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千里眼186

时间: 2020-05-27    进入日语论坛
核心提示:陽射し雨がやみ、榛名湖畔の夜が明けようとしていた。雲に覆われた空も、少しずつ明るんできている。蒲生は、青陵荘なるログハウ
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陽射し

雨がやみ、榛名湖畔の夜が明けようとしていた。雲に覆われた空も、少しずつ明るんできている。
蒲生は、青陵荘なるログハウスの入り口の短い階段に座り、SATの隊員でごったがえす駐車場広場を眺めていた。
護送車が何台も連なっている。最近の護送車は目立たない外観になっているが、きょうは昔ながらのバス型、赤色灯のついたタイプが引っ張りだされている。地方の警察署だけに、大量の容疑者を逮捕する状況自体がめずらしく、ほかに対処のしようがなかったのだろう。
仁井川が雇っていた、はぐれ暴力団員の類《たぐ》いはほぼ全員が護送車に連れこまれた。残りの連中は救急車だ。じきに何人かは霊柩《れいきゆう》車に乗り替えることになるだろう。
このログハウスにいた老婦も逮捕された。群馬を中心に粗悪なヘロインが出回っているという噂は前から聞いていたが、おそらくこれで元は絶たれたろう。仁井川がいなくなった後、こんな僻地《へきち》で犯罪を継承しようとする輩《やから》もいまい。
身体のあちこちが痛い。怪我をしたわけではないが、歳のせいかもしれない。東京に戻るころには、いっそう筋肉痛が激しくなるだろう。
SATで賑《にぎ》わうなかを、ひとりの普段着姿の男が近づいてきた。とはいえ、服は煤《すす》で真っ黒になっている。
伊吹は蒲生に近づいてきた。「こっちは終わったね」
「ああ。SATが何人か残ってくれるみたいだ。美由紀の捜索に手を貸してくれるらしい」
「明るくなってくるから、わりと見つかりやすいだろう。立てるかい、蒲生さん」
「馬鹿にすんな」蒲生は関節の痛みを堪《こら》えながら立ちあがった。「警察としちゃ、きみにも話を聞かなきゃならん」
「どうしてだよ? 捜査に手を貸したぜ?」
「きみのやったことが捜査か? ローカル線の駅で発砲、この山頂でも発砲。自衛隊ってのは年々、無謀な若者ばかりを増やす傾向にあるんだな。上官の顔を拝んでみたいよ」
「あんたもだよ、蒲生さん」
「何?」
「管轄違いの群馬の山奥にまで飛んできて、SAT引き連れて救出劇とはね。管理官クラスが了承したとは思えねえな」
「知るかよ。……まあ、無謀なのはお互い様ってことか」
「だろ?」と伊吹がにやりとした。
ふん。蒲生は鼻で笑った。
この伊吹という男に、美由紀がなぜ信頼を寄せるか、その理由を蒲生はよくわかっていた。体制に与《くみ》せず、自分自身を貫く男だ。宮仕えの身でありながら、必ずしも上の命令に従おうとしない。何が正しいかは自分できめる。
自分で判断できなくなったら、人は人でなくなる。美由紀はその葛藤《かつとう》とともに生きてきた。だから、迷いのない男に惹《ひ》かれるのだろう。世間ではそれを馬鹿呼ばわりすることも、しばしばあるが。
ということは、俺もその馬鹿の類いなのだろう。美由紀のためなら、すべてを棒に振ってもかまわないと思っていた。その信念が一度も揺らいだことはなかった。
「さあ」伊吹がいった。「行こうか。捜索にかかろうぜ」
「そうだな」と蒲生は歩きだした。
そのとき、SATの群れからどよめきがあがった。
隊員たちが二手に分かれ、その合間を、一台のバギーカーが徐行してくる。
泥まみれの三人が、そのバギーカーの上にいた。
蒲生はぎょっとした。運転しているのは、ほかならぬ美由紀だ。
その隣には、ひとりの男がぐったりとしてシートの背に身をあずけている。仁井川章介だった。
さらに、美由紀の後ろには名も知れない幼女の姿があった。疲れきったようすの幼女は、ただうつむき黙りこくっていた。
バギーカーを停めると、美由紀は仁井川を地面に蹴《け》り落とした。
仁井川は瀕死も同然の状態だった。抵抗するだけの力も残されていないらしく、脱力して泥のなかに寝そべった。
美由紀はバギーから降りると、その仁井川の襟首をつかんで引き立たせた。ずるずるとSATの隊長のもとに引きずっていくと、美由紀はいった。「仁井川章介をお引き渡しします」
隊長は面食らったようすだったが、すぐに部下に合図をした。隊員たちが仁井川の確保にかかる。
連れ帰った。美由紀が仁井川を生きたまま捕え、警察に引き渡した。
「美由紀」と伊吹が駆けだそうとした。
だが蒲生は、さっと手をあげて伊吹を制した。
伊吹は、妙な顔をして蒲生を見た。
蒲生は、美由紀のほうに顎《あご》をしゃくった。いまは、邪魔をしてはいけないときだとわかるはずだ。
仁井川をSATに預けた美由紀は、おぼつかない足どりでバギーに戻っていく。
そこには、ひとりの幼女がたたずんでいた。
泥にまみれた幼女は、ただひたすらに泣きじゃくっている。
美由紀は、幼女の前にひざまずくと、その小さな身体をそっと抱き締めた。
誰も、ふたりに近づこうとしない。声をかけることも、いまは不可能に思えた。
幼女は泣きながら、美由紀にささやいた。「どうして殺さないの……?」
美由紀は震える声で答えた。「駄目よ。殺すなんて……。あなたは、あいつらみたいな人間じゃないの。それに、わたしみたいになってもいけない。わたしみたいに汚れちゃいけないのよ……」
どんなふうに心が通い合っているのか、それは当事者でなければわからない。
だが蒲生には、おぼろげに判ることがあった。
罪人にみずから裁きを下す道を、美由紀は選ばなかった。
あの幼女のためだろう。幼女にはこれからの人生がある。復讐《ふくしゆう》心と無念の怒りを抱いて生きることが、どれだけ険しい道かを美由紀は悟っているのだから。
雨雲は消えうせ、青い空がのぞいていた。まばゆいばかりの朝の陽射しが、湖畔にたたずむ人の群れに長い影を描いている。そのなかで、美由紀の横顔は白く輝いていた。太陽が宿ったかのように。
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