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千里眼135

时间: 2020-05-27    进入日语论坛
核心提示:カウントダウン美由紀は甲板タワーとドリルフロアーを結ぶキャットウォークを駆け抜けていた。耳鳴りのように響く重低音が、風を
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カウントダウン

美由紀は甲板タワーとドリルフロアーを結ぶキャットウォークを駆け抜けていた。
耳鳴りのように響く重低音が、風を切るような甲高い音に変化したとき、美由紀はミサイルの接近を感じた。前方に跳躍し、つんのめるように伏せる。
同時に頭上で爆発が起き、掘削|櫓《やぐら》の外壁が破片となって降り注いだ。爆風の感覚から、十メートルほどの距離があるとわかる。
海上自衛隊は人工地震を阻止するために出動しているが、掘削船のどこを攻撃すべきかを正確に把握してはいない。美由紀が防衛省を通じて知らせえた情報も、曖昧《あいまい》なものに終始せざるをえなかった。彼らはアヴァニ号が無断で日本領海を侵犯し、退去命令にも従わなかったという事実から、美由紀の通報に信憑《しんぴよう》性を感じとったにすぎない。
にもかかわらず、ミサイルで執拗《しつよう》に攻撃するのはなぜだ。しかも威嚇《いかく》ではなく、船そのものを狙っている。美由紀と幸太郎がモーターボートで先まわりして、この船に乗りこんだ事実を知らないことを考慮しても、自衛隊の割りには攻撃的すぎる。
起きあがって掘削部に目を向けたとき、美由紀はその理由を知った。
ロータリーテーブルとその周辺に、ジェニファーの部下らしき兵隊がいる。船員の作業服に見せかけたカーキいろの戦闘服を身につけ、弾帯をサスペンダーで吊《つ》るしている。十数人の兵隊たちは、M61A1の大口径機銃を据え置いて海上に掃射し、抵抗を試みていた。
美由紀はすかさず移動滑車《トラベリングブロツク》に飛び乗り、レバーを倒して降下した。
数トンとおぼしき巨大な足場がロータリーテーブルに落下すると、兵隊たちがあわてたようすで四方に散っていった。
その隙を衝《つ》いて美由紀は機銃の近くにいた男に飛びかかり、ハイキックのまわし蹴《げ》りで顎《あご》を蹴り飛ばした。機銃の砲座におさまると、その銃身を海から船上へと向ける。まだ近くで体勢を立て直そうとしている兵隊たちの、足もとに向けて掃射した。兵隊たちは逃げ惑い、周囲にひとけはなくなった。
砲座から離れた美由紀は、そのフロアーから下に伸びる梯子《はしご》を下った。
フロアーを支えるサブストラクチャーは、海面上に縦横に組まれた柱と梁《はり》の複雑な構造物だった。その隙間を縫うようにして、クレーンが海面に下ろされている。
海面には白い泡が立っていた。降下した物体は、すでに海中に潜行している。
思うが早いか、美由紀は梯子から空中に身を躍らせた。宙で一回転して身体を伸びあがらせ、頭を下にしてまっすぐに海面に落下した。
高飛び込みの経験はさほどあったわけではないが、水中に没した瞬間、おこないうる最良のフォームで飛びこむことができたと確信した。痛みはほとんどない。けれども、視界は泡に覆われている。ほんの数十センチ先も見通せない。
泡が消えていったとき、美由紀ははっとした。
二基のモーターを備えた水中スクーターがすぐ近くにある。その上には長さ一メートルほどの円錐《えんすい》形の弾頭があった。
核弾頭よりはスマートで、起爆装置と一体化している。爆発の数分前から発生する排気ガスを逃がすためのダクトが特徴的だった。間違いない、ベルティック・プラズマ弾頭だった。
スキンダイビングから深く潜るときの要領で、無人の水中スクーターに接近する。水深は十メートルほど、手を伸ばせば届きそうだ。
だがそのとき、スクーターの近くにいるのは自分だけではないと知った。水泡が背後から漂ってくる。呼吸音もわずかに聞こえた。
振りかえると、ウェットスーツとアクアラングで身を固めた女が、後方から水中銃でこちらを狙い澄ましていた。
鋭い音とともに銛《もり》が発射されたとき、美由紀は蝦《えび》反りになってそれを躱《かわ》した。
女は水中銃を投げだすと、ナイフを引き抜いて猛然と泳ぎ接近してきた。間近に迫ったとき、水中メガネを通してポアの血走った目がこちらを睨《にら》みつけているのが見えた。
攻撃を受け流そうとしたが、水中では身の動きは鈍かった。銀の刃は美由紀の腕を切り裂いた。
痺《しび》れるような痛みとともに、傷口から血が煙のように噴きだしていくのが見える。だが、傷口を庇《かば》っている場合ではなかった。
美由紀は腰をひねってドルフィン泳法で素早くポアの背後にまわると、チョークスリーパーホールドでポアの首を絞めあげた。じたばたと逃れようとするポアの手首をつかみ、握られたナイフの刃をレギュレーターの中圧ホースにあてがった。
ポアは激しく抵抗したが、美由紀は満身の力をこめ、ホースを切断にかかった。
手ごたえとともに、小爆発のように酸素が噴きだした。また泡が立ちこめる。息を吸えなくなったポアがもがき、手足をばたつかせた。
美由紀は、ホースの切断面に口を近づけ、噴出する酸素をひと息吸うと、ポアの背を蹴り飛ばすようにして離れた。
必死で水中を掻《か》きむしるようにしながら、ポアの身体は浮上していく。溺《おぼ》れずに無事に海面にたどり着けるかどうかは、彼女の力量しだいだ。こちらの心配することではない。
海底めざして降下をつづける水中スクーターを、美由紀は全力で追った。
手を伸ばし、スクーターのハンドル部分をつかむ。推力は相当なものだ。身体ごとぐんぐん引きずりこまれる。
もう時間は三十秒を切っているはずだ。起爆装置を止める方法もわからない。できることはただひとつ、この爆弾を海底活断層に向かわせないこと。それだけだった。
近くを漂う水中銃をつかんだ。ポアが手放していったものだった。
捕鯨用の銛だ。ロープがついている。かなりの長さがあるようだった。
美由紀は水中スクーターの前方にまわりこみ、スクリューを通して掘削船の底部に狙いを定めた。
扇風機の向こうにキーを投げこむことですら、人々には驚かれてしまう。だがいま、回転するスクリューの隙間を狙うことは、わたしにとってそれほど難しくはない。
引き金を引き絞った。強い反動とともに銛が発射される。回転翼の隙間を抜けた銛は海面へとまっしぐらに飛び、鈍い音とともに掘削船のサブストラクチャーに突き刺さった。
直後、ロープはスクリューに絡みついた。強力なモーターの回転がロープを巻きあげ、水中スクーターは垂直になって海面に上昇していく。
美由紀は水中銃を手放し、水中スクーターとは逆に深く潜りだした。
足で水中を蹴るようにして、闇に包まれた深海めざして降下していく。可能な限り、一メートルでも深く潜らねばならない。あと数秒で水中スクーターは掘削船の真下に浮上し、そして爆発が起きる。そこまで達することなく爆発が起きれば、威力は空中に逃れることなく、この一帯に巨大な渦を引き起こすことだろう。そうなればおそらく一巻の終わりだ。
そう思ったとき、頭上に閃光《せんこう》が走った。
爆発音は水中でもはっきりと轟《とどろ》いた。それから水中を衝撃波が駆け抜けていった。全身を締めつけるように水圧が高くなる。押しつぶされそうだ。
だが次の瞬間、急激に水圧は低下していった。
海面を見上げたが、泡だらけでなにも視認できなかった。息がつづかない。これ以上海中に留まることは不可能だった。浮上するしかない。
鉄骨や船体の外壁の一部とおぼしき破片が、次々と沈んでくる。それらの数も増えてきた。美由紀は障害物を避けて斜め上方へと泳いでいった。
もう力が尽きそうだ。浮力にまかせて海面に運ばれるのを待つ。肺にわずかに残った酸素を、ぎりぎりの状況まで蓄えつづける。
その最後の酸素を使い果たしたとき、美由紀の目は間近に迫った海面をとらえた。
伸びあがるようにして海面上にでた。波間に浮かび、立ち泳ぎをする。
陽は沈みかかっている。黄昏《たそがれ》の空の下、波は荒れていた。
静かだ。
少し離れたところで、掘削船が斜めに傾いているのが見えた。右舷《うげん》はほぼ完全に海中に没している。黒煙が噴きあがっていた。本来なら海面下に隠れているはずの機関部がのぞき、発電機が粉々に砕け散っているのがわかる。
爆発は掘削船を巻きこんだ。乗員は退避できただろうか。予測不能な爆発の犠牲になった者がいたかどうか、ここからではよくわからない。
ポアは、ジェニファーは、逃げおおせただろうか。まだ船内にいるかもしれない。海上保安庁の救助艇がきたら、巧みに乗り移って脱出する可能性もある。
だがそれよりも、美由紀は気にかけていることがあった。
辺りを見まわす。海上自衛隊の護衛艦は適度に距離を置き、被害を受けたようすもない。それ以外は、周囲にはなにも存在しない。一羽のカモメすら飛んでいない。
いや。そうではない。真上だ。爆音がする。
見上げると、空中停止《ホバーリング》飛行をしているUH60Jヘリがあった。
ヘリは高度を下げてくる。救助しようというのだろう。
その側面の開いたドアから、隊員とともに顔をのぞかせている男がいた。
鳥沢幸太郎だった。こちらに手を振っている。
美由紀は思わず笑った。自然に笑いがこぼれた。
もう彼が就職に二の足を踏むことなど、ありえないだろう。決死の覚悟で臨み、それを乗り越えることの意味を知ったのだから。
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