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千里眼91

时间: 2020-05-27    进入日语论坛
核心提示:地獄 大使館本館の地下|厨房《ちゆうぼう》。そこが対戦の場所だった。広々としているが、雑然とした場所だ。そこかしこに段ボ
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地獄

 大使館本館の地下|厨房《ちゆうぼう》。そこが対戦の場所だった。
広々としているが、雑然とした場所だ。そこかしこに段ボール箱が積みあげられ、食材のパッケージが放りだされている。地上階の絢爛《けんらん》豪華な部屋とは対照的だった。
中央に据え置かれた調理用の小さなテーブル、その上に真新しい愛新覚羅のカードが並べられた。
蒋[#「くさかんむり/將」、unicode8523]と黒服たち、そして由愛香が見守る前で、美由紀は魏と最後の勝負に臨んだ。
国家の行方を左右する住所を記載したメモを、チップの代わりに置いた。
どうしても負けられない。だが、勝つための秘策はなにもない。
これはただのその場しのぎにすぎない。わたしは死刑執行のときを遅らせただけだ。
動体視力が回復するまで時間をつなぎたかったが、それも無理のようだった。相手の表情を読むことはできず、瞬時の動きはなにも察知できない。
溥儀《ふぎ》のカードのやり取りで、魏が親にきまった。魏が一枚めのカードを置く。美由紀もカードを置いた。
魏のカードが表に返される。美由紀の推測は外れていた。
二枚めのカード、三枚めのカードも、美由紀は当てられなかった。
すべてのカードを出し終えた。十二枚中、一枚も当たることはなかった。まだ美由紀のカードが伏せられている以上、その事実を知るのは美由紀だけだった。
そのとき、魏が告げた。「『下関《しものせき》条約』という特別な役があるのをご存じかな?」
「……いいえ」
「このゲームは親のカードを子が当てるというルールだが、逆に親のほうが、子のカードすべてを当てられると自信がある場合に限り、口頭でそれを宣言できる。つまり、私があなたの出したカードの順序をぜんぶ当てられたら、その特別な役が成立し、四十倍の賭け金を奪うことができる。ただし、私も宣言した以上は、一枚も外してはならない。もし間違っていたら、あなたが四十倍の賭け金を得る。この勝負はあなたの勝ちだ。どうだね?」
相手のミスに期待するしかない、そういう状況になるわけだ。
だが、いま自分の動体視力が利かない以上、拒否したところでどうなるものでもない。
「いいわ」と美由紀はうなずいた。
「まず」魏はいった。「康煕帝だ。それから同治帝、雍正帝、嘉慶帝、宣統帝……」
蒋[#「くさかんむり/將」、unicode8523]によって、美由紀のカードは次々に表向けられた。
身の毛もよだつ光景だった。魏はカードの順序を言い当てている。
「そして」魏がつづける。「ヌルハチ、光緒帝、道光帝、ホンタイジ、咸豊帝、順治帝、乾隆帝。以上だ」
最後のカードが表に返された。乾隆帝。
すべて正解だった。特殊な役である『下関条約』は成立した。
美由紀が反射的にとった行動は、テーブルの上のメモを奪おうとすることだった。
しかしそれは叶《かな》わなかった。蒋[#「くさかんむり/將」、unicode8523]が先にメモをつかみとった。
「おっと」蒋[#「くさかんむり/將」、unicode8523]はにやりとした。「ルール違反はいけませんな。潔く結果に従ってください」
蒋[#「くさかんむり/將」、unicode8523]が美由紀の座っていた椅子を蹴《け》った。美由紀は床に尻餅《しりもち》をついた。
立ちあがった魏が駆け寄ってきて、美由紀に蹴りを浴びせた。美由紀は床に叩《たた》きつけられた。
強烈な一撃だった。もう痛みも感じないほどに、全身を痺《しび》れが包んでいる。筋肉も意志に反し、動かなかった。
メモをひろげた蒋[#「くさかんむり/將」、unicode8523]がいった。「港区芝大門西四—七—十六崎山ビル、一階と二階か。タワーの監視班を現地に向かわせろ。それらしい施設があるかどうか確認するんだ」
黒服たちが反応し、何人かが外に出ていった。
「待って……」と美由紀は身体を起こそうとした。
そのとき、魏がふいになにかを投げつけてきた。
それが厨房にあった生卵だということが、額に命中して初めてわかった。黄身が美由紀の顔に飛び散った。
「だらしない」魏がほくそ笑んだ。「このていどの速さで飛んでくる物を避けられないとはな。パイロットの名折れだ」
さらにいくつかの生卵が投げられてきた。それらを避けることは、いまの美由紀には不可能だった。動きを目で追うこともできず、身体を動かすこともできなかった。
割れた生卵から飛びだした黄身が全身にぶちまけられる。美由紀は半固形の黄色い液体にまみれて、床に横たわっていた。
「さてと」蒋[#「くさかんむり/將」、unicode8523]は由愛香を見た。「もうあなたに用はありません。由愛香様。どうぞお引き取りを。わかっていると思いますが、ここでの出来事は口外しないように」
しばし躊躇《ちゆうちよ》する素振りがあった。由愛香の顔には悲痛のいろが浮かんでいた。
もっとも、本心はわからない。ほどなく由愛香は、無言のまま背を向け、歩き去っていった。
美由紀はひとり、地獄に残された。
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