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千里眼155

时间: 2020-05-27    进入日语论坛
核心提示:隅田川岬美由紀は醒《さ》めきった気分で、古民家の居間に巣食う犯罪者たちを眺めていた。あのセイウチのような身体をした男が社
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隅田川

岬美由紀は醒《さ》めきった気分で、古民家の居間に巣食う犯罪者たちを眺めていた。
あのセイウチのような身体をした男が社長か。食欲《どんよく》すら抑制できない貪欲さが卑しい顔つきに表れている。やくざ者を雇っているとおぼしき社員どもも同様だった。
社長の油谷は青ざめた顔でつぶやいた。「な……なんだ? どうしてここが……」
「知りたい?」美由紀はポケットから、割れた松ぼっくりを取りだした。「これが教えてくれたの」
「あ、それは」声をあげたのは、油谷の近くにいた男だった。
その男は代々木公園で南米風の男との取り引きを演じていた、青い上着の持ち主だった。いまはワイシャツ姿だ。
「そう」美由紀はいった。「あなたの上着に入ってたの。松ぼっくりって、乾いている状態だと表面の鱗片《りんぺん》に隙間が開いて、湿気を帯びると堅く閉じるのよ。晴れの日にのみ、中身の種を風で散布するためにね。あなたはこの隠れ家に帰ってきて、すぐ近くの隅田川に上着を放りこんだ。そのとき、この実は川の水を内部に封じこめた。でもそれは塩水だった」
「塩水だ?」
「つまり海水だったってこと。勝鬨橋よりも上流から流されたのに、真水じゃなかった。きょうは満潮だったから、海水が隅田川を逆流してあがってきているのよ。区役所の環境課に電話して聞いたら、勝鬨橋より十メートルほど上流までそうなるって言ってた。それぐらいなら捜索範囲としては広くないから、怪しい家を片っ端から訪ねたの。おかげで、苦労の甲斐《かい》はあったようね」
油谷は愕然《がくぜん》としたようすだったが、やがて怒りのいろを表しながら怒鳴った。「誰なんだ、おまえは。警官じゃないんだろ? なぜわれわれを尾《つ》けまわすんだ」
「国民には知る権利があるの。報道に携わっておいでだからわかるでしょ、社長」
「このクズ女め」油谷は周囲に告げた。「なにしてる、野寺。一尺玉を取り戻せ!」
野寺と呼ばれた男が居間に面した台所に飛びこみ、出刃包丁片手に駆け戻ってきた。
だが美由紀は虎尾脚というハイキックを放って野寺の胸部を蹴《け》り飛ばした。野寺が壁に叩きつけられたとき、別の男が美由紀の背後から羽交い絞めにしてきた。
男を振りほどくため、スポーツバッグを放さざるをえなかった。美由紀は男の手首をつかみ、合気道の片手取り四方投げで床にねじ伏せた。
なおも起き上がろうとするその男の顔にも、見覚えがあった。フリーマーケットにいた南米風の男だ。男は怒鳴り散らした。「ふざけやがって。あばずれが」
やはり外国人らしい見た目というだけの日本人か。美由紀は男の頭部を蹴り飛ばした。男はぐったりとして床にのびた。
そのとき、油谷が巨体を揺らしながらスポーツバッグを拾いあげて、勝手口に駆けていった。
あの肥満体からは想像もつかない俊敏さだった。美由紀はすぐに後を追った。
勝手口を出ると、そこは夜の闇に包まれた隅田川沿いだった。すでに大勢の人々が繰りだし、上空には花火がひらいている。歓声とともに、警官が拡声器で告げる声もきこえる。会場までは立ちどまらないでください。
浴衣《ゆかた》姿の若い女性たちが通行するなかを、隙間を縫うようにして油谷が川へと向かっていくのが見えた。土手の階段を駆け降りていく。
勝鬨橋に近いこの一帯には、川辺に数多くのボートが繋留《けいりゆう》してあった。油谷は小型モーターボート、ベイライナーに飛び乗ると、ロープをほどき、エンジンをかけた。
美由紀が階段を駆け降りようとしたとき、油谷はボートを発進させた。船首は下流に向けてあったが、急速にUターンして上流へと向かう。
逃がしはしない。美由紀は、追跡可能なボートを求めて目を走らせた。
新しい船体なら推力もあるだろうが、クルマと同じでキーなしにはエンジンを始動できない。
ヤマハの古いモーターボートがある。あれなら直結が可能かもしれない。
すぐさま美由紀は階段からボートの屋根に飛び移り、キャビンに滑りこんだ。
小型船舶操縦士免許なら防衛大で取得した。操舵《そうだ》およびメカニズムについて概要は理解できている。
船尾に身を乗りだし、水のなかに手を突っこんだ。クランクシャフトの先端にあるフライホイール付近にあるカバーを外し、コードを引き抜く。側面のカバーも開けて、冷却水タンクに沿って伸びるリード線を外し、コードと接触させた。
奮い立つような音とともにディーゼルエンジンが作動した。強引な方法だが、これで推力だけは得られる。
モーターボートは前進を始めた。美由紀は操舵席におさまりライトを点灯させると、舵輪《だりん》を回して進路を変えた。油谷同様、こちらも目指すのは上流だ。
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