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千里眼45

时间: 2020-05-27    进入日语论坛
核心提示:ゲーム ぼんやりと目が開いた。美由紀は、やわらかい陽射しが降り注いでいるのを感じた。公園のベンチで横になっていたようだ。
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ゲーム

 ぼんやりと目が開いた。
美由紀は、やわらかい陽射しが降り注いでいるのを感じた。
公園のベンチで横になっていたようだ。
石畳がみえる。噴水のせせらぎも聞こえる。
散歩して、うたた寝してしまったのだろうか。
しかし、どこだろう。よく足を運ぶ代々木《よよぎ》公園とも違う。こんな石畳は見たことがない……。
意識がそこまで及んで、美由紀ははっとして跳ね起きた。
どこだ、ここは。散歩などした覚えはない。
わたしはたしか、クルマのなかにいた。香苗と一緒だった。急に睡魔に襲われ、クルマを停めた。眠りにおちていても、白バイが駆けつけたはずだ。警察がわたしをこんなところに運ぶなんて、考えられない。
辺りを見まわした。まったく見覚えのない風景がそこに広がっている。
噴水のある小さな円形の人工池のほとりに、美由紀はいた。
周囲にひとけはないが、一見して日本ではないとわかる。ロシアでもない。
森のなかにうすい紅いろの二階建ての屋敷が見える。建築様式は、二世紀ほど前のデンマーク風だ。アンデルセンの童話の挿絵に、よくこんなオレンジいろの屋根とレンガの煙突が描かれていた。
見た目のとおり、フュン島のオーデンセだろうか。いや、ここがふつうの街とは思えない。あまりに閑散としすぎている。
広場に人影はないというのに、建物の二階には万国旗が飾られ、そこかしこに色とりどりの花が咲き乱れていた。入念に手入れしてあるようだ。まるで祭りの日の朝だった。
何時だろう。腕時計をしていないせいで、時刻がわからない。
美由紀は自分の服が、東関道にクルマを走らせていたときのままであることに気づいた。
デニムの上下にスニーカー。難民キャンプが行き先であることを考慮すれば、カジュアルな服が最も適している、そう思ってのことだった。
荷物はない。ハンドバッグも、あの怪しい気体を噴出していたマトリョーシカもなかった。ポケットをまさぐってみたが、財布、パスポート、携帯電話は紛失していた。
ところが、ベンチの上には奇妙なプラスチックの物体があった。
板チョコほどの大きさのそれは、携帯ゲーム機のニンテンドーDSを思わせる外観をしている。
手にとって、二つ折りの本体を開いてみる。やはりゲーム機のようだ。液晶画面はひとつしかないが、十字ボタンやいくつかの丸ボタンがついている。
画面には、ロールプレイングゲームを思わせる俯瞰《ふかん》のグラフィックが映っていた。公園のような場所で、三頭身の女の子のキャラクターがベンチに座っている。
十字ボタンを動かしてみたが、そのキャラクターは動かなかった。
だが同時に、美由紀は奇妙な感触を覚えた。
キャラクターの背後に噴水がある。それに、石畳。いまわたしが踏みしめている地面とそっくりだ。
しかも、画面のなかのキャラクターは、美由紀とうりふたつの髪型で、同じいろの服を身につけている。
美由紀は立ちあがって、少し歩いてみた。驚くべきことに、画面のなかのキャラクターも同じ方向へと歩を進めていく。
静止して反対方向に歩きだす。キャラクターもやはり同調した。歩を速めると、それだけ速く移動する。
そのキャラクターの背後から、金髪の男の子のような別のキャラクターが近づいてくる。
そのとき、美由紀の背後で声がした。
「サヴァ? ボンジュール」
びっくりして振りかえる。
画面のなかの位置関係と同じ場所に、金髪で白人の青年がたたずんでいた。その手には色ちがいのゲーム機がある。
美由紀はもういちど画面に目をやった。
画面の下半分にウィンドウがひらき、文章が表示されていた。
�謎のフランス人男性『やあ、こんにちは』�
呆然《ぼうぜん》としながら、美由紀は日本語できいた。「すみません……。これはいったい何?」
フランス人青年は、持っていたゲーム機を見つめた。
彼のゲーム機の画面を、美由紀は覗《のぞ》きこんだ。やはりウィンドウが開き、フランス語でセリフが表示されている。
�Excusez-moi...Qu'est-ce que c'est?�
翻訳されているのか。
ぼそぼそと告げた声の一字一句を、正確に感知できる音声認識システムがあるとは思えない。このゲーム機に無線マイクが仕こんであって、誰かが通訳し、文章を入力しているにちがいない。
青年は笑っていった。「|新入りのようだね《ジユ・ヴゼ・ホギヤルデ・プーラプルミエール・フオワ》?」
ゲーム機の翻訳など見る必要はない。フランス語ならわかる。美由紀はきいた。「|あなた誰《キ・エトウ・ヴ》? |ここでなにをしているの《ケセク・ヴウフエイトウ・イスイ》?」
「|第二章だよ《シヤピトル・ドウ》。|自分のやるべきことをやるだけだ《ジエフエレスク・ジユドワフエール》」
そう告げると、青年は歩き去っていった。
古風なデンマークの街角にフランス人。意味不明だ。やはりここは、ただの異国の街角ではありえない。
建物に近づこうとしたが、思いとどまった。
ゲーム機を通じてわたしを監視している者がいる。位置も把握しているし、会話にも聞き耳を立てている。いわば囚《とら》われの身のはずなのに、一見自由を感じさせている。
自発的になんらかの方向に誘導しようとしているのか。それなら、あえて逆らう道をとるべきだろう。
森のほうへと歩を進めた。木立のなか、小道が蛇行しながら延びている。画面のなかの美由紀のキャラクターも森に分け入っていた。
すると、またもや別のキャラクターが急速に接近してくるのが映った。ウィンドウが開いて表示がでる。�謎のアメリカ人女性�。
顔をあげると、美由紀と同じ歳ぐらいの白人の女が、こわばった顔で駆けてきた。
「|ねえ《ヘイ》」美由紀は英語で声をかけた。「|聞きたいことがあるんだけど、いい《メイ・アイ・クエツシヨン・ユー》?」
女はじれったそうに足をとめ、たずねてきた。「|なによ《ホワツト》? |早くしてくれる? 急いでいるんだから《クジユー・メイクイツト・クイツク・ビコーズ・アイム・ハリングアツプ》」
「ここ、どこなのか教えてくれない?」
「どこって。ファントム・クォーターでしょ」
「|幻影の地区《フアントム・クオーター》……? それ、なんなの? どこの国に属してるの? 自治体の管轄? それとも私有地?」
「はぁ? なによ、くだらない……。そんなことどうだっていいでしょ。やるべきことをやるだけなんだから」
さっきのフランス人青年も同じことを口にした。
誰もが義務を課せられているらしい。
いつ、どうやってその義務に目覚めたのだろう。わたしはまだ、なにをすべきか見当もつかない。
とりあえず、いまは仲間がほしい。美由紀は手を差し伸べた。「わたしは美由紀。あなた、名前は?」
女は怪訝《けげん》そうな顔をしたが、敵対の意志はないらしい。美由紀の手を握りながらいった。「|ジェシーよ《アイム・ジエシー》」
そのとき、美由紀のゲーム機がふいにファンファーレを鳴らした。
びくつきながら、ゲームの画面に目をやる。
ウィンドウの表示が変わっていた。�ジェシー『ジェシーよ』�
相手の名前を知ったら、それが表示に反映されるということか。ゲームマスターの意図はいったいなんだろう。
「ジェシー。あなた、第何章?」と美由紀はきいた。
「第三章《チヤプター3》よ」ジェシーがそう告げたとき、森の向こうがなにやら賑《にぎ》やかになった。
そちらを振り向いて、ジェシーは怯《おび》えきった表情でつぶやく。「たいへん。またあいつらが来た。チャプター3ってどうしてこんなに過酷なの」
「ねえジェシー。あなたはいつからここに……」
だが、会話はそれきりだった。ジェシーは必死の形相で走りだした。
追っ手が森のなかを疾風《はやて》のごとく駆けてくる。
その連中の外見に、美由紀は開いた口がふさがらなかった。
槍《やり》と盾をかまえた鎖《くさり》帷子《かたびら》もしくは鎧《よろい》姿の兵士たち。
弓兵は矢を放ちながら前進してくる。
その後ろにつづくのは、貴族だった。中世から近世の肖像画で見かけるような、気取った男女が馬車に乗って走ってくる。婦人は扇を手にしていた。
いちおう、貴族らは兵士らに追跡の指示をだしているらしい。口笛を吹くと、陣営が替わって弓兵が先頭に立つ。速度も上がった。
貴族はちらと美由紀を見たが、関心なさそうにまた前方に目を戻した。一群は美由紀の前を駆け抜けていき、また木立のなかへと消えていった。
サーカスの集団としか思えない、時代錯誤な扮装《ふんそう》と装備の追跡者たち。美由紀は呆気《あつけ》にとられるしかなかった。
表情から察するに、誰も演技はしていない。どの顔も真剣そのものだ。
わたしひとりを騙《だま》しおおそうとするフェイクではない。限りなく非現実的だというのに、嘘をついている者はいない。
ファントム・クォーター。誰が、なにを画策しているのだろう。
ゲームの画面のなかに、わたしがいる。どうしてわたしはこんな世界に引きずりこまれてしまったのだろうか。
わたしがここにいることに、どんな意味があるというのだろう。
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