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千里眼212

时间: 2020-05-28    进入日语论坛
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戦渦の発明品

�待機所�でじりじりとした時間を過ごすのはまさに地獄だ、と美由紀は感じた。
疲れきった保護者と教員らがときおり、言葉を交わしはじめると、たちまち責任のなすりつけあいになる。
仲裁に入った人間も加わって騒動が大きくなり、学校が悪い、ご両親も普段の生活には責任を持たれるべきだなどと相互に攻撃しあうばかりだ。
集団では常に、誰かを吊《つ》るしあげようという自然の力学が働くらしい。いまその対象は、五十嵐聡の父である哲治になっていた。
手錠を嵌《は》められ、私服警官らに身柄を拘束されていても、五十嵐哲治は強気な態度を崩さなかった。そのうえ天邪鬼《あまのじやく》な性格らしく、飄々《ひようひよう》とした態度でほかの保護者や教員の神経を逆撫《さかな》でする。一方的にやりこめられることはまずなかった。
「聡はおとなしくて無害なタイプだ」と五十嵐哲治はいった。「独立国家だかの中心メンバーに居座っているなんて考えられない」
「お言葉ですが」男性教師の木林がじれったそうに告げた。「お子さんはたしかに内気でしたが、理屈っぽいところがあって、反抗的な態度も垣間《かいま》見えたと思います。もし菊池と交友関係があったら、おそらく意気投合するでしょう」
「菊池なんて子は知らんよ。うちに遊びにきたこともない」
「お父さんは聡君の日常生活をご存じなんですか? そんなことはないでしょう」
「そうですよ」と女性の保護者がいった。「失礼とは思いますけど、お宅、奥さまとは離れてお住まいでしょう?」
「それがどうした」五十嵐哲治はむっとした。「聡は私のところにも来るし、妻だった留美子《るみこ》のほうにも行く。ほったらかしているわけではない」
五十嵐聡を主犯メンバーであるかのように追及することが、いまここにいる人間たちのうさ晴らしになっているのかもしれない。誰もが疎ましく思っている男の息子をスケープゴートにするのは、集団心理として自然な成り行きかもしれなかった。
座間《ざま》という国語の男性教師もその尻馬《しりうま》に乗ろうとしたらしい。鼻息荒く原稿用紙の束を振りかざした。
「これは私が家で採点しようと持ち帰ってた、三年D組の課題のひとつですけどね。『ジョニーは戦場へ行った』という反戦文学の感想文を書かせたんだが、五十嵐聡君だけは奇妙なものを提出しましてな。見てのとおり、ほんの一行だけ書いて、あとは真っ白。こんな生徒はほかにはいませんよ」
保護者たちが、わざとらしく思えるほどに大仰な驚きをしめす。誰もがスケープゴートをさらに不利な立場に追いこもうとしはじめているようだった。
美由紀は我慢ならなくなっていった。「待ってください。こんな状況、まるで欠席裁判じゃないですか。もしくは、いじめそのものだと思います。ひとりを標的にして不満をぶつけたところで、問題の解決にはつながりません」
保護者たちはいっせいに反発した。いじめなんかじゃない。事実を追及しているんだ。
そのとき、舎利弗が座間に手を差しだした。「ちょっと、その作文を拝見」
座間は無言で舎利弗に原稿用紙を手渡した。
舎利弗は原稿用紙に目を落とした。「へえ、たしかに一行だけですね。『戦争反対といいながら、先生は集めた原稿用紙の右肩をホッチキスで綴《と》じた』……それだけですね」
「意味不明ですよ」座間はいった。「五十嵐君だけ、作文をなかなか提出しなかったので、ひとりだけ居残りさせて書かせたんです。私はそのとき、ほかの生徒たちの作文をまとめていて、彼が書いたのは、ただその状況です。課題の意味がわからなかったとでもいうんでしょうか? なんていうか、ちょっとまともじゃないのかも……」
美由紀はいった。「座間先生。まともじゃないっていうのは、精神面のことですか? たったこれだけで五十嵐聡君の精神面に疑いを持つのはよろしくありません」
「でも彼は、現にこういうわけのわからない……」
「いいえ。わたしにはわかります。つかぬことをお尋ねしますが、先生はホッチキスがなにをきっかけに発明されたかご存じですか?」
「……いや」
誰もが一様に、困惑した顔を浮かべている。答えられる人間がいないことはあきらかだった。
「ホッチキスは」と美由紀は告げた。「E・H・ホッチキス社の製品なのでその名がついています。創始者エーライ・H・ホッチキスの兄、ベンジャミン・B・ホッチキスは、機関銃の発明者です。弟のほうは、機関銃の銃弾を装填《そうてん》する仕組みをもとにホッチキスを開発したんです。針をタマと呼ぶのはその名残りとも言われています。いわば人殺しの道具から生まれた文具用品です。それを踏まえて読みかえすと、聡君の言わんとしていたことがわかりませんか? 戦争反対といいながら、先生は集めた原稿用紙の右肩をホッチキスで綴じた」
室内はしんと静まりかえった。誰もが呆然《ぼうぜん》とした表情だった。
その沈黙を破ったのは五十嵐哲治だった。
高笑いしながら、五十嵐聡の父親はいった。「面白いな! 聡は、座間教諭が反戦文学の感想文にさも典型的な道徳っぽさを模範解答として望んでいると知って、皮肉ったわけだ。機関銃がなければそのホッチキスも発明されていなかった、戦争がなければ紙束を閉じることもできなかった。そんなことさえ知らない先生に習うことなどなにもない。聡はそういいたかったわけだ」
ここぞとばかりに反撃にでた五十嵐哲治に、教職員らが猛然と抗議をはじめた。
木林が顔を真っ赤にして声を張りあげた。「あなたのその態度が、息子さんに伝染したんでしょう! 人を見下す態度はおやめなさい。不愉快です」
座間も動揺したようすながらも、必死に弁明した。「そうだとも。たしかに、そのう、ホッチキスがそういう物だとは知らなかったが、作文は知恵比べじゃない。読み手にわかるように書くべきだし……あのう、とにかく、反抗的な態度が根底にあったことは疑いようがないし、こちらが対話しようとしてもこんな調子では……」
美由紀はいった。「座間先生。生徒との対話の努力は絶やすべきではありません」
「な……なんです、岬先生はいったいどちらの味方をされるつもりなんですか」
「そうだ」と言ったのは、屈強そうな二の腕の男、保健体育教師の鱒沢だった。「生徒たちのことをよく知りもしないのに、対話などと軽々しく口にしないでいただきたい。私はかつて、不良と呼ばれた男だった。いじめっ子として停学を食らったこともある。その立場で言わせてもらうが、生徒たちにはそれぞれの思いが……」
またしても五十嵐哲治が高飛車にいった。「元不良? 元いじめっ子だと? お馬鹿な自慢があったものだ。自分が人間のクズだと告白してどうする」
鱒沢の顔はみるみるうちに紅潮した。「なんだと? 私はな、長いあいだ生活指導を……」
「元不良が生活指導! 滑稽《こつけい》すぎる。なぜ人は、かつて外道と呼ばれた者が立ち直ったことを、過度に賞賛するんだね? 駄目人間だった者がまともな人間になったというだけだろう。赤字が収支トントンになったようなものだ。ちっとも威張れることじゃない」
「手錠を嵌められているあんたになにがわかる!」
「私はまだ容疑者だ。だが鱒沢先生、あなたはもう告白したじゃないか。不良だったんだろう? 聞くが、あなたが更正して教師になったのは結構だけれども、かつてあなたがいじめた生徒たちはどうなったね? 不良と公言するからには万引きのひとつも働いたことがあるだろうが、商品を盗まれた店主の被害は? あなたが威圧してまわった周辺住民たちの感じた恐怖や不信感は? あなたは教師になってからの人生を償いの日々と位置づけ、自分の給料を彼らに慰謝料として分け与えてるのか? どうなんだ?」
「そ」鱒沢は口ごもった。「それは……だな……」
「ほらみろ。どれだけあなたが真っ当な人間になったと主張したところで、過去にあなたが犯した罪は消えない。被害者たちの心の傷は永遠になくならない。あなたにいじめられた生徒は、いったいなんのためにそんな目に遭ったというんだね? あなたが将来立派な人間に更正するためのコヤシ、人柱にでもなったというのか? 笑わせてくれる。他人が傷つくより自分のほうが大事だと考えた時点で、いじめは始まる。あなたは何も変わっちゃいないということだ!」
また沈黙が降りてきた。今度の静寂は長かった。
保護者たちの軽蔑《けいべつ》の目は、どちらかといえば五十嵐よりも鱒沢に向けられていた。
鱒沢はなにも言いかえせないようすで、黙りこくって視線を逸らした。
美由紀は強い衝撃を受けながら、五十嵐哲治の横顔を見つめていた。
やはり彼は、息子のためにすべてをおこなったのだろう。そして、被害者の心を的確にとらえている。だからこそ保護者たちは今に限り、五十嵐に無言の同意をしめしたのだろう。
つまり、この父親もかつては……。
そのとき、戸口から中志津警部補が入ってきた。
中志津はいった。「みなさん、ご静粛に。県警の監視班による、望遠レンズによる長期の観察によって、いくつかの事実が判明しました。まず、重体と考えられていた北原沙織さんは……生きてます」
保護者、教員のあいだにどよめきが沸き起こった。
沙織の母親、北原|恵美《えみ》はけさからここに来ていた。驚きの表情を浮かべ、すぐに両手で顔を覆った。肩を震わせて泣きだした。
「たしかですか、それは?」と教員のひとりがきいた。
「ええ。医師にも確認してもらいました。北原沙織さんは、ごくふつうに校舎内で活動をしています。その動作やしぐさからも、頭部を強打したとは考えられません。きわめて健康な状態にあるということです」
やはり偽装か。美由紀は思った。これで、大人たちの氏神高校国を見る目は大きく変わる。
犠牲者はいなかった。すべてフェイクだったのだ。
北原恵美が泣きながら顔をあげた。「すみません、うちの子の無事を自分の目で確認したいんですが……」
中志津は硬い顔でいった。「申しわけありませんが、まだ捜査の途中なので……。しかし、監視によっていろいろなことがわかりました。生徒たちはたしかに国とまではいかないが、共同自治体を構成して行動しているようです。それぞれが決められた時間に受け持っている仕事をし、授業も自主的におこなわれ、自習もしています。就寝時間も徹底しています。なんというか……互いに笑顔をみせあったりして、ごくふつうの共同生活が営まれているという印象です」
また保護者たちからブーイングがあがった。
「十代の子たちをほうってはおけん」男性の保護者がいった。「危害を加える危険がないとわかった以上、すぐに突入すべきじゃないんですか」
「それはできません」中志津は告げた。「北原沙織に対するリンチ行為は偽装だったわけですが、暴力|沙汰《ざた》は皆無というわけではないようです。自警団のような連中がバットを持って校内を巡回しています。彼らはいわゆる行政庁、菊池をリーダーとする強制力を持つ一団の命令に従って動いているようです。治安が乱れた場合は、彼らによって当事者らが体育用品倉庫に監禁されたり、ビニールハウス内の畑で強制労働させられることがわかっています」
いっときの安堵《あんど》は失われ、保護者たちはまたも不安や恐怖のいろを浮かべた。
滝田教頭がきいた。「菊池のほかに、実行犯の連中は判明しているんですか」
「実行犯というか……。行政庁の主な役職に就いているのは三年生ばかりです。北原沙織もそのひとりとみられています」
「え……」沙織の母、北原恵美は愕然《がくぜん》とした面持ちになった。
「それから」と中志津は、懐から取りだしたメモを見ながらいった。「幡野雪絵」
「幡野? 県議会議員の幡野さんの娘さんですか」
「そうです。生徒会の役員だった連中がほぼそのまま、現在もリーダーシップを発揮してるわけです」
「信じられん……優等生ばかりなのに」
「学級委員だった生徒らも各クラスの代表になっているようで、塩津照彦という生徒も重要な役割を担っているみたいです。そのほか、おそらく菊池らトップに目をかけられて行政庁寄りの立場にあるのは、石森健三、小沢知世、五十嵐聡……」
「ほらみろ!」保護者の男性が怒鳴った。「やっぱり主犯格グループに加わってるじゃないか」
「静かに」五十嵐哲治は動揺したようすもなくいった。「主犯格とは語弊がある言い方だ。いま刑事さんもおっしゃっただろう。行政庁だ」
「なにが行政庁だ。警部補さん、うちの子はどうしてますか。私は三Cの岸辺和道の父ですが」
中志津はメモのページを繰った。「岸辺……たしかどこかにあったな。ああ、これだ。倉庫に二日間監禁。以降はビニールハウスで強制労働……」
「なんだって! うちの子がそんな目に……。すぐに救出してくださいよ!」
「もちろん、全力は尽くしますが……ただし、岸辺和道君はですね、最初の晩、下級生の今中雄三君に暴力を振るおうとし、自警団に捕まったと……」
「……和道が暴力? そんなことはありえん。和道はやさしい子だぞ」
保護者のなかに、ひそひそと話し合う声があった。
「それはちょっと……」女性の保護者がつぶやいた。「うちの子もよく言ってましたわ。岸辺君は乱暴だからあまり近づきたくないって……」
「なんだと!」岸辺の父親は憤ったようすだった。
と、手をあげて発言する女性がいた。「わたし、今中と申しますけど……。うちの子、いじめられてたんですか……? それでその後、どんな状況に……」
「ご安心を」中志津は真顔でいった。「監視班によれば、その後、今中君はとても優遇された状態にあるようです。当初は、いじめられていた子に対する慰安かと思われていたんですが、そうでもないようです。集団生活に役立つ才能なり知識なりを持ち合わせている子は、通貨を多く手にできているようで……」
「通貨?」
「そうです。これも監視班が見た状況から推察したものですが、生徒たちは自分たちの国で流通する紙幣らしきものを発行し、貨幣経済を築きつつあるようです。ネットでの自作ソフト販売で外貨を獲得、食糧を買い付けて、国内では独自の通貨で食事や生活用品の購入が可能なわけです。今中君には多くの報奨が支払われているようですね。視聴覚室に詰めている五十嵐聡君にもです。おそらく、ソフトを作ったのは彼とみて間違いないでしょう」
五十嵐哲治は愉快そうに笑った。「因果応報とはこのことだな! 身体がでかくて声がでかいだけが取り柄のいじめっ子は厳罰に処せられて、知恵のある子は豊かになっていく。社会はこうでなければならん」
岸辺の父親がすさまじい剣幕で怒りだし、五十嵐哲治に詰め寄ろうとした。今度は、五十嵐をかばって岸辺の行動を阻もうとする保護者も現れ、室内は混乱の様相を呈しだした。
子供たちの貧富の格差。社会での優劣。いずれは親が身をもって直面せねばならない、子育ての結果。それが唐突にしめされた。憤る親もいれば、どちらかといえばほっと胸を撫《な》でおろしているようすの親もいる。
外からクラクションの音が聞こえた。保護者たちの罵りあいはおさまり、誰もが聞き耳を立てているようすで沈黙した。
私服警官が中志津に告げた。「外で動きがあったみたいです」
「行こう」と中志津が戸口に向かった。
舎利弗がそれにつづき、美由紀も従った。一刻も早く外のようすを知りたい、全員がそんな思いに駆られている。たちまち戸口には保護者と教員が殺到した。
外にでると、報道陣が校門のほうに駆けだしていくのが見えた。
校門が開き、トラックが入っていく。だが今度は、食料品業者ではない。
荷台には、たくさんのパチンコ台が積まれている。中古品らしいが、まるで店が開けるほどの数だった。
呆然《ぼうぜん》とたたずみながら舎利弗がつぶやいた。「まさか……校内に店を持つのか?」
美由紀も驚きを禁じえなかった。「生徒たちのためのパチンコ店ね……。貨幣経済が機能してるのなら、余暇を楽しく過ごすためのレジャー産業も必要になってくる」
「賭博《とばく》が持ちこまれたってことか。世も末だな」
賭博。好ましくない事態だと美由紀は思った。氏神高校国は、現代の大人社会を忠実に模した縮図となりつつある。グレーゾーンすらも克明に写し取った、明暗の落差のある社会が築かれている。
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