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千里眼107

时间: 2020-05-27    进入日语论坛
核心提示:岬美由紀牧野高雄は、臨床心理士会の事務局がある本郷の雑居ビル前に立ち、ハンカチで汗をぬぐった。やっと帰ってきた。うだるよ
(单词翻译:双击或拖选)
岬美由紀

牧野高雄は、臨床心理士会の事務局がある本郷の雑居ビル前に立ち、ハンカチで汗をぬぐった。
やっと帰ってきた。
うだるような暑さのなか、駅からこのビルまで重い足をひきずってきた。真夏の太陽そのものは苦痛ではない。
ハローワークでひどく疲労してしまい、帰路に残しておくべきスタミナを使い果たしてしまった。そのことが悔やまれる。
と、コンビニの袋をさげた、三十代半ばの小太りの男が声をかけてきた。「牧野先生」
無精ひげを伸ばし、どこかぼんやりとした頼りなさを漂わせた男。ふだんから臨床心理士らしからぬ威厳のなさが特徴的だが、そんな彼すら、あの個性豊かな失業者たちに比べたらずっとまともにみえる。
「ああ。舎利弗《しやりほつ》先生。買い出しに行っておられたんですか」
舎利弗|浩輔《こうすけ》はすまし顔でうなずいた。「ええ、出前のメニューもほとんど食べ尽くしてしまったんで」
「うらやましいですな。いつもひとりで事務局の留守番を任ぜられてて……。いや、嫌味ではなく、本心でいってるんですよ」
「ほんとですか? 臨床心理士の資格を取ったのに人と会うのが苦手な僕に、理事長がなんとか与えてくれた役割ですけど……。なんなら代わりましょうか」
「ありがたい申し出ですけど、そういうわけにもいかないので。今週はずっと新宿のハローワークに詰めねばなりません。おかげで、ちょっと貰《もら》っちまってますよ」
「貰う? めずらしいですね。病院の精神科ならともかく、ハローワークで貰うなんて」
たしかに。牧野はため息をついた。
貰うというのは、この業界の隠語だ。相談者と話し、彼らの言葉を我慢して聞くうちに、こちらの精神状態が不安定になることを指す。
「ある意味で、強烈な人格の持ち主の失業者が相談に来てましてね。参りましたよ。意味不明のことばかり口走るし。相談者どうしの会話にも、とうていついていけそうにない」
「へえ。どんな会話ですか?」
「ええと……喫茶店の店長希望ってのが、じつはメイド喫茶で……。安藤まほろとか、アンドロイドとか」
「ああ。『まほろまてぃっく』ですね」
「ご存じなんですか?」
「すべてじゃないですけどね。第八話だけはHDDレコーダーの調子が悪くて、録画失敗しちゃったんで……。最終回と、その前の回はすごく泣けますよ。なんならDVD─Rに焼いてあげましょうか」
「……いえ。それにはおよびません」
再発しそうだ。牧野は心のなかでそうつぶやいた。
舎利弗に代わってもらうというのは、案外好ましい選択かもしれない。彼ならあのオタク青年の相手に適任だろう。
ただし、舎利弗をもってしても、あの京城麗香だけは手に負えまい。
また彼女に会う可能性があると考えるだけで、全身に鳥肌が立つ。どうすればいいのだろう。あそこまで身勝手で自己中心的な女に冷静に対処できる臨床心理士がいるのなら、ぜひお目にかかりたい。
そのとき、低いエンジン音が路地に轟《とどろ》いた。
滑りこんでくるオレンジいろの車体、地を這《は》うような車高の低さ。
ランボルギーニ・ガヤルドは道幅の狭さをまるで意に介さないがごとく、スムーズな取り回しによってぴたりとビルの駐車場におさまった。
エンジンが停止し、辺りがまた静かになる。
ドアを開けて降り立ったのは、すらりとした身体を質のいいスーツに包んだひとりの女だった。
その女を見たとき、牧野は救いの女神が現れたかのように感じた。そうだ、彼女だ。
岬美由紀だ。
モデルのような抜群のプロポーション、小さな顔に大きな瞳《ひとみ》、美人ではあるがまだあどけなさを漂わせた少女のような面影もある。
二十八歳という実年齢よりはずっと若くみえる。しかし、その物腰にはいっさいの隙がない。卓越した運動神経の持ち主であることは、身のこなしからも見てとれる。無駄のない動き。辺りに絶えず注意を払っているかのような挙動は、野生の豹《ひよう》のようだ。
臨床心理士会の誇る、最強の女が帰ってきた。
牧野は思わずつぶやいた。「岬先生……。ああ、よかった。ここでお会いできるとは、なんたる幸運でしょうか」
「牧野先生? どうかされたんですか?」岬美由紀はゆっくりと歩いてきた。「あ、舎利弗先生も。こんな暑いなか、おふたりで……」
舎利弗が美由紀にいった。「いや、いま中に入ろうとしてたところだよ。美由紀、防衛省のほうはどうだった? 無事に済んだかい?」
「また防衛大臣じきじきに復帰を求められちゃった。警視庁のほうも、小言いってくるかと思ったら警視総監賞だって」
「そりゃそうだよ。全国民が判断能力を失ってて、警視正も機動隊も暴走してたんだよ。きみはそれを覚醒《かくせい》させたんだから。感謝されて当然さ」
「氏神《うじがみ》高校のみんなが無事卒業できたのは嬉《うれ》しかったけどね」美由紀は牧野に目を移してきた。「ところで先生、わたしになにか御用でも?」
「ええ、まあ、そうなんですけど……。たいしたことではないので……」
その瞬間、牧野は、岬美由紀が千里眼と呼ばれる所以《ゆえん》を目撃した。
牧野を見つめる美由紀の目は、常人ではありえないほどの速さで動作した。
眼球はわずかながら上下左右に移動し、虹彩《こうさい》が瞳の大きさを自在に拡大収縮させて光量を調整する。水晶体がまるでロボットのように瞬時に焦点を変えていくさまは、瞳のいろの褐色濃度の変化に表れている。
コンピュータ制御されたカメラレンズのような目の動きは、一秒以下にすべての情報を得たらしく収束した。
そして、美由紀がいった。「疲労と同時に憂鬱《ゆううつ》を感じ、意気消沈してますね。それからご自身の精神状態が不安定になっている兆候を、みずから感じて理解しておられるみたい……。不安神経症に似た気分にさいなまれることも少なくありませんね? 察するに、耐え難い相談者との出会いがあって、今後もその人と会う可能性があり、永続的にストレスを溜《た》めこむのではないかと危惧《きぐ》しておられる……」
「その通りですよ! ……いや、失礼。つい大声をあげてしまいました。しかし、素晴らしいですな……。こんなに早く私の表情から感情を読みとるなんて……」
私も臨床心理士のはしくれだ、いま岬美由紀がどのような観察をおこなったのかは理解できる。
牧野は思った。彼女は、私の上まぶたの垂れ下がりぐあいから、疲労もしくは悲哀の可能性があることを知った。と同時に、目の焦点が失われていることから精神的な疲れが大きいことも悟った。
驚くべきは、こちらが作り笑いを浮かべていたにも拘《かか》わらず、苦悩の感情を正確に読み取った点だ。唇の両端が、笑いを生みだす筋肉ではなく、頬の筋肉によって故意に押しあげられていることに気づいたのだろう。
これが相談者のビデオを観ながら、それもスロー再生や一時停止を交えながら観察した結果であれば、臨床心理士としてはさほど驚くべき観察とはいえない。
だが岬美由紀は、ふつう人間が目を合わせたことで表情を消そうとする、その寸前の〇・一秒以下の情報をすべて把握してしまうのだ。
「信じられん……」牧野は思わずつぶやいた。「噂には聞いていたが、実際にあなたの技能を体験すると……まさしく驚異ですな」
「あ、申しわけありません。失礼だったでしょうか?」
「いや、とんでもない。ただもう、びっくりしただけですよ。あなたの動体視力に……」
岬美由紀が女性自衛官初のF15要撃戦闘機パイロットとして名を馳《は》せたのは、今から三年前、彼女が二十五歳のころだったはずだ。
当時、牧野は新聞を通じて彼女の存在を知りえていただけだった。まさかその岬美由紀元二等空尉が臨床心理士に転職し、パイロットとしての動体視力と心理学の知識を併せ持ったことで、これほどの能力を身につけようとは。
「あなたの前ではいっさいの嘘がつけないという評判を聞きましたが、本当にそのようですな。岬先生、感服いたしました」
「知識と経験の面では、牧野先生には到底及びませんよ。でも、そんな先生の手を焼かす相談者って……?」
「京城麗香という女性です。ハローワークの常連なんですが、ご存じないですか」
「さあ。このところはスクールカウンセラーの仕事が多かったんで……。でも、その麗香さんっていう人が問題なら、わたしが会って話をしてみますよ」
「それはぜひ! 願ってもないことです」
美由紀はにっこりと笑った。「理事長に相談して、明日のハローワークの担当を牧野先生からわたしに変えてもらいます。じゃ、またのちほど」
それだけいうと、美由紀は会釈をして、ビルのエントランスを入っていった。
安堵《あんど》とともに、ほっとひと息つきながら牧野はいった。「だいじょうぶかな……」
舎利弗がきいてきた。「なにがですか?」
「岬先生のことですよ。あんなに相手の気持ちが的確に読めるんじゃ、貰《もら》ってしまうものも半端じゃないと思うが」
「ああ。それなら心配いらないでしょう。彼女はストレスを溜めないように生きているんです。完全に相談者側の問題を解決しますからね」
「完全に? そんなこと、ありうるんですか? カウンセリングにおいては、相談者の悩みは数年にわたって徐々に和らげていくもので、完治となるとなかなか……」
「それが、彼女の場合はそうでもないんです。……そうですね、必要とあれば、この国の失業率をゼロにしてハローワークを消滅させてしまうかもしれません。その京城麗香さんひとりを、立ち直らせるためだけにね」
「まさか……。冗談でしょう?」
「いいえ」舎利弗は肩をすくめた。「クーデターを起こして政権をひっくりかえしてでも実現させてしまうでしょう。それが岬美由紀ってもんです」
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