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千里眼69

时间: 2020-05-27    进入日语论坛
核心提示:無の世界 ミッション後、百里基地のブリーフィングルームに呼びだしを食らうのは、現役時代の美由紀にとって日常茶飯事だった。
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無の世界

 ミッション後、百里基地のブリーフィングルームに呼びだしを食らうのは、現役時代の美由紀にとって日常茶飯事だった。
自機が常に複座だった関係上、コ・パイロットと並んで叱責《しつせき》を受けることになるのだが、防衛大の先輩だった伊吹は第七航空団の別の飛行隊に属していた。よって、彼と並んで立ち、上官の説教を受けたことはない。聞けば、伊吹のほうも相当な問題児であり、美由紀と同様によくこの部屋に呼びだされていたという。
そのふたりが揃ったいま、デスクにおさまった上官の青筋ははちきれんばかりになっていた。
菅谷寛人三等空佐は顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。「ロシア機を奪って宇宙に飛ぶとはなにごとだ!」
美由紀のわきに立つ伊吹の態度は、飄々《ひようひよう》としたものだった。「まあそのう……緊急時の判断だったわけで……」
「外務省が対応にどれだけ神経をすり減らせているのか、わかってるのか。ロシア政府からは正式に抗議があった。日露友好の架け橋としてやってきた親善使節の贈り物を粗末に扱ったうえ、彼らの威信を傷つけ、地域住民とのふれあいの場であるところの航空祭をめちゃめちゃにした。いったいどういう神経をしているんだ! 幹部自衛官として恥ずべきことと思え!」
「はい、深く反省しております。ですが、懲罰を受けるのは私だけで……。岬元二尉のほうは、いまや民間人ですし」
「なお悪い」菅谷はすかさずいった。「岬はもうパイロットとしての資格を有していない。きょう一日に犯した違反だけでも七十六に昇る。東京湾観音事件の四十一の違反を、みずから大幅に更新した前代未聞の記録だ。プーチン大統領から安倍総理に直接の電話連絡があったそうだ。いうまでもなく、先方は激怒していたそうだぞ」
「まさか、岬元二尉をシベリア送りにするつもりじゃないでしょうね」
「どうして岬だけなんだ。おまえも一緒に送還されてもおかしくないんだぞ。日本政府として、おまえらを庇《かば》わねばならない理由なんかどこにある」
「ひどい言い方ですね。俺たちはあの核爆弾の処理に全力を挙げただけで……」
「核爆弾などなかった」
美由紀は驚いた。「え? ……どういうことですか?」
菅谷は引き出しから出した書類を、デスクの上に投げだした。「米国防省から報告が入ってる。おまえらのミグが射出した物体が、大気圏をぎりぎり脱したあたりで爆発したことは、衛星が観測している。けれども、その爆発はいたって小規模だ。せいぜいダイナマイト数本分というところらしい。これなら手製で爆弾をこしらえられるレベルとのことだ」
「そんな……でもあれはたしかに……」
「まあ、ほかの幹部自衛官らの証言にも、爆弾の外観はたしかにヒジュラX5にうりふたつで、疑える余地はなかったとある。……彼らはみんな、おまえらの身を案じているようだ。行為を賞賛とまではいかなくても、尊敬に値すると口にした者もいる」
伊吹は白い歯をのぞかせた。「仲間ですからね」
「調子に乗るな。おまえらが冷静な分析をおこなえなかったのはたしかだ。航空祭の観客を避難させ、爆発物は可能な限り安全な場所に運ぶ。そうしていれば、小さな爆発が起きただけで、なにもかもが平穏無事におさまった」
美由紀は合点がいかなかった。「そうでしょうか?」
「なに?」
「あの偽の核爆弾ですが……ただ騒ぎを起こしたいだけの意図で仕掛けられたものなら、どうして本当に爆発する仕組みになってたんでしょう」
「それは……」菅谷は言葉を濁してから、じれったそうにきいてきた。「おまえはどう考えているんだ。岬」
「たぶん核爆弾だという前提をしめしたうえで、それが爆発したら、パニックは想像を絶するものになるからです。冷静に考えれば、爆発後も生きていられること自体がおかしいはずですが、隊員にしろ民間人にしろそうは思わず、放射能汚染の不安と恐怖から無秩序となり、混乱に拍車がかかるでしょう」
伊吹が美由紀を見た。「すると、犯人の意図は航空祭をパニックに導くことか?」
「ええ。あるいはその混乱に乗じて、なんらかの犯行を成功させたかったとか」
しばし沈黙があった。
菅谷は迷っているかのようにしきりに顎《あご》をなでまわしていたが、やがて意を決したようすで、手もとの書類から一枚を引き抜いた。
「カウアディス攻撃ヘリは知ってるな?」と菅谷はいった。
「はい」と伊吹は返事した。
だが、美由紀には聞き覚えがなかった。「臆病風《カウアデイス》?」
ふっと伊吹は笑った。「フランス空軍がつい最近になって開発した攻撃ヘリだよ。除隊したきみは詳しくなくて当然さ。機動力も兵装もアパッチをうわまわる、きわめて高性能なしろものだってよ。乗ったことはねえけどさ、あらゆる面が電子制御されて操縦も楽だって。自衛隊も採用を検討してて、きょうの航空祭にもプロトタイプが一機展示されてた」
「フランスのヘリなの? なんで英語で臆病風《おくびようかぜ》なんて名前が……」
「正式な機種名はほかにあったんだけどさ。パイロットの命を守るために、過剰なほどの安全装置がついていてね。敵機にセミアクティヴ・ホーミングでロックオンされたら、それを感知して、ただちにシートが射出されるんだよ」
「ロックオンされた時点で、勝手に脱出装置が働くってこと?」
「そう。ぴたりと狙い済まされたというだけで、パイロットの回避の腕も信用せずにいきなり空中に放りだすのさ。パイロットはパラシュートで無事帰還ってわけだが、過保護なヘリだよ。で、どこかの武器マーケットのお披露目で臆病者が乗るヘリっていう噂が広まり、カウアディスの名が定着しちまったんだな」
咳《せき》ばらいをして菅谷がいった。「それでも攻撃ヘリとして最新鋭のものであることはたしかだ。われわれも自衛官の命をむやみに危険に晒《さら》したくないからな、安全機能も過剰とは思わん。それに、空対空の攻撃能力は折り紙つきだ。いまやカウアディス攻撃ヘリは世界の軍隊の垂涎《すいぜん》の的だよ。非常に高価で、年間生産機数に限りがあるためプレミア的存在となっている。きょうの航空祭にも、ようやく一機借りられたという状況だった」
美由紀は悪い予感を覚えた。「すると、その一機が……」
「ああ。核爆弾騒ぎのなかで姿を消していた。ヘリをこっそり奪って飛び立つなど、ほんのささいな混乱の状況下では不可能だ。だからよほど大きなパニックを引き起こすことが前提となったんだろう」
伊吹が腕組みをした。「たしかに、あれだけの騒ぎになったら展示された航空機も盗み放題かもしれませんね」
菅谷はむっとした。「盗難が容易になるほどまでに混乱を助長させたのはおまえらだぞ。おまえらのミグ25を追跡しようと飛び立った自衛隊機が、基地上空を旋回するなどして、一時は修羅場も同然になった。在日米軍もスクランブル発進してきたんだぞ。おまえらの共犯を疑う声があがらなかっただけでも幸いだと思え」
「あのう、菅谷三佐」美由紀は困惑を覚えながらきいた。「犯人に目星は……?」
また静寂があった。
やがて菅谷が、言いにくそうにつぶやいた。「パニックのなかとはいえ、目撃者がいなかったわけではない。板村久蔵元三等空佐がカウアディスに乗りこみ、発進させたという複数の証言がある」
「板村さんが……?」美由紀は驚きを隠せなかった。「そんな、まさか……。でも、どうして……」
「理由などわからん。板村元三佐は現役時代、ヘリの操縦に長《た》けていた。きょうもレーダーの監視網をかいくぐって、低空飛行で姿を消した。海を渡るほどの燃料は積まれていなかったから、関東地方のどこかに潜んだのだとは思うが……。元幹部自衛官によるヘリ奪取という、由々しき事態なのは間違いない」
美由紀は呆然《ぼうぜん》としてたたずむしかなかった。
あの板村がヘリを盗んだ。直前の挙動からして、偽の核爆弾でパニックを引き起こしたのも彼の可能性が高い。しかし、そんなことがありうるだろうか。あれほど温厚で、情け深い上官だった板村が……。
菅谷は美由紀をじっと見つめてきた。「板村三佐が、おまえの除隊のきっかけとなった命令無視に一枚|噛《か》んでいたことは、記録に残っている。正しい行いのためだったとはいえ、許されることではなかった。そしてまた、きょうも同じ顔ぶれで忌むべき事態が引き起こされたわけだ。おまえと板村三佐、それぞれが一機ずつ展示機体を盗んだ」
伊吹が抗議するようにいった。「岬がミグに乗ったのは、そもそも核爆弾騒ぎが……」
「わかってる」菅谷は真顔で手をあげて、伊吹を制した。「だが、防衛省の上層部にはきちんと弁明せねばならん。航空幕僚監部に事情を説明しろ。過去の事情がどうあれ、板村三佐をかばうようなことはいっさい口にするな。立場を悪くするだけだ」
戸惑いが深まる。美由紀はいった。「わたしは……正しいと思うことをいうだけです。防衛省のみならず、ロシア政府関係者に対しても、きちんと頭を下げに行く覚悟はあります」
「その必要はない。ロシアのほうはたしかに気を悪くしたようだが、事情の説明を受けて穏便にことを済ますと約束してくれたらしい。ファントム・クォーター事件で岬に借りがあるからとも言っていたそうだ。事情説明は、防衛省に対してだけでいい」
「……板村三佐はわたしにとって……」
「やめろ」菅谷はぴしゃりといった。「私情をはさむな。板村はいまや、ただの窃盗犯にすぎん」
 美由紀と伊吹の事情聴取という名目の、事実上の査問会議は、その日の深夜にまで及んだ。
内部部局の面々はいつものことながら渋い表情ばかりだったが、詳細があきらかになるにつれて緊張は和らいでいった。あの状況下で、核爆弾を処理する最も適切な方法を検討したとき、操縦の腕に自信があるのなら当然とるべき行動だったろう、そういう弁護の声もあがった。
むしろ、ミグ25がプリフライトチェックを終えて待機中だったあのとき、手をこまねいたまま爆発が起きてしまっていたら、その場にいた自衛官全員がのちに対応を問題視されたに違いない。核でなかったというのは結果論にすぎず、もし核だったら最悪の結末を迎えていたからだ。
もっとも、擁護はそこまでだった。ロシア人パイロットに依頼をして、爆弾を大気圏外まで運んでもらう。会議においては、それが最も適切な判断だったと結論づけられた。彼らを引きずりおろして、ミグを乗っ取るなど言語道断だ。その非難については撤回されることはなかった。
本来なら、ふたりの処遇をめぐって長期の会議が持たれるはずだったが、幕僚監部によれば伊吹の減俸処分をもってこの件を終わりとしたいという話だった。
フランスから借り受けた最新鋭の攻撃ヘリを、板村が持ち去っている。兵装は備わっていないが、兵器類を装着するためのステーションは完備されている。ミサイルやバルカン砲を入手できれば、恐るべき空の殺人マシーンとして充分に機能を発揮することになる。
防衛省は警察と協力体制を敷き、板村の行方を追うことに全力を挙げるという方針を固めた。美由紀と伊吹の問題には、取り急ぎ決着がつけられ、ふたりの身柄は解放されることになった。
 真夜中の百里基地、第七航空団庁舎の廊下に歩を進めながら、伊吹がいってきた。「やれやれだな。あれが偽物だったとはついてねえぜ。本物の核爆弾だったら英雄だったのに」
美由紀は歩調を合わせながら、陰鬱《いんうつ》な気分になった。「そんなこと……」
「冗談だよ。ま、ひさしぶりにおまえと飛べて嬉《うれ》しかったけどな。あいもかわらず、ひやひやさせる操縦だったけど」
「乗ったことのない機体だったのよ。経験したことのない高度だったし」
「いっそのこと宇宙を漂ったままでいたかったよ。そうすりゃ永遠にふたりきりだ」
「だったら何なの?」
「きまってんだろ」と伊吹は前方にまわりこんで立ちふさがり、顔を近づけてきた。
美由紀は身を退かせた。「たとえ大気圏外でも、おかしな真似をしようとしたら強硬手段に打ってでるわよ」
「本気かよ? 死にそうな状況でも助けあう気はねえってのか?」
「なにかされるぐらいなら、急降下して自滅する」
「嫌われたもんだな」
「さっさと帰って、いまの彼女に無事を伝えたら? きっと心配してるでしょ」
「彼女なんていないぜ?」
「じれったさが生じてる。衝動を抑制しているせいで頬がわずかにひきつっている。一刻も早く帰りたいって顔ね」
「……ったく、おまえ変わったな。男の心のなかを読むなんて、もてない女になるぜ」
「いいの。どうせ愛されないし」
「そうでもないんだけどなぁ……」
行く手のロビーの暗がりで足音がした。
藍が不安そうな顔で近づいてくる。「美由紀さん……」
「ああ……。藍、まだ居残ってたの?」
「だって心配で……。美由紀さん、だいじょうぶだったの? いきなり飛び立つなんて……」
伊吹が茶化した。「こいつはいつも急に予定を決めるんでね」
美由紀はむっとした。「ひとこと余計よ」
「悪《わり》いな」伊吹は笑って、立ち去りかけた。「俺なりの褒め言葉なんだけどな。転職した美由紀にゃ受けいれられないみたいだ」
「あ、伊吹先輩」と美由紀は声をかけた。
「なんだ?」伊吹が振り返った。
戸惑いが起きる。わたしはどうして呼びとめてしまったのだろう。
「と、とにかく……ありがとう」
「なにに対して感謝してるんだい?」
「そのう……。一緒に飛んでくれたことと、操縦中に適切なアドバイスをくれたことに……」
伊吹は口もとを歪《ゆが》めた。
「二十八になっても可愛いとこあんじゃん。じゃまた会おうぜ」伊吹はそう告げると、ぶらりと背を向け、歩き去っていった。
静寂だけが残る。美由紀はその場に立ち尽くしていた。
藍が微笑みながら美由紀を見つめた。「可愛いとこあんじゃん、だって」
「ほっといてよ」美由紀はため息をついた。「あれでかっこつけてるつもりなんでしょ」
「ねえ、美由紀さん。宇宙の入り口まで飛んだの? どうだった? 星とか、綺麗《きれい》だった?」
「……まあ、ね」
美由紀は言葉を濁した。大気圏外にあるのは、真の闇でしかない。幼い頃、死後の世界を想像したとき、あんな空間を思い浮かべた。独りきりになって、永遠に暗闇を漂う。そんな時間が永遠につづく。
無の世界。二度と行きたくはない。こみあげてくる嘔吐《おうと》感とともにそう思った。
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