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千里眼209

时间: 2020-05-28    进入日语论坛
核心提示:正午の市場 長島高穂は、統治官補佐としての午前の巡回を終えてぶらりと校舎一階に降りた。メロンパンをかじりながら階段を下っ
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正午の市場

 長島高穂は、統治官補佐としての午前の巡回を終えてぶらりと校舎一階に降りた。
メロンパンをかじりながら階段を下っていく。もともと食の細い長島だったが、食い物にありつけることが、ここまでありがたく感じられたのは初めてだった。
食糧の配給を受けたおかげで、生徒たちは一様に元気を取り戻したようだった。一階は祭りのように騒々しい。誰もがパンと牛乳の紙パックを片手に談笑している。
「長島」野太い声が呼びとめた。
振りかえると、巨漢の統治官、塩津照彦がそこにいた。この男だけは食糧を手にしていないようだ。
「おやおやどうしたんだい」長島は少しばかりおどけてみせた。「最低限、パンと牛乳だけは支給されるはずなのに、塩津君はメシにありつけなかったの? ひょっとして何かやらかして、菊池君を怒らせちまったとか?」
「ぬかせ。メシならもう食っちまったよ。俺は統治官のなかでも抜群の成績だ」
「その身体じゃパン一個じゃ物足りないだろ? 金持ちは羨《うらや》ましいよな。三階の雨漏りを直したC組の高瀬《たかせ》って、パンを三個もせしめたらしい」
「ふん。目先の食い物に全額使うなんて馬鹿げてる。俺はしばらく貯金しておくよ。そのうち、しこたま食い物を買いこんで、腹いっぱい食ってやる」
「てことは、きのうもらった給料は使ってないのかい?」
「当然だ。ほら」と塩津は、コピー機で作られた紙幣を数枚取りだした。
氏神高校の校舎と、氏神高校国の国旗デザインが使用されている。複雑な絵柄だ。五ウジガミールと表記されているが、長島の持っている同額の紙幣とは異なっていた。
「新札かよ。初めて見た」
「三年女子生徒の持ってた匂いの出るノートの紙が使われててな。同様のノートを持っている生徒が校内にいないことが確認されたから、紙幣用の紙に採用された。偽造防止ってことだな。ほら、イチゴのにおいがするだろ」
長島はそれを嗅《か》いでつぶやいた。「まあ、たしかにな……。で、前の札はどうなる?」
「なんだ。おまえ知らないのか。けさまでに銀行の代わりになってる大教室で換金しないと、使えなくなるんだぜ?」
「なに!? マジかよ。じゃ俺の金は……」
「気の毒だったな。ま、統治官補佐である以上はパンと飲み物それぞれ一個はタダで手に入るんだから、そう落ちこむな」
だが長島は、ショックから立ち直れない自分を感じていた。
せっかく十七ウジガミールを貯めこんだのに、すべてパーだなんて……。こんな不条理がまかり通っていいのか。国家のくせに……。
「それより、長島」塩津がいった。「世界史のテキストは手にいれたか?」
「まだだよ。もう完成したってのか?」
「その教室で配ってる。三年は無料だから、早めにもらっておくんだな」
「はいよ。タダで貰《もら》えるものが教科書だけとはね……」
その場を離れて、長島は人混みのなかに歩を進めた。一年B組の戸口に『行政庁公認・世界史テキスト配布会場』とある。
さらに混みあうその教室のなかに入った。
黒板を背にして横一列に机が並べられて、カウンターが作られている。その周辺は、テキストを受け取ろうとする大勢の生徒たちで賑《にぎ》わっていた。なぜか男子生徒の数が女子に比べて圧倒的に多い。
「ちょっとごめんよ」長島は混雑のなかに割って入った。「テキスト、一部くれや」
カウンターのなかにいた女子生徒が顔をあげた。
初めて見る顔だった。大人びた美人顔。涼しい眼がこちらをじっと見つめる。
長島はたちまち凍りついてしまった。
「あなたは、行政庁の人間?」女子生徒がきいてきた。
「そ、そうだよ。補佐の長島」
「わたし、きょうから統治官に任命されたの。よろしく」
「こちらこそ……」
差しだされたテキストを受け取るや、次の生徒が長島を押しのけるようにして彼女の前にでた。
ようやく長島は気づいた。
この混みぐあいは、彼女と対面したい男たちが群れをなして押しかけているせいか。たしかに美人ではあった。校内ではダントツだろう。
校内で暮らすようになって、もう何日経っただろうか。三日か、四日めを迎えたか。よく思いだせない。
いずれにしろ、男女の交わりは禁止されている。そのせいで誰もが欲求不満を募らせているのだろう。どうやら俺も、例外ではないようだ。
長島は頭を振って、その考えを追い払った。
いかん。妄想を走らせると、かえって苦しいことになる。
テキストを開いた。それは両面コピーされた紙を数百枚|綴《つづ》った分厚いしろものだった。ほとんどが目に覚えのある『漫画世界史』のページに書きこみがなされたものだが、随所に植谷の描いた章が挿入されている。たいしたできばえだった。まるでプロそのものだ。
ふうん。これなら夢中になるとまではいかないが、何度か通して読む気にはなれそうだ。長島はつぶやいた。
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