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千里眼218

时间: 2020-05-28    进入日语论坛
核心提示:爆弾の在《あ》り処《か》 午前四時。生徒たち、いや、氏神高校国の国民たちのほとんどは就寝している。美由紀は、生徒会長の菊
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爆弾の在《あ》り処《か》

 午前四時。生徒たち、いや、氏神高校国の国民たちのほとんどは就寝している。
美由紀は、生徒会長の菊池に案内され、薄暗い体育館に足を踏みいれた。
ひとけのない、どの学校にもある体育館。かすかに火薬のにおいが残っている。
菊池がスイッチを入れ、明かりが灯《とも》った。
がらんとした館内には、爆発をしめすものはなにも残っていない。見たところ、破片も痕跡《こんせき》も目につかなかった。
「ここで集まっていたときに、爆発があったわけでしょ? 無事だったの?」
「ええ」菊池は館内に歩を進めた。「いきなりだったので、よく覚えてはいませんが……。カメラのフラッシュみたいな光と、その直後に弾《はじ》けるような音がして、目が覚めました」
「目が覚めた?」
「はい……。それまで眠っていたわけでもないのですが、そんな感じでした。うまく表現できないんですが……」
「その目覚めた結果、ただちに独立国を建国したくなったわけ?」
「これは、なかなかご理解いただけないとは思いますが……。頭がすっきりして、いままで滞っていた思考が働くようになったとか、そんな感じなのです」
「それまでの思考の限界を超えて、別のものの見方ができるようになったってことね」
「はい。そしてふと冷静になってみると、われわれは学校側の隠蔽《いんぺい》体質に甘んじていたことで、取り返しのつかない事態を迎えようとしているんではないかと……。いまどき、世界史を履修しないまま卒業して大学入試に臨むなんて、考えられません。悪くすれば、入学取り消しになってしまうでしょう。ほかにも、いじめが日常化し深刻になっていましたし、ニート予備軍も大勢いました。このままでは大人社会の犠牲者になってしまう、強くそう思ったんです」
「すると、籠城《ろうじよう》というか、独立国建国は発作的におこなわれたってこと?」
「いってみれば、そうです。周りの大人たちには、いっさい助けを求められないと考えましたから。僕だけでなく、全校生徒の大多数がすぐさま同調してくれたんです。まずは社会の干渉を絶たねばならないということで、意見が一致しました」
「どうしてそう思ったの? 味方になってくれる人もいるかもしれないのに」
「いえ。あてにはできません。世の中には悪しき平等主義が蔓延《まんえん》しています。それではいじめは駆逐できません」
「暴力で押さえつけるのも、決して褒められたことじゃないけどね」
「そうですけど……。ほかに手段がなかったんです。警察力的な権限で締めつければ、いじめは必ずなくなると考えたんです。事実、そのとおりでした」
「ふうん……。あなたにその使命というか、悟りを開かせた爆発だけどね。どのあたりで起きたかわかる?」
「さあ……。僕は壇上にいたんですが、この中央あたりのように思えました。ただ、ほかの統治官らに聞いてみると、みんなまちまちで……」
美由紀は困惑を覚えながら、体育館のなかを見渡した。
爆発が起きたのに、その痕跡が皆無。どのように隠蔽したのだろう。
だいいち、爆発までのあいだ、不審物と思われることなく館内に存在しつづけたとは不可思議だ。
そのとき、足音がした。振り返ると、ひとりの男子生徒が近づいてくるところだった。
「ああ、五十嵐」菊池が声をかけた。「紹介する。こちらは臨床心理士の岬先生だ。岬先生、彼が五十嵐聡です」
「どうも……」と恐縮しながら、五十嵐は頭をさげた。
「こんばんは。っていうか、この時刻ならもう、おはようかな」
五十嵐聡はじっと美由紀を見つめた。「なにか、聞きたいことがあるとか……」
「ええ。お父さんのことなんだけど……」
少しばかりむっとして、五十嵐はいった。「父のことは、よくわかりません。あまり会ってもいないので」
菊池がその態度を咎《とが》めようとした。「おい、五十嵐……」
「いいの」と美由紀は菊池を制した。「ねえ、五十嵐君。お父さんはこの学校に姿を見せたこと、ある?」
「はい。ええと……建国の前の日。迎えにきたとかいって、校舎にいきなり姿を現したんだけど……」
「あなたはついていかなかった。そうね?」
「父とは、仲がよくないので……。母と別れてから、偏屈者の父は常に仕事漬けだったし、僕の顔をみても勉強しろとか、小言ばかりで……」
「この体育館で起きた爆発と、お父さんが関係あるといったら、どう思う?」
五十嵐は驚きのいろを浮かべた。「なんですって? あの爆発が……?」
菊池が五十嵐にいった。「きみのお父さんが酸素濃度を減少させる爆発物を仕掛けたらしい。僕らが意識改革に至ったのは、その直後だ」
「酸素濃度を減少?」五十嵐は眉《まゆ》をひそめた。「なら、酸素欠乏症になって、意識が朦朧《もうろう》とするはずですけど。そんな感覚じゃなかったし……」
美由紀はうなずいた。「けれど、みんなは突然の爆発にびっくりしたわけでしょ? どこでなにが起きたか、たしかめようとはしなかったの?」
「気にはなったけど……それより、頭のなかにどっと押し寄せてきた不安のほうが強くて。大人たちのいい加減さの犠牲になりつつあるって、その状況がとても明瞭《めいりよう》に理解できるようになったから……。気づいたら、周りの友達とも、そのことばかり話すようになってた。このままじゃ卒業できないんじゃないかとか、いろんな問題をひた隠しにしてるのはまずいんじゃないか、とか……。で、菊池君が独立国建国をするっていうから、なんていうか……みんな、それしかないって思ったんだよ。ふしぎだけど、それが事実なんだよね」
「いまもその思いは変わらない?」
「はい。ほかに方法があったとは思えない。僕らは自立して、自活できる道を選ばなきゃならなかった。誰が助けてくれたわけでもないし……。あのう、岬先生」
「なに?」
「父は、どうしてそんな爆弾を……。酸素欠乏症がいじめと関係あるとかなんとか、論文を発表してたみたいだけど……。なにが目的だったんでしょうか?」
「まだわからないの。だから、爆発物の残骸《ざんがい》をたしかめてみたいんだけど……。広い体育館だし、人手が要るわね」
菊池が告げた。「手を貸しましょう。ただ、明日は全校規模での行事があるので、その後なら……」
「ええ、助かるわ。わたしはいまから、ひとりで見まわっておくけど」
「わかりました。では、われわれはこのへんで……」菊池は頭をさげ、背を向けて立ち去りだした。
五十嵐もおじぎをしたが、やや当惑ぎみにたずねてきた。「岬先生……。父は、世間に迷惑をかけてないでしょうか?」
美由紀の脳裏に、名古屋駅周辺の惨状が浮かんだ。報道では、五十嵐哲治の名は伝えられていない。動機がいまだにはっきりしていないからだ。
「だいじょうぶ。心配いらないわ」美由紀は微笑みかけた。「いろいろありがとう。ゆっくり休んで」
そうですか。五十嵐はつぶやくようにいうと、もういちど頭をさげて、歩き去っていった。
美由紀はひとり、体育館に居残った。
生徒たちの表情から察するに、誰もが真実を語っている。しかも純粋な心に裏打ちされた行動ばかりで、陰謀めいたものはない。
氏神高校国という籠城手段を選んだ菊池の判断は正しい。それに追随したほかの生徒たちも同様だ。そんなふうに思える。
けれども、社会からみればこれはきわめて異常な行為だ。理解しがたい犯行だ。
なぜそんな意識のギャップが生じるのだろう。なにが理解しあうことを妨害しているのだろう。そして、爆弾はどこだ。どんな化学変化が起きたのだ。
わからないことだらけだ。それでもただひとつだけ、あきらかなことがある。
この学校の生徒は、誰ひとりとして、酸素欠乏症に陥っていない。
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