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千里眼128

时间: 2020-05-27    进入日语论坛
核心提示:迎えの使者午前零時をまわった。岬美由紀はガヤルドのステアリングを切り、代々木上原駅にほど近い自分のマンションに戻った。ス
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迎えの使者

午前零時をまわった。
岬美由紀はガヤルドのステアリングを切り、代々木上原駅にほど近い自分のマンションに戻った。
スロープを下って地下駐車場に入り、借りているスペースに停車する。
助手席では、幸太郎が頭を抱えてうつむいていた。
「幸太郎さん」美由紀は静かに声をかけた。「だいじょうぶ?」
「……うん。平気だよ。ただ少し、疲れただけで……」
だが美由紀は、幸太郎の疲労が体力的なものだけでないことを見抜いていた。
精神面の消耗が激しい。無理もないことだった。彼にとって、きょう一日の出来事はあまりに常軌を逸したことばかりだったろう。
「幸太郎さん。ごめんね……」
妙な顔をして、幸太郎は美由紀の顔を見た。「なんで謝るの?」
「巻きこんじゃったから……。わたし、西之原夕子には以前も会ってた。彼女を助けようと思えば、助けられたはずだった。なのに……不用意なひとことで、彼女は絶望してしまった。彼女を失意の淵《ふち》に立たせたのは、ほかならぬわたしなの」
「そんなことないよ、岬先生。そのことならさっき舎利弗先生も言ってたじゃないか。不可抗力だったんだろ? あの冠摩《カンマ》っていうウィルスの事件にまで関わってたなんて、知らなかったけど……。岬先生はそのとき、なによりも先にワクチンを回収しなきゃならなかった。大勢の命が奪われるかどうかの瀬戸際だったんだから」
「それはそうだけど……」
「西之原さんは看護師に化けて、ワクチンを持ち去っちゃったんだろ? とんでもないことをするよね。あまりにも身勝手すぎるよ」
美由紀は黙ったまま、ステアリングに置いた自分の手を眺めていた。
身勝手。そうだったろうか。あの追い詰められた夕子がみせた寂しげな表情。きのうのことのように、克明に目に焼きついている。
 わたしは夕子を追っていた。非常階段に通じる扉が半開きになっているのに気づき、扉を開け放って外に飛びだした。
夜。月明かりが降り注ぐ階段の踊り場に、夕子の姿があった。
夕子はあわてたらしく、足を踏み外して転倒した。苦痛のいろを浮かべて呻《うめ》いた。ワクチンの入ったケースは、その傍らに転がっている。
美由紀は階段を降りていった。「それを返して」
ところが、夕子はすぐさまケースを抱えて立ちあがった。
手すりの向こうにケースを突きだして、夕子は怒鳴った。「近づいたら落とす!」
「やめてよ! どうしてそんなことするの。あなたのお兄さんはもう逮捕されたのよ。いまさら妨害をしてなんになるの」
「少なくとも、あの女は死ぬ」
「あの女って……里佳子《りかこ》さんのこと?」
「そう。あの女! 兄をたぶらかしたクズ女。人並みに恵まれて育ったからって、わたしを見下す下劣きわまりない女」
「里佳子さんはそんな人じゃないわ」
「てめえになにがわかるっての。ほんとに不幸なのは誰なのか知ってんの? わたしがどれだけ孤独な人生を歩んできたか、知りもしないくせに。部外者はひっこんでなよ」
「どんな理由があるにせよ、人を死なせる言い訳にはならない。わたしはカウンセラーなの。部外者であっても、苦しんでいる人は見過ごせない」
「なら」夕子はふいに目を潤ませて叫んだ。「てめえ、わたしを助けなさいよ! わたし、人格障害じゃん。カウンセラーならわかるでしょ。里佳子なんかより先に、わたしを助けてよ!」
「……里佳子さんは命の危機に瀕《ひん》してる。あなたの心を救ってあげたいけど、それはあなた自身が一歩を踏みださなきゃいけない」
そのとき、夕子の顔から表情が消えた。
「結局、わたしってそうなのね。誰にも助けられない。岬美由紀にも、わたしは見放された」
「それはちがうわ。あなたは……」
ふいに夕子はワクチンの入ったケースを、美由紀に投げて寄越した。
美由紀は驚きながらそれを受けとった。
夕子の顔に笑みが浮かんだ、そう見えた。
だがそれは、空虚な笑いだった。
いきなり手すりを乗りこえて、夕子は非常階段の外に身を躍らせた。
「夕子!」美由紀はあわてて駆け寄ろうとした。「やめて、早まらないで!」
しかし、夕子はためらうようすもなく、身体を宙に投げだした。
落下は速く、一瞬だった。夕子の身体は、ビルの谷間の闇に、吸いこまれるように消えていった。
どさりと音がした。美由紀は手すりから下を覗《のぞ》きこんだ。
真っ暗で、なにも見ることはできなかった。
遠くでサイレンの音が沸いている。
美由紀はケースを抱きかかえたまま、その場に座りこんだ。
胸に強烈な一突きを食らい、開いた穴を風が吹きぬけていく。そんな虚《むな》しさだけがあった。
 美由紀は停車したガヤルドのなかで、深く長いため息をついた。
助手席の幸太郎が心配そうに顔をのぞきこんできた。「岬先生……。どうかした?」
「いいえ……。ただ思いだしていただけ」
あのとき夕子は、わたしにワクチンを投げて寄越した。胸に抱いたまま飛び降りようと思えば、できたはずだった。
彼女は兄の結婚相手である里佳子に嫉妬《しつと》していた。夕子の行為と言動だけをみれば、彼女は里佳子の死を望んでいたことになる。
それでも夕子は、ワクチンを返却した。里佳子の命を救うことになると知っていて、あえてそうした。
と同時に、夕子はみずからの命を絶とうとした。
メフィスト・コンサルティングとの出会いがあったとしても、それはあの自殺未遂以後のことだろう。あのとき、夕子の顔に策謀のいろなどなかった。
失意と諦《あきら》め、それが彼女のなかにあったすべてだった。
同じ感情を、美由紀は二度まのあたりにした。
その二度とも、永遠の別れを遂げる寸前のことだった。
友里佐知子《ゆうりさちこ》と鬼芭阿諛子《きばあゆこ》……。
 幸太郎がじっと見つめているのに気づき、美由紀は我にかえった。
わたしの個人的な感情だ。思い詰めて、彼にまで心配をかけてはいけない。
ドアを開け、外に降り立ちながら美由紀はいった。「きょうはもう休みましょ。明日朝九時に横浜ってことは、かなり早起きしなきゃ。オロチも取りにいかなきゃいけないし」
「そうだね」と幸太郎も車外に這《は》いだしながらいった。「あ、岬先生」
「なに?」
「夕子さんに会ったら……どうすればいい?」
「……あなたはどうするつもりなの?」
「わからないけど……。たぶん、できるだけ時間をかけて説得してみると思う。彼女が、メフィストとやらのもとに走らないうちに」
「あまり無茶はしないでね。まだ状況が読めないし」
「そうだね。夕子さんよりも……いつ起きてもおかしくない大地震を心配しなきゃいけないだろうし。彼女の身柄よりも、人工地震についての情報を探りだすほうを優先すべきだし」
美由紀は妙な気分になった。幸太郎はなにかを気にかけている。しかしそれがなんであるかが判然としない。
「幸太郎さん。西之原夕子のことを、どう思ってるの?」
「え? いや、もう理想化はしてないから……」
「そうでも好きなの? 彼女を助けだしたいと思う?」
「いや、ええと、どうかな……。自分でも、そのう、よくわからなかったり……。岬先生は、どう思う? 僕自身より正確に、僕の気持ちをわかってるんじゃ……」
美由紀は首を横に振ってみせた。「わからないの。恋愛感情の有無だけは」
「……そうなの?」
「ええ。あなたが戸惑いを覚えていることだけはわかるんだけどね。恋する心は読み取れない」
「へえ、そういうものなんだ。だけど、どうして?」
理由を告げるのは難しかった。自分でもよく判らないからだ。
口をつぐんだまま、美由紀はハンドバッグから鍵《かぎ》を取りだし、幸太郎に投げて寄越した。
受け取りながら幸太郎がきいた。「これは?」
「わたしの部屋の鍵。そこのエレベーターで五階にあがって、突き当たりのドア。先に入ってて。わたしは、マンションの周りを見回ってから行くから」
「あ、はい。いや、でも……。そのう、いいんですか? 岬先生の部屋に泊めてもらうなんて」
「いいのよ。大久保の雑居ビルにも実家にも戻れないんでしょ?」
「だ、だけど、女性の部屋に泊まらせてもらうってのは、経験上あまり……。まあその、僕は床に寝てもいいんですけど、でも女性と同室するというのは……」
「ああ。寝るところなら心配いらないから。客間がふたつあるし、客用ベッドもあるの。リビングにグランドピアノを置いている関係で、防音もしっかりしてるし。独りでぐっすり眠れるから、心配しないでね」
「は……はい、そうだね。どうも本当にありがとう。じゃ、先に部屋にいますから……」
そそくさと立ち去る幸太郎の背を見送りながら、美由紀は思わず首をかしげた。
いま、ひどく残念そうな思いが一瞬、幸太郎の表情から読みとれた。どうしてそんな感情に駆られたのだろう。
しばし考えてみたが、わからなかった。まだ読めない心理もあるということだ。精進せねば。
歩いてスロープに向かう。地上に昇ろうとしたとき、その行く手にただならぬ気配を感じた。
美由紀は足をとめた。
坂道の先、二メートルを超える身の丈の男が立っている。中東風のスタイルに見えるが、実際は中央アジアのトルクメンの民族衣装に身を包んだ、アラブ系の男。
「私の名はアントニオ」男はアラビア語でいった。「お連れします」
ベルベル語の方言が交じっている。美由紀は発音に注意しながらいった。
「ちょっと待って。遠いの?」
「遠くはありません」
迎えが来た。
この男がメフィスト・コンサルティングの使いであることはまず間違いない。セルフマインド・プロテクションで感情を完全に隠蔽《いんぺい》しているのがその証拠だった。
「いいわ。でも、幸太郎さんを呼んでこないと……」
「必要ありません。求められているのはあなただけです」
「わたし……だけ?」
「西之原夕子は、あなたの助けを必要としています」
「彼女がそういったの?」
「その通りです」
にわかには信じがたい状況だ。けれども、嘘だという根拠はどこにもない。それに、わたしを罠《わな》にかけるつもりなら、もっとうまい作り話があるだろう。
「岬美由紀」アントニオがたずねてきた。「西之原夕子の要請を受諾しますか?」
「……ええ、もちろんよ」
するとアントニオは、懐から一本のジュース缶を取りだした。
真っ黒に塗られた缶、商標などは入っていない。それをスロープに置いて、転がした。缶は美由紀の足もとまで転がってきて、とまった。
アントニオがいった。「それを飲んでください」
美由紀は躊躇《ちゆうちよ》した。いや、ためらわない者など、いるはずもない。
ゆっくりと缶を拾いあげる。プルトップの蓋《ふた》を開けてみた。
顔に近づけて匂いをかいでみたが、無臭だった。
「飲んでください」とアントニオが繰り返した。「西之原夕子の要請に従うのなら」
迷いとともに、蓋のなかにわずかにのぞく液体を見つめた。
ある意味では自殺行為だ。なにが待っているのかもわからない状況、それ以前に、得体の知れないものを口にふくむなんて。
夕子の声が脳裏に響く気がした。
誰にも助けられない。岬美由紀にも、わたしは見放された。
もう二度と、見放したりしない。
美由紀は缶をあおった。ためらうこともなく、液体を飲み下した。
なんの味もしなかった。
だが、アントニオの姿が二重に見えだした。
その像もだんだんぼやけてくる。
ふらついて、足もとから崩れ落ちた。
缶が落下して音をたてる。
それが、その場における美由紀の最後の感覚だった。
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