントランスにあった。やってきたパトカーは三台、闇夜にパトランプの赤い光が明滅している。
辺りを野次馬が取り巻き、警官らが整理に追われていた。早くも駆けつけたマスコミがカメラのフラッシュを瞬かせるなかを、ふてくされた管理人は警官らによって連行されていく。一台のパトカーに詰めこまれると、報道陣が取り囲む。パトカーはクラクションを鳴らして、路上へと消えていった。
美由紀はエントランスに立ち、刑事に事情を聞かれていた。刑事は手帳にペンを走らせながらいった。「元国家公務員のかたですか。それも幹部自衛官であられたとは。おおいに助かりましたよ」
「どうも……」
「しかし、なぜ管理人が怪しいとお気づきになったので?」
「なぜっていわれても……。昨晩、あの人は通り魔を警戒するために見回りに出かけると言っておきながら、喜びを感じてた」
「喜び? どうしてわかるんですか」
「だから、それはね……。眼輪筋は内と外との二重構造になってて、瞼《まぶた》とそのすぐ下の皮膚を収縮させる内側の筋肉は意図的に動かせても、眉《まゆ》と頬に表れる外側の筋肉については無理なの。そこが反応しているということは、心から嬉《うれ》しいと感じているってことね」
「はあ。つまりあなたは……昨夜の時点であの男が悪巧みしていると気づいたと」
「いえ。そうじゃないの。悪意というのは理知的な謀《はかりごと》にすぎないから、感情面だけでは察することはできない。でも、その状況にそぐわない、あきらかに異常な心理状態をしめしていれば、秘められた意図があると感じることができるでしょ。あの男にはそれがあったのよ」
「ふうん……そうですか。そうなんでしょうね……」刑事は狐につままれたような顔をしていたが、やがて微笑を浮かべていった。「とにかく、ご無事でよかったです。ではまた、ご連絡いたしますので」
「ええ。いつでもどうぞ」
刑事が立ち去っていく。美由紀は辺りを見渡した。捕り物が終わったと知った野次馬たちが散りはじめている。夜の静寂が戻りつつあった。
と、スーツ姿でハンドバッグをさげた湯河屋鏡子が、小走りに駆けてきた。「美由紀さん」
「あ、鏡子さん。おかえりなさい」
鏡子は怯《おび》えた表情を浮かべていた。「いま警察の人に聞いて……。だいじょうぶだったの? 怪我はない?」
「平気よ。でもマンションのオーナーさんには苦言を呈しておかないとね。もっとちゃんとした人を雇ってってね」
「そうね……。あ、ねえ。美由紀さん」
「なに?」
「さっき警察の人が言ってたけど、管理人の顔を見ただけで通り魔だってわかったんだって?」
またその話か。さっきから人と会うたびに同じ説明を繰りかえしている。「犯行の意志があるかどうかがわかったんじゃなくて、そのときの感情が……」
「美由紀さん。お願いごと、聞いてもらえないかな?」
「どんなこと?」
「わたしの仕事、まだ話してなかったよね。保険の営業をしてるんだけど……」
「保険って、生命保険?」
「そう。セールスレディともいうけどね。今月、ちょっと苦しいの。なかなか契約がとれなくて。落とせそうな家に連日通い詰めて売りこんでも、悩んだすえに結局やめました、みたいな返事が多いのよ。美由紀さん、まだ臨床心理士になってないんでしょ? 明日一日でいいから、一緒に来てくれない? 加入する気があるお客さんかどうか、教えてくれるだけでいいからさ」
「あの……そういうのはちょっと」
「できないの? お客さんの気持ちもわからない? 心の底から喜んでるか、作り笑いをしているのか、その判別とかは無理?」
「無理じゃないけど……」
「じゃあ、やってよ」鏡子は顔の前で両手を合わせた。「お願い。このとおり」
美由紀は戸惑いを深めた。
たしかに鏡子のいうように、客の笑顔の真偽があきらかになるだけでも、セールスという仕事の効率は飛躍的に高まるだろう。
「だけど……」迷ったあげく、美由紀は頭をさげるしかなかった。「ごめんなさい。やっぱり無理」
「どうしてよ」鏡子の表情はたちまち曇った。「給料は歩合制だから、儲《もう》かったら少しぐらいお礼するよ」
「ありがたいんだけど……でも駄目なの。臨床心理士になる勉強の一環として習得した技術だし、訪問販売で人の心のなかを覗《のぞ》き見るようなやり方は……」
鏡子は硬い顔をした。「それって、わたしの仕事が重要じゃないって意味? 臨床心理士は人助けを目的にしてるけど、保険営業員はそうじゃないって?」
「そんなこと……わたしはそういうつもりでいったんじゃないのよ」
「いいわ。わかった。友達だと思ってたのに。まあ、フロアで一番広い部屋に住んでるあなたが、ほんのちょっとのお礼なんか必要なはずもないわね」
美由紀は面食らった。鏡子がこんなふうに態度を豹変《ひようへん》させるなんて。親友とまでは呼べなくても、それなりに心の通いあった仲だと思っていたのに。
だが同時に、いまこうして向き合っていると、鏡子の感情は手にとるようにわかる。きわめて移ろいやすい心情の持ち主だ。日ごろから、自分ひとりが迫害されているように感じるところもあるのだろう。そのせいで他人への嫉妬《しつと》心も強い。いま、その嫉妬は美由紀に向けられていた。
「そんなふうに思わないで」美由紀はいった。
「なに? そんなふうって、どんなふうよ」
「だから……。あなたはほかの人に比べて、なにひとつ劣っているところはないのよ。自分が人並みの幸せを得るためには、多少の無茶をしても許される、そんな考え方はしないで。人から冷たく思われるし、なにより自分を傷つけることに……」
「なにがいいたいのよ」鏡子は怒りだした。「あなた、わたしを見下して楽しい? いっておくけど、そんなふうにわたしを軽視したところで、あなたの価値が上がるわけでもなんでもないのよ。空き巣を捕まえてわたしが感謝してくれると思った? お礼ぐらいはいわせてもらうけど、あなたに遜《へりくだ》るほどのことじゃないわ。あなたと知り合いになっていることで、わたしが得になるなら交友関係を維持する。少なくとも、いい気分にさせてくれる人なら、まだ友達にしておく意味がある。けど、不愉快な気持ちにさせられたんじゃね。損するぐらいなら、こっちからお断り」
損得がすべてだと鏡子はいった。そして、その言葉を口にしたとき、鏡子の表情は人を打ちのめす愉《たの》しみに輝いていた。すなわち、発言にはひとかけらの嘘も含まれず、すべてが本心であることを意味していた。
なにもかもがわかってしまう。以前なら、いまの鏡子は取り乱しているだけと好意的に解釈できただろう。心にもないことを口走ってしまっている、そう思うこともできただろう。
けれども、もう無理だった。わたしは鏡子の真意を見抜いてしまった。彼女は、そういう人間なのだ。
「よくわかったわ……」複雑な思いとともに、美由紀は力なくつぶやいた。「あなたのいったことは、よくわかった」
鏡子は怒りと軽蔑《けいべつ》のまざりあった目で美由紀をにらみつけてから、黙って背を向け、エントランスのなかに歩き去っていった。
現場の後始末に追われる警官らが右往左往するなかで、美由紀はたたずんでいた。
心の奥底が覗けずにいれば、友達としての関係はまだ維持できたかもしれない。目をそむけることもできた。気づかないふりをすることも可能だった。でもわたしは、ひとり真実を知りながら、人を欺く道を選びたくはない。
孤独感が胸を締めつける。誰とも共有できない、そう感じたとき、涙がこぼれそうになった。それをかろうじて堪《こら》え、エントランスに歩を進める。
わたしは独りだ。しかしそれは、いまに始まったことではなかった。人間は誰もが独り。わたしはただ、それを痛感するようになった。それだけのことだ。
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