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千里眼82

时间: 2020-05-27    进入日语论坛
核心提示:獲物か例外か 一時間ほどゲームがつづいてから、テーブルは小休止に入った。蒋[#「くさかんむり/將」、unicode8523]や、
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獲物か例外か

 一時間ほどゲームがつづいてから、テーブルは小休止に入った。
蒋[#「くさかんむり/將」、unicode8523]や、謝大使らは、それぞれ好みの酒と軽食をオーダーしていた。由愛香も好物のジントニックをすすっている。
美由紀は、茶だけで済ませていた。クルマで来ているのだ。そうでなくても、いまアルコールを摂取する気にはなれない。
「それにしても」蒋[#「くさかんむり/將」、unicode8523]がタバコをふかしながらいった。「今宵《こよい》の由愛香様のツキは素晴らしいものがありますね。さしずめ美由紀様は幸運の女神といったところでしょうか」
「まあね」と由愛香が上機嫌で告げた。「女神っていうより、千里眼だし」
一同に張り詰めた空気が漂った。
思わずあわてながら美由紀はいった。「由愛香……」
「ほう」がじっと見つめてきた。「千里眼ね……」
蒋[#「くさかんむり/將」、unicode8523]が煙を吐きだしながらつぶやく。「そういえば、そんなふうに呼ばれている臨床心理士の噂を聞いたことがありますな」
謝大使がきいてきた。「それがあなたで?」
当惑を覚えながら、美由紀は笑顔を取り繕った。「プライバシーに関わることなので……。お答えしかねます」
沈黙が降りてきた。由愛香も気まずそうに、無言で酒を飲みつづけていた。
隠し通そうとしていたわけではないが、あまり相手を挑発するのはまずい。ゲームはまだ終わってはいないのだ。
そのとき、向こうのテーブルで、大功建設の総裁が部下から筒状のものを受けとっているのが目に入った。
その筒は、卒業証書をおさめるケースのように蓋《ふた》がついていて、なかに丸められた紙がおさまっていた。総裁はそれを取りだした。かなりのサイズで、テーブルいっぱいに広げられている。
図面のようだが、それが何なのかは美由紀の位置からはわからなかった。
「美由紀様」黒服が、チョコレートを載せた皿を差しだしてきた。「おひとついかがですか」
「いえ、結構……」
蒋[#「くさかんむり/將」、unicode8523]がいった。「甘いものはお嫌いですかな、美由紀様。ひとつゲームをしてみませんか。この皿には十五個の黒いチョコレートと、一個のホワイトチョコがある。交互にチョコを取っていって、ホワイトチョコをとってしまったほうが負け。一回につき、とるチョコは三個以下とする」
「いくら賭《か》けるんですか?」
「いや、金品のやり取りは愛新覚羅のほうでやればいい。このゲームでは、負けた者にペナルティとして、自己紹介をしていただく。生い立ちから現在の職業まで、包み隠さずに」
それが美由紀への挑戦であることは明白だった。正体を明かせと言っているのだろう。
酒に酔ったようすの由愛香が手をあげた。「はい。わたしやるから。これ、取ればいいの? 一回に三個以下だって? うーん、じゃ黒いのを一個」
美由紀は、その時点で由愛香の負けが確定したことに気づいていた。
蒋[#「くさかんむり/將」、unicode8523]が黒チョコを二個をとった。由愛香も三個とる。蒋[#「くさかんむり/將」、unicode8523]は一個。由愛香はまた三個。蒋[#「くさかんむり/將」、unicode8523]もまた一個。由愛香も一個。
そして蒋[#「くさかんむり/將」、unicode8523]が三個の黒チョコを取り、皿の上には一個の白いチョコだけが残された。
「あー!」由愛香は笑いながらのけぞった。「負けたー。しょうがないな。じゃ自己紹介するね。わたしは高遠由愛香、二十九歳。独身。出身は福井なんだけど、両親もただの田舎の人だし、ぱっとしなくてね。通った公立の小学校も田んぼの真ん中にあって、将来は安月給の地元就職が確定済み。先生たちもそういう人種だから、どうしようもないわね。だからわたし、そういう人たちが嫌いになってきて、ぜったい将来は独りで成功するって心にきめてたの。だから東京の大学を受験したし、上京してからも……」
美由紀は由愛香の言葉を聞いていなかった。おそらく、この場にいるほかの者たちも同様だろう。
蒋[#「くさかんむり/將」、unicode8523]は美由紀から目を放さなかった。美由紀も蒋[#「くさかんむり/將」、unicode8523]を見つめかえしていた。
「美由紀様」蒋[#「くさかんむり/將」、unicode8523]が告げた。「勝負しませんか?」
「わたしが先攻ならやるけど、後攻ならやらない」
「ほう。どうして?」
「先攻がかならず勝てるから。残りの黒いチョコが十二個、八個、四個となるように取っていけば、最終的に白いチョコ一個だけを残すことができる。勝負するまでもなく、結果は初めから見えている」
由愛香が面食らった顔でいった。「そうなの!?」
ふっと蒋[#「くさかんむり/將」、unicode8523]が笑った。「お見事です、美由紀様。……お気づきになったカラクリを先に明かさず、ゲームでお勝ちになれば私の身の上を知ることができたものを」
「興味ないの。ここにももう、二度と来るつもりないから。今夜、由愛香があるていどの負債を取り戻したら、それで終わり」
「ふうん。……残念ですな。ぜひとも愛新覚羅をお試しいただきたかった」
唐突に、近くのテーブルでどよめきがあがった。
そのテーブルには大勢の見物人がついていた。大功建設の総裁と、大使館側のギャンブラー。一対一の愛新覚羅の勝負。すでに決着はついたようだった。
総裁は愕然《がくぜん》とした表情でいった。「そんな、まさか。ここへきて辛亥《しんがい》革命だなんて……」
辛亥革命。
子が親の置いたカードすべてを当てるという、数学的に限りなくゼロに等しい役。それが出たというのか。
ディーラーが、テーブルの端にあった図面を取りあげる。丸まっていた図面が広がった。
そこには複雑な構造の鉄塔らしきものが描きこまれていた。
美由紀は息を呑《の》んだ。
まさか、第二東京タワーか。まだ国内でも全貌《ぜんぼう》が明らかになっていない建設計画の詳細な図面。総裁はそれを担保にして勝負を挑み、しかも敗退したのだ。
無一文になった者の狂気。賭博《とばく》は理性を失わせる。時の政府が禁じた愛新覚羅となればなおさらだった。
総裁は必死の形相で抵抗し、図面を奪われまいとしている。部下も加勢していた。黒服らと激しくもみあったが、最終的にディーラーが図面を手にいれた。
そのディーラーが蒋[#「くさかんむり/將」、unicode8523]に近づいてきて、なにかを耳うちした。蒋[#「くさかんむり/將」、unicode8523]も何事かささやきかえした。ディーラーはうなずいて、立ち去っていった。
蒋[#「くさかんむり/將」、unicode8523]は美由紀を見て告げた。「なにもかも失ったお客様には、お引き取り願う。致し方のないことです。このカジノ・パーティーの収益はわが国の福祉のために使われる、いわば慈善事業なのですが、ギャンブルに負けた者を救済する意図はないのでね」
黒服らに連れだされていく大功建設総裁の姿を見ながら、美由紀は寒気を覚えた。
まさしく崖《がけ》っぷちだ。じわじわ追い詰めたられた挙句、奈落《ならく》の底に突き落とされる。
わたしたちは獲物と見なされているのか。それとも、唯一の例外となりうるだろうか。
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