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千里眼168

时间: 2020-05-27    进入日语论坛
核心提示:イミテーション藍《あい》は団地の診療所に戻っていた。美由紀《みゆき》の容態には、依然として変化はない。いや、そうではない
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イミテーション

藍《あい》は団地の診療所に戻っていた。
美由紀《みゆき》の容態には、依然として変化はない。
いや、そうではない。衰弱が激しい。肌は昨晩よりもずっと青ざめていて、血管が浮きだしている。生気を失ってきているようだ。
瞼《まぶた》は開くこともなければ、ぴくりと痙攣《けいれん》することもない。
なぜこんなに衰えていくのだろう。動けなくする以外に、なにか施されているのか。
点滴用のビンが、藍の注意をひいた。
この液体が……。
薬剤師の紀久子《きくこ》が立ちあがって、美由紀に歩み寄った。「さあ。また注射の時間ね」
「あ、あの。紀久子さん」
「なに?」
「その注射、血流をよくするためって言ってましたよね?」
「そうよ。彼女のようすを見てわからない? この状態をなんとか維持できているのは、定期的に注射しているからよ」
「じゃあ、こっちは? この点滴のほう」
「高カロリー輸液よ。食事をとれない患者の生命維持のために、栄養を供給するの。高濃度のブドウ糖とかアミノ酸とかが含まれてるのよ」
「……いちど、外してもらうことはできないでしょうか」
「点滴を?」紀久子は眉間《みけん》に皺《しわ》を寄せた。「どうして?」
「いえ、そのう、なんだか美由紀さんが弱ってきているみたいに思えるので」
「だからこそ外すことなんてできないのよ。わかるでしょ? 誰も栄養なしには生きられない」
「でもずいぶん長いこと点滴してるわけですから……」
「点滴ってのはね、ほんの少しずつ薬剤を投与するためにおこなうの。血中薬剤濃度の上昇を抑えて副作用を避けるためにね。だからまだ充分に投与したとは言えないのよ」
「……そうですか。わかりました」
紀久子はやれやれという顔をしながら、注射の準備に入っている。
藍はじれったく思った。紀久子が嘘をついているのはあきらかなのに、作業をやめさせる手段がない。
このままでは美由紀の命が危険に晒《さら》される。あの点滴が決して美由紀のためにならないことは、経過をみれば一目|瞭然《りようぜん》だ。
さいわい、いまはひとりで席をはずすことができそうだった。注射を終えるまで、紀久子はここを出られないだろう。
「外の空気を吸ってきます」と藍は戸口に向かった。
「すぐに戻ってよ」紀久子がいった。「彼女がいつ、どんな状態になるかわからないんだから」
「ええ、ほんの数分ですから」
そういって藍は廊下にでて扉を閉めると、エントランスとは逆方向に歩いた。
階段の辺りはひっそりとしていて、ひとけはない。いまのところ監視が現れるようすもない。
藍は自分の携帯電話を取りだした。
さっき喫茶店で美由紀の携帯電話を手にしたとき、伊吹直哉《いぶきなおや》の電話番号を見ることができた。頭に刻みこんだその番号をプッシュする。090─1763……。
 伊吹は成瀬《なるせ》とともに、ARMSの店内にいた。
「ちょっと」成瀬は目を丸くしていた。「なんでこんな物を買いこむんです」
「さあな。知ったことか」伊吹は商品棚のあいだに延びる通路を行き来しながら、目についた商品を手当たりしだいにカゴに放りこんだ。
カゴのなかは、迷彩服や装備品、モデルガンでいっぱいになっていた。それらはすべて、ある国にちなむ物ばかりだった。
「さて」伊吹はカゴを床に置いて、なかをまさぐった。「だいたい集めたな。じゃ、これ、成瀬の分。そこの試着室で着替えなよ」
迷彩服を押しつけられた成瀬は目を白黒させた。「どういうことなんです。この軍服は……」
「イミテーションだけどよく出来てるな。ニュース映像で観る北朝鮮人民軍の服にうりふたつだ」
「なぜなんですか。どうして僕が北朝鮮軍のコスプレをする必要が……」
「ああ、待て」伊吹はカゴのなかからいくつかの品物を拾った。「それ、ベルトに突起があるだろ? そこにこの四角い手榴弾《しゆりゆうだん》を吊るすんだよ」
「手榴弾……」
「みなよ。変わったかたちの手榴弾だけど、よく再現してあるなぁ。もっとも本物はプラスチックじゃなくて鉄だけどな。このタバコの箱みたいな直方体のなかに、剛球が無数に詰めてあって、他国の手榴弾よりずっと殺傷力があるんだ。ピンを外して投げれば数秒でドカンといく」
「これを、腰に……。でもあの、伊吹さん。僕は……」
「それと、忘れちゃいけない金日成《キムイルソン》バッジ。これ左の胸につけるんだよ。階級章の上にな。あとはモデルガンだな。ええっと、AK47半自動ライフルは基本だが……これガスガンだな。銃口のあたり、マジックインキで黒く塗ってくれるかい? ガスの吸入口だってバレちゃまずいからな」
「バレるって? 誰を欺こうっていうんですか、いったい?」
「知れたことよ。んなもの、米軍にきまってるじゃねえか」
「な……伊吹さん、そんな……」
「だいじょうぶだって。あいつら基地勤務だから、敵兵とかまともに見たことねえし。それと、この筒。なんだかわかるか? RPG7って言って、対戦車ロケットだ」
伊吹は発射ボタンを押してみた。ポコンと音がして、ビニール製の弾が軽く撃ちだされた。
苦笑しながら伊吹はいった。「まあ遠目には玩具《おもちや》ってことはわかりゃしねえよ。ストラップがついてるから、肩から下げろよな。念のため、その対象年齢七歳以上っていうシールだけ剥《は》がしておいてくれ」
「伊吹さん! 僕には無理です。見てわかるでしょう、兵士っていう身体つきでもないし」
「心配するな。痩《や》せてるきみだからこそ、あの国の栄養失調気味のハングリーな兵士たちの雰囲気がばっちり再現できるんだ。絶妙なキャスティングだよ」
「でも……朝鮮語は知りませんし……」
「それは俺もさ。将軍様《チヤングンニム》マンセーとか言ってりゃいいんだよ」
「どうしてこんなことを。攻撃を受けるじゃないですか」
「そこがミソだ。たんなる不法侵入じゃなく、敵国の兵士が殴りこみをかけてきたとあれば、これは侵略だからな。すなわち開戦だ。保安部レベルで判断できる問題じゃなくなる。つまり、司令部の奴らが駆けつける」
「その前に蜂の巣ですよ」
「なら、のたれ死ぬ前に相模原団地とやらに駆けこんで、無理にでも建物を強制捜査させてやる。ほら、さっさと試着室に入れ。防衛大では三十秒で着替える訓練もあるんだぞ」
「とんでもない思いつきですよ」成瀬は泣きそうな顔をしながら、靴を脱いで試着室にあがった。「いったいどういう発想で導きだされた作戦なんですか、これは」
伊吹も隣の試着室に入った。「美由紀と初めて防衛大で顔を合わせたとき、あいつは中国の人民解放軍の制服を着てた」
「防衛大で中国軍の制服? ほんとですか?」
「ああ。自衛隊の歴史に残る珍事だよ。いたずら好きなクラスメートに騙《だま》されたらしいんだな。おかげで警備員に追いまわされるは、海上自衛隊の基地から応援は駆けつけるはで散々だったらしい。あいつがちゃんと防衛学とか戦史について勉強をし始めたのは、それがきっかけだった。二度と騙されないと心に誓ったらしいんだな」
「それなら僕らも中国にしましょうよ。温家宝《おんかほう》首相の訪日以来、友好ムードだし」
「馬鹿、それじゃ効果ねえだろうが。俺たちがアラブ系の顔つきなら最善だったんだが、さすがにイラク兵は無理があるってことで北朝鮮で妥協ってことだ」
「充分に危険だと思いますけどね……。ああ、やだな……」
伊吹は上着を脱いで迷彩服に着替えようとした。そのとき、上着のポケットに入っている携帯電話の振動に気づいた。
電話にでて伊吹はいった。「はい?」
「あ、伊吹さん」女のささやく声がした。「雪村藍です。さっきから何度も電話してるんですけど……」
「そうだったのか、すまない。取り込み中だったんでね。いまどうなってる?」
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