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千里眼190

时间: 2020-05-27    进入日语论坛
核心提示:結婚式検察が控訴せず、判決の日をもって岬美由紀の裁判は終結した。その一か月後、穏やかな春の陽射しが降り注ぐ休日。軽井沢の
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結婚式

検察が控訴せず、判決の日をもって岬美由紀の裁判は終結した。
その一か月後、穏やかな春の陽射しが降り注ぐ休日。軽井沢の教会で、伊吹直哉の結婚式が催された。
祭壇の前で、白いタキシード姿で立つ伊吹と、ウェディングドレス姿の花嫁。伊吹の結婚相手を、美由紀は初めて見た。
新婦は予想どおり綺麗《きれい》な人だと美由紀は思った。
ふたりのあいだにはすでに五歳になる息子がいて、結婚式にも同席しているせいか、新婚特有の堅苦しさはなかった。
席を埋め尽くす三〇五飛行隊の面々もリラックスしたようすで、歓声をあげて囃《はや》し立てている。賛美歌を歌うにあたって、誰もその歌詞がわからず困惑したようすをしめすと、伊吹はいった。第七航空団唱歌か君が代にしようぜ。参列者にたちまち、笑いの渦が湧き起こった。
美由紀は、そんな伊吹の現役の仲間たちからは離れて、後方の席に座っていた。
複雑な思いに、ときどき笑顔が凍りつくことを自覚していた。それでも、かつて一度でも恋人と信じた男の幸せを願いたい思いは、純粋に心のなかに存在していた。
指輪が交換され、神前の誓いに至る。新郎と新婦は牧師の前に立った。
牧師が厳かに告げる。良きときも悪きときも、富めるときも貧しきときも、病めるときも健やかなるときも、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、添い遂げることを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?
誓います、と伊吹が告げたとき、美由紀の視線は自然に膝《ひざ》の上におちた。その瞬間から目を逸《そ》らす自分がいた。
そして、膝の上には、涙のしずくが垂れた。水滴がドレスに沁《し》みて消えていくのと同時に、過去の幻想も失《う》せていく。その過程を、ただじっと見つめていた。
 式が終わると、参列者たちは教会から駐車場につづく並木道に歩を進めた。
防衛省がらみの連中は部隊ごとにかたまりをつくっている。臨床心理士組も、やはり一箇所に寄り集まっていた。
美由紀は、その現在の職場の仲間たちと歩調を合わせていた。
雪村藍も一団に加わっていた。「綺麗だったよねぇ、新婦。なんていうか、もうとっくに幸せそうだったね」
「そうだね」と舎利弗がうなずいた。「もう長いつきあいらしいから、息もぴったりって感じだった」
談笑する同僚たちの言葉を聞くたびに、気持ちが沈んでいくのを感じる。美由紀は無言で歩きつづけた。
そんな美由紀の心情を気にかけたのか、嵯峨が声をかけてきた。「美由紀さん。気分はどう? だいじょうぶかい?」
「……ええ。平気よ」
本心では、いまは誰とも話したくなかった。
わたしへの気遣いを、いまはしめしてほしくはない。独りでいるほうが、ずっと心の癒《いや》しになる。
癒し、か。
嫌いな言葉だった。それでもいまは、人が癒しを必要としていた本当の意味を知った気がする。
美由紀の陰気さがうつったのか、周囲を歩く人々は一様に無口になった。
責任を感じて、美由紀はつとめて明るくいった。「伊吹先輩、ダンスは下手だったよね」
気を遣うように同僚たちは大仰に笑った。
舎利弗がいった。「ほんと、音楽とは合ってなかったよね。でも新婦のほうも踊るのは苦手だったみたいだ」
藍も笑いながら甲高い声をあげた。「美由紀さんなら絶対、サマになってたよねぇ」
一同は笑顔を凍りつかせた。
その沈黙に、藍も失言に気づいたらしかった。「あ、あのう。ごめんなさい」
「いいのよ」美由紀は戸惑いがちにいった。「そんなにわたしを気にかけなくても」
と、足ばやに近づいてくる者がいた。
式に出席しながらも、離れた席に座っていた外務省の成瀬史郎が声をかけてきた。「み、岬さん」
「ああ。成瀬君」
「あのう、きょうこれからはどんなご予定で?」
「予定って……別にないわ。まだ事務局のほうの手伝いをつづけてて、臨床心理士の業務に復帰してないの。どうして?」
「その、よければ、ですね」成瀬は緊張の面持ちでいった。「きょうもトゥール・ジャルダンを予約してあるので、ディナーをご一緒できれば、と思いまして」
藍がからかうようにいった。「ダルジャンでしょ」
「あ、そうそう」成瀬は顔を真っ赤にした。「ダルジャン……」
「ったく」藍は笑って、美由紀の腕に抱きついてきた。「成瀬さん、だっけ? 女をデートに誘うなら、最初はもうちょっとリーズナブルで気楽なところに誘わなきゃ。お洒落《しやれ》な店でセンスのよさをアピールするの。いきなりホテルのレストランなんて、ドン引きじゃん」
成瀬はあわてたようすだった。「あ、そ、そうなんですか……?」
笑いが湧くなか、美由紀はひとり複雑な思いにとらわれた。
デートへの誘い……。
わたしに、好意を抱いているということだろうか。
やはりわからない。わたしは、男性の恋愛感情を読みとることはできない。
「あの」美由紀は視線を逸らした。「ごめんなさい。きょうは独りで帰りたくて……」
がっかりした顔を見るのは怖かった。美由紀は背を向けて歩を早めた。落胆の感情は、表情を一瞥《いちべつ》しただけでわかってしまう。成瀬であれ誰であれ、わたしに思いを寄せてくれる人がいるとしたら、彼らのそんな心に触れたくはなかった。
わたしなんかを好きになる人はいない。すべてを理解したら、わたしなんかを……。
「美由紀さん」と嵯峨が声をかけた。
足がとまる。振りかえると、嵯峨が小走りに追いかけてきていた。
「ねえ、美由紀さん……。同僚の徳永良彦《とくながよしひこ》がいつも口癖にしてる学説、信じるかい?」
「え……? どんな学説?」
「愛をつかさどる脳神経の話だよ。以前は自律神経系の中枢である視床下部にあるといわれてたけど、いまでは大脳新皮質の奥に潜む大脳辺縁系のどこかにあるって説が有力。徳永は女の子を誘おうとするたび、その話をしてる」
「ああ……。わたしも一度聞かされたわ。じゃあ、あのとき彼も……」
「いや、徳永がきみに気があるって話をしたかったわけじゃないんだ。きみは多くの人に愛されてるよ。それはたしかなことだ」
「……そうかな。わからない。わたしには」
「どうして?」
「どうしてって、それは……」
「過去の最も嫌な思い出を想起するための回路が、手術によって絶たれたとしても、愛をつかさどる部位は別の場所にあるじゃないか。きみはきっと愛情を感じられるはずだよ。そのうち実感できるようになる」
本心なのか、励ましなのかはわからなかった。美由紀は、嵯峨の顔を見なかったからだった。
表情を見て、感情を読んでしまうのが怖い。言葉の真意を理解したくないときもある。
「ありがとう」と美由紀は微笑してみせた。「でもまだ、いまは必要ないから」
美由紀は、立ち尽くす嵯峨から離れ、ひとり並木道を歩いていった。
人々に戸惑いを残していることに、罪悪感が募る。それでもいまは、独りになりたかった。誰でもそういうときがあるだろう。たとえ臨床心理士という職に就く者だったとしても。
豊かな緑に囲まれた庭園のような駐車場に、オレンジに輝く車体があった。ランボルギーニ・ガヤルド。無事に修理が終わり、板金塗装の痕跡《こんせき》も残さずその美しさを蘇《よみがえ》らせている。
ガヤルドに乗りこみ、ドアを閉める。
またひとりになった。そんな実感があった。
じっとしていると、孤独に胸が張り裂けてしまいそうだ。
エンジンをかけ、アクセルを踏みこむ。圧倒的な加速感にまかせて、美由紀はガヤルドを疾走させた。
東京に戻るころには、きっと涙も枯れることだろう。そうなったらまた、新たな一歩を踏みだせばいい。人生はまだ始まったばかりだ。全身で幸福を受けとめられる日は、きっとくる。それまでは、わたしは人々のために持てる力を役立てていきたい。わたしの生きる道は、そこにしかないのだから。
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