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千里眼210

时间: 2020-05-28    进入日语论坛
核心提示:ジェネレーション・ギャップ 美由紀は�待機所�のなかで、舎利弗、教員、保護者らとともに、一台のパソコンを囲んでいた。その
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ジェネレーション・ギャップ

 美由紀は�待機所�のなかで、舎利弗、教員、保護者らとともに、一台のパソコンを囲んでいた。
そのパソコンを操作しているのは、県警のサイバー犯罪対策室から出向してきた咲沼《さきぬま》という若い私服警官だった。
「ご覧のとおりです」と咲沼はいった。「食料品デリバリー業者、七社への支払い額は合計八十七万六千二百五十六円。岐阜市内の銀行にある�氏神高校国�名義の口座からの一括振りこみです」
画面に表示されているのは、各社の注文受付の記録をまとめたものらしい。たしかに送金元はウジガミコウコウコクとなっている。
滝田教頭が頭をかきむしりながらいった。「個人扱いの口座か。誰か生徒がこしらえたってのか? 本当の氏名はわからないのか」
咲沼は首を横に振った。「銀行へは問い合わせ中ですが、個人事業主が店舗名などで口座を作るときと同じく、これが正式名称ですから……。裁判所の開示命令を待つしかないかも」
保護者のひとりの女性が怒鳴った。「そんな悠長な! これは誰か大人が支援してるに決まってます。お金の出所を調べて元を絶たなきゃ」
別の保護者の男性もいった。「口座を凍結することはできないのか」
「現状では難しいと思います」と咲沼はいって、キーを叩《たた》いた。「この氏神高校国の口座にあった金は、れっきとした合法的な事業収入ですから」
切り替わった画面にはネットオークションが映しだされた。
出品されている商品名は『テキスト文章書き手解析ソフト フー・ロート・イット バージョン1・1』となっている。
咲沼はそれを指差した。「匿名の出品ですが、このソフトを落札し購入すると、氏神高校国の口座への振り込みが指示されることが確認されています。つまりこれが生徒たちの収入源ということです」
舎利弗が唸《うな》った。「ソフトをダウンロードさせて、その代金もオンラインで払わせるわけか。校内に居ながらにして、金を稼ぐことができるわけだ」
「そうです。商品の最低落札価格は六千円。すでに百数十人の需要があったヒット商品になってます。メールやサイトのテキストを複数読みこませると、同一人物が書いたものかどうかを瞬時に判断してくれるという優れものです。うちの部署でも検証してみたんですが、よくできてるんですよ。句読点の数や誤字脱字の傾向、文体の癖などを数値化して照合するものらしいんです。文章の分析に数学的な視点を持ちこんだという着想が素晴らしい」
保護者の女性は怒りをあらわにした。「感心してる場合ですか。こんなの、どこかのソフトの海賊版でしょう。違法コピーでお金を稼いで、食糧の調達をはかるなんて……」
「いや」と男性の声が告げた。「これは海賊版ではない。おそらく生徒が独自に考えたものだ。たぶんうちの子がね」
ざわっとした反応がひろがる。
「あなたの子?」保護者の女性がきいてきた。
眼鏡をかけた学者風の中年男。刑事らに挟まれて立ち、両手首には手錠が光っていた。
五十嵐聡の父、哲治が苦笑ぎみにいった。「息子は本の漢字の数を数えあげたりする、変な癖があってね。なんのためにそんなことをするのかと聞いたとき、書き手が見えてくるとか、おかしなことを言うんだ。それをこんなふうに役立てるなんてな。いや、予想外だったよ」
どこか息子の手柄を鼻にかけるような物言いに思えた。保護者たちも同じように感じたらしい。いっせいに反発の声があがった。
「わかっているのか」男性が声を荒げた。「そもそもあなたのせいで、子供たちはおかしくなったんだ。酸素欠乏症とかで粗野になった原因はあなたにある。うちの子は、あなたに殺されたも同然だ」
「ふん。短絡的な。まだ生きてるじゃないか」
「しかも今度は、あなたの息子のせいで籠城《ろうじよう》が長引く可能性がでてきた。いや、間違いなくそうなる。どうしてくれるんだ」
「そうよ」と女性も大きくうなずいた。「これじゃ無限に収入を得られて、あらゆる生活費を生徒たちが自分で工面できるようになっちゃうじゃない」
「それが悪いことかね?」五十嵐哲治は悪びれたようすもなくいった。「聡は独創性のあるソフト開発で利益を得た。その事実に変わりはないだろう? 籠城に賛成はせんが、飢える友達を救ったことは事実だ。あなたたちの子供らは、うちの子に感謝すべきかもしれんよ」
挑発的な姿勢に、保護者たちが怒りの声をあげる。五十嵐哲治はむしろそんなふうに騒ぎを煽《あお》り立てて、楽しんでいるかのように感じられた。
偏屈者ね。美由紀は思った。だが、この父親は今までも息子の独創性をそんなふうに評価してきたのだろうか。
むしろ逆ではないのか。だから息子は父に反発し、自分の研究の成果を実証できるこの機会を生かそうとしたのではないのか。子供たちが自活できると主張する。それはすなわち、親への対抗意識にほかならない。
顔を真っ赤にして怒鳴る保護者の男性がいた。「すぐにでもやめさせるべきだ。口座凍結が叶《かな》わないのなら、高校につながってるネットの回線を絶つとか、オークションの管理者に削除させるとか、打つべき手はいくらでもあるだろう!」
「いや……」教頭の滝田が困惑ぎみにつぶやいた。「それは難しい」
「なぜだ」
「学校で契約しているネット事業者に、誰かが職員室のパソコンからアクセスしたらしい……。契約内容が変更されていて、名義は菊池になり、氏神高校国の口座から支払いがおこなわれているらしい」
「なんだって。それじゃネットのほうでも先生方は閉めだしを食ったってのか。まさか、そんなに簡単に……」
教員のひとりがおずおずといった。「アクセスにはIDとパスワードが要るんですが……。まさか生徒がそれに触るとは思わなかったので、パソコンのクッキーに記録してあったんです。クリックひとつで繋《つな》がるようになってました。こんな事態になるとは……」
そこからは、もう何度も目にした保護者たちの憤激の嵐だった。すぐ突入しろ。なにを手をこまねいている。子供たちを助けだせ。知能犯の菊池の横暴を許すな。
美由紀は重苦しい気分になった。
どうやら、生徒たちが牙《きば》を剥《む》いた相手は学校というわけではなさそうだ。むろん教職員に対し腹も立てているのだろうが、実際には親への実力行使とみるべきか。
だが、それが生徒らの目的なら、いまのところ効果はゼロに等しい。
親たちは責任転嫁に忙しい。自分たちのせいだなどと、疑ってみる気配さえしめしていない。
やはりおかしな世の中だった。人はいつからこんなに無責任になったのだろう。
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