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千里眼191

时间: 2020-05-27    进入日语论坛
核心提示:二か月後ソマリアの首都、モガディシュは長くつづいた内戦のせいで荒廃しきっている。だが、夜明けとともに始まったエチオピア軍
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二か月後

ソマリアの首都、モガディシュは長くつづいた内戦のせいで荒廃しきっている。だが、夜明けとともに始まったエチオピア軍とソマリア暫定《ざんてい》政府軍による空爆には、まだ悲鳴もあがるし、逃げまどう難民たちの姿もある。
百二十万人の市民はまだ数多く生き残っている。元反乱軍のゲリラどももそのなかに隠れている。皆殺しにしてしまえばゲリラを根絶やしにできるわけだが、それでは効率が悪すぎるだろう。
よって、米軍提供のガンシップAC130により奇襲をかけ、抵抗勢力が反撃のために姿を見せた地点にのみ、集中的に攻撃する。法廷会議の残党を一掃するためにも、近海に待機している空母アイゼンハワーからのミサイル攻撃が望ましい。
ジェニファー・レインは戦禍の広がる都市の中心部から、数キロ離れたホテルの屋上にいた。
ここは今回の計画に使用するカンガルーズ・ポケット、すなわち世間の干渉を受けず密《ひそ》かに歴史を操作するための拠点だった。屋上にはあらゆる軍用無線を傍受できるパラボラと電波信号の増幅器、受信機がところ狭しと並び、マインドシーク・コーポレーションの特殊事業推進部から選《え》りすぐりのスタッフたちがオペレーションを進行している。
「局面《フエイズ》48の12」Bランクのスタッフが告げてきた。「エチオピア軍のヘリ四機が新たに駆けつけました。新たな武装勢力が発見されたという、われわれの偽情報が功を奏したようです」
いちいち確かめるまでもなかった。都市のそこかしこにあがる火柱の頻度は増し、爆発はひっきりなしに起きている。ここ数年でも最大の攻撃だろう。
だが、ジェニファーは空爆の見物には飽きていた。手鏡を取りだして自分の顔を眺める。
メイクの乗りもいい。ウェーブのかかった褐色の髪と赤いルージュが純白のスーツと好対照をなしている。
美しい。歴史を操りながら、寸分の汚《けが》れもないわたしの姿は、たとえようもないほどの美に彩られている。
こうして計画が滞りなく進行し、莫大《ぼくだい》な富を本社およびクライアントに齎《もたら》すことを前にして、みずからの美に酔いしれる。まさに至福のときだった。この喜びは誰とも分かち合えない。人類史を超越する職に就き、わたしのように歴史の改ざんを成功させ、わたしのように金を稼ぎ、わたしのように美しい者など、メフィスト・コンサルティング・グループ広しといえど、ふたりといない。わたしは唯一無二の存在なのだ。
Aランクのスタッフが耳もとのイヤホンを押さえながら、振りかえった。「エチオピア軍の無線を傍受しました。アイディード派の残党を一掃。四地区を制圧。住民はほぼ全員が死亡、軍のほうも二十人ほどの犠牲者をだしたようです」
一分間につき約三十人の死者か。ややペースが遅い。これでは正午までに五万人の市民を殺すノルマは果たせない。
ジェニファーは鏡を眺めたままいった。「フェイズ48の13。エチオピア軍のヘリを一機撃墜して、西地区への空爆を強化させて」
「御意に」攻撃操作班のスタッフがTERCOMのオペレーション・システムに向かう。「インヴィジブル7B発射」
数秒もたたないうちに、空中にまばゆいばかりの閃光《せんこう》が走り、真っ赤に燃えるヘリの破片が飛散した。一瞬遅れて爆発音がジェニファーの耳に届いた。
モガディシュの近郊に待機する自走式発射機から、インヴィジブル・インベストメントを纏《まと》った短距離ミサイルを発射し、ゲリラの地上攻撃に見せかけることは実に効率がいい。おかげでエチオピア軍は猛攻を開始した。広場に避難している女子供にすら情け容赦なく機銃掃射を浴びせ、爆弾の雨を降らせる。数百人規模の断末魔の悲鳴が混ざり合って聞こえてくるさまは、合唱のように芸術的だ。
満足感に浸っていると、この場で聞こえてくるはずのない男の声がいった。「順調のようだな。やりすぎはよくないが」
一瞬にして不快な気分に引きずりこまれる。ジェニファーは苛立《いらだ》ちを覚えて振り返った。
「グレート・ダビデ」ジェニファーは皮肉っぽく告げた。「グループ内他社の計画現場に現れるなんて、クローネンバーグ・エンタープライズのほうはよほど暇なのかしら」
ぎょろ目の中年イタリア人は、黒いシルクのスーツを着て背後にたたずんでいた。にやついた口もと、ひくつかせた鷲鼻《わしばな》。特別顧問としてはひとつの理想といえる悪魔的な性格を内包して見える、その醜悪な顔つき。
「ふん」とダビデは鼻を鳴らした。「法廷連合はせっかくこの都市の治安を回復させていたのにな。暫定政府軍どもを煽《あお》って大量虐殺か。女の考えることはわからんな」
スタッフたちは一様に緊張し、なかには手をとめて起立している者さえいる。メフィスト・コンサルティングにその人ありといわれた特別顧問ダビデの出現に、誰もが息を呑《の》んでいた。
そんな部下たちの態度が気に障る。ジェニファーは怒鳴った。「持ち場に戻って計画を続行して。命令系統を無視したらこの場で射殺する」
「あいかわらずだな」ダビデはさらに口もとを歪《ゆが》めた。「スパルタばかりじゃ部下は滅入るぜ? 心理戦で世を操るメフィストの特別顧問なら、部下の精神面にも配慮したらどうだ?」
この男は、会う人間によって人格の演じ方を変える。わたしの前ではこんなふうに高飛車な態度をとる。本当の性格はどうなのか、いまだにわからない。セルフマインド・プロテクションが|AAA《トリプルエー》級の特別顧問とあっては、表情から感情を読むこともできない。
だがそれは、ジェニファーのほうも同じだった。ダビデに感情を見抜かれていない自信はある。
ジェニファーはいった。「口出しは無用よ。この都市を法廷連合なんかの自治にまかせられない。米軍とエチオピア軍の分割統治が望ましいのよ」
「っていうより、アラブ首長国連邦と通交を始めた法廷連合を殲滅《せんめつ》して、石油の確保に踏みきろうってんだろ? アメリカはまたしても、戦争でがっぽり儲《もう》かるわけだ」
「マインドシーク・コーポレーションは大統領一族の資本なの。当然でしょ」
「歴史を作っているというよりは、破壊と虐殺、野蛮な過去への回帰だな」
「評論はよしてよ。ダビデ、妨害しようとしても無駄よ。グループ内企業どうしの抗争を、十二人議長《トウエルブ・チエアメン》は認めてない」
「とんでもない。邪魔するつもりはないよ。手だしはいっさいしない。私はただ見物しにきただけだ。性懲りもなく失敗を重ねて、またひとつグループに汚点を残す女の姿をな」
「なに言ってるの?」ジェニファーはせせら笑った。「ダビデ。あいにくだけど、あなたが評価してた岬美由紀が腑抜《ふぬ》けになった以上、わたしの計画は二度と水泡に帰したりしないわ」
「ほう……腑抜けねぇ」
「ええ。あの女は過去を知ったんでしょ? もう立ち直れないわね。裁判でも二度と無茶しないって誓わされたみたいだし」
「たしかにそれは事実だけどな。ジェニファー。きみは人間の原則のひとつを見落としてるぜ?」
「なによ」
「成長だよ」とダビデはいった。「困難な過去を背負った人間は強くなる。きみはそれがわかってない。だから毎度失敗する。同じレベルの失敗をな」
「わたしを侮辱しないでよ」ジェニファーは怒りとともに詰め寄った。「わたしをスカウトしておきながら、教育を放棄したあなたへの報いを思い知るがいいわ。見てなさいよ。わたしはマインドシークをグループ内のトップ企業に……」
ところがそのとき、予期せぬ轟音《ごうおん》とともに、ホテルの屋上は激しく震動した。
はっとして振り返ると、なんとAC130の巨体が黒煙に包まれながら、郊外の砂漠に降下していくではないか。
不時着した機体から乗員があわてたようすで駆けだすのが、蟻の群れのように小さく見えている。
アクシデントはそれだけではなかった。つづけざまに空中爆発が起きた。エチオピア軍のヘリ全機が炎を噴きながら墜落していく。地上に激突する寸前に脱出したパイロットたちの落下傘が開き、空に舞った。
空爆部隊は、たちどころに全滅した。死者はでていないようだが、攻撃力を失った。
なんだ。どういうことだ。こんな状況は考えられない。
ジェニファーはダビデをにらみつけた。「なにをしたの?」
「いったろ。私は手をだしてない。ただ見物しに来ただけだよ。あれをな」
ダビデが顎《あご》をしゃくった空に目を向けたとき、ジェニファーは息を呑んだ。
米海兵隊のAV8Aハリアー戦闘機が頭上から急降下してくる。そのさまは、まさしく襲いかかる猛禽《もうきん》類のようだった。
ハリアーは屋上すれすれにまで降下すると、機首をあげて水平停止飛行に移った。四つのエンジンノズルが真下に向き、すさまじい熱風を噴射する。肌が焼けるほどの暑さとともに、嵐が吹き荒れた。書類が宙に舞い、機材は飛び、パラボラは倒壊した。
米軍のパイロットが、こんな無茶な飛行をするはずがない。何者かが戦闘機を奪取したのだ。
片方の翼をさげたハリアーのキャノピーが開き、パイロットとおぼしき人影が、翼の傾斜を滑り降りてきた。大胆にも、飛行中の機体を空中に放置したまま機を降りた。
主《あるじ》を失ったハリアーは屋上から離れていき、空中を迷走すると、無人地帯の廃墟《はいきよ》ビルに突っこんで大爆発した。
その爆風はホテルの屋上にも達した。突きあげる衝撃とともに、砂埃《すなぼこり》と煙が押し寄せる。視界が遮られ、呼吸すらまともにできない。
咳《せ》きこみながら、ジェニファーは状況を察知しようと目を凝らした。
やがて、薄らいできた煙のなかに、フライトスーツを身につけた女がたたずんでいた。
ジェニファーは殴られたようなショックを受け、愕然《がくぜん》として立ちすくんだ。
そこにいたのは、目が覚めるほどの強烈な美しさを放つ女だった。
美しい……? そんな馬鹿な。わたしは断じて認めない。
ダビデは、いつもその女に向けるピエロのような態度をしめしながらいった。「やってくれるな、美由紀! とうとうカンガルーズ・ポケットにまで入ってきたか」
岬美由紀は醒《さ》めた表情のまま、余裕すら漂わせながらつぶやいた。「カンガルーズ・ポケット? ああ、そう。ここが都市を消失させようとした茶番劇の舞台裏ってわけ。悪いけど、消えるのはあなたたちのほうよ」
「待ってました!」ダビデは大はしゃぎで叫んだ。「日本一!」
「黙って!」ジェニファーは声を張りあげた。
またしてもわたしの計画を打ち破るなんて。どこにそんな精神力が残っていたというのだ。
いや、いま目の前にたたずむ岬美由紀は、以前よりももっと強く……。
認めない。わたしに敵などいない。
「遅かったようね」ジェニファーは虚勢を張った。「いまさら来ても無駄よ。すぐに加勢がくるわ」
だが、美由紀は動じなかった。「眉《まゆ》が上がって真ん中に寄るのを必死で防いで、怯《おび》えているのを隠そうとしてるのね。セルフマインド・プロテクションなんて、所詮《しよせん》そのていどね」
図星を突かれたジェニファーは、ぎくりとして思わず口走った。「ど……どうやってそこまで……」
「わたしに、見抜けない感情なんてないの」美由紀の落ち着き払った声が響いてきた。「千里眼ってよく言われるしね」
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