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千里眼156

时间: 2020-05-27    进入日语论坛
核心提示:脅し油谷は必死の思いでモーターボートを飛ばし、浅草付近にまで達した。満潮だけに河川敷は狭く、中洲のようにわずかに水面上に
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脅し

油谷は必死の思いでモーターボートを飛ばし、浅草付近にまで達した。
満潮だけに河川敷は狭く、中洲のようにわずかに水面上に浮かびあがった島が、花火の発射地点だった。無数の打ち上げ管が並び、ヘルメットをかぶった職人たちが入り乱れて作業に従事しているのがわかる。
発射音はすさまじかった。鼓膜が破れそうなほどだ。閃光《せんこう》が視界を覆うたびに、突き上げるような衝撃が襲う。それからヒューンと花火の飛んでいく音がして、上空に華開く。
ボートを横付けし、油谷はスポーツバッグを片手に発射地点に降り立った。火薬庫がわりにテントが張ってあって、花火の玉が一個ずつぴたりとおさまる立方体の木箱が、棚に整然と並んでいる。
油谷はそこをうろついて、目当ての物を探した。
そのとき、職人のひとりがやってきて、眉《まゆ》をひそめた。「どなたですか? こんなところで何してるんです」
「一尺玉はどこだ?」と油谷はきいた。
「その棚ですけど……」
職人が目を向けた先に、横一列に整然と並んだ一辺三十センチほどの木箱がある。最大のサイズだけに、そう多くはない。ぜんぶで七箱だった。
ただちに油谷は、その左端の箱におさまっていた一尺玉を取りだし、スポーツバッグのなかにあった一尺玉と取り替えた。
「なんです?」職人が戸惑ったようにたずねる。「その玉はどこから……」
「心配するな。不良品が交ざっているときいて、交換に来ただけだ」
「不良品? そんなはずはないですけど」
いちいちうるさい男だ。手をだされたのではかなわない。油谷は、一尺玉の箱を次々と動かし、無作為に並べ替えた。それも男に背を向け、見られないようにおこなった。
油谷自身もどれが細工した一尺玉かわからなくなると、満足して棚から離れた。
これでよし。職人は腑《ふ》に落ちない顔をしているが、もう花火大会は進行中だ。黙々と作業をつづけるしかない。いずれ一尺玉に手を伸ばすだろう。
「邪魔したな」といって油谷は、引き揚げようとした。
ところが、行く手にひとりの女が駆けこんできた。
息を呑《の》んで、油谷は立ちどまった。またこの女か……。
「爆弾はどこ?」女は息を弾ませながらきいた。「その一尺玉のなかに交ぜたんでしょ? どれなの?」
「さあ。なんのことかな」
「とぼけないで。表情を見れば隠しごとをしてるってわかるのよ」
そのひとことで、油谷は女の素性にピンときた。
「これはこれは」油谷は首すじを掻《か》きながらいった。「岬美由紀さんかね。道理で。噂どおりの千里眼ですな」
「大勢の人を殺して雑誌の部数を伸ばそうなんて、馬鹿なことを考えたものね」
「さて。どちらが馬鹿な考えですかな。花火の発射地点は立ち入り禁止のはずでしてね。間違って迷いこんだはいいが、さっさと退散しなくては。失礼する」
「待って」美由紀は妙に冷静な口調でいった。「あなたが持ちこんだ一尺玉、処分させてもらうから」
「なんのことだね。そんな物があるとして、いったいどれだというんだね? まさか、一尺玉の連続打ち上げを中止しようというのかね。顰蹙《ひんしゆく》もんだよ。今大会のクライマックスだからな」
美由紀は黙りこんだ。
ほらみろ。油谷は腹のなかでせせら笑った。千里眼と評判を呼ぶ女も、実際に会ってみればこんなものだ。
ところが美由紀は、顔いろひとつ変えずに職人にきいた。「この油谷さんが、どの箱に一尺玉を入れたかわかる?」
「いちばん左端だったようですけど」
「ありがとう」と美由紀は棚に近づいた。
油谷はあわてていった。「おいおい、岬さん。私は箱をでたらめに動かしたんだよ。何もわかるはずがない。触らないほうが身のためだ」
「そうでもないわよ」美由紀は平然といった。「ねえ油谷さん。三時に東京湾に漂う上着を見つけて、あなたたちの企《たくら》みも居場所もおおよそ判って、でもわたしが現れたのはついさっき、七時ごろ。どうしてそんなに時間がかかったと思う?」
「なに……?」
「雑誌に書いてあった被害状況から一尺玉に細工するってことぐらいわかってたし、勝鬨橋の近くにある不審な古家にも気づいてた。それでもすぐに行かなかったのは、先にやるべきことがあったからよ」
妙な気配だ。岬美由紀の言動は自信に溢《あふ》れている。
緊張をほぐすために油谷は笑いながらいった。「ハッタリだろう? きみはなんの手段も講じてはおらんよ」
「そう思うのは勝手だけどね」美由紀は箱を眺めまわすと、そのうちのひとつから一尺玉を引っ張りだした。「これね」
「……なぜそうだと言い切れる」
美由紀はからになった箱を投げて寄越した。「それ、箱の外側に小さく1って書いてあるでしょ? 夕方ごろここに来て、左端の箱から順に番号をふっておいたの」
油谷は頭を殴られたような気がした。
箱に目を凝らすと、たしかに1とある。
棚に駆け寄って、ほかの箱を見つめた。油谷が並べ変えたせいでランダムになっているが、それぞれ同じ場所に数字が書きこんであった。3、6、2、4……。
「わかった?」美由紀は一尺玉をかざしていった。「これがあなたの持ちこんだ物。分解すればどんな細工がしてあるか、はっきりするわね」
こちらの出方をすべて読んでいたということか。箱を入れ替える可能性すらも考慮していたなんて。恐るべき女だ……。
ならば、できることはひとつだけだ。シラを切りとおすしかない。
「知らんな」油谷はいった。「なんの根拠がある? その玉が私の持ちこんだ物だという証拠は? 箱に数字がふってあったというが、そんな曖昧《あいまい》な状況証拠で私を有罪にできるか?」
むっとした美由紀の顔が、打ち上げの閃光に一瞬白く浮かびあがった。
ぐうの音もでまい。この女も警官でない以上、こんな囮《おとり》捜査のようなやり方を裁判所に証拠として認めさせることはできない。岬美由紀が主張したすべての証言を合わせても、私に対する有罪判決を書かせることは不可能だ。
すると美由紀は、いきなり油谷の胸ぐらをつかんできた。
「おい、なにをする!?」
「悪いけど、つきあってくれる?」美由紀はそういって、油谷をテントの外に引きずっていった。
女とは思えないほどの腕力と握力だ。油谷はもがいたが、逃れることはできなかった。
職人たちが入り乱れる発射地点、そこかしこで垂直に立てられた発射管が火を噴いていた。
なかでも、ひときわ大きな発射管の前に、美由紀は油谷を連れてきた。
嫌な予感がする。油谷は額に流れる汗を感じた。
美由紀は発射管の側面に油谷を押しつけると、冷たい目つきで見つめてきた。
「な」油谷はきいた。「なにを……」
「わたし、追われてる身でね。知ってるでしょ、菖蒲町の製本所のほかにも、あちこち不法侵入してるし。もう嫌になったから、このへんで人生終わらせるのも悪くないかなってね」
その手には、細工済みの一尺玉が持たれている。
……脅しだ。
一尺玉を発射管に放りこむと言いたいのだろう。すでに死を覚悟している、だからためらわずにそれができると主張しているのだ。
陳腐なやり方だ。爆破させられるわけがない。こんなことで口を割るものか。
油谷は皮肉をこめていった。「どうぞ、おやんなさい。人の嘘を見抜けると豪語していたきみが、こんな安っぽい脅迫をしてくるとはね。がっかりさせてくれるよ」
次の瞬間、美由紀のとった行動は、完全に油谷の予測に反していた。
美由紀はバスケットボールのシュートのように伸びあがりながら、片手で一尺玉を発射管に投げいれた。
「おい!」油谷は驚いて叫んだ。「なにをしてるんだ!?」
「あなたがやれっていったんでしょ」美由紀は油谷の喉《のど》もとをつかんできた。「せっかくだから、地獄にまで付きあってもらうわよ」
その妖《あや》しい光を帯びた目を見つめるうちに、油谷は狂気に巻きこまれたと確信した。
「放せ!」油谷はもがいた。「逃げないと一巻の終わりだぞ」
だが、美由紀の握力は緩まなかった。「あと数秒の辛抱よ」
「やめてくれ!」油谷は周囲の職人たちに怒鳴った。「おい! こっちを見ろ。この女をどけてくれ!」
職人たちは振りかえった。しかし、誰もが眉《まゆ》をひそめて、互いに顔を見合わすばかりだ。
鈍い連中だ。油谷は腹を立てた。
「この女を排除しろと言ってるんだ! 早くしないとみんな終わりだぞ! 爆発するんだ、早く助けろ!」
だが、職人たちは困惑顔でゆっくりと歩み寄ってくるだけだ。
油谷の焦りは頂点に達した。「馬鹿な奴ら……わからんのか! 細工してあるんだ、石膏《せつこう》の代わりに小石が入ってる。発射薬はなくて割薬だけなんだ、地上で爆発するんだよ! 死にたいのか! 助けろ。助け……」
耳をつんざく轟音《ごうおん》と、突きあげる衝撃が襲った。
まばゆいばかりの閃光《せんこう》をまのあたりにしたとき、油谷は人生の終焉《しゆうえん》を悟った。
終わった……。なにもかも……。
だが、またしてもその予測は外れた。
閃光はほんの一瞬で、辺りはまた暗くなった。ヒューンという音とともに、ひとすじの光が上空に向かって飛んでいく。
花火が開いた。一尺玉、直径二百八十メートルの巨大な華が夜空にひろがる。観衆のどよめき、それから一瞬遅れて、爆発音が轟《とどろ》いた。
油谷は呆然《ぼうぜん》としていた。
なおも夜空は、大小の花火によって彩られている。
死んでいない。自分だけではない、周りもだ。花火大会は、何事もなくつづいている。
呆気《あつけ》にとられながら、油谷は美由紀を見た。「なぜ……?」
「一尺玉の箱には、左からじゃなく右から順に番号をふったの。七箱あったから、あなたが一尺玉を入れた箱は1じゃなく7」
……なんてことだ。
私は、自白してしまった。こともあろうに、わざわざ大勢の職人たちに呼びかけて、一尺玉にどんな細工を施したかを説明してしまった。
笑っているのか泣いているのか、自分でもさだかではない、ただ情けない嗚咽《おえつ》に似た声が漏れていた。膝《ひざ》の力が抜ける。
油谷はその場にへたりこんだ。人生は終わらなかった。だが、すべてが終わった。
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