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千里眼46

时间: 2020-05-27    进入日语论坛
核心提示:オペレーター 森を抜けると、芝生に覆われた丘陵地帯が広がっていた。そよ風に波打つ草原、ゆっくりと回転する風車は、やはり一
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オペレーター

 森を抜けると、芝生に覆われた丘陵地帯が広がっていた。
そよ風に波打つ草原、ゆっくりと回転する風車は、やはり一八〇〇年代のデンマークの粉ひき風車に似た形状をしている。
近くには農家らしき家屋があった。
わらぶき屋根に白い壁、周囲には菜の花畑もある。
美由紀は近づいていったが、中が無人であることは広い間口の玄関を通じて見透せた。
農具はきちんと整頓《せいとん》されて壁に架けてあり、家が放置されているわけではなさそうだった。実際に住んでいる人がいるのだろうか。
丘の向こうはまた石畳になっていて、白い洋館へとつづいていた。正面の扉は開いている。
その洋館のなかへと歩を進めた。
北欧風のアンティークな家具や調度品は、デンマーク職人らしい質実剛健なつくりで、見せかけだけのイミテーションではなかった。
アトリエのような部屋には四人ほどの外国人がいた。
全員がキャンバスを前にして油絵を描いている。彼らが見つめているのは、開け放たれたバルコニーの向こうにひろがる景色だった。
深い峡谷の向こうには、切り立った崖《がけ》の上に古い教会が見えていた。
直線距離にして四、五百メートルはありそうだ。
奇妙なことに、鐘塔はあってもそのなかに鐘は吊《つ》り下がっていなかった。施設としては使用されなくなって久しいということか。
だが、窓からのぞむ風景には、それ以上に違和感を覚えるものがあった。
教会のすぐ近くに、銀いろのドーム屋根が存在し、パラボラアンテナが建っている。
デンマークの片田舎の風景に目が慣れてきていたせいか、その近未来的な建造物がずいぶん異質に感じられる。とはいえ、あれがなんらかの通信施設なら、外部と連絡をとることができるかもしれない。
ひとりの女性が振りかえって、美由紀をじっと見つめた。「|何をしてるの《ヴアストウン・シエ》?」
今度はドイツ語か。美由紀は答えた。「|わからないの《イツヒ・ヴアイスニヒト》。|ここでなにをしたらいいか、教えてくれる《ブリンゲン・ズイーミアベイ・ヴアス・イツヒ・ヒエルトウン・ゾルテ》?」
女性は手を差し伸べてきた。「見せてみて」
ゲーム機を渡せと要求しているらしい。美由紀は黙ってそれを差しだした。
「どれ」女性はゲーム機の液晶画面を一瞥《いちべつ》すると、すぐに突き返しながらいった。「まだ第一章じゃないの。第四章まで、ここには用はないはずでしょ」
「わたしはどうすれば……」
「いいから、出てって」
室内のほかの連中は振り向きもしない。会話は打ち切られ、美由紀の身の置き場はなくなった。
無理に彼女らの作業を妨げても意味はない。美由紀は退散するしかなかった。
洋館をでると、美由紀はすぐにその向こうにまわりこんで、丘陵を下っていった。
渓谷の向こうには近代的な設備がある。行くべきところは、そこしかない。
下り坂の斜面はほどなく終わりを告げて、渓谷に架かる一本の鉄橋が見えてきた。
橋の袂《たもと》の入り口は、あの槍と盾を手にした鎖帷子の兵士たちによって警備されている。
谷底には霞《かすみ》がかかり、かろうじて川が流れているのがわかるぐらいだ。つまり、それだけの高さがあるのだろう。
迂回《うかい》するルートも見当たらず、崖を降りようとするのは現実的ではない。この橋だけが唯一の道のようだった。
騎馬兵もいるし、少し離れたところに弓兵が隊列をなしている。多勢に無勢、飛びこんでいっても勝ち目はない。橋の上には身を隠す場所もないし、弓や槍の餌食《えじき》になるのは目に見えていた。
なにか方法はないのか。美由紀が考えあぐねていると、ひとりの白人男性が橋に近づいていった。
コートと同じ生地の帽子をかぶったその髭面《ひげづら》の男には、見覚えがあった。
テレビに出ていた男だ。「放送ノチカラ」という番組の宣伝で来日が報じられていた、アメリカ人の超能力者だった。名前はたしか、スピン・ラドックといった。
ラドックは腰がひけたようすもなく、堂々と橋に歩み寄った。
兵士たちが身構えて立ちふさがったが、ラドックは表情ひとつ変えず、ゲーム機を兵士に投げて寄越した。
兵士はゲーム機の画面を眺めたが、ふいにその表情が緊張した。周囲の兵士に英語で告げる。「|初めての合格者だ《ヒーイズ・ザ・フアースト・マン・フー・パツセズ》」
すかさず兵士たちは左右に二列に並んでかしこまり、橋の入り口を開けた。アイーダトランペットを空に向けて、いっせいにファンファーレを奏でる。
ふんと鼻を鳴らして、ラドックは橋を渡っていった。
状況によっては通ることができるらしい。兵士たちも、常に攻撃的な姿勢をとるわけではなさそうだ。
美由紀は丘を下って橋に近づいていった。
兵士たちはラドックの通行後、また元の隊列に戻り、橋の入り口をふさいでいる。
歩み寄ったが、兵士は無反応だった。人形のように立ちつくしながら、前方の虚空を見つめている。
脇をすり抜けようと美由紀は歩を踏みだした。とたんに兵士らは、二本の槍をX字に突きあわせて、行く手をふさいだ。
ため息が漏れる。美由紀は兵士にたずねた。「ねえ。ゲームのルールがいまひとつ把握できないんだけど。誰か説明してくれない?」
だが、兵士らは無言を貫くばかりだった。
「それと」美由紀は頭をかきむしった。「もし連れの日本人の子もここに来てるなら、どこにいるか知らない?」
やはり兵士たちは沈黙したままだ。
「ちょっと、聞いてるの? わたし、チェチェン難民の救済活動のためにロシア政府に呼ばれたはずなの。ここがどこかも知らないし……」
だしぬけにファンファーレが鳴ったため、美由紀は驚いて口をつぐんだ。
しかし、兵士たちによる演奏ではなかった。美由紀の携帯ゲーム機が鳴っているのだ。
画面を見てみると、ウィンドウが開いて表示がでていた。
�第二章・赤い電話を見つけろ�
突然、兵士のひとりが口をきいた。「|赤い電話を見つけろ《フアインド・ザ・レツド・フオーン》」
ほかの兵士たちが揃って復唱する。「赤い電話を見つけろ」
その言葉はシュプレヒコールのように、際限なく反復された。
兵士たちは美由紀に目も合わせようとせず、ひたすらにその発声のみに集中しているようだった。
これでは質問すらできない。
美由紀は踵《きびす》をかえし、来た道を引きかえすことにした。
なんにせよ、第二章には進むことができたらしい。第三章であの兵士たちに追われ、第四章では洋館のなかで油絵を描くことになるのか。つくづく不条理な世界だった。
丘の上の風車まで戻った。ふと美由紀は、気になるものを目にとめた。
風車小屋の外壁はレンガづくりになっているが、地上三、四メートルほどの高さに近年設けられたとおぼしき新しい鉄製の扉がある。
粉ひき用にしろ水汲《みずく》み用にしろ、風車の構造上、あんなところに特別な通用口は必要ないはずだ。
外壁は垂直ではなく、わずかに斜めになっている。勢いをつければ登れないこともないだろう。
美由紀はゲーム機を地面において、何歩か遠ざかった。画面のなかのキャラクターは動いていない。
わたしの位置を感知しているのではなく、ただゲーム機に内蔵されている発信機によって位置情報が割りだされているだけか。それなら、ゲーム機をここに置き去りにしておけば、監視者はわたしがどこにいるのかを割りだせなくなる。
風車の外壁に向けて走りだし、その勢いのままよじ登った。
伸ばした手が、かろうじて扉の把《と》っ手にかかった。
引いてみると、扉は開いた。
その向こうは直径一メートルほどの竪穴《たてあな》で、内壁は金属のパネルに覆われている。鉄製のはしごも備えつけてあった。
美由紀は竪穴のなかに身を躍らせ、はしごを降りていった。
風車の高さよりも、ずっと下まで竪穴はつづいている。つまり、地下に延びていた。
どこまでつづくのだろう。指先に汗がにじみ、ときおり手を滑らせそうになる。慎重に一歩ずつ降下していった。
やがて、穴の底部に行き着いた。側面に通路が開いている。そこを抜けたとき、美由紀は立ちすくんだ。
非常灯にぼんやり照らしだされた視界に、広大な地底の空洞がひろがっている。
人工のものだ。コンクリート製の床は見る限り果てしなくつづき、壁と天井には縦横に鉄骨が張りめぐらされている。アーチ型の曲線を多用して強度を高める建築法が採用されている。最近になって造られたものにちがいない。
空洞のなかに黒い二階建ての建造物がある。四角|錐《すい》の形状をなし、小型のピラミッドのようでもある。
そちらにゆっくりと近づいていくと、コンピュータのキーボードを叩《たた》くせわしげな音が聞こえてきた。それから、声。何人かの声が織り交ざって聞こえてくる。
「ペルスペクティヴC、チャプター2。ヴォヤンセD、チャプター2。クレヤボヤンスA、チャプター3……」
複数のオペレーターがいるらしい。キーを叩いているのは、ゲーム機の翻訳文を入力しているのだろう。
それにしても、いましがた聞こえた言葉の意味は……。
と、そのとき、鋭い声が暗闇から飛んだ。「誰だ!」
まばゆいサーチライトが美由紀を照らしだす。目もくらむような光源、こちらから向こうの状況を窺《うかが》い知ることはできなくなった。
身を翻して逃走に転ずる。
警報のブザーが鳴り響き、アナウンスがこだました。侵入者あり。繰り返す、侵入者あり。ただちに身柄を確保せよ。
地上につづく竪穴に飛びこみ、大急ぎではしごを登りながら美由紀は思った。ペルスペクティヴ、ヴォヤンセ、クレヤボヤンス。さまざまな国の単語だが、その意味するところはひとつだけだ。
千里眼。
あのオペレーターは、やたらと千里眼を気にかけていた。
わたしのことだろうか。それともほかに、そう呼ばれている者がいるのか。フランス人やドイツ人に、そう称される者が。
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