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千里眼37

时间: 2020-05-27    进入日语论坛
核心提示:幸運 岬美由紀は、入学したばかりの小学校の校庭で、舞い散る桜の花を見あげていた。その視界に映っているのは、自分よりずっと
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幸運

 岬美由紀は、入学したばかりの小学校の校庭で、舞い散る桜の花を見あげていた。
その視界に映っているのは、自分よりずっと大きな父と、そして母だった。
両親はここでなにをしているのだろう。そうだ、ふたりは講堂の後ろのほうの席で、入学式を見守っていた。ふだん家では身につけたことのないような洒落《しやれ》た服装をしているのは、そのせいだ。
母がなにかを喋《しやべ》ったが、よく聞き取れなかった。その言葉は父に向けられたものだったからだ。
おとなの会話というのは、随所でわかりにくい。いまも父は笑っているが、なにを可笑《おか》しいと感じたのか、子供のわたしにはぴんとこない。
「そりゃそうさ」と父は、母を見つめながらつぶやいた。「以前は詭弁《きべん》にしか聞こえなかったんだけどね。いまになって、確信してるよ。娘のためなら死んでもいいと思ってる」
「またそんなこと」母は笑った。「おおげさね」
「ほんとさ。きみもそうだろ? もし美由紀になにかあったら、命を捨ててでも助けにいくよ」父の目が美由紀に向けられた。見下ろす父のまなざしは優しかった。「な? お父さんはいつでも美由紀の味方だよ」
その父の表情に、美由紀は見いった。
大|頬骨《きようこつ》筋と眼輪筋が同時に収縮している。すなわち、つくり笑いではなく、本当に笑っている。心の底から喜びを感じている。
父の瞳には、幼い美由紀の顔が映りこんでいた。わたしを見る目。そして、一片の曇りもなく愛情を注ごうとしている父。一瞬のうちに、それらすべてが確認できた。
よかった、と美由紀は思った。
人の感情を見抜けるようになったいまだからこそ、両親の気持ちが知りたかった。特に、あまり目を合わせることさえなかった父について、その本心をたしかめたかった。
いまはっきりわかる。父はわたしを愛してくれていた。わたしの将来を楽しみにしてくれていた。わたしは恵まれていた。
美由紀は両手を伸ばし、両親と手をつないだ。父が右手、母が左手。
そしてゆっくりと歩きだす。胸にはもう空虚さなどかけらも残っていない。温かさだけがある。
わたしと両親は、心を通わせあっている。いつも一緒にいる……。
と、そのとき、聞き覚えのある女の声がした。
母以外の女の声だった。「美由紀。ねえ、美由紀」
 レム睡眠からの目覚めは、いつも急速だ。美由紀はその実感とともにベッドで跳ね起きた。
まだ焦点のさだまらない、ぼやけた視界。おなじみの光景がそこにあった。
寝室と、開け放たれた戸の向こうにリビングルームが見える。
美由紀にとっては不相応に広い部屋。アメリカン・ポップアート調のインテリアで統一したリビングには、白いグランドピアノも置いてある。
視界にとらえたそれらの要素がひとつずつ、美由紀の現状を再認識させる。
わたしは……子供ではない。二十八歳、空自を除隊して現在は臨床心理士だ。
思わずため息が漏れる。
マッハ二・〇の戦闘機を操るうちに培われた動体視力、のちに学んだ臨床心理学の知識と、表情筋から感情を読み取る方法。それらが結合して、心のなかを読む女などと喧伝《けんでん》されるようになった。マスコミがつけたあだ名は、千里眼。
両親は幹部候補生学校時代に事故死している。
複雑かつ数奇な人生の紆余《うよ》曲折ののち、偶然に備わったこの特技が、小学生だったころのわたしに使えるはずがない。
それなのに、夢のなかでは疑う気さえ起こらなかった。心から望んでいたのかもしれない。いまに至って、両親のわたしへの想いをたしかめたい、と。
ひとつだけ願いがかなうのなら、この技能を身につけたまま小学生のころに戻って、両親の顔をひと目でいいから見つめたい。胸の奥でそう望んでいたのだろう。
すべてが幻にすぎなかったと知り、美由紀は空虚な気分になった。いまさら願望を夢に見るなんて。
眠りから醒《さ》めて、意識がはっきりしてくる。
さっき聞きつけた女の声も夢だったのだろうか。妙にはっきりと聞こえた気がするが。
と、リビングからぶらりと人かげが現れた。
趣味のいいスーツに身を包んだ、美由紀と同世代の痩身《そうしん》の女は、にっこりと笑って指先にぶらさげたペンダントをしめした。
「これ、いいじゃない」高遠由愛香《たかとおゆめか》はいった。「どこで買ったの? 十字架《クロス》に埋めこまれているのは天然ダイヤでしょ? カジュアルな服装のときの美由紀にぴったり」
由愛香か。
美由紀は頭をかきむしった。長いつきあいの友人だけに合鍵《あいかぎ》を持たせていたが、こんなふうに遠慮なくあがりこんでくるなんて。
「ねえ」由愛香はしきりにペンダントを眺めまわした。「このチェーン、長さはどれくらい?」
美由紀は仕方なくおしゃべりにつきあった。「四十センチ。クロスがかなり下のほうに来るから、白いシャツに合わせると似合うの」
「それはあなたの首の細さがあってこそでしょ。わたし、四十センチってちょっと中途半端な長さになっちゃうんだよね」
「由愛香。こんな朝っぱらからどうしたの」
「朝って。もう七時よ。ああ、美由紀は美人だからメイクもナチュラルで時間かからないって? うらやましいわね」
「そんなこと言ってないんだけど。七時って……まだ三時間しか寝てないよ。きょうは昼からの出勤でいいのに……」
「だめよ。昼間に起きるなんて、まるでニートじゃない。どうしてもっと早く休まないの」
「人間って、カーテン締めきって朝の光を取りこまずにいると、一日二十五時間周期になるのよ。それが本来の人間の生活ペース。だから一日ごとに、一時間の時差ぼけを背負いこむことになる。週末の休日に夜更かししたりして、それを調整する」
「きょうは土曜でも日曜でもないわよ。夜更かしするのはこんなにいい部屋に住んでるからじゃない? ほんと、いつ来ても広くてうらやましい」
「由愛香は一戸建てに住んでるでしょ。都心に百坪の家を持ってる独身女性なんてあなたぐらいよ。お店もたくさん経営してるし」
「あいにく、自宅は経営店舗の帳簿や備品の一時置き場になっててね。寝る隙間もないぐらいよ。都内のお店はバックヤードが狭くて困るわ。きょう届く厨房《ちゆうぼう》の流し、あのピアノの上に置かせてもらっていい?」
「え……」
「冗談よ。さ、起きた起きた。世間はもう朝よ」と由愛香はリモコンを手にとり操作した。
リビングルームのプラズマハイビジョンが点灯し、にぎやかな朝の番組の音声が響く。陽気な音楽にのせて、キャスターが天気予報を告げている。きょうの関東地方は快晴で、空気も乾燥して過ごしやすい一日になるでしょう……。
美由紀はベッドから起きだし、リビングへと歩を進めた。
しかし、空腹のせいかめまいがする。ふらついて、ダイニングルームの食卓の椅子に座りこんだ。
「ちょっと」由愛香が顔をしかめた。「情けない……。美由紀ってほんとに戦闘機に乗ってたの? 陸自で戦車に乗ってる女性自衛官は知ってるけど、彼女は女子プロレスラーみたいに体格よくて、みるからに健康そうだったよ」
「ゆうべなにも食べずに寝たから……」
「なんで? こんな部屋に住んで、ベンツに乗ってるくせにじつは貧しいとか?」
「そうじゃないけど……。寝る前に食べると太るし」
「たくさん食べなきゃいいでしょ。ねえ、美由紀の靴のサイズっていくつ?」
「二十三・五だけど」
「ヒトの胃袋って靴のサイズと同じって知ってた?」
「それほんと? 大きすぎない?」
「嘘じゃないのよ。だから満腹するまで食べようとすると、かなりの量になっちゃうからさ……」
ふいにテレビから緊迫感を煽《あお》る効果音が流れだしたせいか、由愛香は口をつぐんだ。
テレビの画面には番組宣伝用のCMが映っている。顎《あご》ひげを生やした四十歳前後の白人が、鋭い目つきでたたずんでいた。
「超能力者スピン・ラドック緊急来日!」ナレーションが告げた。「FBIをも唸《うな》らせた驚異の透視能力で、日本の未解決|失踪《しつそう》事件の真相を見抜く! 今晩八時『放送ノチカラ』お楽しみに」
由愛香が眉《まゆ》をひそめた。「どうなんだろね、こういうのって。胡散臭《うさんくさ》くても視聴率とれればいいのかもしれないけど、被害者の身内もよく協力するね。本気なのかな?」
「たぶん信じてはいないんだろうけど、番組の作り手も説得のコツを心得てるんだろうね。ショーアップして大勢の人が観てくれれば、それだけ目撃者の情報が集まるから……とか、そんなふうに出演の約束を取りつけるんでしょ」
「透視なら、どこの馬の骨かわからない外人を連れてこなくても、ここに千里眼の女がいるのにねぇ」
「透視じゃないってば。千里眼でもないの」
「じゃ、わたしが今朝来た理由もわからないわけね」
「当然よ。なんの用?」
「それがね」由愛香は眉間《みけん》に皺《しわ》を寄せて、さも深刻そうな口ぶりで告げた。「残念なお知らせなんだけど……」
だが美由紀は、由愛香の眼輪筋の収縮を一瞬のうちに見切った。「すごくうれしいことがあって、わたしを驚かせに来たのね」
由愛香はため息をついた。「ったく……。せっかくサプライズを与えてあげようとしているのに、本心を見抜くなんて」
「ごめんね。で、なんなの?」
「驚きなさいよ。北欧の伝説のバンド、セブン・エレメンツが来日公演するって!」
「えー!?」美由紀は思わず我を忘れて大声をあげた。「ってことはボーカルのビクター・ポーカスも……」
「もちろん。ベースはドレッド・シンプソンだし、最強メンバー勢ぞろいですって」
「すごーい!」
「どうやら、千里眼でも見抜けないほど意外な事実だったみたいね。うれしい?」
「そりゃもう。セブン・エレメンツ大好き。いつもクルマを運転しながら聴いてるの。『ファスター・ザン・ユア・シャドウ』とか、バラードなら『ハウ・メニー・フェイセズ・ドゥー・ユー・ハヴ』とか」
「ビルボード一位の常連だものね」
「以前にヨーロッパ公演のチケットを片っぱしからネット予約したのに、まるで取れなかったのよ。日本でのコンサートを押さえるなんて、さすが由愛香」
と、由愛香の顔から笑みが消えた。「押さえるって?」
「え……? チケット取れたんじゃないの?」
「まさか。けさプレイガイドで抽選があるから、一緒にいこうって誘いに来たのよ」
美由紀は落胆を禁じえなかった。「なんだ……。喜んで損した……」
「……まあ、そんなに肩落とさないでよ。少なくともわたしは幸せよ。美由紀がはしゃいで黄色い声あげて喜ぶなんて、滅多に見れないものが見れたし。とても二十八とは思えないわね。もともと若くみえるけど、女子高生みたい」
「茶化さないでよ。なんだかまた、ベッドに潜りたくなってきた」
「そんなこといわないで。ねえ、じつはね……ほんとはチケット取れてたのよ!」
大仰に叫ぶ由愛香をちらと見て、美由紀は暗い気分のままいった。「嘘。唇が下がってるし眼輪筋に活動がみられないじゃない。ぬか喜びはもうたくさん」
「あーあ。美由紀ったら張り合いがないわね。ま、いいわ。とにかく、出かける仕度して」
「どこ行くの?」
「プレイガイドに決まってるじゃない。朝十時には開店しちゃうし。早くいかないと、抽選券も手に入らないよ」
「んー。抽選かぁ。ジャンケンなら勝つ自信あるんだけど」
「いいから。わずかなチャンスにでも賭《か》けてみようよ。ほら。着ていく服なら見繕ってあげるから」
嬉々《きき》としてクローゼットの洋服の品定めに入った由愛香を眺めながら、美由紀はため息をついた。
わずかなチャンスに賭ける、か。運というものがあるとするのなら、いまはたぶん勝機ではあるまい。先日の旅客機墜落阻止で、ありったけの運を使い果たしたばかりなのだから。
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