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千里眼22

时间: 2020-05-27    进入日语论坛
核心提示:クラブ・ケイン 黄昏《たそがれ》をわずかに残した空の下、美由紀がステアリングを切り、横浜関内の�親不孝通り�にメルセデス
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クラブ・ケイン

 黄昏《たそがれ》をわずかに残した空の下、美由紀がステアリングを切り、横浜関内の�親不孝通り�にメルセデスCLS550を乗りいれる。
その横顔を、笹島は助手席のシートにおさまり、黙って見つめていた。道沿いの派手なネオンサインに、美由紀の白い顔がいろを変えてみえる。
そのとき、後部座席の律子がふいに口をきいた。「岬さんと笹島さんって、つきあってるの?」
「な」笹島はあわてて、思わず笑いを浮かべた。「なんでそんなことを……」
美由紀は平然とつぶやいた。「いいえ。そんな関係じゃないわ」
その言葉に、笹島はひそかに意気消沈した。やはり。僕の気持ちはまるで意に介していないらしい。
「けどさ」律子は身を乗りだしてきた。「笹島さんは岬さんに気があるよね?」
「え?」と美由紀の目がこちらを一瞥《いちべつ》する。
笹島はびくっとしたが、顔をそむけまいとした。表情から感情が読めるのなら、僕のきみへの思いを汲《く》みとってくれるだろう。
しかし、美由紀はまた前方に目を戻した。「ありえないわね。そういう仲じゃないし」
思わずダッシュボードを叩《たた》いて、エアバッグにでも顔をうずめたい気分になる。律子が小さな声で笑って、笹島の背をぽんと叩いた。
まいった。この二十歳の子には完全に気持ちを見抜かれていて、肝心の千里眼の女はまるで気づいてくれない。
「きょうも終わりね」美由紀がいった。「明日には旅客機が危機にさらされるってのに……」
「日が沈んだだけだよ。まだきょうは六時間も残ってる。ねえ、美由紀さん。僕は……」
携帯の着信音が鳴ったため、またも笹島は口をつぐまざるをえなかった。律子が声をあげて笑う。
美由紀は携帯を笹島に差しだしてきた。「メールが届いたみたい。運転中だから、代わりに見てくれる?」
それを受けとって開くと、若い男の顔が大写しになった画像が液晶板に現れた。
あの美由紀の友人の彼か。目を輝かせてこちらを見つめている。いや見いっている。
「きみの友達からだ。まちがいなく彼は、彼女に気があるね」
「それ……ほんと?」
律子が後ろから身を乗りだして、携帯を覗《のぞ》き見た。「ああ、間違いないね。完全に惚《ほ》れちゃってる。こういう顔のとき、男はその女のことしか頭にないよ」
美由紀は怪訝《けげん》そうにクルマを減速させると、液晶板をちらっと見た。彼女にとっては、それで充分らしい。
「わかる?」と笹島はきいた。
「さあ……」
「どうしてわからない? 大頬骨《だいきようこつ》筋と眼輪筋が一緒に収縮してるし……」
「でもそれだけじゃ、ただ喜んでいるだけかもしれないでしょ。恋愛感情かどうかはわからない」
「えー。意外」律子はシートにもたれかかりながらいった。「美由紀さんがわからないの? 誰にでもわかるじゃん」
「律子さんにわかるっていうの? どうして? 男性の気持ちなのに……」
「いままでつきあってきた人の反応とかで、だいたいわかってくるものじゃん。そっかー。美由紀さんは惚れられてることに気づかないのかー」
律子がそういったのは、笹島に対するアシストであることは明白だった。
けれども美由紀は、眉間《みけん》に皺《しわ》を寄せたまま運転に興じるばかりだった。
深い恋愛はあまり経験していないのだろう、と笹島は思った。そのせいで男の反応がわからないのだ。千里眼に唯一残された死角。それは、美由紀に想いを寄せるという感情だけのようだった。
「あ」律子が声をあげた。「もうすぐ着くよ。右側の赤い看板の店」
美由紀はきいた。「律子さん、店に入るときに気をつけることとか、なにか聞いてる?」
「合い言葉があるって。でも、よく知らないの。わたしがいちど好摩に連れて行かれたときには、ほとんどの人が、店の黒服がいった言葉をそのまま繰りかえしたら入れたみたい」
「どんな言葉だったか覚えてる?」
「印象が強烈だったからね。ええと、赤とか、額賀《ぬかが》君とか、音とか、秋本美香とか……。でもいちどだけ、椅子って問いかけに対して、牛って答えた人がいたの。すんなり中に通されたから、あれも正解だったみたい」
「なるほどね……。わかった」
笹島にはさっぱりだった。「ほんとにだいじょうぶかい? 一緒に行こうか」
「駄目よ」美由紀はクルマを停めた。「着いたわ。笹島さん、運転して律子さんを家に送り届けてあげて」
「きみをひとりでは行かせられないよ」
「平気だって。帰りの都内方面は混むから、早めに行って」
「きみだけじゃ危険だ。僕を信用しなよ」
「同じ道を行き帰りするとして、行きが速度六十キロ、帰りが速度二十キロ。平均の速度は?」
「ええっと、あの……四十キロ」
「三十キロでしょ。よく間違える問題なの。あなたこそ気をつけて」美由紀は笑ってドアを開けた。後部座席のリュックサックを手にして車外にでると、そのまま�クラブ・ケイン�の店舗へと駆けていった。
やれやれ。笹島は助手席から運転席へと移り、ステアリングを握った。
「完敗だね」と律子が微笑する。
「いまはそうかもしれないな」笹島はつぶやきながら、ネクタイを正した。「でも、もうすぐわかるようになるさ、彼女も」
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