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千里眼118

时间: 2020-05-27    进入日语论坛
核心提示:恐怖の感情ポアがそう言い切った意味も理由もさっぱりわからないが、麗香を放ってはおけない。幸太郎はひとり雑居ビルをでた。地
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恐怖の感情

ポアがそう言い切った意味も理由もさっぱりわからないが、麗香を放ってはおけない。
幸太郎はひとり雑居ビルをでた。
地震後の街並みは、すでに平穏を取り戻しつつあった。
たしかに大規模な被害が生じてはいるが、少なくとも辺り一面が瓦礫《がれき》の山ということはなかった。
古民家が倒壊し、店の陳列棚は悲惨なことになっているようだが、ビルはびくともしていないし、怪我人も見当たらない。路上では信号機や標識、並木が倒れたりしているが、それらの下敷きになった人もいないようだった。
日本の建築物の耐震強度ってのは案外きちんと算出されてるものなんだな、幸太郎はぼんやりと思った。
それでも、余震への恐怖は辺り一帯に張り詰めた空気を漂わせていた。マクドナルドの女性店員らも、不安げなようすで外にでている。いま彼女たちにスマイル|〇《ゼロ》円を要求したら、きっと逆鱗《げきりん》に触れるに違いない。
ひとけのない路地に入り、倉庫に近づいた。
これがモノパルテか。店舗の裏によくある、ごくありきたりの収納だ。つくづくネーミングのセンスの是非が気にかかる。
スライド式の扉はわずかに開いていた。
幸太郎はそこに手をかけて、がらっと横滑りに扉を開けた。
段ボールが山積みされた倉庫のなかで、わずかな隙間にうずくまる麗香の姿があった。
麗香は顔を伏せていたが、やがて目線をあげてきた。
ひどく不安そうな顔。血の気がひいて青ざめている。目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
だが、そんな憂いのいろも一瞬だけだった。
麗香はまたいつものように、ふくれっ面をしてにらみつけてきた。「なによ。警察に見つかっちゃうでしょ。あっち行って」
「警察ならもういないよ。地震でそれどころじゃないってさ」
「あ、そうなの? そりゃラッキー……っていうか、偶然なわけないじゃん!」ふいに顔を輝かせた麗香が、倉庫から這《は》いだしてきた。「国家の犬どもに捕まりそうになった寸前に、天変地異が発生だなんて! そんなの運が良すぎる。これはあいつらの陰謀よ!」
「あいつらって……」
メフィストと言いかけて、幸太郎は口をつぐんだ。ポアは、その組織の名を口にすべきではない、そういった。
だが、麗香のほうはあきらかにポアが主張したことと同様の推測に及んでいる。
麗香は興奮ぎみにまくしたてた。「きっと千葉県南部あたりの断層でも爆破して、人工地震を起こしたんだわ! やっぱりあいつら、わたしに接触してきたのよ!」
「おいおい」幸太郎はあえて無関心を装っていった。「きみひとりのために大地震を起こすなんて、そんな酔狂な奴らがいるのか?」
「ええ、このタイミングでの地震がなによりの証拠よ」
「大勢の人々に被害が出るのに?」
「そうでもないじゃん。断層に近い木更津《きさらづ》あたりの被害は大きいかもしれないけどさ、あのあたりって格安の土地を不動産屋が買い占めて地上げしてて、そこんとこが超雰囲気悪いんだよね。いっぺん売れなくなって不動産屋に泣きをみてもらったほうが健全だし」
無茶苦茶な論理だ。被災者の心情を理解する気は、これっぽっちもないらしい。まさしく、世界が自分を中心にまわっていると錯覚している女だ。
とはいえ、幸太郎は麗香を嫌悪しきれなかった。
ここに独りできたとき、まぎれもなく彼女は怯《おび》えていた。しかしいまは未知の組織の関与を疑いもなく信じ、そのことに喜びを覚えて、はしゃぎまわっている。
どうして彼女はここまで急激な感情の変化をしめすのだろう。
なぜ俺の顔を見た瞬間に、恐怖の感情は吹き飛んでしまったのか。
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