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千里眼161

时间: 2020-05-27    进入日语论坛
核心提示:エンブレム八木信弘は、商店街に歩を進めると、向こうからやってくるディクシー・ヒックス大尉に一礼をした。住民たちがぞろぞろ
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エンブレム

八木信弘は、商店街に歩を進めると、向こうからやってくるディクシー・ヒックス大尉に一礼をした。
住民たちがぞろぞろと薬局に向かう。ヒックス大尉もその流れに加わった。八木も歩調を合わせた。
「そこに逃げこんだのか?」ヒックスが日本語で聞いてきた。
「ええ。息も絶えだえでしたから、もうどこにも行けんでしょう」
「女はいつ来た?」
「ついさっきです。防衛大の出身とかいうので、怪しいと思ってました。それでお知らせしたんです」
ふん、とヒックスは鼻を鳴らした。「すぐに団地に行ってみてよかった。あの女、もう畳の下のストックを見つけてたからな。油断ならんよ」
「まったくです。間に合ってよかった」八木はいった。
ここでの生活を脅かす危険分子が、稀《まれ》に入りこむ。相模原団地をわざわざ尋ねてくる外部の人間などいるはずもない。客なら大尉による仲介を経ているはずだ。
過去十年にふたりほど訪問者があったが、いずれもここから帰ることはなかった。おそらく日本の警察関係者だったのだろう。どれほど怪しまれようとも、彼らは相模原団地を家宅捜索することなどできない。米軍施設の統治下にある植民地のような一画、協力な守護神に守られた町。誰ひとり侵すことは不可能だ。
薬局の前までくると、ヒックスがいった。「先に入れ」
八木は警戒しながら店のなかに歩を進めた。
だが、すぐに取り越し苦労とわかった。岬美由紀なる女は、薬品棚の前で床にのびている。
ヒックスがつかつかとやってきて、岬美由紀の血まみれの腹部を、力強く蹴《け》り飛ばした。
美由紀は無反応だった。顔からは血の気がひき、呼吸もない。
「死んだか?」とヒックスがきいた。
八木はひざまずいて、首すじに手をやった。
脈はかすかに感じられる。体温もあった。
「まだ生きてます」
「殺せ。夜になったら森に埋めて来い。ばらばらに刻んでもかまわん」
「いや、ちょっと待ってください。まずいですよ、それは」
「どうしてだ」
「もうひとり来るって言ってました」
「なんだと?」ヒックスは苦々しそうに美由紀を見おろした。「その連れのほうも防衛大の出身者か? 日本側の犬ということはありえるのか」
「まだわかりません。でも行方不明は厄介ですよ。警視庁ならともかく、防衛省が背後にいた場合は、軍事同盟国として米軍司令部に捜索を要請してくるかもしれません」
ヒックスは唸《うな》った。「なら事故に見せかけることだ。女はクルマで来たのか?」
「ええ。A1団地の前に停まってますよ」
「それをぶつけてから、自動車事故が起きたと保安部に通報しろ。住宅地区内で起きた交通事故に、日本の警察は介入できん。保安部がざっと調べるだけで済む」
「いいアイディアですね。そうします」
「細かいことは薬剤師《ドラギスト》と相談してきめろ。じゃ、私はもう行くぞ。長くここにいたんでは怪しまれる」
踵《きびす》をかえしてヒックスがでていく。代わりに、顔見知りの住民たちが近づいてきた。
八木は美由紀のデニムのポケットをまさぐった。
ほどなく、クルマのキーが見つかった。ランボルギーニのエンブレムが輝いている。
ヒュウと八木は口笛を鳴らした。やむをえないこととはいえ、始末するには惜しいほどの上玉だ。クルマも女も。
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