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千里眼206

时间: 2020-05-28    进入日语论坛
核心提示:独立国の女たち 午後二時すぎ、幡野雪絵は校舎二階の美術室に向かった。そこでは植谷翼のほか、数人の一年生らが机に向かって作
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独立国の女たち

 午後二時すぎ、幡野雪絵は校舎二階の美術室に向かった。
そこでは植谷翼のほか、数人の一年生らが机に向かって作業をしていた。ケント紙にインクで描かれたその漫画の原稿は、印刷されたもののように美しくみえた。
「植谷君。すごいわね、今朝からの作業で、もうこんなに……」
「いえ」植谷は照れ笑いをしながら、Gペンを片手に顔をあげた。「アシスタントが大勢いますから……。こんなにやる気のでる作業は初めてですよ」
「きのうの晩、今中君が言ってた東南アジアの歴史ね? このボロブドゥール遺跡、写真みたいに綺麗《きれい》……。こういうところは、教科書に載ってる写真をコピーして貼りつけてもいいのに」
「いえ。全体のトーンを崩したくないですから。コピーのインクも用紙も貴重品だと菊池さんにも言われてますし。まあ、登場人物の服装なんかは想像が混じってますけど」
「そう。じゃ、頑張ってね。わたしたちに手伝えることがあったら、なんでもいって」
「ありがとうございます」
雪絵は室内の一堂に軽く頭をさげて、美術室をあとにした。
廊下にでると、二年生の男子生徒が緊張した面持ちで駆けてきた。
「あのう」とその生徒はいった。「は……幡野さんですね。行政庁、風紀委員長の……」
「そんなに堅苦しくならないで。あなたは?」
「二年C組の夏木新平《なつきしんぺい》といいます。世界史を漫画にする仕事があるときいて、折りいってご相談が……」
「ああ。希望者はたくさんいるんだけど、いまのところアシスタントは充分足りてるみたいよ」
「いえ。漫画づくりに参加したいというんじゃなく……。視聴覚室のライブラリに、歴史ものの映画がたくさん含まれていることはご存じでしょうか? シーザーとクレオパトラ、三国志もあれば、太平洋戦争がらみの作品もDVDソフトで数多く備わっています」
「そうね。それがどうかした?」
「あれらを世界史の学習のために役立てたらどうかと」
「どうかな……。映画は歴史のほんの一部を映像化してるにすぎないし、時代背景の説明も充分でない場合が多いしね」
「だからそれを、作り変えるんです。複数の作品からシーンやカットを抽出して、編集して、見るだけで世界史の暗記事項が頭に入る物語を作ります」
「そんなこと、ほんとにできるの?」
「ええ。僕らは将来、映像関係で働くことが夢でしたから……。編集は、視聴覚室のパソコンでおこなえます。それから、セリフをオリジナルの音声で吹き替えて、教科書の学習内容に沿うようにします。声優志望の生徒も多いですから、募集して放送室でアテレコさせ、適当なCDからBGMをダビングして……」
「それはいいけど、面白い作品がつくれる? 観るのが苦痛な作品じゃ繰りかえし鑑賞する気にはなれないし、世界史の勉強にも役立たない」
「まかせてください。絶対おもしろい作品にします。生徒の誰もが何度も観たくなる二時間作品にして、リピート鑑賞するごとに世界史が自然に頭に入るようにします」
「なるほどね。わかったわ。まずは企画書を提出して」
「き……企画書ですか?」
「そう。企画意図とあらすじ、登場人物、それから製作過程のスケジュールをまとめたものを、十枚以内で提出して。それが承認されたら、次は台本を作ってもらうことになると思うの。作品が完成したらあなたたちにはウジガミールで報酬が払われるわけだし、こちらとしても無駄な出費はしたくない。完成度が高いことを、前もって証明して」
「……わかりました、すぐに企画書に取り掛かります」
「頼んだわね」
夏木は身を翻して走り去っていった。
雪絵はため息をついて歩きだした。
校舎のなかを巡回していると、さまざまな提案を受ける。誰もが自分のしたい仕事を申しでて、承認されようと切磋琢磨《せつさたくま》している。取るに足らないものも多かったが、なかには納得させられるものもあった。いまの世界史映像化などはその一例だ。
生徒たちは新しい生活に順応しつつある。家に帰りたいという相談を受ける数も激減していた。廊下を右往左往する生徒たちは、誰もがなんらかの仕事に手を染めている。
この国でも貨幣経済という掟《おきて》があると知り、豊かになりたいと望む心が、生徒たちに働く意欲を与えている。
わたしの仕事はなんだろう、と雪絵はふと思った。誰もがわたしを頼り、判断を仰ぐ。しかしそれは、わたしが行政庁の統治官だからだ。決定権を持っているからだ。
県議会の議員をしている父親が、先生と呼ばれることに生きがいを感じていたことや、取り巻きを引き連れて飲み歩くことに喜びを覚えていたことを、雪絵は知っていた。父は、仕事そのものよりも、あるいは家族よりもそうした瞬間を好んでいたようだった。
母、そしてわたしは、父にとっては取るに足らない存在だった。父は権力によって得られる甘い感触に、果てしなく魅せられていた。
わたしは父と同類ではない。権力などよりも、重い責任を感じている。この学校が国家となった以上、国を平和に発展させる、それだけがわたしの務めだ。
美しい国にする。わたしにはその義務がある。だから家には帰れない。帰らない。そもそも、帰りたくなどない。
ほかの生徒たちも、大多数がそう思っているのだろう。これだけ熱心に、新たな生活に適応しようとしているのだから。
視聴覚室の近くまで来たとき、小沢知世と出会った。
「あ、幡野さん」と知世は微笑を浮かべた。
「こんにちは。五十嵐君、いる?」
「ええ」知世は視聴覚室のなかに入った。「聡。幡野さんが来たよ」
雪絵が戸口を入ると、五十嵐は忙しくパソコンのキーボードに指を走らせていた。
「すみません」五十嵐はちらと顔をあげた。「区切りのいいところで小休止をいれようと思ってるんですけど、なかなかそうならなくて」
知世が心配そうにいった。「聡、朝からずっと作業してるんですよ。ご飯も食べてなくて……」
「きみが食べればいいだろ」
「もう。身体壊したら、困るのは聡でしょ」
どうやら邪魔をしただけのようだ。雪絵は苦笑しながら告げた。「五十嵐君の管理はあなたにまかせたわ、小沢さん。パンは貯蔵室から運んであげてね」
「はあい」
しかし五十嵐は困惑したようにいった。「幡野さん。そんなお気遣いしていただかなくても……」
「あら、そう? 鈍いわね」
きょとんとした顔の五十嵐をその場に残し、雪絵は視聴覚室を出た。
気遣ったのは五十嵐に対してではなく、知世にだ。あの子が五十嵐の世話を焼きたがっていたのは一目|瞭然《りようぜん》だった。
いまのところは似合いのカップルといえるだろう。風紀に乱れがあったとしたら困りものだが。
窓からは、校舎裏の畑が見えた。ビニールハウスのなかで土を耕す作業をしているのは、力自慢の男子生徒たちだった。
以前なら、学校という場所はある意味で彼らの独壇場だった。たとえ成績が悪くても、腕力に勝る者が他者を圧倒する空間だった。
しかしいまは違う。脳みその働かない者は、体力でまかなうしかない、そんな世界になった。
行政庁に知性や特性を買われ、特殊な仕事に就くことができれば、高い報酬を得られ生活にゆとりがでる。社会的地位も高くなる。そこから零《こぼ》れ落ちた連中は、鍬《くわ》を片手に土仕事に従事するのみだ。
第一次産業はしかし、日本国においては誇り高い仕事だ。国民に必要な食物を作りだす立場なのだから。氏神高校国でも彼らがそこまでの誇りを築けるかは、彼ら自身の働きにかかっている。
階段を下りて家庭科室に入ると、ここでも女子生徒たちがそれぞれの仕事に従事していた。
折れた口紅はライターであぶって切断面を溶かし、密着させてから、冷蔵庫におさめて冷やす。これで復活させることができる。グラスがわりに利用されている化学実験室の試験管を洗うには、卵の殻が用いられた。殻が砕かれて、わずかな洗剤と温水とともに試験管のなかに入れられる。この試験管を振れば、底の部分まですっかり綺麗《きれい》になる。
雪絵はそこにいた行政庁の官僚に声をかけた。「沙織。調子はどう?」
女子生徒たちの働きを見守っていた北原沙織が肩をすくめる。「見てのとおり、みんな真剣に働いてる。けど、そろそろ食糧がやばくなっていると思うんだけど」
「五十嵐君のソフトが完成して、売れてくれることに期待するだけね」
「そんな悠長なこと言っててだいじょうぶなの? 物を売ってお金を得るなら、校内にある備品を売りだすべきだと主張する人もいるけど……」
「だめよ。それらはあくまで学校の備品。わたしたちにすべての所有権があるわけじゃない。わたしたちの力でビジネスを作りださないと」
「そうね……。でも……」
そのとき、菊池の声が響きわたった。くぐもった音声。校内に向けたものではなく、校舎の外のスピーカーから発せられている。
「日本国に告ぐ。わが氏神高校国でも生徒の学習はおこなわれている。生徒の学力を推し量り、貴国も公平な目でその学力を検討できるよう、外部業者による模擬試験は定例どおり実施したいと思う。ついては次週の三年生向け模擬試験を業者に発注したく……」
沙織が眉《まゆ》をひそめた。「模擬試験?」
「ええ」雪絵はうなずいた。「わたしたちが生徒の試験を採点するだけじゃ、その学力を外の世界に知らしめることができないって、菊池君が」
「まだお世辞にも自慢できるような学力レベルじゃないと思うけど。それに、業者の模擬試験って、当然支払いが必要でしょ?」
「そう。それまでに現金を得なきゃいけないってことね……。お金がなければこの国は経済|破綻《はたん》。国家といっておきながらお金の問題で行き詰まるなんて、目もあてられない」
「失敗したら大人たちに笑われるでしょうね」
「まず間違いないわね」またしてもため息が漏れる。雪絵は神妙につぶやく自分の声をきいた。「独立を掲げた紛争なんかじゃなく、ただの高校生の籠城《ろうじよう》事件として一笑に付されるだけでしょうね……」
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