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千里眼76

时间: 2020-05-27    进入日语论坛
核心提示:財産放棄 翌日の昼下がり、美由紀はガヤルドのステアリングを握り、外苑《がいえん》西通りを白金《しろかね》方面に向かって走
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財産放棄

 翌日の昼下がり、美由紀はガヤルドのステアリングを握り、外苑《がいえん》西通りを白金《しろかね》方面に向かって走らせていた。
きょうの昼食は、由愛香が白金二丁目に出店しているイタリア料理店、グラツィエッラでとることになっている。由愛香のほうから食事の誘いがあるときは、たいていなにか自慢したい話がある場合と相場がきまっていたが、今回はその内容もおおよそ見当がつく。東京ミッドタウン内のマルジョレーヌの件だろう。本場フランスのシェフを、彼女は呼び寄せたがっていた。それが成立したに違いない。
この白金にある店のほうは、いわゆるシロガネーゼの主婦たちに人気で連日、予約なしの入店お断りという状況がつづいていると聞くが、人気店をいくつも切り盛りする由愛香の手腕は純粋に驚くべきものだった。彼女は仕事以外に、あまり趣味らしい趣味も持っていないようすだ。
仕事ひと筋に生きられる人生を、心から羨《うらや》ましいと感じる。わたしはわき道に逸《そ》れてばかりだ。
グラツィエッラの前にあるパーキングエリアに停めようとして徐行したとき、美由紀は困惑を覚えた。
いつも美由紀が駐車するパーキングエリアは、景観にそぐわないトラックや業者用バンに占拠されている。いままで見たことがない光景だった。
美由紀はそれよりも手前にクルマを停めて、外に降り立った。
歩道をグラツィエッラに向かって進んでいくと、戸惑いはさらに深まっていった。
作業着姿の男がトラックから脚立を運びだし、店に入っていく。どう見ても客には思えない。
店の前まで来て、美由紀は衝撃を受けた。
開け放たれた扉のなかに、レストランはすでに存在していなかった。テーブルや椅子は撤去され、かろうじて壁紙や照明にその名残がある。その照明も脚立に昇った業者によって取りはずされるところだった。
解体作業。いったいなぜ……。
呆然《ぼうぜん》とたたずんでいると、Tシャツ姿の髭面《ひげづら》の業者が通りがかった。男は美由紀を見てきいた。「なにか?」
「あ……あの、ここはどうなったの? 改装中?」
「いえ。テナント募集中の状態に戻せといわれてるだけだよ。次の借り手は、まだ決まってないんじゃない?」
「ってことは……閉店したの?」
「そうみたいだねぇ」
「いつごろ?」
「さあ。急な話みたいだったから、さっきからほかにもお客さんが覗いて、驚いた顔をしていくよ。まあ都内じゃ飲食店はしょっちゅう入れ替わるからね。珍しくはないよ」
その事実はたしかにある。しかし、由愛香の店については例外のはずだ。
彼女の経営状態は良好だったはずだ。とりわけ、この白金のグラツィエッラは。
急にどうしたというのだろう。美由紀は、無の空間と化していく店内を眺めながら思った。
 東京ミッドタウンの広大な庭園で、強い陽射しを避けて木陰にたたずんだ美由紀は、携帯電話を操作してiモードにつないだ。
中古車情報のページを表示し、検索窓に文字を打ちこむ。アルファ8Cコンペティツィオーネ。
検索結果は一件だけだった。それを表示してみると、画像はまさしく由愛香の乗っていたクルマそのものだった。車体色も同じ、ホイールは特注品の金メッキだ。
ため息が漏れる。情報の掲載日はきょうの日付だ。あれだけ気に入っていた愛車を、いきなり売りにだすなんて。いったいなにがあったのだろう。
美由紀は携帯電話をハンドバッグにしまいこむと、歩きだした。ガーデンテラスはすぐそこだ。
ここも解体作業が始まっていたらどうしよう。不安に駆られながら歩を進めたが、マルジョレーヌの看板は下ろされてはいなかった。ガラス張りの店内で働く業者らも、解体ではなく内装の飾りつけを進めていることがわかる。
ほっとしながらエントランスを入っていくと、ひとりの中年の業者がペンキ缶片手にこちらに歩いてきた。
「こんにちは」美由紀は声をかけた。「店長いる?」
「さあね」男はなぜか不機嫌そうだった。「さっきまでそこにいたけど。すぐに戻ってくるんじゃないか」
不穏な空気を感じ、美由紀は店内を見まわした。
どうもようすが変だ。ベル・エポック調の華やかさを目指していたはずの内装が、極端に安っぽくなっている印象を受ける。業者も二、三人が立ち働いているだけだった。
「なにがあったの?」と美由紀はきいた。
ふんと男は鼻を鳴らし、立ち去りぎわにつぶやいた。「直前になってあちこち変更されたんじゃたまらないよ」
変更。計画性を重視する由愛香にしては珍しい。
美由紀は奥に入っていき、カウンター・テーブルの上に広げられた図面を見た。
あちこちに赤いペンが入り、書き直されているのがわかる。特注品で占められていたインテリアの備品は、そのほとんどが汎用《はんよう》の既製品に入れ替えられていた。
ここでも大幅に予算が削られているらしい。
厨房《ちゆうぼう》に入っていくと、段ボール箱が山積みになっていた。表記によれば、牛乳や卵、小麦粉がおさめてあったもののようだ。
驚いたことに、キッチンにはもう作業した形跡があった。ボールには生クリームが精製してあるし、卵のからがあちこちに散乱している。
冷蔵庫を開けてみた。完成済みのケーキがいくつも並んでいる。リンゴの切れ端も一緒におさめてあった。炭酸飲料の一・五リッターのペットボトルもあったが、大きく凹《へこ》んで変形していた。
美由紀は由愛香の意図を知って愕然《がくぜん》とした。こんな手を使うなんて。
心拍が速まるのを感じながら、美由紀はレジに向かった。予算のカットについて、帳簿になにか記載があるかもしれない。
と、レジには、またしても似つかわしくない物が置いてあった。アイロンと洗濯のりのスプレーだった。その下に、数枚の千円札が無造作に投げだされている。
開店前とはいえ、現金を放置しておくとは。美由紀はそれらをレジに戻そうと手を伸ばした。
そのとき、背後で由愛香の声がした。「あら、美由紀。ネコババでもするつもりなの?」
振りかえると、由愛香が冷ややかな顔でたたずんでいた。
美由紀は不快な気分になった。「馬鹿なこといわないでよ」
「そう。ま、美由紀が何千円かを気にかけるわけもないか。ちょっと頭がおかしくなった人たちと話をするだけで、毎日のように大金が転がりこんでくるんだから」
「……どうしたっていうの? 由愛香。あなたらしくもない」
「なにが? わたしらしいってどういうことかしら。美由紀が決めつけることじゃないでしょ」
「いいえ。わたしに限らないわよ。誰が見たっておかしい。ケーキの材料は開店当日に運びこんで、作りたてをお客さんにだすんじゃなかったの? こんな埃《ほこり》っぽい場所で作り置きをするなんて。しかもリンゴの切れ端を一緒にしてあるのは、そのことを隠蔽《いんぺい》するためでしょ?」
「隠蔽だなんて。口が悪いわね、美由紀も。リンゴの蜜《みつ》と甘い風味がケーキの新鮮さを保つし、水気のおかげでケーキのスポンジも湿ったままになる。ケーキを長期保存するときの知恵よ」
「ペットボトルの空気を絞りだすようにして、密閉状態で蓋《ふた》をして炭酸を長持ちさせるなんて、いまどきインドの喫茶店でしかやらない手よ。それにこれ、折り目のついた紙幣に洗濯のりのスプレーをして、両面にアイロンをかけることで、なんとか新札のような張りをだそうとしてるんでしょ? こんな手間をかけなくても、銀行に頼めば新札で預金を下ろすことが……」
「わかってるわよ!」由愛香は憤りのいろを浮かべた。「そのう……面倒を省いて、手持ちのお金を有効に使おうとしただけ。ただそれだけのことよ」
美由紀は不安を覚えて押し黙った。
由愛香の言っていることは筋が通っていない。銀行を利用することさえできないのか。口座を解約してしまったか、取り引きを停止させられてしまったのか。
「ねえ、由愛香。……なにがあったっていうの? クルマも売ってるし、ここ以外のすべての店を閉めちゃったでしょ?」
「もう調べたの? あいかわらずやることが早いのね。けど、心配なんてしてもらわなくて結構よ。ここの出店にお金がかかるから、一時的にほかのお店を売却しただけ。経営ってのは戦略でね。外から見てたんじゃ理解できないわ」
「東京ミッドタウンの家賃がどれだけ高くても、そんなことは織りこみ済みだったはずでしょ。ちがうの? あなたは出店を急いで見切り発車するタイプじゃないはずよ。それに、この店内……。どうして今になって予算を大幅に削るの? ここがあなたの夢見た店であるはずが……」
「大きなお世話よ!」
美由紀はびくっとして口をつぐんだ。
業者らも作業の手をとめて、こちらをしらけた目で見やる。
由愛香は居心地悪そうに目を泳がせながら、苛立《いらだ》ちを漂わせていった。「あなたになにがわかるっていうの」
「……由愛香。もし困ったことがあるなら、わたしが力になるから……」
「やめてよ。そういうのって嫌」
「でも……」
「わたしが困窮しているみたいだから、恵んでくれるって? 美由紀。こういう状況になって、気分がいいでしょ?」
「なにを言ってるの?」
「わたし、美由紀なんかよりずっと年収も上だったし。内心、そのことを気にかけてたんじゃないの? わたしが没落したら、たちまち慈悲の心を発揮できるチャンスとばかりに、手を差し伸べてくれるなんてね。こうなることを期待してたとしか思えない」
「そんなこと……。わたしは純粋に、あなたのことを心配してるのよ」
「どうして?」
「どうしてって……友達だから……」
「本当にそう?」由愛香は軽蔑《けいべつ》と自嘲《じちよう》の入り混じった目で美由紀を見つめてきた。「ほんとにわたしを友達だと思ってた? わたしたち、そんな関係だっけ?」
美由紀は無言にならざるをえなかった。戸惑いだけが胸のなかを支配する。
わたしは、由愛香のことをどう思ってきたのだろう。
人の感情が読めるようになって、真の友情というものは育たないと落胆した日があった。由愛香と知り合いになったのは、そのころだった。
彼女は、こちらの心に踏みこんでこない特異な人物だった。美由紀も彼女について、あれこれ聞いたり気遣ったりはしなかった。互いに詮索《せんさく》もしない。相互不可侵の関係こそが、ふたりのあいだにあったすべてだった。
それは、ふたりがそう望んでいたからにほかならなかった。友情なんてない、そう決めてかかっていたがゆえに生じたつきあいだった。
「聞いて」美由紀はあわてながらいった。「たしかに以前は、あなたとわたしは醒《さ》めた関係でしかなかった。けれど、いまは違う。そう思いたいの」
由愛香は表情を変えなかった。かすかに潤んだ目で見かえしながら、由愛香はつぶやいた。「美由紀。わたしの気持ち、読めるんでしょ?」
そのひとことが、彼女の返答すべてだった。
エントランスのほうから、コンコンとガラスを叩《たた》く音がした。
目を向けると、あの丸いサングラスをかけた痩《や》せた男が、ステッキの先で扉を叩いていた。いちおう、ノックのつもりらしい。
ふいに由愛香の顔に焦燥のいろが浮かんだ。
「もう帰って」由愛香は美由紀にそう告げると、足ばやにエントランスに向かっていった。
丸いサングラスの男と由愛香は、店の外に立ち会話を始めている。由愛香は、美由紀の介入を拒むかのように背を向けていた。
不安と、困惑と、緊張が激しく渦巻き、美由紀の心拍を速めていた。
左右が非対称になった表情。
由愛香は、わたしを遠ざけたがっている。もう二度と会いたくないと思っている。そんな彼女の感情を見抜いたからだった。
わたしの勘違いであってほしい。でも、その可能性は万にひとつもない。
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