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千里眼208

时间: 2020-05-28    进入日语论坛
核心提示:希望を繋《つな》ぐ者 岬美由紀は�待機所�で何度目かの朝を迎えた。プレハブ小屋の窓から差しこむ朝陽。室内に詰めている保護
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希望を繋《つな》ぐ者

 岬美由紀は�待機所�で何度目かの朝を迎えた。
プレハブ小屋の窓から差しこむ朝陽。室内に詰めている保護者や教員の数も、当初の半分ほどに減っていた。連日の徹夜による疲労で家に帰らざるをえなくなった人や、病院に運ばれた人など、リタイアした理由はさまざまだ。
なかには出戻り組もいる。校長の弘前秋吉と教頭の滝田軍造は、いずれも二日目の夕方に保護者の反対を押しきって帰宅したが、そこで報道陣のインタビュー責めにあい、またここに帰ってきた。逃げこめる場所がここしかなかったというのが正解かもしれない。
マスコミがシャットアウトされた�待機所�以外に身を置けば、世間の非難の矢面に立たされる。それが彼らの置かれた環境だった。
学校のトップふたりを含む教員たちは、毛布にくるまってパイプ椅子に掛けたまま、眠りこけている。保護者たちも同様だった。以前は朝までずっと目を開けている人が多かったが、さすがに疲れが溜《た》まっている。
そう思って舎利弗に目を向けた。
と、舎利弗は起きていた。椅子の背に身をゆだねたまま、美由紀をじっと見かえした。
「どうかした?」と舎利弗はきいてきた。
「いえ。先生、ずっと休んでないでしょ?」
「べつにかまわないよ。どうせ、臨床心理士会事務局にいても留守番ばかりだからさ。人と話すのは苦手だし」
「することがなくて退屈じゃない? 事務局ならDVDを観てられるでしょ?」
「ぼうっと想像していれば、よく観た映像は頭に焼きついてるからさ、想起できるんだよ」
「ほんとに?」
「そう。さっきも、クレクレタコラを一話からずっと脳内で再生してた。これ、人の話が退屈なときなんかにいいんだよね」
「わたしと話しているときもそうなの?」
「いや、きみは特別だよ。……なあ、思うんだけど、どうもあの五十嵐哲治って人の説明は、しっくりこないよな。酸素欠乏症が引き金になって、生徒たちが籠城《ろうじよう》したなんて……」
「やっぱり、舎利弗先生もそう思う?」
「ああ。生徒たちは凶暴になったわけじゃなく、むしろ理性を働かせているみたいに思えるんだよ」
「でも、生徒たちがみずからの意志で籠城を選んだという合理的な説明は難しいわね。小集団による脱走が試みられてもおかしくない状況なのに」
「アメリカの心理学者ゴールドスタインとローゼンフェルドによれば、心になんらかの弱みを持った人は、同じ境遇の人たちの仲間に加わることで安心を得ることができるらしい。生徒たちを支えているものが同胞意識だとすると、そこまで生徒たちを追いこんだものがなんなのか、はっきりさせる必要がある」
美由紀は教員らに目をやった。校長以下、全員があどけない顔で眠りこけている。保護者のほうも同様だった。
責任が大人たちにあると言っても、彼らは互いを非難しあうだけだろう。ここでも万人の納得のいく説明がなければ、問題の解決には至らない。
「だけどさ」と舎利弗は伸びをしながらいった。「そろそろ生徒も音をあげるはずだよ。食べ物が底をついているだろうからな」
「こちらに食糧を要求してくるだけかも」
「それなら生徒たちの独立心に傷がつくことになる。遅かれ早かれ迷いが生じて、対話を求めるだろう。そのときには……」
ふいに、わあっという歓声が聞こえてきた。
舎利弗の顔がこわばる。教員や保護者たちも、何事かと起きだしている。
美由紀は立ちあがって戸口に向かった。外にでると、ひんやりとした空気が身体を包む。吐息も白く染まった。
騒動を聞きつけたらしく、警察関係者や報道陣も繰りだしている。彼らの肩ごしに、美由紀は信じられない光景をまのあたりにした。
校門が開き、何台ものトラックが校庭へと乗りいれていく。それらの車体には『ヤマギシパン』『ほかほか亭』などの食品デリバリー業者名が刻まれている。
大量の食料品の搬入。生徒たちが校庭の窓に鈴なりになって、歓喜の声をあげている。両腕を振りあげている者もいれば、拍手する者もいた。女子生徒らの顔に笑顔が広がっているのが、この距離からでもわかる。
生徒たちは打ちひしがれてなどいない。学年、性別を越えて、心がひとつにまとまっているではないか。
校舎のスピーカーから、菊池の声が流れてきた。「日本国に告ぐ。わが国の公正かつ公式な取り引きにより、それら食料品は搬入されている。妨害行為、もしくは彼らに便乗してわが国の領土に侵入することは許されない。以上、お含みおきいただきたい」
駆けだしてきた滝田教頭が、信じられないというように目を見張っていった。「公正な取り引きだと? 業者に出前を頼んだだけだろうが」
別の教員が憤ったようすで告げた。「学校のツケにしたに決まってますよ。それにしても、氏神高校への出前に応じる業者がいるとはね。ニュースを観てないんでしょうか」
そんなはずはない、と美由紀は思った。
ひょっとして、業者も脅されているのか。生徒の一部が残りの全員を人質に籠城した、世間の氏神高校における現状への解釈はそんなところだ。人質に危害を加えると脅迫されて、食糧の搬入に応じたのか。
すでに校内で荷卸しを終えた惣菜《そうざい》会社のトラックが、校門から出てきた。たちまち報道陣がそのトラックの行く手をふさぐように取り囲む。
トラックの運転手にマイクが突きつけられた。矢継ぎ早に質問が飛ぶ。どうして食糧を運んだんですか。生徒からどんな要請があったんですか。
運転手が口を開くと、辺りは聞き耳を立てるように静まりかえった。
「べつに」と運転手はいった。「振りこみがあったから、搬入した。それだけですよ」
「振りこみですって?」と記者のひとりがたずねる。
「そうですよ。ネットで当社のホームページに注文があって、口座に代金が振りこまれました。だから運んできたんですよ」
美由紀の近くで、警察関係者らがあわただしく動きだした。ただちに調べろ。どこから振りこみがあったのか洗いだせ。そんな声が飛び交っている。
おそらく、振りこんだのは生徒たちだ。ネットバンキングを使ったのだろう。生徒たちはついに、自活する道を得た。
籠城は長期化する。半永久的に。
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