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千里眼43

时间: 2020-05-27    进入日语论坛
核心提示:EMDR 翌日の夜七時すぎ、マンションの部屋に戻った美由紀は、白いグランドピアノに向かって座った。セブン・エレメンツのお
(单词翻译:双击或拖选)
EMDR

 翌日の夜七時すぎ、マンションの部屋に戻った美由紀は、白いグランドピアノに向かって座った。
セブン・エレメンツのお気に入りのバラード、『ハウ・メニー・フェイセズ・ドゥー・ユー・ハヴ』のピアノソロ・アレンジを、自分なりのペースでゆっくりと弾く。
原曲がギターの旋律のせいか、変調が多くピアノでの演奏は難しい。クラシックピアノのように指を立てるのではなく、寝かせた弾き方で対処した。このほうが曲調に合ったメロディを奏でられる。
しばらくはこの鍵盤《けんばん》に触れられない日がつづく。殺伐とした日々になることが予想された。せめてバイオリンを持っていこうか。
いや、訪問先はおそらく内戦に明け暮れた廃墟《はいきよ》同然の場所だ、楽器など持ちこむのは不謹慎というものだ。
難民の避難所では慰問のために音楽の演奏もあるだろうが、チェチェン難民は、まだそこまでの心のゆとりを持っていないかもしれない。ほかに必要とされていることがたくさんある。
チャイムが鳴ったので、美由紀は演奏の手をとめた。
こんな時刻に誰だろう。
立ちあがってインターホンに向かう。受話器をとって応じた。「はい」
モニターには、マンションのエントランスにたたずむひとりの女が映っていた。
年齢は二十歳ぐらい、痩《や》せた身体つきで、地味な服装をしている。
化粧はしていないようだが、肌艶《はだつや》はきれいで、顔だちも整っていた。
部屋番号を間違えて押したのかもしれない。美由紀はきいた。「どちらさまでしょうか」
「あのう……萩庭夕子です。み、岬先生のお宅は、こちらでしょうか……?」
萩庭夕子。研修に来る予定だった大学生だ。
「ええ。わたしが岬ですけど。どうぞ、上がってきてください」美由紀はロックの解除ボタンを押した。
「どうも……」といって、女はエントランスの扉から中に入っていった。
美由紀のなかに釈然としない思いがよぎった。
夕子の下のまぶたはかすかに痙攣《けいれん》していて、上まぶたは妙に吊《つ》りあがっている。
なにかに脅《おび》えているか、不安を覚えていると推察される。わたしに会いにきたことで生じた緊張だけとは思えない。
やがて、部屋の玄関のチャイムが鳴った。
美由紀は玄関に赴いて鍵《かぎ》を開けた。
扉の向こうに現れたのは、さっきモニターで観たよりも小柄に思える夕子の姿だった。
「あ、あの……はじめまして。岬先生。萩庭です」
「どうぞ。よくここがわかったわね? 中に入って、楽にして」
「失礼します……」と夕子は頭をさげ、入室してきた。
「どうかしたの? なんだかビクビクしてるみたい」
「ええ……。そのう、緊張しちゃって」
「緊張は理性と感情のアンバランスな状態によって引き起こされるのよ。自分の家だと思って、リラックスして」
「ありがとうございます……」夕子はリビングに歩を進めた。「わあ、素敵な部屋……」
美由紀はしばし夕子のようすを眺めていたが、すぐにひとつの仮説がおぼろげに浮かびあがってきた。
「ちょっと電話するわね」と美由紀はいって、受話器をとった。
日本臨床心理士会に電話する。まだ居残っている人がいるはずだ。
予想どおり、舎利弗が電話にでた。「日本臨床心理士会事務局です」
「舎利弗先生。研修で来る予定の萩庭夕子さんのことだけど……」
ふいに夕子はあわてたように、美由紀のほうを振りかえった。その顔には恐怖のいろさえ浮かんでいる。
心配しないで、と目で合図をしてから、美由紀は電話にきいた。「連絡はとれた?」
「ああ」舎利弗の声が告げてきた。「大学のほうに確認したよ。本人も、きみと一緒に海外に行きたがってるみたいだ」
「ごめんなさい。悪いんだけど、萩庭さんの指導は舎利弗先生がおこなってくれないかな。先生の教育が素晴らしいってことは、わたしが保証するから」
「なんだって? じゃ、きみは独りで行くことにしたのかい?」
「ええ。それと、水落香苗さんって子のこともお願いするかも」
「誰だい、それ?」
「相談者《クライアント》よ。またあとで電話するから」美由紀はそういって、一方的に電話を切った。
夕子を名乗っていた女は呆然《ぼうぜん》とした顔で、美由紀を見つめていた。「あ、あの……わたしは……」
「そんなに怖がらないで。水落香苗さん。わたしのカウンセリングを受けたいって、臨床心理士会を訪ねたんでしょ?」
「はい……でもどうしてわたしだと……」
「名乗るときに怯《おび》えの感情が高まるなんて、偽名を使っているとしか考えられないもの。赴任してくる研修生の名をホワイトボードで見かけて、なりすまそうとしたのね」
「すみません……」香苗は目を潤ませた。「ほんとに、申しわけありません。こうでもしないと、お会いいただけないと思って……」
「だから、謝らないで。できることなら、力になるから」
「PTSDに悩まされてて……苦しくて。トラウマの記憶を取り戻すことができたら、救われるかと……」
「香苗さん……。どこでどんなふうに症状について聞き及んだか知らないけど、まだ自分の心の状態を推し量ろうとしないで。感じていることだけ、聞かせてほしいの。PTSDっていうけど、どんなことが起きるの?」
「不安で……眠れなかったり、寝ついてもすぐに悪夢で目が覚めたり……。心臓もドキドキして、落ち着かないんです。ときどき、小さかったころの辛《つら》い記憶が、瞬間的に脳裏をよぎって……」
「記憶って、どんな?」
「それもよくわからないんです。だからその記憶を回復することで、PTSDの苦しみから解き放たれるかと……」
「ねえ、香苗さん。いわゆる記憶回復療法っていうものは、ないと思ってほしいの。ぜんぶフィクションにすぎなかったのよ。抑圧されたトラウマなんて、存在しないの」
「え? でも……現に、幼かったころの記憶は曖昧《あいまい》になってるし……」
「そんなの当然よ。記憶は薄らいでいくものなの。香苗さん、去年のきょう、どこで何をしてたか覚えてる?」
「去年……いえ……」
「そうでしょ? 記憶は失われていく。だから辛さも消えていく。人として当然の浄化作用なの。断片的に幼少のころの辛い記憶がよぎっても、それがPTSD的な症状の要因かどうかはわからない」
「けれど……どうすればいいんですか。ほんとに毎日、苦しくて……」
「それがPTSDによるものなら、EMDRっていう回復法もあるのよ」
「EMDR?」
「眼球運動による脱感作と再処理法ってこと。この人差し指を見て」
香苗が指先に注目しているのを確認してから、美由紀は指を左右に移動させた。「目で追いながら、不安や恐怖を感じる場面を想像して。できるだけ克明に」
アメリカの心理学者フランシーン・シャピロが一九八九年に発表したEMDR、この方法でパニックが起きなくなった例は多い。眼球運動が脳を刺激し、脳の本来の情報処理プロセスを円滑におこないやすくして、障害を取り除くというのがその趣旨だった。
二十五回ほど往復して、美由紀は指をとめた。「どう? 気分は?」
「ええ……落ち着いたような気もするし、あまり変わらないような気も……。これで治るんでしょうか?」
「従来、心の病とされていたものの多くは、脳の情報伝達になんらかの誤りが生じていると考えられるの。電子回路が機能しなくなったら、新しい回路を構築しなきゃ。神経シナプスの結合によって、人は新たな回路をつくりだしていく。あなたの機能不全は、こうした作業によって改善されるの。決して、辛い記憶と向き合うとか、荒行のようなものは必要ないのよ」
「そうなんですか……。わたし、てっきりトラウマとか記憶喪失って類《たぐ》いのことだと思ってました……」
「EMDRはずっとつづけないと効果がないんだけど、ごめんね。わたし、あさってから海外に行く予定で……」
「どこへでも行きます」香苗は真剣な顔で告げてきた。「いま働いてもいないですし、独りで暮らしてますから」
「ご両親は?」
「父は都内に住んでますけど……ずっと会ってません。母は四川《しせん》省に……。わたし、ハーフなんです。日本人と中国人の」
複雑な事情があるようだ。美由紀はきいた。「パスポートはある?」
「ええ、あります」
「香苗さん。海外といっても、行き先はチェチェンかその周辺国で……。ボランティア業務も待ってるし、いろいろ忙しいから、寝泊まりは劣悪な環境になるだろうし」
「かまいません。わたし、岬先生に助けてもらえるのなら……。わたしも働きます。なんでも申しつけてください」
大きく見開かれた真摯《しんし》な瞳《ひとみ》の輝きを、美由紀はじっと見つめた。
ほうってはおけない。香苗を別の臨床心理士に預けてEMDRをおこなわせてもいいが、おそらくわたしのほうが彼女の悩みの感情を正確にとらえられるだろう。
それでも、香苗をチェチェン難民キャンプに連れていくなんて論外だ。絶えず緊張にさいなまれる状況下で、のんびりとEMDRなど試みていられるはずもない。
「ねえ……香苗さん。その悩みがあなたにとってどんなに深刻なことか、わたしにはよくわかるわ……。でも、だからこそあなたに最善の道を用意してあげたい。それはわたしと一緒に行くことじゃなくて……EMDRを得意としている別の臨床心理士に相談することだと思う」
「わたし、岬先生じゃないと駄目なんです」
「そんなに切実にならないで。わたしを信頼してくれるのなら、そのわたしが紹介する人もきっと頼りになる、そう思わない?」
「ええ……」香苗は落胆のいろを漂わせた。「岬先生がそうおっしゃるのなら……」
罪悪感に胸が引き裂かれそうになる。美由紀は、チェチェン行きを決めたことを後悔していた。純粋に難民のためを思ってのことならまだいい。わたしは、古巣からの復職の誘いを断るために海外逃亡をきめたのだ。
身勝手な行動が、わたしに期待を寄せていた香苗の気持ちを裏切ることになってしまった。
「きょうは泊まっていって」と美由紀はいった。「寝室のベッドで寝ていいから……。明日、成田に行く前に同僚のところに連れてってあげる」
「あ……。はい。……ありがとうございます、岬先生……」
どういたしまして。つぶやきながら、美由紀の視線は床に落ちた。
わたしはこの二日間、なにをしたというのだろう。コンサートに浮かれて、出会う人々の言葉にもろくに耳を傾けず、半ばうわの空のままその場しのぎを繰りかえした。
こんなことがわたしの人生なのか。人の感情を見抜けるようになったのに、わたしは自分から心を閉ざしてしまっている。人を遠ざけている。どうして素直になれないのだろう。なぜわたしはみずから、孤立への道を選んでしまうのだろう。
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