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千里眼189

时间: 2020-05-27    进入日语论坛
核心提示:新たな生命東京地裁の判決が下る日、嵯峨敏也は傍聴席にいた。当初の予定よりもずっと裁判は長びき、この日まで八か月を要した。
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新たな生命

東京地裁の判決が下る日、嵯峨敏也は傍聴席にいた。
当初の予定よりもずっと裁判は長びき、この日まで八か月を要した。被告人である岬美由紀が、公判が始まってからも刑事告訴を受ける事態がつづいたせいだった。
だがそれによって明らかになった事実も含めて、嵯峨の精神鑑定報告書は完成し、提出された。
秋ごろに二度面接したあと、岬美由紀とは会っていなかった。ひさしぶりに見る彼女は、白いブラウスをまとい、髪を少し短くしていた。血色がよく、以前と変わらない美しさを纏《まと》っている。
それでもその瞳《ひとみ》は、終始うつむきがちだった。不安のいろも隠せずにいる。
いまも彼女は、胸が張り裂けそうなほどの孤独感にさいなまれているに違いない。彼女はいつも孤立を余儀なくされてきた。かつては社会に相容《あいい》れない反抗心のせいで、そしていまは、その類《たぐ》い稀《まれ》なる能力のせいで。
この日、傍聴席に蒲生警部補は来ていたが、伊吹一等空尉の姿はなかった。アラート待機という、二十四時間装備品を着けっぱなしで出撃命令に備える、そんな日に当たるらしかった。
控え室で、伊吹欠席の知らせを聞いた美由紀は、そう、とつぶやいただけだった。
傍聴席には雪村藍も来ていた。彼女の経過は、美由紀よりもずっと良好で、問題なく社会復帰して勤め先のソフトウェア関連企業に通う毎日だった。不潔恐怖症の再発もない。
取り調べの警察官や検事も驚いていたが、藍の相模原団地における機転と判断は素晴らしいものだった。彼女がいなかったら、美由紀の命も失われていたかもしれない。神経症だった藍があれほどの大胆さを発揮したことは、臨床心理学的にも非常に興味深い事例に思えた。
おそらく藍は、冠摩《カンマ》事件でいちど命を落としかけてから、生まれ変わった気分で人生をやり直すことができたのだろう。大胆さは、美由紀の影響もあって備わったのかもしれない。藍は自分の命の恩人だった美由紀を救うことに、なんの躊躇《ちゆうちよ》もしめさなかった。彼女たちは、深い友情の絆《きずな》で結ばれている。藍は今回の事件で精神的に不安定になるどころか、より一層の強さを得たように感じられた。
一方の美由紀は、この八か月間は臨床心理士としての業務に就くことも許されず、舎利弗と一緒に事務局の留守を預かったり、雑務に従事したりしていた。事件で受けたショックからは回復のきざしがうかがえたものの、その目標のない毎日によって覇気が失われていくことが心配だった。世間と関わらずにいたのでは、彼女の真価は発揮されない。嵯峨はそのことも報告書に付け加えていた。
判決は、主文が後にまわされ、数々の事件の証拠をつぶさに検証することから始まった。
刑事告訴を受けたのは、嵩原利行防衛省職員や油谷尊之ノウレッジ出版社長、およびその社員、仁井川章介とその一味の者たちに対する暴行、脅迫、そしてそれらの者が所有する建造物に対する不法侵入のほか、器物損壊、交通違反、銃刀法違反などで、併せて三十六の容疑にあたることがわかった。
むろん、それらの被害者は、同時に加害者でもあり、それぞれが裁判で罪を追及されている立場だ。ただし、民間人であるはずの岬美由紀が、彼らに率先して制裁を加えることが許されているわけではない。たとえ相手が同情の余地のない犯罪者であろうと、問答無用の暴力に打ってでることは許されない。
これまでにも美由紀は、警察よりも一歩先んじるような行動力を発揮し、事件そのものを解決に導きながらも、こうした訴えの数々を引き起こされたことがあった。ただし、情状が酌量され無罪になった従来のケースと違い、今回は公判中の出来事だ。美由紀の暴走も、あきらかに度が過ぎているうえに、そもそも事態の緊急性に欠ける。裁判長はそう断じた。
すなわち、都心がテロリストによる軍事的脅威に晒《さら》された東京湾観音事件や、大勢の生徒が犠牲になる危険があった氏神高校事件などとは異なり、嵩原に対しての暴力行為は美由紀の極めて私的な衝動に端を発するものであり、被害者女性だった畔取直子にとって必ずしも必要な救済措置ではなかった。
油谷の隅田川花火大会における一種のテロ行為を防いだことや、仁井川が監禁していた幼女たちを救い得たことは、美由紀の暴走の連鎖の結果、成り行き上発覚した事件であり、美由紀の行動すべてを善意あるものとしてみることはできない、と裁判長は告げた。
美由紀の捜査力は、その秀逸な能力と数々の事件を解決した成果から、警察の捜査力を上まわっている可能性があることは認めざるをえないが、やはり警察組織内の人間ではなく、一連の行動の結果が多くの犯罪者の摘発に貢献し犯罪行為の阻止につながったとしても、警察と同様の特権的な捜査権を認めるわけにはいかない。
嵯峨は裁判長の言葉を聞きながら、心拍が速まるのを感じていた。てのひらにも汗がにじむ。
美由紀が犯罪を暴いたという社会貢献の成果は、減刑のための対象とならなかった。まさか、有罪が確定してしまうのだろうか。
しかしながら、と裁判長はいった。
相模原団地から押収された証拠と、榛名湖の仁井川の隠れ家で発覚した状況から、被告人が四歳までのあいだに性的搾取目的で仁井川に買われ、物心ついたときには想像を絶する地獄のなかにいたことは明白である。幼児期における自我の確立、自意識の芽生えに与えた影響は大きく、このため被告人は複雑性PTSDに苦しむこととなり、他者との健全なコミュニケーションを身につける機会を失い、精神面のアンバランスさから社会的孤立を余儀なくされた。
友里佐知子による脳手術の痕跡《こんせき》は医学的検査で発見され、現在、被告人が心のバランスを表層上でも保つことができているのは、仁井川によってなされた忌むべき恐ろしい行為の記憶を物理的・強制的に絶たれているからである。
同時に、仮に幼少の記憶が存続していれば、被告人はみずからの暴走行為を複雑性PTSDと解離性障害によるものと自覚できた可能性があるが、引き金となる事態を想起できなくなっていた以上、この点に被告人の責任があるとは考えられない。
裁判長はいった。被告人の痛ましい過去とそれによって生じた症例が明らかでなかったこれまでのケースにおいて、被告人の暴走行為の発端には責任能力はない。
よって、被告人を無罪とする。
ただし、と裁判長は付け加えた。症例がわかった現在以降は、いかに善意に基づいた行動だったとしても、暴力に訴えたり不法侵入や器物損壊に及ぶのを見過ごすわけにはいかない。肝に銘じておくように。
法廷内は、主文が読みあげられる直前から、ざわめきだしていた。無罪となることが色濃く思えたからだろう。そして、判決が下されたとき、歓声に似た声と拍手が湧き起こった。
蒲生はほっとしたように目を閉じていた。藍は立ちあがって手を叩《たた》いていた。
嵯峨は美由紀を見つめた。美由紀は、深いため息をついた。それだけだった。
判決文を読み終えてから、裁判長は美由紀に声をかけた。「岬さん」
「……はい」と美由紀は応じた。
「司法に携わる者として、あなたと同じ能力が私に備わってたら、そう思わない日はありません。おそらく弁護人、検察人、両者が同じ思いを抱いているはずです」
静寂が法廷のなかにひろがった。
裁判長は穏やかにいった。「けれども、仮に私が千里眼と呼ばれるほどの能力の持ち主だったとして、人の顔を見て嘘かどうかを見抜けたとしても、私はそれだけで判決文を書くことはできません。たとえ私が過去の百の裁判で信頼に足る判決を下してきたとしても、百一回目の裁判で、私がそう信じるからという理由だけで、被告人の有罪無罪を決めることはできないのです。わかりますね?」
「ええ」美由紀は小さくうなずいた。「よくわかります」
「あなたひとりだけは、真実が見抜ける。ほかの誰もわからないことが、あなたにはわかる。……どれほどのジレンマを抱え、どんなに孤独を感じるか、私には想像もつきません。それでも、あなたが幼少のころに背負わされた苦難を考えれば、これまでのことは仕方がなかったといえるでしょう。両親と信じていた人たちと、実は血のつながりがなかった。本当の親の顔はわからない。誰も頼れないというあなたの絶望を、少しは理解できるつもりです」
美由紀はかすかに瞳《ひとみ》を潤ませ、また目を伏せた。「はい……」
「ただし、岬さん。あなたはこの国に生まれ、この国に育った。ひとりの国民として、義務と責任を負っています。是非あなたの能力を、法治国家のルールに沿いつつ役立ててください。過酷な過去を背負いながら、いえ、背負っているがゆえかもしれませんが、あなたが善意と愛に満ちた心の持ち主であることを私たちは知っています。あなたの助けを必要としている人は、大勢います。これからも、人々のために生きてください。私たちは決してあなたの妨げになる存在ではない。正当な理由があれば、あなたの正義を常に応援します」
裁判長が言葉を切ったとき、傍聴席の人々は、いっせいに立ちあがって拍手をした。
その割れんばかりの拍手と歓声は、まるでコンサートのようだった。
弁護側もそれに同調している。検察側は、しばし呆然《ぼうぜん》としたようすだったが、やがて渋々ながら立ちあがると、やはり手を叩いた。
驚くべき状況だった。
それはこの判決が、血の通わない冷たい法律の哲学に導きだされたものでなく、情に支えられたものであることの証《あかし》に、嵯峨には思えた。
美由紀はぼろぼろと涙をこぼし、身を震わせて泣いていた。
彼女の苦悩の旅はいま、ひとつの区切りを迎えた。嵯峨はそう感じた。行方の見えない二十四年の暗黒の旅路。そこに光がさした。岬美由紀はきょう、生まれ変わった。新たな生命を得て、次の舞台《ステージ》に進むときがきた。
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