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千里眼164

时间: 2020-05-27    进入日语论坛
核心提示:コミュニケーション雪村藍は一睡もせず、相模原団地の診療所で朝を迎えた。薬剤師の紀久子は簡易ベッドを用意してくれていたが、
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コミュニケーション

雪村藍は一睡もせず、相模原団地の診療所で朝を迎えた。
薬剤師の紀久子は簡易ベッドを用意してくれていたが、藍は横たわることはなかった。椅子に座り、美由紀の寝顔を見つめつづけていた。
顔から血の気がひいている。昨晩よりもまた、症状が悪化したようだ。
眠っているというより、死んでいるようだった。わずかな痙攣《けいれん》もないし、呼吸しているようすも感じられない。心電図の告げる微弱な鼓動だけが、美由紀の生をかろうじて伝えていた。
夜通し泣き明かしたというのに、まだ涙は枯れなかった。美由紀との思い出が胸に去来するたび、泣きそうになる。疲れた目に涙がしみて痛みが走る。それでも、目を閉じたくはなかった。美由紀の顔をずっと眺めていたい。
部屋の隅で、紀久子が伸びをしながら立ちあがった。「そろそろまた、注射しなきゃね」
紀久子はワゴンテーブルにある注射器を手にとった。夜中に何度も繰り返した作業だ。ほぼ二時間にいちどは注射するべきだろうと紀久子はいっていた。その決まりごとを、彼女はずっと守りつづけている。
薬剤師が注射をしてもいいのだろうか。素朴な疑問が頭をかすめたが、藍はそれ以上考えなかった。米軍施設のなかでは、法律も異なるのかもしれない。
藍はいった。「紀久子さんは……休まなくていいんですか?」
「わたし?」紀久子は笑った。「わたしは平気よ。この団地も高齢者が多くてね。徹夜の看病は日課みたいなものだし」
そうですか、と藍はつぶやいた。
立派な人だ。この診療所の世話になることができたのは、不幸中の幸いかもしれない。
紀久子が美由紀の身体のあちこちに注射をするのを、藍は無言で見守った。
依然として、美由紀はなんの反応もしめさない。
ぼんやりと思ったことを、藍は口にした。「美由紀さんの職場に知らせなきゃ……」
「いえ。それはいけない」
妙に語気を強めて紀久子がいった。
藍は不思議に思ってきいた。「どうして?」
「……ここで携帯電話を使っちゃいけないっていう意味よ。心電図に影響がでるし」
「ああ、それなら気をつけます。だけど、臨床心理士会には連絡をしておくべきかなと思って」
「それならきのうの晩に、ドクターが電話しているはずよ」
「じゃあ……みんなお見舞いに来るかな……」
「無理ね。通行証がないと」
「あ、そっか……」
落胆が襲った。嵯峨や舎利弗はむろん、報《しら》せを聞いて衝撃を受けただろう。すぐにでも駆けつけたいと思ったに違いない。でもそれは叶《かな》わなかった。
友人の由愛香を呼ぶことができないのも心苦しかった。わたしと由愛香にとって、美由紀は命の恩人だ。その美由紀の危機に立ち会えないなんて……。
注射を終えた紀久子は、また椅子に戻り、届いたばかりの新聞の朝刊を読みだした。
美由紀に変化はない。むしろどんどん青ざめていく。
血流をよくするという注射は、効いていないのだろうか。
常に驚異的ともいえる回復力をしめしては医師を驚かせてきた美由紀が、ここまで衰弱するなんて。よほど強烈な脳|震盪《しんとう》を起こしたのだろう。
だが……。
飛びだしてきた子供を避けようとして、道を外れ、木にぶつかった。あの八木という人の説明では、事故はそのように起きたことになる。
昨晩にかぎって、どうして美由紀はそんな事故を起こしてしまったのだろう。
美由紀の運転に同乗したことは何度もある。ガヤルドの助手席にも乗った。自衛隊で戦闘機に乗っていたという美由紀の動体視力は並外れていて、運転技術も抜群だった。
そんな美由紀も、いつも飛ばしているわけではない。普段は法定速度を遵守していたし、馴染《なじ》みのない道では徐行を欠かさなかった。
団地の前の生活道路を猛スピードで駆け抜け、子供の飛びだしに気づくのが遅れ、ハンドル操作を誤る。どれも想像できない。
いや。ありえない。
事故は、ほかに理由があるのではないのか。脳震盪という医師の見立ても、百パーセント正しいというわけではないのかもしれない。
だが藍は、そのことを紀久子に問いただすのは憚《はばか》られると思った。紀久子は親身になってくれているし、基地のドクターに絶大の信頼を置いているようだ。彼女の思いを否定したくはない。
そうはいっても、診断の是非が気になる。
壁ぎわの棚に目を向けた。医学書が並んでいる。
藍は立ちあがり、その棚に向かった。
紀久子がきいた。「なにか?」
「いえ……。時間を潰《つぶ》せるものはないかなと思って」
「新聞読む?」
「それより、このあたりの本を読んでもいいですか?」
「いいけど、専門書ばかりだしね。面白いものはないと思うわよ」紀久子はそういって、新聞に目を戻した。
最新医学用語辞典、その書名の分厚い本を、藍は引き抜いた。
椅子に戻って、その本を膝《ひざ》の上に置く。
そのとき、藍はなぜか美由紀に変わったところがあるように感じた。
だが、目を凝らしても、美由紀の容態に変化はない。
どうしたのだろう。わたしは何に違和感を覚えたのか。
しばらく考えたが、理由は思い当たらなかった。
気のせいかもしれない。藍は本のページを繰った。
調べたいことはただひとつだけだ。脳震盪。藍はその語句について記載してあるページを探した。
あった。脳震盪。
 頭部に強いショックを与えたことにより、頭蓋《ずがい》骨内で脳が急激に揺れ、その衝撃のせいで起きる脳細胞の損傷。一時的な意識障害も伴う。最初の脳震盪から短期間のうちに二度目の脳震盪が起きた場合、かなり深刻である。これをセカンド・インパクト・シンドロームという。
 説明どおりの記載だった。やはりドクターに間違いはないのか。美由紀の症状は脳震盪なのだろうか。
藍はさらに読み進めた。
 受傷直後から意識の戻らないときは、脳|挫傷《ざしよう》と診断される。一方、徐々に意識の状態が悪くなるときは、頭蓋内|血腫《けつしゆ》疑と考えられる。セカンド・インパクト・シンドロームも含め、いずれのケースにおいても、ただちに救急車で病院へ搬送せねばならない。
 おかしい、と藍は思った。
絶対安静にして、動かしてはいけない症状のはずではなかったのか。ただの脳震盪ではなく、セカンド・インパクト・シンドロームと紀久子はいった。しかし、この医学書にはその場合も搬送すべきと書いてある。
紀久子に尋ねてみるべきか。
いや。彼女自身が口にしたことを疑ってみたところで、彼女は主張を曲げないだろう。
問題はなぜ、そんな主張をしたかだ。
医学書にはほかにも気になる記載があった。
 昏睡《こんすい》、麻痺《まひ》、呼吸異常にまで及ぶ深刻な症状の場合は、最初の外傷または内部の脳ヘルニアに起因すると考えられ、早急な治療が必要である。この状況においては脳幹に圧力が加わっていて、血圧は上昇し、脈拍は呼吸数とともに減少の一途をたどる。これをクッシング現象と呼ぶ。
 これについては、なんら奇異に思えるところはない。美由紀はこの深刻な状況に陥っている。昨晩からずっとそうだった。
にもかかわらず、藍はなぜか胸騒ぎを覚えていた。
なぜ気にかかるのだろう。この文章がどこかおかしいと感じる自分がいる。わたしはどんなことに警戒心を働かせているのか。
ぼんやりと考えるうちに、藍のなかで注意を喚起するものがあった。
音だ。
心電図が告げている音。つまり美由紀の脈拍。テンポが速くなっている。
藍は医学書の文面をふたたび見つめた。脈拍は呼吸数とともに減少の一途をたどる。
少なくとも、この一文だけは事実に当てはまっていない。
しばらく心電図の電子音に聞きいっていると、その音の鳴る間隔はしだいに遅くなっていった。
心拍がゆっくりとしたものになる。
医学書のいうクッシング現象なるものが起きているのだろうか。
ところが、変移はそれに留まらなかった。スローペースで安定していた脈拍は、またしだいに上がっていき、さっきと同じような速いテンポを刻みだした。
このテンポ、どこかで……。
ふいに近くで、紀久子の声が飛んだ。「なにを読んでるの?」
藍はびくっとして振りかえった。紀久子がすぐ後ろに立っていた。
「ああ」藍は笑って見せた。「読んでいるっていうより、写真を見てただけ……。文章は小難しくて、よくわからないから」
「そう。エグい写真がいっぱいでしょ。手術中の写真なら、ほかにもいい本があるわよ」
「あのう……紀久子さん」
「なに?」
「お腹、すいちゃって。きのうから何も食べてないし」
「食事要る? って何度も聞いたのに。返事しないから、食器ごと引き揚げちゃったわよ」
「ごめんなさい……。全然気がつかなかった。いまになってやっと、食べなきゃいけないって実感してます……」
「いいわ。ちょっと待ってて。喫茶の女将《おかみ》に何か作ってもらうから」紀久子は戸口に向かっていった。
「どうもすみません。ありがとうございます」
紀久子が扉を開けて、廊下に出ていく。後ろ手に、扉を閉めた。
足音が遠ざかっていく。
静かになってから、藍は美由紀に顔を近づけた。指先で美由紀の手首にそっと触れ、脈をとる。
やはり。あのときのペースと同じだ。
「美由紀さん。聞こえてる? わたしの勘違いかもしれないけど……。美由紀さん、わたしの部屋で自律訓練法の効果を見せてくれたよね? 脈を自在に落としたりして……。医学辞典には、脳|震盪《しんとう》でこんなふうに脈が速まったり遅くなったりはしないって書いてある。ひょっとして、意識があるんじゃないの? もしそうなら、いまから脈を遅くしてみて」
藍は美由紀の脈をとりながら、しばし待った。
ほどなく、指先に感じる脈拍はペースを落としていった。心電図の電子音も同様に、ゆっくりしたものになる。
その衝撃は、昨晩の事故を知ったときのショックをも上まわるものだった。
咳《せき》こみながら藍はきいた。「ねえ、美由紀さん! なぜこんなことになったの? 本当に事故を起こした? もしそうなら、脈を速めて。事故以外に理由があるなら、このままの脈を保って」
しばらく待ったが、心拍のインターバルに変化はなかった。
さっきの脈のスピードの緩急が自然現象だったとしたなら、いま不変でありつづけているのはおかしい。やはり美由紀は、わたしの問いかけに答えている。
「ほかの病気? じゃなくて、誰かにやられたの? いえ、そんなんじゃ答えられないよね。ええと……。あの薬剤師の紀久子さんって人、信用できる? そうなら脈を速く。違うならそのまま」
美由紀の脈拍は変わらなかった。
「ここに信用できる人はいる? 団地に助けを求められそうな人は?」
なおも心電図の電子音のペースは変化がない。
「どうしよう……。警察に通報するべきなのかな? もしそうなら脈を速めて」
だが、美由紀の脈は依然としてあがらなかった。
「どうしてよ。通報するのが駄目なの? ……そっか、米軍基地だもんね。警察でどうなるもんでもないか……。じゃ、美由紀さん。わたしにできることはありそう?」
その問いかけの直後に、電子音は速くなった。
「あるのね。なにができるの? ええと、どう聞けばいいのかな……。わたし、荷物も少ししか持ってないけど、なにかを使うとしたらどれ?」
藍はハンドバッグをひっくりかえし、膝《ひざ》の上に中身をぶちまけた。
「いったん脈拍を遅くしてみて。まず財布。クレジットカードにキャッシュカード、免許証とお金が少々あるよ。これらのどれかが役に立つ?」
美由紀の心拍のペースは遅くなったまま、変化をしめさなかった。
「財布は違うのね。次、電子手帳。PDAでデータ交換ができるのと、中身は……暇つぶし用のギャラガと、料理のレシピぐらいしかインストールしてないけど。これはどう?」
またしても脈のテンポはあがらない。
「じゃあ次。デジカメ。あのウェイターにネット犯罪を白状させたときの、間抜けな証拠写真が記録に残ってるけど……」
突如として、脈拍は速く刻みだした。電子音のペースはみるみるうちにあがっていく。
「デジカメを使うのね? でも何に使うの? ええと、5W1Hに当てはめて考えてみると……いつ、ってのは、今しかないよね。どこで、ってのは、どこだろ? この部屋?」
脈がゆっくりした速度に戻っていく。
「違うのか」藍は立ちあがった。壁に掛かった団地内の地図を見やる。「誰か住人の部屋?」
変化がない。
「じゃあ商店街とか?」
いきなり電子音が速くなった。
藍は、美由紀とのコミュニケーションに自信を深めつつあった。場所についても絞りこめそうだ。
地図に載っているテナントの店舗は七軒。藍はそれを順に読みあげていった。
リサイクルショップ。喫茶店。食料品店。書店。理髪店。雑貨店……。
いずれも反応がなかった。最後の店舗を口にする。薬局。
美由紀の脈拍はピッチをあげて、電子音をリズミカルに刻んだ。
思わず笑みが漏れる。藍はいった。「薬局ね!」
と、そのとき、いきなり扉が開いた。
紀久子が買い物袋をさげて入ってきた。その顔に、不信のいろが浮かんでいる。鋭い目が藍を、次いで美由紀をとらえた。
「話し声がしたようだけど」紀久子がきいてきた。「なにを喋《しやべ》ってたの?」
「べつに……。この地図を見てただけ。ひとりごとが声にでちゃってたね。ごめんなさい」
ふうん。紀久子は疑わしそうに藍を見やると、美由紀のベッドに近づいた。
すでに心電図の電子音はゆっくりしたものに戻っている。美由紀の外見にも変化はない。
しばらくのあいだ紀久子は、美由紀を眺めまわすように観察していたが、やがて藍を振りかえった。「サンドイッチを貰《もら》ってきたわよ。コーヒーも」
「わあ。ありがとう。……ねえ、紀久子さん。それ食べたら、商店街のほうを見に行ってもいい?」
「……なぜ? お友達を見ていなくていいの?」
「ここにいても、どうなるものでもないし……。この地図見ると、本屋さんもありそうだから、なにか読む物を探そうかなと思って」
「発売日より二日遅れの週刊誌と、埃《ほこり》をかぶった文庫本ぐらいしか置いてないけどね。まあ、それでよければ行ってみたら? でも団地のなかには入らないでね。住んでる人がいるし、夜勤の人なんかはこの時間に休んだりしてるから、足音だけでも迷惑なの」
「わかりました」藍は、紀久子が差しだしたコーヒーを受けとった。「いただきます」
本当はここに美由紀を置いていきたくはない。でもこれは美由紀が指示したことだ。場所は薬局、使う物はデジカメ。そこに事態を打開するヒントがある。
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