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千里眼121

时间: 2020-05-27    进入日语论坛
核心提示:魔手からの救出午前七時半。すでに夏の太陽は高いところまで昇っていた。美由紀はガヤルドを大久保通り方面に走らせていったが、
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魔手からの救出

午前七時半。
すでに夏の太陽は高いところまで昇っていた。
美由紀はガヤルドを大久保通り方面に走らせていったが、一般車両の乗り入れは禁止されていた。青梅《おうめ》街道のパーキングスペースにガヤルドを停め、あとは徒歩で現地に向かう。
一帯の惨状は、都内のほかの地域とはまるで異なっていた。
古い木造家屋は軒並み倒壊し、窓ガラスは一枚残らず砕け散り、あちこちに火の手があがった痕跡《こんせき》があった。焦げ臭いにおいも漂っている。これで死者がゼロで済んだというのだから、奇跡的というべきだろう。
いや、奇跡などというものは存在しない。これがメフィスト・コンサルティングの起こした人工地震なら、被害予測は綿密に計算されていただろう。
どのような動機かはわからないが、京城麗香の設立した会社とその周辺地域に、地震の被害を与えることに彼らの目的はあった。
意図しない殺傷は、歴史を大きく改変する可能性があるため避けるのだろう。少なくとも、神を自負する彼らはそのつもりでやっているに違いない。
半ば瓦礫《がれき》と化した道路沿いでは、陸上自衛隊がすでに活動を始めていた。そこかしこにジープや、96式装輪装甲車まで停車しているのが見える。装甲車は崩れかけたビルの膝《ひざ》もとを調べるために駆りだされたのだろうが、街角に停まっている光景はまるで戒厳令さながらだった。
きのう警察から知らされた株式会社レイカの所在地はすぐそこだ。
その後、警視庁の捜査三課からの連絡はない。彼らは捜査を外れてしまったのかもしれない。メフィストが一枚かんでいるとすれば、どのような工作がおこなわれてもふしぎではない。
雑居ビルの前まで来たとき、路上で停車中のクルマを洗車する青年の姿があった。
そのクルマを見たとき、美由紀のなかに緊張が走った。
爬虫類《はちゆうるい》の顔のようなフロントマスクのクーペ。オロチだった。
青年は、ワイシャツの袖《そで》をまくって、片手にホース、片手にブラシを保持して忙しく立ち働いていた。
ホースからは溢《あふ》れんばかりに水が噴きだしている。この一帯が断水していると伝えられるなか、異様な光景にほかならなかった。
ふと青年がこちらを見た。きょとんとして青年はたずねてきた。「なにか……御用でしょうか?」
警察からは、麗香の共犯者とおぼしき容疑者の名も伝えられていた。
鳥沢幸太郎。
幕張メッセの防犯カメラの映像にうつっていたのは、たしかに彼に間違いない。
美由紀は話しかけた。「すごいクルマね?」
「……まあね」幸太郎は浮かない顔をした。「でも、俺のじゃないし。信じられないかもしれないけど、いちおう社用車でね」
「へえ。変わった会社みたいね」
「そりゃもう。っていうか、会社と呼んでいいのかさえ定かじゃないけど」
「働くのは気が進まないってこと?」
「さあ……。よくわからないな。いつの間にかこんな立場に追いこまれちゃったっていうか……」
「無理やり仲間に引きこまれて戸惑いを覚えているって感じね」
幸太郎はぎょっとした顔になり、美由紀をまっすぐに見つめた。「きみ、誰?」
美由紀が答えようとしたとき、ビルのエントランスに足音が響き、女が外にでてきた。
「きのうは儲《もう》かっちゃったー」ピンクいろのTシャツにジーパン姿の女は、上機嫌にスキップしながら幸太郎に話しかけた。「十人ほど床にゴロ寝させただけで三十万なんてね。ぼったくり店もびっくり」
見覚えのない女。
美由紀の記憶のなかに、その女の顔は存在していない。紛れもない事実だ、そのはずだった。
それでも、美由紀は京城麗香から目をそらすことはできなかった。
奇妙な感覚が刺激される。初対面のはずなのに、とてもそうは思えない。
麗香のほうも、その視線に気づいたらしい。美由紀のほうに目を向けてきた。
しばらくはまだ、麗香の顔に笑いがとどまっていた。その笑顔がしだいに凍りついていく。
その燃えるようなまなざしを見つめたとき、美由紀は麗香の正体が何者かを悟った。
美由紀は呆然《ぼうぜん》とつぶやいた。「西之原夕子《にしのはらゆうこ》……」
 すっかり顔が変わり、モデルのように派手で端整なルックスになった西之原夕子も、その素振りに表れる人格面にはなんら変化はないようだった。
夕子の顔にも驚愕《きようがく》のいろが浮かんでいた。そしてしだいに、憎悪の表情へと変貌《へんぼう》していく。
「……てめえかよ」と夕子はいった。
心拍が加速していく。張り裂けそうな胸を手で押さえながら、美由紀はきいた。「無事だったの?」
「何? いまさらどの面下げてわたしに会いに来てんの? わたしに死んでいてほしかったんでしょ? 行方をくらましたけど、重傷を負っている以上もう長くはないなんて安心してたんじゃない? おあいにくさまね。わたし生きてたの。それも見てのとおり、抜群の美貌とともにね」
「……なにをされたの?」美由紀は歩み寄ろうとした。「そこまで徹底的な整形手術を施すなんて。たぶん、あなたの意志とは無関係にそんなことを……」
その瞬間、美由紀は頭上に危険が迫っているのを察知した。
素早く身を退かせたとき、目の前に銀いろの刃が振り下ろされた。
アーミーナイフを手にしたその女は、階上からの降下による奇襲という戦法が失敗したとわかった瞬間、ふたたび跳躍して美由紀の眼前に迫ってきた。
刃がまたしても迫りくる。恐るべき踏みこみの速さ。美由紀は躱《かわ》しきれず、腕を切りつけられた。鋭い痛みが走り、鮮血が飛び散ったのがわかる。
地面に転がって距離を置く。
腕をかばい、傷口に指で触れた。さいわい、それほど深くもない。
「ポア!」麗香はあわてたようにいった。「なにしてるの? そんなもの振りまわすなんて。いったいあんた何者!?」
長い黒髪にOLのようなスーツ姿、しかし足もとはハイヒールではなく深緑のコンバットブーツだった。
ポアと呼ばれたその女は、ナイフを短く持って低く構えるという実戦的な姿勢で、じりじりと間合いを詰めてきた。
美由紀はその表情を読もうとしたが、すぐに相手が常人でないと気づいた。
落ち着き払った自分の声を美由紀はきいた。「メフィスト・コンサルティングが派遣してきたお目付け役みたいね。セルフマインド・プロテクションに限っていえば、クライスラー300Cに乗ってた白人の男よりは上のようね」
ポアは眉《まゆ》ひとつ動かさず、韓国語|訛《なま》りのある声で告げてきた。「岬美由紀。人類の運命を弄《もてあそ》ぶ悪魔と伺っております。この廃墟《はいきよ》同然の街角で屍《しかばね》と化すのがよいでしょう」
「今度は悪魔呼ばわりか。ついこのあいだ、救世主とみなしてくれたばかりのはずなんだけど。メフィスト・コンサルティングにも派閥があるのね。っていうか、いくつかの会社に分かれてるんだっけ? ダビデのお友達じゃないことだけはたしかね」
「わが特別顧問グレート・ジェニファー・レインの名にかけて、あなたを葬らせていただきます」
「ジェニファー? 聞いたことのないマイナーキャラよね」
「愚弄《ぐろう》なさらないでください!」ポアがナイフとともに突進してきた。
美由紀は拳法《けんぽう》の交叉《こうさ》法でその攻撃を受け流し、体を入れ替えてポアの背後から反撃に出ようとしたが、ポアのとった戦術は予想外だった。
振り向きもせず、ポアはわきの下から突きだした拳銃で発砲してきた。
軽く弾《はじ》けるような音だが、充分な殺傷力を持つ四十五口径とわかる。
銃声が連続して響くと、通行人に悲鳴があがった。
地面を転がって避ける美由紀を、ポアは執拗《しつよう》に追い回し射撃する。
流れ弾がどこに着弾するのかを配慮しているようには思えない。辺りはいつ死人がでてもおかしくない修羅場と化した。
美由紀は、まだビルの前にたたずんでいる麗香と幸太郎に怒鳴った。「建物のなかに入って! ぜったいに窓辺に寄らないで。わかった!?」
幸太郎が麗香の手を引き、エントランスのなかに駆けこんでいく。
確認できたのはそこまでだった。またもポアが眼前に迫ってきている。
素早くローキックを繰りだしてポアの足首を蹴《け》った。ポアは転倒したが、なおも転がりながら発砲をつづける。
美由紀は逃走した。ガードレールを飛び越えて歩道に入り、ガラスの割れたパチンコ店に身を潜める。
すると、けたたましいディーゼルエンジンの音が接近してくるのに気づいた。
路上を振りかえったとき、美由紀はびくっとした。
96式装甲車がゆっくりとこちらに近づいてくる。八輪のタイヤ、戦車のような装甲板を備えた車体、上部には重機関銃。フロント部分、右舷《うげん》の窓から運転手の顔がわずかに覗《のぞ》いている。
あの白人の男だった。やはり彼もメフィスト・コンサルティングの一員だったのだ。
ポアは装甲車に飛び乗ると、キューポラを備えた銃手席におさまった。
すかさず催涙弾が発射され、パチンコ店のなかに煙が漂いだした。
まずい。美由紀は店を飛びだし、商店街を疾走した。
けたたましい重機関銃の掃射音とともに、店舗は次々と小爆発を起こして破壊されていく。
弾幕のなかを美由紀は駆け抜けた。ここで死ぬわけにはいかない。美由紀は唇を噛《か》んだ。
あれが西之原夕子だとわかったいま、なんとしてもメフィストの魔手から救いださねばならない。
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