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千里眼58

时间: 2020-05-27    进入日语论坛
核心提示:視界 夜九時すぎ、美由紀は香苗を父のマンションに送り届けた。香苗がそう希望したからだった。階段を昇りながら、美由紀は香苗
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視界

 夜九時すぎ、美由紀は香苗を父のマンションに送り届けた。香苗がそう希望したからだった。
階段を昇りながら、美由紀は香苗にきいた。「だいじょうぶ?」
香苗はこぼれおちる涙をしきりに拭《ぬぐ》いながらつぶやいた。「うん。……だんだん冷静になってきた。わたしって、馬鹿みたい……」
「自分を責めないで。誰だって理性的でいられないときもあるの。そんなときを狙って、心の隙を突いてくる奴らがいるから、気をつけて」
「そうね……。いまはよくわかる。ようやくいまになって……。美由紀さんが来てくれなかったら、わたし……」
美由紀は思わずふっと笑った。「ようやく言ってくれた」
「なにを?」
「岬先生じゃなく、美由紀さんって。わたし、先生って呼ばれるのは仕事関係だけにしたいから」
「でも、わたしのことも仕事でしょう?」
「いいえ。あなたは友達よ。一緒に海外旅行までしたんだから」
やや面食らったようすの香苗は、瞳《ひとみ》を潤ませながらも微笑を浮かべた。「ありがとう、美由紀さん……」
「ねえ、香苗さん」美由紀は三階の廊下に歩を進めながらいった。「このマンションの間取りって、ぜんぶ同じなのかな?」
「たぶん違うと思う。わたしが高校に入ったころ、お父さんがお母さん宛に手紙を送ってきて、このマンションに空き室ができたから引っ越してこないかって書いてあったの。パンフレットが入ってて、全室の間取りがあったんだけど、1LDKとか3DKとか広さもまちまちで、間取りも内装もぜんぜん違ってた……」
「そう……。香苗さんの記憶では、暴行を受けたのはやはりお父さんの部屋?」
「わからない……。だけど、思いだそうとすると、そうとしか思えないの」
「このマンションって、扉がふたつずつ隣接してるのね。301と302の扉がくっついてて、303と304もそうなってる」
「ガスとか給水器の関係で……ふた部屋ごとにその設備をはさんでキッチンを隣接させてるから、じゃないかな」
「ええ。よくある設計よね。ちょうど間取りを反転させたタイプの部屋と隣りあわせている」
美由紀は306の前で足をとめた。呼び鈴を押して、そのまま待つ。
だが、しばらく経っても返事はなかった。もういちど呼び鈴を押したが、反応はない。
「おかしいな。待っててくれるように言ったのに」美由紀はドアノブに手を伸ばした。
意外なことに、鍵《かぎ》がかかっていなかった。ドアはそろそろと開いた。
なかに足を踏みいれる。
靴脱ぎ場の向こうは四畳ほどの板張りのホールで、壁には収納棚と全身鏡が設置してある。奥のドアは開いていて、ダイニングルームが見える。
そのとき、美由紀は香苗の異変に気づいた。
香苗は顔を真っ青にして、身を震わせていた。
「どうしたの、香苗さん?」
「ここ……。わたしが襲われたのは、やっぱりここよ……。覚えがあるもの……」
どういうことだろう。美由紀は困惑した。香苗がふたしかな記憶に翻弄《ほんろう》されているようには、どうも思えない。被害に遭った現場についてははっきりと覚えているようだ。
しかし、あの父親が暴行を働いたなんて、とても信じられない。
父の雄一はどこにいったのだろう。美由紀は奥をたしかめようと靴を脱ごうとした。
と、なにかを壁に打ちつけたような、どしんという音が響きわたった。
かすかに叫び声が聞こえた。男の声だ。助けてくれ、そういっている。この建物のなかだ。
香苗も声を聞いたらしい、びくついたようすで顔をあげた。
耳を澄ましたとき、美由紀は物音がすぐ近くから響いてくるのを感じた。
「隣ね」美由紀は扉から通路に駆けだした。
305の表札には、座間塚《ざまづか》とあった。
呼び鈴を鳴らし、扉を叩く。返事はないが、男の泣き叫ぶような声が聞こえてくる。
ノブをひねると、ここも施錠されてはいなかった。美由紀は扉を開け放ってなかに踏みいった。
美由紀は愕然として立ちつくした。
靴脱ぎ場の向こうのホールで、五十半ばとおぼしき頭髪の薄い小太りの男が、壁に押しつけられている。喉《のど》もとには包丁を突きつけられていた。
その男を押さえこんでいるのは、ほかならぬ水落雄一だった。
「お父さん!?」香苗の声が、美由紀の背後から飛んだ。
水落はこちらを向いた。その顔が呆然としたものになる。
「香苗……」
「お父さん……。これいったい、どういうこと? やっぱりお父さんが……」
胸ぐらをつかんでいた水落の手の握力が緩んだのか、小太りの男はそこから逃れた。床に尻餅《しりもち》をつき、必死の形相で後ずさった。
美由紀のなかにたちどころに、ひとつの臆測《おくそく》が浮かんだ。そしてその直後、まぎれもない真実であるとの確証を得た。
父親に抗議をしかけた香苗に片手をあげて、それを制した。美由紀はいった。「香苗さん。……あなたが暴行を受けたのは、この部屋だわ。見て」
指差したほうを香苗は見つめて、衝撃を受けたように目を丸く見開いた。
「鏡……」と香苗はつぶやいた。
「そう。306と同じく全身鏡が備えつけてある。あなたは暴行を受けたときのようすを、まるで傍観者のように外から見ていたかのように記憶してるって、そういってた。離人症性障害じゃなかったのよ。あなたはあの鏡を見てた。だから間取りも左右逆に記憶した……」
香苗は唖然《あぜん》とした表情で、父親を、そして、怯《おび》えて小さくなった男を眺めた。
「その人」美由紀はきいた。「この部屋の住人ね? 座間塚さんっていうの?」
水落雄一が硬い顔でうなずいた。「そうとも……。さっき、きみに話を聞いてから、思い浮かんだんだ。このマンションで私のほかにひとりだけ、ずっと独身生活を送っている奴がいる。私より前から入居してて、いちど女性のストーカー行為で逮捕され、不起訴処分になった奴。隣に住んでるこの男だ」
「嘘だ。誤解だよ」座間塚は腰が抜けたのか立ちあがることもなく、震える声で告げた。「俺はなにもしてない。いきなりこの男が、包丁を持って押し入ってきて……」
「ふざけるな!」水落が怒鳴った。「おまえは罪を認めた。娘が四歳のころ、ここに連れこんで暴行した。そう言ったじゃねえか!」
悲痛な表情を浮かべた香苗を気遣いながら、美由紀は土足のままホールに踏みいった。
「座間塚さん」美由紀は小太りの男を見おろした。「悪いんだけど、きょうは嘘つきに会うのはふたりめなの。前の人も、あなたと同じような顔をしてた。わたしの目はごまかせない」
「なんだと……? あんた、誰なんだ?」
「岬美由紀」
「み、岬……? すると、あの……千里眼?」
「そういうことよ」
座間塚は目を白黒させていたが、緊張と恐怖が峠を越えたのか、居直りの気配を漂わせてきた。
まだ臆病《おくびよう》そうに口もとを震わせているが、無理に微笑を取り繕おうとしている。
「へっ……。いまさら、どうなるもんでもないよ。どうするんだ? 訴えるのか? とっくに時効だぜ? 娘さんの名前もなにもかも晒《さら》されて、新聞記事になっていいのか? 嫁の貰《もら》い手がなくなるぞ」
水落が怒りのいろを浮かべ、包丁をかざした。「この……」
だが、美由紀はその水落の手首を握った。水落は目を剥《む》いて、美由紀を振りかえった。
暴力はいけない。美由紀は水落に目で訴えた。
やがて水落の顔に翳《かげ》がさした。腕を下ろし、包丁を床に投げだした。
ふん、と座間塚が鼻を鳴らした。
美由紀はつかつかと座間塚に近づき、ひざまずいてその顔をのぞきこんだ。
「いい? いちどしか言わないから、よく聞いて。あなたはいま、右肩と左ひざに痛みを覚えている。絞めあげられたせいで、顎《あご》も痺《しび》れてるわね。それとさっきから、階下の人が騒ぎに気づいて通報してくれないかと、しきりに聞き耳を立ててる」
「あ……。ど、どうしてそれを……」
「わたしにはわかるの。あなたがどんな嘘をついて、どんな謀《はかりごと》をしようと、ぜんぶ見通せる。警察からは逃げおおせても、わたしは欺けない」
「そ……それで……俺にどうしろと」
「簡単よ。出てって。日が昇る前に、いなくなってくれる? あなたにとって不利なことをわたしに見破られなくする方法はただひとつ。わたしの視界から消えることよ」
座間塚はひきつった顔に涙を浮かべ、鼻水と涎《よだれ》を垂らしていた。
なにか喋《しやべ》ろうとしているようだが、緊張のせいか、しゃっくりを繰りかえすばかりだった。
美由紀は包丁を廊下に蹴《け》りだすと、水落をうながして、扉の外に歩を進めた。
廊下で、父と娘は見つめあった。長いこと、互いの顔を眺めていた。
やがて、香苗が泣きながらつぶやいた。「お父さん……」
水落は香苗をそっと抱き寄せた。香苗は、父の胸で震えながら泣いた。
「香苗」水落が静かにいった。「お母さんの話をしよう」
娘の顔がゆっくりと上がる。父を見あげて、小さくうなずいた。
美由紀は静かにいった。「おふたりとも、きょうはわたしのマンションの部屋で休んで。ここにいたんじゃ、お隣が気になるだろうから……」
しばしの沈黙のあと、水落がささやくように告げた。「いろいろと世話になりました……。あなたがいたから、娘は……」
「いいえ。……お父さんがいてくれたから。香苗さんにとっては、それがいちばんの幸せのはずです」
亡き父の思い出が、美由紀の胸に去来した。美由紀は安堵《あんど》のため息とともに、自分の気持ちを少しずつ落ち着かせていった。
よかった。またひとつ、この世から苦悩を消すことができた。
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