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千里眼219

时间: 2020-05-28    进入日语论坛
核心提示:独立と敵対�待機所�で仮眠をとっていた舎利弗は跳ね起きた。プレハブ小屋の壁は薄く、外の音もはっきりと響いてくる。小規模の
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独立と敵対

�待機所�で仮眠をとっていた舎利弗は跳ね起きた。
プレハブ小屋の壁は薄く、外の音もはっきりと響いてくる。小規模の地震のような振動と、籠《こ》もった断続的なエンジン音。間違いなく、校舎になにかを搬入しようとする車両の音だった。
ほかの教職員たちも身体を起こしている。なかには、呑気《のんき》に眠りこけたままの人間もいた。食糧は毎朝運びこまれる。いちいち気にしてもどうなるものでもない、そう考えているのだろう。
舎利弗はそうではなかった。食糧の搬入は三日おきのはずだ。きのう運びこまれたばかりだというのに、けさも搬入とはおかしい。
上着を着て外にでる。早朝の肌寒さもすっかり馴染《なじ》みのものになっていた。この身を切るような風の冷たさは、むしろ恰好《かつこう》の眠気覚ましになる。
報道陣にも教職員らと同じ怠け癖がついてきているのか、クルマの音に起きだしてきているマスコミ関係者の姿はまばらだった。警察関係に至っては、夜通し警備にあたっている制服警官以外に動きはみえない。
籠城《ろうじよう》が長すぎて感覚が麻痺《まひ》してきているのだろう。当初のような緊張感がない。
危険なことだと舎利弗は思った。生徒たちは対話を求めているのに、その対象である大人たちが積極性を失ったのでは、事態は膠着《こうちやく》状態に陥らざるをえなくなる。
それでも人の少なさがさいわいして、けさは校門のあたりがよく見通せる。
入っていく十トントラックは、いままで見たことのない業者のものだった。側面には�習研ゼミ�とある。
「習研ゼミ……?」舎利弗はつぶやいた。
小走りに駆けてくる足音がある。振りかえると、ウィンドブレーカーを羽織った中志津警部補が、白い息を弾ませながら近づいてくるところだった。
中志津はいった。「きのう食糧を得たばかりなのに、またきょうもか。贅沢《ぜいたく》が身につきだしたみたいだな」
「食糧じゃありませんよ」舎利弗は告げた。「習研ゼミ、通信教育や塾経営で知られる企業です。いつものようにネットバンキングで代金を振りこんで、なにかを発注したんでしょう。いったい……」
そのとき、背後で弘前校長の声がした。「模擬試験だよ」
舎利弗は振り向いた。コートに首をすぼめながら、弘前が歩み寄ってくる。
「模擬試験ですか」舎利弗はきいた。
「そう」弘前がうなずいた。「習研ゼミの大学模試は業界でも最も信頼性が高いとされていてね。いい問題をつくるし、志望校の合格予想もきわめて適正だ。きょうはセンター試験用の模試の日だ。菊池が発注したんだろう」
「そうすると、国公立大学の受験を志望している生徒たち向けの模試ってことですね」
「ああ、たしかにそうなんだが……。国公立志望なんて、それこそ菊池や幡野らほんのひと握りの生徒にすぎんよ。十トントラックで搬入する必要はなく、宅急便で送れば充分のはずだ。あの分量なら、全校生徒にいきわたるだろうな」
「菊池君は生徒全員に受けさせるつもりですか。一年や二年も含めて? けれども、センター試験の模試なら五教科七科目あるはずですよね。私大の志望者や就職希望者には難しい試験になるのでは?」
「いかにも。文系にしろ理系にしろ、数学や理科から複数の科目を選択することになる。うちの高校の生徒たちには、そもそも縁の遠い試験……」
ふいに、朝の静寂を破って校舎のスピーカーから音声が流れだした。
「氏神高校国より日本国へ」菊池の声が響きわたる。「本日これより、習研ゼミのセンター試験向け大学模試を、全国民にておこなうものとする。なおこの模擬試験は、習研ゼミの徹底した管理のもとおこなわれることで知られ、事前に出題内容を知ったり、問題用紙や答案を手にいれることは不可能である」
舎利弗は弘前にきいた。「たしかですか」
「ああ」と弘前がうなずく。「だから合格予想や偏差値の算出も精密なんだ」
菊池の声はつづいた。「午前中は行政庁と治安維持部隊を除く全国民に試験を受けてもらう。この間、治安維持部隊は各教室において監視を強化し、カンニングなどの不正がおこなわれないよう徹底的に目を光らせるものとする。日本国においても、警察機関が望遠レンズで各教室のようすを捉《とら》えておられることと思うが、わが国の国民らがいっさいの不正なく試験に臨んでいることをしっかりご確認いただきたい」
ずいぶん自信に溢《あふ》れた宣言だと舎利弗は思った。
たしかに生徒たちは籠城中も自主的な学習に励んだり、行政庁統治官らが教師の代役をつとめる授業を受けたりしていたようだが、果たしてそれがどれだけ点数に反映されるだろうか。
「なお」と菊池の声は告げた。「地理歴史科に関しては、全国民が世界史Bを選択するものとする。いうまでもなく世界史Bとは、近現代史を学ぶ世界史Aとは違い、通史を扱うものである。わが国の前身だった氏神高校では、今年に至ってもなお世界史の未履修がつづき、これをすら隠蔽《いんぺい》しつづけようとする体制が支配的だった。そうした過去を踏まえ、わが国の全員が世界史Bの試験に臨むことは、きわめて困難な挑戦であるとお解りいただけると思う」
弘前が苦い顔でつぶやいた。「余計なことを」
舎利弗は唸《うな》った。「どういうつもりでしょう? 彼らは、世界史Bで点数をとる自信でもあるんでしょうか」
「まさか。独学で勉強したのかもしれんが、ちょっとかじったぐらいの学習でものになるほど、受験問題は甘くない」
中志津が冷ややかな目で弘前を見た。「もとはといえば、校長。あなたたちが世界史を受けさせなかったのが問題だと思いますが」
「その件については……いま問題にすべきことじゃない」弘前は吐き捨てるようにいうと、歩きだした。「失礼する。きょうは午前から教育委員会に呼ばれているので」
「教育委員会?」
「先日、沢渡氏が恥をかかされて以来ご立腹だ。だまし討ちしたうえに、人を小馬鹿にした態度は許しがたい。生徒らの自主性を好意的に見る向きも、あれだけは眉《まゆ》をひそめざるをえなかっただろうな」
立ち去っていく校長の背を眺めながら、舎利弗はいった。「気が立ってますね」
中志津はうなずいた。「教職員がいなくても学校が無事に運営されてるからな、プライドが傷ついて当然だろう。ひと筋縄ではいかない生徒たちだよ」
まったくもってその通りだ。国旗掲揚塔や水書き習字練習シートを使った巧みなトリック。すべては周到な計算に基づくものだ。
大人たちへの反乱、それだけが目的ではないかもしれない。舎利弗は漠然とそう感じた。
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