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千里眼75

时间: 2020-05-27    进入日语论坛
核心提示:SRT その夜、美由紀は警視庁捜査一課の刑事部屋に隣接する応接室で、ひとりの刑事と会った。三十代半ばの岩国庄治《いわくに
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SRT

 その夜、美由紀は警視庁捜査一課の刑事部屋に隣接する応接室で、ひとりの刑事と会った。
三十代半ばの岩国庄治《いわくにしようじ》という警部補は、あきらかに気乗りしないようすで告げてきた。「岬先生。あなたが過去に警察の捜査に何度か協力していただいたことや、その結果として凶悪犯罪を未然に防ぐことができた事実は聞き及んでます。だからこうして私も話を聞くよう仰せつかったんですが……。今回ばかりは、どうにも話が読めません。いったい私どもにどうしろと?」
「だから、さっきも言ったでしょう。ミッドタウンタワー三十一階のモリスンに不法侵入している人物がいるんです。それも一度や二度じゃなく、毎晩のように」
「株式会社モリスンから被害届は出ていないんですよ。問い合わせてみたが、盗られたものはなにもないし、誰かが侵入した痕跡《こんせき》もないといってた」
「でも防犯用のデータが消去されているという、不審な状況があったはずよ。営業部の渋北課長が警備センターに聞きただして判明したことです」
「故障か、または単純な人的ミスの可能性も高いってことでしたよ」
「そんなはずはありません。侵入者はいたんです。そして今後も毎晩のように犯行は繰りかえされます」
「なんの犯行が、ですか。誰かが無人のオフィスにあがりこんで、備品にはいっさい手を触れずに朝まで動かずにいる。そんな輩《やから》が本当にいるのだとしたら、目的はなんです?」
美由紀はハンドバッグから、用意してきた紙片を取りだした。
岩国はそれを受け取り、じっと見つめた。「これはなんです?」
「ネットで検索してでてきたページをプリントアウトした物。英語だけど、だいたい読めるでしょう? スーパー・リフレクティング・テレスコープ。通称SRT」
「テレスコープ? つまり望遠鏡ですか」
「そう。長さ三・一六メートル、口径四十センチの天体観測用望遠鏡で、持ち運びできるものとしては最大級のサイズになる。スイスの企業の特注品で、超拡大に伴う光量不足が特殊な内蔵反射板によって補われることで、はるか遠方の小さなものを鮮明に見ることができるの。通常、この口径なら倍率は八百倍ていどだけど、SRTの場合は六千倍まで拡大可能。ようするに、二百メートルの高さから地上の人が読んでる雑誌の記事を視認できるんです」
「……ということは」岩国の顔いろが変わった。「これが毎晩ひそかに、三十一階に持ちこまれていると?」
美由紀はうなずいた。「防衛大でSRTを見たことがあるけど、五百キロ近い重さがあって、運搬には専用の台車が必要になる。設置はチタン製の三脚を立てて、その上部に五段階に分けておこなうのよ。三脚についてもそこにデータが記載されてるけど、一辺が一・五メートルほどの正三角形で、設置面の形は長方形。モリスンの窓ぎわに残っていた跡に、きわめて似ている」
「どうして連日設置されていると? 残っていた跡は一箇所だけでしょう?」
「二度目以降は、前回の跡を目印にして三脚を設置した可能性が高いんです。跡がしっかりと残りすぎているし、少しずれて置かれた痕跡もあるしね。暗証番号を盗みとったことを悟られまいとしていたわけだから、永続的に三十一階を利用するつもりだったと考えられる」
「すると……犯罪そのものは覗《のぞ》きですか」
「かもね。以前に建っていた防衛庁庁舎はもっと低かったし、周辺にはあの高さのビルディングはない。ミッドタウンタワーが建ったことで初めてあの視点から見下ろすことが可能になったんだから、膝下《ひざもと》の建物に住む人々は、そこからの監視を想定していないのよ。いままでの習慣で、自宅の二階のバルコニーで一日のほとんどを過ごす人がいたとすれば、その人を監視するには恰好《かつこう》の道具立てってこと」
岩国は唸《うな》った。
「そのう……岬先生。仰《おつしや》ることは理解できたんですが、犯行がただの覗きとなると……。覗かれている被害者が訴えてでないことには、われわれとしては動けません」
「犯罪を未然に防ぐのも警察の仕事でしょう?」
「それはそうですが……。私どもは捜査一課でして。殺人や誘拐、強盗などの凶悪犯罪が担当です。もしこれが、たとえば若い女性のプライバシーを侵害しているという状況なら、所轄の赤坂警察署に被害者が相談をすべきことで……」
「違うってば」美由紀は紙片を取りあげた。「郵便集配室勤務の又吉さんに千八百万円も払ったうえに、手のこんだ芝居で足がつかないようにしたのよ。重大にして凶悪な犯罪の前触れだと思わない?」
「それは、たしかにそうですが……。岬先生は、どんな事態を憂慮しておいでで?」
「……まだわからない。けれど、少なくとも放置はできないの。又吉さんは国税局から疑いをかけられている。ほぼ健全な精神状態なのに、妄想性人格障害の症例を押しつけられる寸前にまで至ってる。なんとかあの人を助けなきゃ……」
「その又吉さんという人は、岬先生のかねてからの知り合いでもなんでもないんでしょう? 臨床心理士として、その人の相談を担当しておられたわけでもない。そこまで頑張る必要がおありで?」
「……このままじゃ仕事も失ってしまうだろうし、社会的信頼も失墜してしまう。追い詰められている人を救いたいの。それだけよ」
しばらく沈黙があった。岩国は渋い顔をして、美由紀の手にした紙片に見いっていた。
やがて、岩国は意を決したように告げた。「わかりました。モリスン側と相談して、早急に手を打ってみます」
美由紀は安堵《あんど》を覚え、微笑した。「ありがとう……」
「いえ……。やるからには全力でぶつかりますよ。警備員からの通報を待たず、現行犯逮捕できるように人員を配置します。岬先生の仰ることですから、きっと間違いはないでしょう……」
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