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千里眼207

时间: 2020-05-28    进入日语论坛
核心提示:学校、友達、日常 小沢知世は視聴覚室で、五十嵐聡の作業を見守っていた。「聡。だいじょうぶ? ずっと休みなしで働いて、疲れ
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学校、友達、日常

 小沢知世は視聴覚室で、五十嵐聡の作業を見守っていた。
「聡。だいじょうぶ? ずっと休みなしで働いて、疲れてるんじゃない?」
五十嵐はパソコンのキーボードを叩きながらつぶやいた。
「僕に限ったことじゃないよ。みんな疲労しきってる。それに、腹もすいてる」
「そうね……。食糧の配給も止まったままだし」
「止まってるんじゃなくて、底をついたんだよ。もうひと切れのパンも残っていないありさまらしい」
「じゃあわたしたち、このまま飢えていくしか……」
「だからさ。飢えないように、みんなが頑張るしかないんだよ」
「頑張るって……いったい何を?」
「さあね。僕も知らないうちに国家の一員にされて、統治官補佐とか言われて、仕事を与えられちまってる。誰もがそんな感じだ。逆らったらバットで天誅《てんちゆう》、独房入り。だから従うしかない」
虚《むな》しさが知世のなかにひろがっていった。
わたしたちはいったい何をしているのだろう。いままで忙しすぎて疑念を抱く暇さえなかった。突然の変革にどう対処しようかと躍起になり、気づいたときには、その状況に順応し従う道を選んでいた。
「わたしたち」知世はささやいた。「これからどうなっちゃうのかな」
「わからないよ……。とりあえずいまは、これが売れてくれないと」
知世はパソコンのモニターを覗きこんだ。「聡が出品したソフトのオークション画面?」
「そう。菊池に指示されたとおり、ネットオークションに出してはみたけどさ……。あんな付け焼刃で仕上げたソフトを欲しがる人いるのかな」
「ニーズはあるわよ。句読点数や文体のクセを数値化して、誰が書いたテキストかを判別するソフトでしょ? 偽メールとかも一瞬で見抜くなんて、わたしだったら絶対買うけどな」
「でも価格、六千円に設定してるんだよ? どうかな」
「きっと大人でも欲しがるわよ。社会人なら六千円ぐらい、どうってことないんじゃない? ……それよりさ、聡」
「ん?」
「このパソコン、いまネットにつながってるんでしょ? メールか掲示板か、外部に助けを求められない?」
「駄目だよ。禁止されてるし……。視聴覚室のパソコンは、職員室でもモニターできるんだよ。ここが学校だったころ、先生たちが生徒の不正使用に気づくことができるようにしてあったんだ。いまも統治官か誰かが見張ってるよ」
「ここが学校だったころ、か……。ずいぶん前のことみたいに言うのね」
「……そりゃ実際、過去だから……」
と、そのとき、パソコン画面に反応が現れた。
ピッ、という音とともに、入札履歴に(1)と点灯した。
知世はあわてていった。「聡! これって……」
「ああ」五十嵐の顔が輝いた。「入札した人がいる。やったよ! 誰かが買ってくれた!」
「よかった! おめでとう、聡」
「ありがとう」と五十嵐は微笑しながら、マウスを操作した。
その横顔を見るうちに、知世は空虚さを深めていく自分に気づいていた。
喜ばしい事態だというのに、なぜわたしはすなおになれないのだろう。聡がわたしから離れていってしまうような気がする。彼だけではない、学校、友達、日常。なにもかもが遠ざかっていった。
わたしにはいったい、何が残されているというのだろう。
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