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千里眼39

时间: 2020-05-27    进入日语论坛
核心提示:マトリョーシカ 東大の本郷キャンパスにほど近い五階建てのテナントビル、その三階に臨床心理士会の事務局がある。美由紀はその
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マトリョーシカ

 東大の本郷キャンパスにほど近い五階建てのテナントビル、その三階に臨床心理士会の事務局がある。美由紀はそのビルのエレベーターに乗りこんだ。
臨床心理士はたいていこの事務局から呼びだしがかかるか、朝のうちに出向いて派遣される勤務先を決定する。
文部科学省の要請で、スクールカウンセラーとして学校や教育センターに赴くことが多い。次が病院、児童相談所。裁判所や少年院、刑務所、ハローワークも馴染《なじ》みの仕事場だった。
三階でエレベーターを降りる。待合室にはカウンセリングを受けにきた相談者たちの姿がちらほらあった。急ぎのカウンセリングを希望する人は、ここに直接やってくる。
かつて事務局ではカウンセリングはおこなわない決まりだったが、いまでは要望に応《こた》えてフロアの奥を間仕切りし、いくつかの面接用の小部屋《ブース》に分けていた。
美由紀が事務室に向かおうとすると、舎利弗が声をかけてきた。「おはよう、美由紀。呼びだして悪いね」
「いえ」美由紀は笑いかえした。「空自のアラート待機中のスクランブル発進に比べたら、ぜんぜん苦じゃないし」
舎利弗浩輔は三十代後半、美由紀が臨床心理士資格を取得する前から指導を受け持ってくれた恩人でもある。
見た目は小太りで、頭は七三わけ、口ひげをたくわえていて年齢よりやや老けてみえる。それでも人柄は温厚そのもので、どことなく清潔で上品な印象もあった。事務局でひとり留守番していることが多く、交友関係もあまり多くないせいで、世のしがらみをあまり経験していないからかもしれない。
舎利弗は美由紀と並んで歩きながら、真顔でいった。「スクランブル発進って、やっぱり本当にあるんだ。サンダーバードみたいに飛びだしてくの?」
「えーと……。ロシアや北朝鮮機の領空侵犯に対処する措置として、発進を命じられるの。二十四時間、装備品一式をつけて待機するんだけど……。サンダーバードって? アメ車だっけ?」
「いや……。ああ、美由紀の年齢だとあまり知らないのかな。国際救助隊。人形劇なんだけど」
「へえ」
「滑り台みたいなのを滑り降りていって、マシンに乗りこんだり」
「人形が?」
「いや……ドラマのなかではいちおう人って設定で……。まあいいや」
マニアックなDVDをたくさん集めていることが舎利弗の趣味とは知っているが、美由紀が興味を持てる方向性とは違っているようだった。そのせいでしばしば会話が噛《か》みあわない。
「あ、そうだ、美由紀。きみにいい知らせがあるよ」
「セブン・エレメンツが来日公演するって話でしょ。でもチケットはなかなかとれない」
「なんだ……知ってたのか」
「舎利弗先生もファンなの? コンサートいくの?」
「いや僕は……。まあコンサートといえばコンサートなのかな、このあいだの日曜も秋葉原の石丸電気で見たけど」
「電器屋さんで? コンサートのDVDってこと?」
「いや、ほんとの声《せい》……。アーティストが来て歌を歌うんでね」
「ふうん。電器店で……?」美由紀はホワイトボードの前で立ちどまった。
予定表の岬美由紀の欄に、研修生・萩庭夕子《はぎわゆうこ》赴任、と書いてある。
「これ、なんだろ?」と美由紀はつぶやいた。
「ああ、心理学を専攻してる二十歳の女子大生って聞いてる。臨床心理士をめざして勉強中だから、いちおう心理相談員見習いとして研修に来るんだ」
「どうしてわたしの欄に書いてあるの?」
「そりゃ、きみが指導するからさ。僕がきみにしたように」
「んー」美由紀は唸《うな》った。「まだわたしには早いんじゃないかな」
「そんなことないよ。きみは休みもせずに連日カウンセリングをこなしてる。経験も充分だ。働きすぎで身体を壊さないか、心配になるぐらいだよ」
「ご心配なく。疲労もストレスも皆無ってわけじゃないけど、適度に保たれてるから」
「そう。ストレスは警告反応、抵抗期、ひばい期のいずれぐらい?」
「抵抗期よりちょっとひばい期寄りなぐらい。自分ではそう思ってるけど」
「なら、早めに一日ぐらい休暇をとりなよ。ひばい期に入ると、情緒不安定になって自己のコントロールが効かなくなるよ」
「乱気流で機体を安定させるのとどっちが難しいのかな。ま、セブン・エレメンツのチケットが入手できたら、ストレスもなにもかもたちまち吹き飛ぶんだけどね。どこか頼りにできそうなコネいない?」
「難しいねぇ。ロシア大使館の人に聞いてみたら?」
「無理でしょ。セブン・エレメンツは北欧だけど、ロシアとは関係ないし……。で、来客のみなさんはどこに?」
「応接室Aだよ」と舎利弗は行く手のドアを指差した。
美由紀はドアに歩み寄り、軽くノックをした。
失礼します、と告げて入室する。
ソファに座っていたふたりの白人は、すぐさま立ちあがった。
ひとりは銀髪、もうひとりはこめかみを残して禿《は》げあがっている。いずれも四十代から五十歳ぐらい、役人が着るものよりは上質そうなスーツを身につけていた。
「|はじめまして《プリヤートナ・パズナコーミツツア》、岬先生」銀髪のほうが愛想《あいそ》よく自己紹介した。「|彼はアリーニン、私はバンデトフといいます《エータ・ガスパヂーン・ガスパジヤー・アリーニンミニヤー・ザヴート・バンデトフ》」
差し伸べられた手を握りながら美由紀も笑みをかえした。「|遅れてすみません《イズヴイニーチエ・ザアパズダーニイエ》」
舎利弗は怖《お》じ気づいたかのようにそわそわしながら、美由紀に告げてきた。「僕は失礼するよ」
「あ、はい」
「それと」舎利弗は小声で耳うちしてきた。「『惑星ソラリス』のラストシーン、どういう意味なのか聞いといてくれない?」
その質問自体がどういう意味か尋ねかえしたいところだったが、舎利弗はさっさと部屋をでていってしまった。
気を取り直して美由紀はふたりのロシア人に向かいあった。「|なんの御用でしょうか《シトー・ヴイ・ジエラーイエチエ》?」
バンデトフはスーツケースを開けて、木彫りの人形のようなものを取りだした。顔料もニスも塗っていない、粗末な作りのものだった。
「マトリョーシカですよ」バンデトフはいった。「これはあるチェチェン難民の男の子が作ったものです。助けてくれる人に、せめてものお礼をとのことで」
「難民……ですか」
「ええ。独立派のチェチェン人がこのところテロに走っていることは、ニュースでお聞き及びと思いますが」
「それ以前に、ロシア政府がチェチェンの独立を認めようとしないせいで、反感を買ったのだと思いますが」
アリーニンが身を乗りだした。「チェチェンは憲法上、ロシア連邦の一部です。彼らは自由を叫ぶが、ロシア政府は連邦の平和を守る義務が……」
と、バンデトフが手をあげてアリーニンを制した。美由紀に向き直り、バンデトフがいった。「連邦政府はチェチェン情勢の正常化に尽力しています。二〇〇五年には共和国選挙もおこなわれましたし、安定に向けて着実に歩んでおります」
美由紀はやや醒《さ》めた気分で告げた。「紛争は泥沼化して、いまだに続いていると聞いていますが」
「たしかに……。まあ、政治的なことは横に置いて、われわれが気にしているのは難民問題なのです。長きにわたった内戦で、行き場を失った人々が周辺諸国に溢《あふ》れだし、大きな社会問題となってます」
「ロシア政府は難民の存在を無視しているそうですが」
「いえ。政府はその立場上、公には認めにくいのですが、彼らの人権を踏みにじっているわけではありません。今年に入って現地の状況の調査が始まりました。その結果、難民の悲惨な実態があきらかになったんです。ボランティア団体による仮設の避難所などが各地に設けられていますが、食糧や医薬品も充分ではなく、子供たちも学校教育を受けられずにいます」
「調査なんかより、まずはチェチェンへの空爆をやめることが先だと思いますけど」
アリーニンはじれったそうにいった。「政府は努力しています。難民救済の第一段階として、諸外国から事態改善のために協力してくださる方をお招きするというのが、現政権の判断です。そこで、あなたにもお越し願いたいのです」
「わたしですか?」
「ええ」バンデトフがうなずいた。「臨床心理士として名高い岬美由紀先生なら、現地難民、とりわけ幼い子供や老人といった人々に安らぎを与え、教育などにも貢献していただけると思ったのです」
「あのう……。どうしてわたしに……」
「岬先生。あなたは以前、航空自衛隊の幹部であられた。イラクの平和に力を注がれた、その噂なら私どもも聞き及んでおります。それに、こうしてロシア語にも堪能《たんのう》でいらっしゃる。あなたほどの適任は世界広しといえども、数少ないでしょうな」
美由紀は黙って、テーブルの上のマトリョーシカを手にとった。
ナイフで削って作ったらしい。表面はいびつだが、中にはちゃんとひとまわり小さな同型の人形がおさまっていた。
ふたりの表情に、さほど深みのある感情は見てとれなかった。
嘘をついているわけではない半面、難民に対する同情心もない。ただ政府を通じて各国大使館に打診された依頼内容を、ふさわしいと思った人間に伝えにいく、それだけの仕事なのだろう。
「ところで」アリーニンは眼鏡をかけて、取りだした書類に目を落とした。「岬先生は、御船千鶴子という名をご存じですか」
「……はい。それがなにか……?」
「いえ。あなたにコンタクトをとるよう勧めてきた政府関係者が、この件についても尋ねておいてほしいと言っていましたので……。御船千鶴子は海底炭坑を発見したそうですが、いったいどうやったんでしょうね?」
なぜこんなことを質問するのだろう。
明治時代に千里眼の女とされていた御船千鶴子。わたしも現在、望んでもいないのに千里眼などと呼ばれたりする。そこを関連づけてのことだろうか。
訝《いぶか》しく思いながら美由紀はいった。「詳しいことはわかりませんが、御船千鶴子は世間がいうようなペテン師でもなければ、超常的な能力の持ち主でもなかったと思います。彼女は義兄の催眠誘導によってトランス状態に入ることを覚えていたわけですし、理性を鎮めて本能的すなわち客観的な観察眼を働かせることに長《た》けていた。いわば心理学的特性を生かした特技だったんでしょう」
「というと?」
「心理学に認知的不協和という理論があります。これは自分が真っ当だと思っている状況以外のものに反発を感じる作用なのですが、五感においても無意識のうちに生じます。山のなかで、鳥のさえずりや川のせせらぎなどの自然音ばかり聞こえているとき、ほんのわずかな電子音が遠方で聞こえただけでも、ひどく気になって緊張が喚起されることがあります。これは、自然音のみが普遍的な環境となっている場所で、人工音という相|容《い》れない存在が認知的不協和を引き起こし、ことさらに意識にのぼりがちになる、そういうことだと考えられます」
「ふうん。すると御船千鶴子の海底炭坑の場合は、視覚でそれが起きたってことですか」
「おっしゃるとおりです。広大な海底の図面を眺めわたしたとき、一箇所だけ異質な形状をした部分が直感的に目にとまった。それが多くの石炭を埋蔵した場所だったということです。彼女にしてみればそこが埋蔵場所だということも、石炭が地層にどんな影響を与えてそのような変化をもたらしたのかもわからなかった。ですが、とにかく認知的不協和によってその場所の特異性を察知したんです」
「なるほど、そうですか……。つかぬ話ですが、岬先生もその認知的不協和を活用できるので? 御船千鶴子と同じことが、お出来になられるのですか?」
「現代なら海底の地層のあらゆるパターンをコンピュータに記憶させ、イレギュラーな場所を検索させることも可能だと思いますが……。まあ、認知的不協和は誰でも無意識のうちに働くことですから、わたしも例外ではないと思いますが……」
「御船千鶴子と同じことが可能、ということでよいですね?」
アリーニンはそういって、手もとの書類になにか書きこんだ。
猜疑《さいぎ》心が募る。
彼らの表情も態度も淡々としたもので、裏をかこうという欺瞞《ぎまん》の意志は感じられない。が、問題は彼らに指示をした人間の意図だ。
なぜいまさら、御船千鶴子なのだろう。千鶴子の能力とわたしの技能を等しく結びつけたがっているようにも思える。それが彼らにどんなメリットをもたらすというのか。
明治時代には超常現象と謳《うた》われた御船千鶴子の�千里眼�、その実態は心理学で説明がつく理論ばかりだった。それゆえに、戦後日本の心理学研究にも間接的ながら影響を与え、千鶴子の孫だった友里佐知子を通じ、現在のわたしの学習内容にも反映されている。
そういう意味では、わたしと千鶴子は無関係というわけではない。だが、能力を継いだというのには語弊があるし、事実でもない。
バンデトフが美由紀を見つめた。「よろしければ、明後日に成田《なりた》を発《た》つ予定でスケジュールの調整をおこなっていただきたいんですが」
「明後日?」美由紀は驚いた。「ずいぶん急な話ですね」
「なにしろ現地は、一刻も早い救援を必要としているので……」
「行き先はどこです? チェチェン国内ですか」
「それはまだ、詳しくはわかりません。難民はほうぼうに散ってますから、最優先で支援すべきと当局が判断した場所になるかと……」
「到着後、どのような活動をおこなうんですか。カウンセラーとして医師をサポートすることになるんでしょうか」
「それも、現地での判断を仰ぐことになるかと」
美由紀は口をつぐんで、ふたりのロシア人を眺めた。
彼らは具体的な方策について、何も知らされていないようだ。これで協力が得られると考えているとは、ずいぶん虫のいい物の見方だ。
とはいえ、検討すべきは彼らの態度ではない。美由紀は手もとのマトリョーシカに目を落とした。
これを彫ったという少年はどんな心境だったのだろう。どのような状況で、これを作ろうと決心したのだろう。そしていまもまだ、生き永らえているだろうか。
「もうひとつお尋ねしたいんですけど」と美由紀はいった。「この件の報酬は?」
バンデトフとアリーニンは戸惑いがちに顔を見あわせた。
アリーニンが口ごもりながら言う。「たいへん恐縮なんですが……。これはボランティア活動でして、お礼をお支払いするわけには……」
美由紀は思わず微笑した。「よかった。それなら、お受けする可能性もあります」
「は?」とバンデトフは意外そうに目を見張った。
「救済活動と称しながら関係者の飛行機代が支払われるなんて、矛盾してますから」美由紀はマトリョーシカの顔をそっと指先で撫《な》でた。「この人形ひとつで充分すぎるくらい」
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