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千里眼157

时间: 2020-05-27    进入日语论坛
核心提示:花火花火の見物客でごったがえす隅田川沿いに、赤いパトランプの列が連なる。蒲生誠は、その最後尾の車両にいた。腕時計を見ると
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花火

花火の見物客でごったがえす隅田川沿いに、赤いパトランプの列が連なる。
蒲生誠は、その最後尾の車両にいた。
腕時計を見ると、もう七時をまわっている。やはり、こんな混雑状況では間に合わなかった。
運転席の制服警官に、蒲生はきいた。「あとどれぐらいだ?」
「すぐそこなんですが、動けません。スターマインが終わるまでは、車両が通行止めになっているようで」
「緊急車両が通行できなくてどうする」蒲生は吐き捨てて、ドアを開け放った。「行くぞ。運転している者以外はつづけ」
制服警官があわてて無線マイクを手にとる。蒲生は人を掻《か》き分けながら前方へと進んだ。
川岸までくると、そこにはロープが張ってあり、警備員が立っていた。階段を降りていくと、桟橋の向こうにみえる小さな島が花火の発射地点になっているようだった。
ロープをくぐり、階段を駆け降りていった。背後からどたばたと足音がする。警官たちが、後につづいていた。
桟橋を渡って、島にたどり着く。火薬のにおいが鼻をついた。倉庫がわりになっているテントを抜けると、そこは無数の発射管が立ち並ぶ場所だった。
目を凝らすと、職人たちのなかに、この場に似つかわしくない人間がいた。
ノウレッジ出版社長、油谷尊之が、そのでっぷり太った身体をだらしなく投げだして座り込んでいた。
岬美由紀の姿は、そのすぐ近くにあった。
薄汚れたその姿は、かつて中国で追われる身になった日々のことを蒲生に思い起こさせた。あのときも美由紀は、わが身を省みず奔走し、傷つき、倒れながらも、目的を果たすまであきらめることはなかった。
だが……。これは臨床心理士にふさわしからぬ暴走行為に違いない。
まずは、美由紀よりも先に身柄を拘束すべき人物がいる。美由紀から捜査本部宛に届いたメールをもとに、ノウレッジ出版に対する家宅捜索がおこなわれた。すでに経営者の逮捕状も出ている。
つかつかと油谷のもとに向かい、蒲生は告げた。「油谷尊之。殺人未遂などの容疑で逮捕する」
油谷は呆然としたまま、身動きひとつしなかった。
蒲生は私服警官に合図した。捜査一課の同僚が蒲生に代わって油谷に近づき、手錠をかけた。
職人たちがなにごとかと立ちすくんでいる。花火の発射は中断していた。
静寂のなか、蒲生が振りかえると、美由紀は無言でそこに立っていた。
真っ黒に汚れ、傷だらけになった顔はうつむき、力のない瞳《ひとみ》が虚空をさまよっている。
「美由紀」蒲生は声をかけた。「だいじょうぶか?」
「……蒲生さん」美由紀はつぶやいた。「爆発物の一尺玉は、7番の箱にあるわ」
「わかった」蒲生は、近くにいた制服警官に伝えた。「7番だ」
警官らが証拠品を押さえに駆けていく。蒲生はそれを見送ってから、美由紀に向き直った。
と、美由紀は力尽きたかのように目を閉じ、前のめりに倒れてきた。
蒲生はあわててそれを抱きとめた。「おい、美由紀! ……救急車を呼べ。早く」
美由紀は失神してはいないようだったが、ひどく呼吸が荒かった。
その額に手をあててみる。かなりの熱だった。
ため息をつきながら、蒲生は美由紀を抱きかかえて、桟橋のほうに歩きだした。
たったひとりの女性の無念を晴らすことに始まり、次々と浮かびあがる疑惑のすべてを解明しようとして、遂に凶悪犯罪を未然に防ぎ、諸悪の根源となっていた人物を逮捕させるに至った。すさまじいまでの執念だ。
だが問題は、その執念の行方だ。あまりにも過激すぎる。
上空には、別の発射地点から打ち上げられた花火がひらいていた。わずかに遅れて、音が地上に届く。そのタイムラグがなぜか恨めしかった。俺たちが真実に気づきうるのも、常に時間差を経てのことだ。これでは、美由紀の命をすり減らさせているようなものだ。警察組織は、なんの役にも立ってはいない。
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