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千里眼147

时间: 2020-05-27    进入日语论坛
核心提示:気まぐれ閉店間際の喫茶店で、カフェテラスのテーブルと椅子を片付けているウェイターに、藍は見覚えがあった。藍は歩道にたたず
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気まぐれ

閉店間際の喫茶店で、カフェテラスのテーブルと椅子を片付けているウェイターに、藍は見覚えがあった。
藍は歩道にたたずんで、あの日のことを想起した。わたしが席を立っているあいだに、あのウェイターに由愛香が呼びかけたらしい。ウェイターがパソコンをいじったと、あとで由愛香に聞かされた。
あくまで無線LANの調子を見るためだけだったのではないか。そう思っていると、美由紀がつかつかとウェイターのもとに歩いていった。
「美由紀さん」嵯峨があわてたようにいった。「待つんだ」
だが、美由紀はためらうようすもなく、いきなりウェイターの肩をつかんで振り向かせた。
ウェイターが驚いた顔で振り返る。次の瞬間、美由紀はウェイターの胸ぐらをつかみ、テーブルの上に仰向けにねじ伏せた。
食器や燭台《しよくだい》が音をたてて床に散らばる。それでも美由紀は手を放さなかった。
「な」ウェイターは怒鳴った。「なにをするんだよ! 放せ!」
美由紀はウェイターの胸のネームプレートを見やった。「萩森《はぎもり》さんっていうのね。前にも会ったんだけど、覚えてる?」
「あ? 知らないよ。手を放せ。警察を呼ぶぞ!」
「呼べばいいわ。なんなら、このパソコンも証拠として提出する?」
隣のテーブルに投げだすように置かれたパソコンを見たとき、萩森はぎくりとした表情になった。
藍は困惑を覚えてきいた。「美由紀さん。わたしのパソコンがどうしたっていうの?」
「グーグルにブックマークしてたでしょ? そのアドレスをたしかめてみて」
妙に思いながらも、藍はテーブルに歩み寄ってパソコンに手を伸ばした。
ブックマークの一覧に�グーグル�がある。それをクリックしてみる。
店の無線LANにつながって、お馴染《なじ》みのトップページが表れた。グーグルのロゴも検索窓もいつもどおりだ。
だが、藍は愕然《がくぜん》とした。「URLが違ってる」
「そう」美由紀はいった。「googleじゃなくてgougleになってる。そのあとも本来ならco.jpだけど、微妙に違うわね。萩森さん、あなたが開設したサイトでしょ?」
嵯峨がつぶやいた。「なるほど。本物のグーグルのサイトをhtmlファイルで保存して、見た目はまったく同一の偽サイトを作ったんだ。フィッシング詐欺でよく使われる手だな」
美由紀はうなずいた。「店内の無線LANの調子を悪くして、苦情を申しでた客のパソコンを操作し、グーグルのブックマークを偽サイトのアドレスに入れ替える。数秒もあれば可能よね」
そうだったのか、と藍は驚きとともに思った。
たしかにわたしは、どんなことでもパソコンで検索して調べることからスタートする。いや、わたしに限らず、現代人のほとんどがそうだろう。そして、こんなふうに偽の検索サイトをそうとは知らず利用していたら、興味のあることや生活上必要な知識をどんどんキーワード検索にかけ、プライバシーが露見してしまう。
「考えたわね」美由紀はなおも萩森をテーブル上に押さえこんでいた。「偽サイトはCGIのプログラムを通じて本物のグーグルの検索結果につながる。ユーザーとしてはまったく疑わない。でも検索キーワードや閲覧したサイトはあなたのもとに伝わるようになってる。ターゲットは藍だけじゃないでしょ? 客ごとに別の偽サイトのアドレスを割り振るか、リモートホストで接続元を区別すれば、複数の客の個人情報が随時転がりこんでくる」
萩森は怒ったようにいった。「なにを馬鹿な。ふざけないでくれ。俺がどうしてそんなことを……」
美由紀は容赦なく萩森の胸もとを締めあげた。「とぼけても真実はもう明らかになってるの。心外だとばかりに怒っているふりをしていても、顎《あご》が前に突きだされていないし眉毛《まゆげ》が真ん中に寄って下がってもいない。焦りや怯《おび》えの感情しか浮かんでいないのは、秘め事の発覚を恐れているからよ。さっさと白状して。新・出会いの館を運営しているのはあなたなの?」
「あれは、違う。違うよ。俺じゃない」
「へえ……。じゃあ知り合いか誰か?」
「そんなんじゃないよ。売ってるだけなんだ、情報を……。女の顔写真とプロフィールを買い取ってくれる業者がいるんだよ」
藍は怒りを覚えて萩森にきいた。「駅でわたしを隠し撮りしたのはあなたなの?」
「と……とにかく、まず手を放してくれ。逃げたりしない。すべてきちんと話すから」
美由紀は萩森をにらみつけてから、ゆっくりとその手をどけた。
萩森はさも苦しそうにむせながら身体を起こすと、テーブルに座ったままいった。「出会い系に情報を売るのは、ほんのサイドビジネスにすぎない。メインは有名人の客だよ。芸能人やスポーツ選手も最近はパソコンを持ちこんでくるから、目をつけやすいんだ」
「ふうん」美由紀がたずねた。「著名人の情報収集をしてどこに売る気なの?」
「出版社だよ。ノウレッジ出版」
「ああ」嵯峨がいった。「ゴシップ雑誌とか有名人の暴露本の出版で知られてる会社だね。規模はそんなに大きくないけど、最近じゃ小説がベストセラーになったりしてるよな」
「そうね」美由紀が忌々しそうにつぶやいた。「不治の病に冒された少女の記録という触れこみの『夢があるなら』で儲《もう》けてるわね。それに……北朝鮮の軍事情報をケレンみたっぷりに紹介する『ダリス』って雑誌もよく売れてる。『ムー』の宇宙人の噂を北朝鮮に置きかえたような俗物雑誌だけど」
萩森がうなずいた。「そう、そのノウレッジ出版の油谷尊之《ゆやたかゆき》社長がさ、この店に有名人がよく来るってんで、俺にバイトの話を持ちかけてきて……。情報集めることができたら金くれるっていうからさ、それで……」
「偽サイトによるフィッシング詐欺を思いついたわけね。ってことは、店ぐるみの犯行ってわけじゃなく、あなたの単独犯ね」
「……頼むよ、見逃してくれよ。油谷社長はどうせ、俺以外にもあちこちの店の人間に声をかけてるに決まってる。俺は情報源のひとつにすぎないんだ。まずいとは思ったけど、それなりに金になるから、やめられなくて……。でももう反省した。改心するよ。だから店長の耳にだけはいれないでくれ。お願いだ」
美由紀はしばし黙って萩森を見つめていたが、やがて静かに告げた。「ひとつ聞きたいんだけど。正直に答えて。嘘をついてもわかるけど、そのときは承知しないから。……プライバシーを知った女性に、手をだしたことはある?」
「俺自身が? ない、ない。ないよ。新・出会いの館ってサイトもさ、会費が高いらしいから、稼ぎのある中年の親父どもが浮気相手を見つけるために閲覧してるって話だけど、プライバシー知ったぐらいじゃ彼女はできないさ。せいぜいストーカーまがいになるのが関の山」
藍はむっとした。「わたし、おかげで迷惑こうむってるんだけど」
「そうだったのかい? ごめんよ……。けど、そんな内気な親父どもなんて、肘鉄《ひじてつ》食らわせれば退散してくさ。なんの話だっけ、ああそうだ、俺は決してこれを利用して女を見つけようなんて思っちゃいない。試したこともないよ」
沈黙が降りてきた。
ため息とともに、美由紀がささやくようにいった。「そのようね。反省してるようだし、今回だけは見逃してあげる。でも念のために、藍。デジカメで彼の顔を撮影しておいて。パソコンの画面と一緒にね」
「おいおい」萩森はあわてたようだった。「どうしてだよ。許してくれるんじゃないのか?」
「何事もなかったら写真が公になることはないわ」
萩森は不服そうだったが、藍に異論はなかった。
デジカメを取りだしながら、藍は萩森に告げた。「パソコン指差してくれる?」
「ちぇっ、まるで警察の実況見分だな」萩森が吐き捨てた。「こんな暗いところで映るのかい?」
「赤外線暗視機能つきなの。ばっちり撮れるから心配しないで」
藍はファインダーで萩森を狙い、シャッターを切った。浮かない顔でパソコンを指差す萩森の画像が、データに記録された。
ようやく藍はほっと胸を撫《な》で下ろした。
ネットの情報流出のほうは警察に相談せねばならないが、原因は突き止められ、不安に掻《か》き立てられることもなくなった。
すべては美由紀のおかげだ。またしても助けられた。
デジカメでの撮影を終えて、礼をいおうと振りかえったとき、藍は息を呑《の》んだ。
美由紀の姿はどこにもなかった。
あわてて藍は嵯峨にきいた。「美由紀さんは?」
嵯峨は困惑顔で首を横に振った。「たったいま、風のように走り去ったよ……。去りぎわに別れひとつ口にしなかった。僕らをここに残していきたかったんだろう」
「どうして……?」
「独りで行動するつもりなんだ。なにか使命感に駆られているらしい。きょうの彼女はどうもおかしい……」
藍は呆然《ぼうぜん》としながら、しょぼくれたようすの萩森を眺めた。
それにしても、美由紀の考えは理解しがたいところがある。
茨城では加害者の男を徹底的に追い詰めたらしいが、どうしてこの男は許す気になったのだろう。美由紀に限って、気まぐれということはないはずだ。いったいなぜ……。
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