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千里眼106

时间: 2020-05-27    进入日语论坛
核心提示:千円札鳥沢幸太郎はハローワークをでたあと、昼下がりの新宿|界隈《かいわい》を駅に向かって歩いた。夏の強烈な陽射しが降り注
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千円札

鳥沢幸太郎はハローワークをでたあと、昼下がりの新宿|界隈《かいわい》を駅に向かって歩いた。
夏の強烈な陽射しが降り注ぎ、蝉の声がこだまする。暑くてたまらない。コンビニエンス・ストアが目にとまると、吸いこまれるように立ち入った。
涼むばかりが目的ではない。幸太郎は就職雑誌を手にした。
なんであんなこと言っちまったかな、俺。ため息とともに、内心そうつぶやく。
臨床心理士を相手にメイド喫茶の店長になりたいなんて訴えたって、実現するわけがない。
というより、そんな希望を心のどこかに持っていた自分に落胆を覚えざるをえなかった。結局、俺を支配するのは妄想ばかりなのか。
国分寺《こくぶんじ》の一軒家で両親とともに暮らして、独り暮らしの経験はない。ゆえに生活にはさほど不自由せず、彼女もつくらずに好き勝手な趣味に生きてきた。さすがに三十一にもなって、それではまずいだろうと思い、現実に生きようと決心したばかりだ。
ところが気持ちのどこかでは、趣味性を充足させられる職種に就きたいと願ってやまずにいる。そんな自分が嫌になる。
頭をかきながら、雑誌のページを繰った。
そろそろ決めないと、ニート以外のなにものでもなくなる。
職種別のカテゴリに分けられている雑誌だった。マスコミ関連、というページを開いても、あるのはコンサート会場の警備にミニコミ誌の編集だけ。
それでも、編集という仕事は面白そうだ。いろいろな記事をコラム風に書いていけば、いずれ自分の得意なジャンルについて触れる機会もでてくるだろう。そうなれば……。
駄目だ、と幸太郎は頭を振った。
趣味を優先させたがる、この衝動をどこかにやらねば。
 ミニコミ誌の編集をしているというその会社は、新宿駅の西口から徒歩十分以内のところにあるらしかった。
幸太郎は携帯電話で連絡をいれ、いますぐ面接したいと申しでた。履歴書もあるし、ちょうどいい。
足を運んでみると、そこは古びた雑居ビル風のマンションの一室だった。
三階の所定の部屋の前まで来たとき、聞き覚えのある女の声が廊下に響いてくる。
まさか……。
幸太郎は固唾《かたず》を飲んで、半開きになったその扉をのぞきこんだ。
デスクをふたつ並べただけの簡素な、しかし雑然としたオフィスでは、口をぽかんと開けて静止している社員とおぼしき人々を前に、演説をふるう女の後ろ姿があった。
「……というわけで、わたしのいったとおりにすりゃ大部数間違いなしってこと。まずは、フリーペーパー、だっけ? |〇《ゼロ》円雑誌だなんて、そんな貧乏くさい考え方は金輪際捨て去って、全国規模の書店に流通する雑誌の創刊に踏みきろうじゃないのよ。ジャンルは小分けせずに、あらゆる読者層にウケる話題を満載するの」
「……すみません、あの」髭《ひげ》づらの編集者らしき男がいった。「私たちとしては、雑務と編集の手伝いをしてくれるパートタイマーがほしかっただけで……」
「そんな無欲なことでどうすんの。流されるままに生きて、敗者の烙印《らくいん》を押されて悔しくないの?」
「敗者……ですか」
「そう、敗者。負け犬。ルーザー。ここにぴったりと当てはまる言葉よ。東京ウォーカーの編集部が雑誌業界の勝ち組なら、あなたたちは負け組、ゴミ同然。一発逆転を狙《ねら》うために、一世一代の勝負に賭《か》けてみるのも悪くないでしょ。資金集めとかは、あなたたちでやって。わたしは編集長兼トップモデルを務めさせてもらうから。まずはさー、取材でパリに行きたいわね。シックにブリティッシュな着こなしもいいけど、創刊号はまずパリでしょ、パリ」
幸太郎はその状況に、かえって冷静な自分を感じていた。
と同時に、異様なまでの気恥ずかしさを覚える。それは、身内が人前でとんでもない醜態を晒《さら》しているのを目撃したときの心理に近いかもしれなかった。
とにかく、幸太郎は扉を入ると、社員たちに一礼し、麗香の腕をつかみ、もういちど頭をさげてから、会社の外に連れだした。
麗香は当然、抵抗した。「なにすんの。いきなり入ってきて。人殺し! きゃー!」
だが、幸太郎は自分でも驚くほどに、この女の大げさな振る舞いや言動にはなんの意味もないと理解していた。
握力を緩めることなく、そのまますたすたとマンションの玄関まで連れていって、外にでる。
表通りに戻ったところで、ようやく幸太郎は麗香を解放した。
麗香は大仰な動作で腕を振り払ってから、嫌悪のいろを浮かべていった。「なによ。わたしに何の用? 危害を加えるつもりなら警察を呼ぶから」
「呼んだらいいだろ。ちょうどそこの交差点に交番もあるし。迷惑行為に及んだのはきみのほうだと、会社の人たちも証言してくれるだろうよ。さっきのハローワークにいた人たちや、臨床心理士の先生も」
「……ああ」いま気づいたというように、麗香は目をぱちくりとさせた。「誰かと思えば、さっきの変態君じゃん。よ、メイド喫茶店長候補」
「茶化すなよ。なあ、いいか。どういうつもりか知らないが、ミニコミ誌の会社に行って雑誌を作れだなんて……」
「だってさ。就職雑誌読んだけど、マスコミの仕事がしたいって欄に、それぐらいしか載ってなかったし。しょうがないから、ちょっと趣旨は違うしヘボい会社だけど、まるで業種の違うところよりは使える可能性があるわけじゃん? だからやらせてみようと思ったわけよ。無いものはイチから作る、これ鉄則」
幸太郎は思わずため息をついた。
同じ就職雑誌を見て、同じ場所に行き着いた。俺はこの女と同じ思考回路か。
「あのな、そういうことならもっと大きな出版社に行けよ。きみのいってることを受けいれてくれるかどうかはともかく、夢をかなえたいのなら……」
「夢をかなえる? わかってないなぁ。わたしが本当に目指しているのは、雑誌創刊なんてちっぽけな話じゃないの。こんな世の中の常識にとらわれて大きい小さいを論じてたんじゃ、埒《らち》があかないじゃん。はるか遠くにあるゴールに比べたら、角川書店と、このボロいビルにある吹けば飛ぶようなミニゴ[#「ゴ」に傍点]ミ誌の会社とのあいだには、たいした距離はないんじゃなくて?」
「無茶なことを……。っていうか、さっきの差別的発言と矛盾してると思うけどな。パリに取材とか言ってたけど、フランス語|喋《しやべ》れんの?」
「全然。ヒンディー語だけは、日常会話ぐらいなら」
「ヒンディー語?」
「知らないの? インドの公用語。昔つきあってた男が調理師志望でさ。カレーの修行とかでインドに行くっていうから、語学教室に一緒に通ったんだよね。二回だけ」
「どうして二回だけ?」
「すっぱり別れたから。夢があっても金のない男って興味ないし」
「なんだよそれ……」
麗香は顔をそむけて黙りこんだ。うんざりしたかのように、小指の先で耳の穴を掻《か》く。
強がりながらも、今後のことに戸惑いを覚えているような憂いを帯びた顔。麗香がこんな人格の持ち主だと知らなかったら、魅力的にみえないこともない表情がそこにあった。
「お腹すいた」と麗香はいった。「あなた、お金持ってない?」
「……いや。電車賃だけで。メシは帰ってから食べるつもりだったし」
「もう。使えなさすぎ。いいわ、ちょっと待ってて」と麗香は、交番に向かって歩きだした。
「おい……どうするんだ?」
「お金借りるの。決まってるでしょ」
「警官にかい? そんなの、絶対に無理……」
「文無しは引っこんでてよ」
幸太郎はまたも言葉を失った。文無し。なぜそこまで言われねばならないのだ。
麗香は交番に入って、警官となにやら会話を交わしていたようだが、やがて引き返してきた。
驚くべきことに、その指先には一枚の千円札がはさまれていた。
「それ、どうしたんだい?」幸太郎はきいた。
「警察って、一般人に千円までは貸してくれるの。公衆接遇弁償費ってやつ。じゃあ、この先に漫画喫茶があるから。ふたりでお茶して、少し時間|潰《つぶ》すぐらいなら足りるでしょ」
「ふたり?」
「さっさとついてきて。ほかにいく当てもないでしょ、ニートなんだし」
ただひたすらに圧倒され、呆気《あつけ》にとられる。
いつの間にか、麗香の連れにされてしまった自分。
いったい、この女は何者だろう。
衝動的な行動ばかりが目につき、非常識な反面、警察からあっさりと金を引きだした。
それでも、ここで別れてしまうには惜しい。唐突に出現した非日常的な存在というか……。
気づいたときには、幸太郎は麗香に歩調を合わせていた。
行く手になにがあるかはわからない。でもいまは、こうすることが最も正しいことに思える。
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