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千里眼213

时间: 2020-05-28    进入日语论坛
核心提示:カジノ部屋の悪夢 菊池は憂鬱《ゆううつ》な気分で二階の廊下にたたずみ、男子生徒らが特別教室へとパチンコ台を運びこむようす
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カジノ部屋の悪夢

 菊池は憂鬱《ゆううつ》な気分で二階の廊下にたたずみ、男子生徒らが特別教室へとパチンコ台を運びこむようすを眺めていた。
雪絵が隣りに歩み寄ってきた。「嘆かわしいわね。カジノなんて本当に必要?」
「貧富の格差が広がってる。低所得者層の不満を和らげるために、多少は一攫《いつかく》千金の夢も必要だろう」
「賭博が日常化しなきゃいいけど」
「そこは厳重に監視するさ」
ひとりの男子生徒が、ひときわ大きなパチンコ台を重そうに掲げて近づいてきた。「これ、どこに置きますか? カジノ室の設計図面にないんですけど」
「それは視聴覚室に持っていってくれ。五十嵐が必要としてる」
「わかりました」と男子生徒はゆっくりと歩を進めて、慎重に運んでいった。
「五十嵐君が?」と雪絵がきいてきた。
「なんでも研究に使うらしい。彼の案を文書で提出させたが、日本国との国交に有利になると判断した」
雪絵がふいにくすりと笑った。
「どうかしたか?」菊池がたずねた。
「いえ。ずいぶんさらりとそういう言葉がでるようになったなぁって。最初のころは学校と国、生徒と国民って言葉が混在してて、とても言いにくそうにしてたから」
ほかの生徒にいわれると頭にくるような物言いだが、雪絵が口にするととても柔らかいものに思える。
菊池は苦笑してみせた。「まあな。生徒会を行政庁にして国家建設なんて、想像力がなかなか追いつかなかった。でもいまになってみれば、やってよかったと思う」
「本当に? 当初は反対してなかった?」
「意図が理解できてからはそうでもない。周りをみろ。いじめ問題は過去のものとなってすでに忘却の彼方《かなた》だ。自殺を考える者もいない。誰もが生きて、よりよい生活を営むための競争に参加している。同一の目的を与えられた集団が、こんなにまとまるものとは思わなかった。共存と繁栄は、いつの世でも平和をもたらすものだ」
「演説もじょうずになったわね。虚勢を張るのは疲れない?」
「ば……馬鹿な。僕はもう虚勢とは思ってない。最初のうちは意識的に権威性をまとったつもりだったが、いまは違うよ」
「自然にリーダーシップを発揮できるようになった、っていうこと?」
「それはまだわからないが……皆にとって必要とされていたことを実行できている、そういう実感はある」
菊池はそこで言葉を切った。弱音を吐きたくなる自分がいる。これからどうなるかはわからない、そんな不安がいつも脳裏をよぎる。
だが、リーダーが及び腰になることが許されるはずもない。目的は最後まで果たすしかない。高校生のみによる自治。大人たちに、われわれのあるべき姿を見せつけねばならない。
「ねえ」と雪絵がいった。「この国は、いつまで存続させるの?」
「それは最初から決まってたことだ。僕ら三年生が校舎にいられるのは、高校生のあいだだけだからな」
「春の卒業までに、全部の目的が達成できるかしら」
「できるとも。僕は春を待つつもりはない。年内に決着をつける」
「年内? どうして……?」
「受験の願書を提出している者たちがいる。彼らに大学を受験させる。それから、就職活動も自由におこなわせたい」
「つまりそのころには、学校として正常化すると……」
「そうとも」
「で……わたしたちはどうなるの? みんなを率いたわたしたちは……」
菊池は答えなかった。
それは、時が答えをだしてくれる。いまあれこれと憶測してみたところで、事実が判明するものではない。
とそのとき、階段で激しい音がした。
雪絵が駆けだす。「どうしたのかしら」
そのあとを菊池も追った。
階段を見下ろしたとき、菊池は愕然《がくぜん》とした。
ひとりの男子生徒がパチンコ台を運搬中に、転倒したらしい。階段の踊り場では、パチンコ台の下敷きになった小柄な身体の下半身がみえている。
踊り場には赤いものがひろがりつつあった。出血がひどい。
これはフェイクではない、本当の重大事故だ。
「医療係を呼んで!」雪絵が叫んだ。「すぐに保健室に運ぶのよ。みんな手を貸して!」
あわただしくなった廊下で、菊池はその場に立ちつくした。
まずいな。これは国家問題になるかもしれない……。
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