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千里眼119

时间: 2020-05-27    进入日语论坛
核心提示:マンメイド・アースクェイク午後六時、長い夏の一日もようやく夕暮れを迎えようとしている。芝浦の埠頭《ふとう》から少し離れた
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マンメイド・アースクェイク

午後六時、長い夏の一日もようやく夕暮れを迎えようとしている。
芝浦の埠頭《ふとう》から少し離れた高台にある、広大な平面駐車場は臨時の避難場所になっていた。
付近の一戸建てやマンションに住む人々はここに逃れてきている。ほとんどが高齢者だった。心配された余震がさほど起きなかったせいもあり、働き手はすでに職場に戻っているようだ。
岬美由紀はPTSDの兆候が疑われる被災者のカウンセリングを買ってでて、避難場所のなかを駆けずりまわっていたが、この時間になってようやくひと息つくことができた。
応援の臨床心理士も大勢駆けつけてくれたおかげでもある。それに、あの震度のわりには被害が小さかったことから、ショックを受けた人の数も予想より少なかった。
本部のテントで受け取ったミネラルウォーターを飲みながら、美由紀は避難場所の片隅でため息をついた。
陸上自衛隊の練馬|駐屯地《ちゆうとんち》から災害救助のためにやってきた部隊も、人命にかかわる救難活動はあらかた終えて、いまはもっぱら災害によって生じた大量のゴミを運搬する作業に忙しい。
この避難場所の半分ぐらいはそれらゴミの集積所と化しつつある。どうやって処分する気だろう。東京湾にまた埋立地が増えるのだろうか。
聞きなれた声が呼びかけてきた。「美由紀」
美由紀は、近づいてくる髭面《ひげづら》で小太りの男に気づいた。「あ、舎利弗先生」
「無事かい? レインボーブリッジの上では大変だったみたいだね」
「そうでもないわよ。みんなおとなしく整列して避難することに賛成してくれたし」
「ほんと? 驚きだなぁ。橋の上でのパニックを鎮めたうえに、滞りなく人を逃がしたわけだろう? 消防庁の人も感心していたよ。いったいどうやって群集をなだめたんだい?」
べつになだめたわけではない。サイン会と握手会をおこなう羽目になっただけだ。おかげでビニール袋五つぶんもの名刺と連絡先を書いたメモを受け取ることになってしまった。
美由紀は遠方にみえるレインボーブリッジを眺めた。
夕闇が迫る空のなか、白く浮かびあがる橋の上、ヘッドライトの河が流れている。
交通も滞りなく復興した。
しかし、どうにも気になることがある。たしかに震度六強、いや七クラスの揺れだった。それなのに、被害が小さすぎる。都市機能の復興もあきれるほど早かった。
東京という都市は、そこまで地震災害への備えができていただろうか。
「岬先生」また呼びかける声があった。若い男の声だった。
振りかえると、迷彩服にヘルメット姿の陸上自衛隊員が敬礼した。「吉垣《よしがき》二等陸佐がお呼びです」
「行きます。じゃ、舎利弗先生。またあとで」
本部のテントに歩を進めていく。
吉垣二佐とは、さっき顔を合わせた。美由紀よりいくつか年上の男性だった。
美由紀が近づくと、吉垣はテーブル上の地図から顔をあげた。ほかにスーツ姿の男たちが何人か、同様にテーブルを囲んでいる。
「ああ、岬元二尉」吉垣が気さくに声をかけてきた。「最新の被害状況があきらかになったよ」
「どうでしたか? 都内のほかの区域は?」
「首都圏全域で死者ゼロ、重傷の十七名はいずれも命に別状なし。港区をはじめとする都内各地で震度七を記録したわりには、奇跡的だよ」
「よかった。でも、たしかにふしぎですね。倒壊した家屋も最小限なんて……」
「それについてなんだが……こちらは国土交通省の地域整備局、村野《むらの》氏だ。各地のデータから分析した結果、きわめて奇妙な地震といえるらしい」
「奇妙?」美由紀はスーツの男にきいた。「どんなふうに?」
村野は眼鏡の眉間《みけん》を指で押さえながら、真顔で告げた。「震動は大きかったが、揺れの方向が一定だったおかげで、それぞれの建造物の耐震強度がいかんなく発揮された。いわゆるP波、縦揺れがあっただけで、ねじれを生じさせる横波のS波が生じない。あたかも、被害を小さく抑えることを意図したかのようにだ」
「それはどういう……」
「詳しいことはわからんし、現時点では推測にすぎん。だが岬先生、あなたも防衛大にいたとき、米軍のマンメイド・アースクェイク計画については学習したと思うが」
「ええ。防衛学の授業で触れられていましたね。カリフォルニアのサン・アンドレアス断層に、掘削用ドリルを取りつけた無人機を地中深く潜らせ、搭載した核爆弾で爆発を起こすと、人工地震を発生させられるというものです。震源の位置と地震の強度をあらかじめ設定できるので、自然発生の地震に比べて安定した揺れになるとか」
「そうだ。地層の状態が不安定になり、大地震が起きそうな兆候があるときに、あえて人工地震を起こして大地のストレスを消費させる。都市部の建造物やインフラが耐えうる範囲の地震ならば、予測不可能な揺れをもたらす自然の地震よりありがたいわけだ。核ミサイル基地の報復装置を誤作動させないためにも、米軍の人工地震計画はカリフォルニアには必要不可欠とされていた」
「でもそれも、核拡散防止条約以降のミサイル兵器削減で見直され、現状では研究は中断してるはずですが」
「ところがだ。今回の地震はそれによって引き起こされた可能性がある」
美由紀は息を呑《の》んだ。「東京の地下で核爆発を?」
吉垣が身を乗りだした。「核とは限らん。現代では、放射能の心配なしに同じクラスの破壊力を発揮するベルティック・プラズマも存在する」
村野がうなずく。「われわれは東京湾北縁断層を長年にわたり調査してきた。地表に変位は認められず、第四紀後期の断層活動を示す変位地形もない。あれは活断層ではなかった。にもかかわらず、今回の地震は東京湾北縁断層を震源とし、しかもデータの数値がマンメイド・アースクェイク計画に酷似している」
「人工地震とすれば」吉垣はふうっとため息をついた。「これは新たなテロ攻撃となりうる可能性もある」
関東各地の地震計の数値が書きこまれた地図を、美由紀は見つめた。「物証はないんでしょうか? 震源が特定できれば、その場所で怪しげな工事をおこなっていた団体もあきらかになるはずですけど」
「むろん、防衛省は警察の捜査に協力し、震源の割りだしに全力を挙げることになるだろう。さいわい、マンメイド・アースクェイクのデータは米国のエネルギー省に揃ってる。地層の変化と震度の分布を参照しながら、三つの観測点の初期微動継続時間から大森公式で震源距離を計算、距離が等間隔で交わる地点が震源だ」
「工事現場からベルティック・プラズマ爆弾の残骸《ざんがい》が発見できれば、人工地震を立証できますね。ただ……被害が最小限だったというのが気になりますけど。テロは失敗に終わったってことでしょうか?」
咳《せき》ばらいをして村野が告げる。「そうとは言いきれん。実験もしくは大規模破壊以外の目的だったとも考えられる。今回の地震は内陸型だが直下型ではなく、縦揺れのみだった。この震動に弱い地域といえば、武蔵野台地のなかでも低層に位置する、沖積層の多い一帯に限られる。事実、そこだけが甚大な被害を受けたようだ」
「武蔵野台地といえば……新宿区とかその辺りを含んでますね?」
「そう。そのなかで沖積層が多い場所といえば」村野はサインペンを手にとり、地図上に丸をつけた。「このあたりだ」
吉垣が深刻そうにつぶやいた。「その半径五キロ圏内だけが震度七相応の被害を受けてる。私たちも要請がありしだい、応援に向かう手筈《てはず》になっている」
美由紀は地図を見つめて黙りこくった。
サインペンで囲まれた地域。大久保駅と新大久保駅の中間に位置する場所。
寒気に鳥肌が立つ思いだった。きょう向かおうとしていたところだ。
警察から連絡のあった住所。京城麗香が法人登記した会社の所在地周辺だった。
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