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千里眼55

时间: 2020-05-27    进入日语论坛
核心提示:S席 外にでたとき、すでに日は暮れていた。防衛省の正門をくぐって、美由紀はようやく自由の身に戻ったと実感した。明日からは
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S席

 外にでたとき、すでに日は暮れていた。
防衛省の正門をくぐって、美由紀はようやく自由の身に戻ったと実感した。明日からは、別の意味での拘束が待っているのだが。
携帯電話をとりだして、臨床心理士会の事務局にかけた。
電話にでたのは舎利弗だった。美由紀は水落香苗についてたずねてみた。そっちに相談に来てない?
「いや」と舎利弗の声が告げてきた。「ずっと連絡がないな。帰国してたとは知らなかったよ。きみと一緒じゃなかったのかい?」
「それが、複雑な事情で離ればなれになって帰ってきたの。日本に着いたら臨床心理士会に連絡するように言っておいたのに……」
「美由紀。いったいなにがあったんだい? 難民キャンプに行ったんじゃなかったのか?」
「……詳しくは話せないの。それと、明日以降しばらくは午後のみの勤務にしてほしいんだけど……」
「どうして?」
「午前中に別の用があって。それも浜松から東京に帰って来なきゃいけないから、一時以降ならありがたいんだけど」
「なんだかバタバタしてるんだね。……わかった、調整しとくよ」
「ありがと、先生。じゃあまた電話するから」美由紀は電話を切った。
低いエンジン音が轟《とどろ》いて、キセノンの青白いヘッドライトが近づいてくる。赤い流線型のクーペが、美由紀のすぐ前に滑りこんできた。
アルファロメオだった。アルファ8Cコンペティツィオーネ。派手な外見を持ったV8のスーパースポーツを乗りまわす知人とくれば、ひとりしかいない。
運転席から降り立った高遠由愛香が、キーを投げて寄越した。「おかえり、美由紀。運転したいでしょ?」
美由紀はキーを受け取って、運転席に近づいた。「ねえ由愛香、悪いんだけど、ちょっと寄り道していい?」
「いいけど、どこに?」
「品川の武蔵小山。カウンセリングの相談者がらみのことで」美由紀はドアを開けて運転席に乗りこんだ。
キーをひねってエンジンをかける。マニュアルとオートマチック、好みのモードに切り替えられるようだ。
由愛香が助手席に乗りこんでいった。「美由紀は当然、マニュアルでしょ」
「そうね。加速を試してみたいから」
クルマを発進させた。
電子制御でトルクを抑えぎみにするメルセデスと違って、ほんの数秒で最高出力に達する。三車線のクルマの流れをすり抜けて、たちまち右車線にでて高速域に入った。
「ところで美由紀、セブン・エレメンツのコンサートチケットだけど……」
「藍がネットオークションで探してるんだって? ほとんど望み薄ね」
「それが、そうでもないのよ。三人ぶんのチケットを売りだしている人を見つけたらしいの。静岡市民文化会館、八月六日でS席だって」
「ほんと? S席なんて、かなり値が張ると思うけど……」
「そこはわたしがスポンサーだからさ。金に糸目をつけるな、確実に競り落とせって藍に言ってあるの」
「ほんとにだいじょうぶかな? チケットの偽物とか出まわってるって話も聞くけど」
「まあ……ね。でも藍はネットでの買い物にも慣れてるみたいだしさ。ふだんパソコンも持ち歩いてるほどのヘビーユーザーだし。心配ないんじゃない?」
そうね。美由紀はつぶやいた。
心配ごとが山のように押し寄せて、しかもそれらすべてに幸運を求めたい状況だ。チケットの購入ぐらい、スムーズに実現してもらいたい。そのていどの運にさえ期待できないとあっては、この先にやってくる大きな賭けには到底勝つことができない。
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