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千里眼113

时间: 2020-05-27    进入日语论坛
核心提示:乗り換え美由紀が東関東自動車道にガヤルドを飛ばし、幕張メッセに到着したころには、すでに午後三時をまわっていた。広大なメッ
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乗り換え

美由紀が東関東自動車道にガヤルドを飛ばし、幕張メッセに到着したころには、すでに午後三時をまわっていた。
広大なメッセ駐車場は警察車両と、テレビ中継車など報道関係の車両で埋め尽くされている。
ゲートに乗りいれようとしたとき、制服警官が駆けてきた。
ウィンドウをさげると、警官が告げてきた。「きょうはモーターショー、中止ですよ」
こんなクルマでは、客だと思われても仕方がない。
美由紀はいった。「すみません。臨床心理士の岬美由紀です。千葉県警の福原《ふくはら》警部補はどちらに?」
「あ、岬先生ですか。失礼しました。警部補は現場におられます。このまま駐車場を突っ切って、展示ホールの五番の入り口です。クルマでお入りいただけますよ」
「どうもありがとう」美由紀はガヤルドを発進させた。
そこかしこでテレビのクルーが現場からの実況中継をするなか、美由紀は関係者専用のゲートから展示ホール棟への私道に入った。体育館をいくつも縦列につなげたような巨大なホールの五番入り口は、たしかに車両が楽に乗り入れられるだけの間口が開いていた。
すなわち、京城麗香はここを突破し、逃走したということか。
ガヤルドを徐行させながらホール内に入っていくと、内部はまだモーターショーの飾りつけが施されたままだった。ただし、見物客はいない。代わりに大勢の警官が繰りだして、現場の遺留品を捜索したり、写真を撮ったりしている。
停車して、外に降り立つ。
蒸し暑かった。空調は停まっているらしい。あちこちに警察が持ちこんだらしい扇風機が置いてあるが、さして役立ってはいないようだった。
と、小走りに駆け寄ってきた中年のスーツ姿の男がいた。
男は硬い顔で会釈した。「岬先生ですね? 警部補の福原|昭義《あきよし》です。警視庁の蒲生《がもう》警部補とは、旧知の間柄でして。お噂はかねがねうかがっております」
「いい噂ではないんでしょうね」
「そうでもありませんよ」福原はしばしガヤルドを眺めた。「これ、東京ミッドタウンの敷地を暴走したガヤルドですか? たしかにフロントバンパーが破損してますね」
やはり、いい噂など聞いてはいないようだ。
美由紀は首を横に振った。「あれは大破しちゃったから買いなおしたんです。この傷はついさっき……」
「ああ。警視庁から連絡が入ってます。環七の高架線下で襲撃を受けたそうですな。手榴弾《しゆりゆうだん》が用いられたとか。そちらのほうは、犯人に心当たりは?」
美由紀は困惑した。
メフィスト・コンサルティング特殊事業課のしわざと告げたところで、彼らの捜査力の及ぶ範疇《はんちゆう》ではない。へたに手をだしたら、なんらかの工作を受けて捜査本部そのものが消滅されてしまうだろう。
「警視庁のほうでも話したんですが、まだなにもわかっていないことで……。京城麗香に会いに行こうとしたがゆえに襲撃されたことはたしかです」
「ふうん……。いったい何者なんでしょうな、あの女は。前科の記録もないし、住所不定で無職という以外、いまのところ判明している事実もない」
「こんなところでクルマ泥棒を働くなんてね……。大胆にもほどがある犯行ですね。現場はどのあたりですか?」
「すぐそこですよ、ご案内しましょう」福原は歩きだした。「大規模なテロ計画でも進行してるんでしょうか。ここで怪我人が出なかっただけでもさいわいです」
「破壊されたブースは、メルセデスだけじゃないみたいですね」
「ええ、そこのレクサスも展示物に突っこまれて被害甚大ですよ。もっとも、ディーラーは別の意味でショックを受けてるみたいです」
「なんです?」
「犯人はこちらから歩いてきたのに、レクサスのLSを素通りしてベンツのSを標的に選んだわけで……。スルーされた事実は疑いようがないということで」
「被害にあわなくてよかったのに……」
「モーターショーで盗まれれば世界のニュースになるんで、そのほうがいいみたいですよ。他のメーカーのやっかみも相当なものでしてね。ヤラセじゃないのかと勘ぐったり、うちもやろうかなんて言いだすメーカーもある始末らしくて」
「人気を競う場だからかな。しょうがないですね」
「まったくです。ただ、高級車だけに目立つクルマですからね。まだ緊急配備網に引っかかってませんが、そう遠くへは行けんでしょう。あ、ここです」
メルセデスのブースの一角、たしかにSクラスの性能諸元を記載した案内板だけが残され、その向こうにはクルマ一台ぶんのスペースががら空きになっている。
福原は長テーブルに歩み寄った。扇風機の向こうに置いてある小物入れから、スマートキーをつまみだし、差しだしてきた。
「すりかえられたキーです。女はあらかじめ用意していたようです」
「ふうん」美由紀はそれを受けとった。「クルマにはそれなりに詳しかったわけね」
「犯行の一部始終を防犯カメラがとらえてました。見ますか?」
「ええ、ぜひ」
そういって美由紀は、扇風機の回転の隙間からキーを投げこみ、小物入れに戻した。
ぎょっとした顔で福原がいった。「いま、何をしたんです?」
「え? ……ああ、すみません。いつものくせで……」
「扇風機にキーをぶつけようとしたんですか?」
「いいえ。小物入れに戻そうとしただけです」
「回転する羽に当たらない自信があったとでも?」
美由紀は困惑して口をつぐんだ。
元イーグルドライバーの動体視力からすれば、これぐらいはなんら問題ない。ヘリコプターのメインローターの回転にも隙があるように見える。プロペラに当てないようにボールを投げあげる遊びは、パイロットのあいだで盛んだった。
だが、わたしにとっての常識は彼らにとって非常識きわまりないことだろう。
「申し訳ありません」美由紀は詫《わ》びた。「たいせつな証拠品を粗末に扱って……」
「いえ、指紋などはもう調べましたからいいんですけどね。ただし、今後は気をつけてくださいよ」
「はい……」
メフィスト・コンサルティングの陰がちらついているせいで、普通の女らしく振る舞うことを忘れがちだ。注意しておかないと、人をどんどん遠ざけてしまう。
テーブル上のノートパソコンのエンターキーを福原が叩《たた》くと、モニター画面にウィンドウが開いた。
すでに映像はデータ化され、インストールされているらしい。映しだされたのはモーターショーで賑《にぎ》わう会場だった。
派手なスーツ姿の若い女、それが京城麗香らしい。ファッションモデルのような存在感を放つ女だった。立ち居振る舞いも堂々としている。
顎《あご》があがったとき、顔ははっきりと見えた。
目鼻立ちの整った美人顔だが、どちらかといえば美しいというよりは可愛いと表現される部類かもしれない。二十七歳ということだが、年齢より若く見える。
麗香は青年を連れている。
青年が運転席に乗りこみ、麗香は後部座席に乗った。
エンジンがかかったらしく、周囲があわてているのがわかる。
警備員が駆け寄ろうとしたとき、Sクラスは滑るように走りだした。人々が呆然《ぼうぜん》と見送るなか、クルマは遠ざかっていく。
福原がきいてきた。「この女に見覚えは?」
「さあ。会ったことがあるような気もするけど……。いえ、やっぱり記憶にはないですね」
「スマートキーを用意してきて、すり替えたようです。計画的犯行ですな」
美由紀はパソコンに手を伸ばし、マウスを操作して映像を最初から再生しなおした。
クルマを盗み去る鮮やかな手口。
だが、メフィスト・コンサルティングのメンバーとは思えなかった。メフィストは歴史に犯罪の記録が残るようなヘマはしでかさない。この女はむしろ注目を集めたがっているように見える。
それも、顔が輝いていた。瞳孔《どうこう》が開いているのもわかる。心の底から喜びを感じていて、それが表情にあらわれていた。
感情が顔にでることを抑えられない時点で、メフィストであるという線は消える。けれども、あの手榴弾で襲撃してきたメフィストのメンバーらしき男は、たしかにこの京城麗香とつながっている。
「警部補」と若い刑事が興奮ぎみに駆け寄ってきた。「京城麗香の盗んだSクラス、発見されました」
「なんだと!?」福原は身体を起こした。「どこにあった?」
「ここからそう遠くない場所です。高速の葛西《かさい》出口付近、光岡自動車の江戸川ショールームです」
「光岡自動車だと?」
「そこの従業員の話によりますと、京城麗香とみられる女性とその連れの男がSクラスで乗りつけたとのことです。で、客に納車しようとしていた新車を奪い、また逃走したと」
「別のクルマに乗り換えたってのか? それもディーラー販売の新車に? なぜだ?」
「従業員によれば、こっちのクルマのほうがいいじゃん、気に入った……と京城麗香が告げたそうで……Sクラスと交換したいと客に申し入れたとか。客が面食らっているうちに、さっさとその新車に乗りこみ、発進させてしまったそうです」
「……宣伝目的のヤラセじゃないのか?」
「いえ。発見されたSクラスは、まぎれもなくここから持ち去られた車両と確認されました」
「そうか。じゃ、Sクラスでは目立ちすぎると感じて、ありふれた国産車に乗り換えたわけだ。大胆そうに見えて、案外小心者かもしれんな、京城麗香は」
「それが……。そうでもないんです」と刑事は、手にしていたパンフレットをしめした。
クルマの写真を見た福原は、口をぽかんと開けた。
「これか?」と福原がきいた。
「はい。これです」
美由紀も写真を覗《のぞ》きこんだ。
それは、爬虫類《はちゆうるい》のような顔つきをしたフロント部分を持つ、きわめて個性的なクーペスタイルのスポーツカーだった。おそらく地球上の隅々まで探しても、ここまで際立ったフォルムのクルマはほかにあるまい。
「オロチね……」と美由紀はつぶやいた。「こんな人目につくものに乗り換えるなんて……」
「警察をなめやがって」福原は怒りのいろを漂わせていった。「これはわれわれに対する挑戦だ! すぐに捜査本部に連絡して、ナンバーをNシステムが感知するよう手配を……」
美由紀は黙って、そのクルマの不敵な半笑いのようなマスクを見つめていた。
まるで心理が読めない。あまりにも行き当たりばったりの犯行だ。
たった数時間で世界じゅうに犯罪者として顔を売った。なにを画策しているのだろう。そして……。
美由紀はパソコンのモニターに映った京城麗香の顔を見た。
この女はなぜ、これほどまでに喜びと興奮を感じているのだろう。
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