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千里眼220

时间: 2020-05-28    进入日语论坛
核心提示:賭博《とばく》分析官 五十嵐は模擬試験を午前中に終えた。行政庁統治官は監視の役割をおおせつかっていたが、補佐はその限りで
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賭博《とばく》分析官

 五十嵐は模擬試験を午前中に終えた。行政庁統治官は監視の役割をおおせつかっていたが、補佐はその限りではないということだった。
試験の出来について、五十嵐は特に気にかけてはいなかった。やるだけはやった。志望校の合否判定がどうあれ、この独立国家ごっこに参加している以上は大学を受験できるかどうかさえ怪しい。卒業も危ぶまれることだろう。いや、とうに不可能かもしれない。
かまいやしない、と五十嵐は思った。ここで過ごす日々は、それなりに楽しい。心の底から喜びが沸きあがるというほどでなくとも、充実した毎日がある。
たぶん、ほかの生徒たちも同じような気持ちなのだろう。三階の廊下を歩きながら、ぼんやりと思った。
パチンコとカジノ部屋はあいかわらず賑《にぎ》わっている。校舎の廊下で、パチンコ店におなじみのチーン、ジャラジャラという音を聞くのは奇妙なものだ。ポーカー・テーブルの並ぶ部屋からは歓声がきこえる。むろん、勝者がいれば敗者もいる。悲嘆にくれている者もいるのだろう。
カジノの隣りの大教室は、いまでは映画館になっていた。視聴覚室の備品だったプロジェクターがパソコンに繋《つな》がれ、ネットから有料でダウンロードされた映画やドラマが上映されている。娯楽の乏しい校内では貴重な設備だったが、利用できるのはごく一部の人間だけだ。三ウジガミールの鑑賞料を払ってまで、ここで油を売ることができる輩《やから》はそうはいない。皆、暇があれば金を稼ぐためにアルバイトをするか、漫画世界史を読みふけっている。
こっちも稼がなきゃ。金がなければ話にならない。だが、労働といっても苦痛ではない。趣味と実益を兼ねた職業にありついたのだ、とりあえず不平などなかった。
階段を降りて二階の廊下に歩を進める。店の数は先週の倍以上に増えてひしめきあっている。午前の試験を終えた生徒たちが廊下に繰りだし、それを呼びとめて商品を紹介しようとする店員の声が飛びかっている。客引きは、この国では法律違反ではないらしい。
と、行く手から臨床心理士の岬美由紀が歩いてきた。
体育館捜索用に、菊池が選抜した男子生徒は二十人。その連中が取り巻きとなって歩調を合わせている。
男子生徒らは鼻の下を伸ばし、へらへらしながら美由紀を質問攻めにしている。
情けない奴らだ。あいつらの一員にはなりたくない。五十嵐は踵《きびす》をかえそうとした。
そのとき、美由紀が呼びとめてきた。「五十嵐君」
五十嵐は仕方なくその場に留まった。「なにか?」
「きょうの試験、どうだった?」
「んー。まずまずかな。数学以外はそんなに自信もないけど」
「そう。世界史はどう? 漫画世界史は効果あった?」
「あった……と思うよ。覚えなきゃならないところは、ぜんぶ漫画のなかで強調されてたからね。頭に浮かんでるのは漫画のコマだけ、でもいちおう試験の設問にはちゃんと解答できてる。これって、いいことなのかな。ほんとに歴史を学んだことになるの?」
「とりあえずは学習したことになるわよ。この勉強を通して歴史に興味を持ったなら、本格的な世界史の本を読み始めればいいんだし」
「そう……かな。まあ僕はそんなに興味も持てなかったけど……。それより岬先生。だいじょうぶ?」
「なにが?」
「こんなところで寝泊まりするなんて、不安じゃないかなって……」
「いいえ」と美由紀は微笑した。「ベッドもこしらえてくれてるし、なんだか宿泊するのが恐縮なくらいよ。みんな充実してるみたいだし……。ただ、そのう……」
「なに?」
「食べ物や毛布を分けてあげたくなる生徒もいるんだけど、治安維持部隊だっけ、制止させられちゃうから……」
「ああ。しょうがないね。稼ぎは労働の対価だから、施しは禁止されてるし……」
「五十嵐君は立派に働いてるのよね。いまからお仕事?」
「うん。視聴覚室のほうで……」
ふいに小沢知世の声が飛んできた。「聡」
知世が駆けてくるのが、美由紀の肩ごしに見える。
「あ、もうお邪魔のようね」と美由紀はいった。
「いえ、そんなことは……」
「お仕事、また今度拝見させてね。じゃ、がんばって」美由紀はそう告げて、立ち去りだした。
五十嵐とばかり会話している美由紀に不満げだった取り巻きの連中に、笑顔が戻った。また口々に話しかけながら、美由紀に付きまとう。
たいへんだな、岬先生も。と五十嵐は思った。
「聡」知世が近づいてきた。「早く。すぐお仕事始めることになってるでしょ」
「わかってるよ、そんなに急《せ》かすなよ」と五十嵐は視聴覚室に向けて歩きだした。
「あー」知世は並んで歩を進めながらいった。「聡も岬先生についてまわりたいと思ってる?」
「そんなんじゃないよ」
「なんだかねー。取り巻きの男子がどんどん増えてるのよね。そんなに大人の女の人に飢えてるのかな」
「まあ、ね。岬先生は美人だから」
知世が眉をひそめてこちらを見た。五十嵐は目を合わせないようにしながら、そそくさと視聴覚室の戸口を入った。
背面のパネルを外したパチンコ台に歩み寄る。延長したコードで連結された基板は、机の上にあった。
椅子に座り、その基板に目を落とす。ハンダごてを手にして、次はどの回路を試そうかと思案する。
「ねえ、聡。パチンコの分析なんてここじゃ役に立たないんでしょ? なんのためにやってるの?」
「さあ……ね。やりたいからやってる」
「はぁ。菊池君もよく許可してくれたね」
「この研究結果は日本のためになる。独立国としては、電気やガスを輸入している隣国の将来を案じるのも当然だって菊池君が言ってた。だから日本への適切なアドバイスは無償の輸出物として奨励されるってさ」
「へー。いつもながら小難しい。けどさ、なんていうか……」
「なに?」
「頼られてるのね、聡は」
「べつに。ほかにこんなこと、やる人間がいないだけだろ」
「ふうん……。なんだか……前は休み時間は、ずっとわたしと一緒にいたのに……」
「いまも一緒にいるじゃないか」
「そうだけど……。心が離れてるって感じ」
「え?」と五十嵐は顔をあげた。
知世はなぜかむっとしたような表情をして、背を向けた。「なんでもない」
戸口を出ていく知世を、五十嵐はぼんやりと眺めた。
どうしたというのだろう。このところの知世は、ひとり苛立《いらだ》っているように見える。
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