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千里眼231

时间: 2020-05-28    进入日语论坛
核心提示:地獄の終焉《しゆうえん》 中志津は戦場の悪夢をまのあたりにした。機動隊が校門を破り、校庭になだれこんでいくのが見える。砂
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地獄の終焉《しゆうえん》

 中志津は戦場の悪夢をまのあたりにした。
機動隊が校門を破り、校庭になだれこんでいくのが見える。砂埃《すなぼこり》が巻きあがっていた。硬いもので殴りあう音がする。叫び声、怒鳴り声、なにかをわめきちらす声。すべてが渾然《こんぜん》一体となり、騒然とした戦場のありさまがつたわってくる。
脚立に昇り、双眼鏡を手に、塀ごしに校舎の一階部分を観察した。
玄関に達した機動隊員らと、下級生らが激しく争っている。
顔じゅう血だらけになっている者も多い。
男子生徒らは、唯一の武器である金属バットを手に参戦していた。機動隊員を殴打している者もいる。だが、そんな力技は長く持続せず、別の機動隊員が背後から襲いかかり、その生徒を押し倒して殴る、蹴《け》るの反撃を加える。
女子生徒は階上に避難したようだが、なぜかあちこちから女子の悲鳴らしきものが聞こえる。もはや無法地帯と化した校舎は、法の執行などという生易しい状況にはなかった。ガラスの破片が飛び散り、絶叫がこだまする。機動隊員が盾ごと生徒に体当たりしていった。鮮血がほとばしるのが、この距離でもはっきりと見えた。
「異常だ!」中志津は脚立から飛び降りながらいった。「これじゃ弾圧だ。すぐにやめさせるべきだ!」
だが、本庁からやってきた水元勇吉《みずもとゆうきち》警視正は、いささかも動じるようすもなかった。「口を慎め。県警はバックアップだけでいい」
「そうはいきません」中志津は水元に詰め寄った。「ここはわれわれの管轄です。なぜ本庁機動隊の第一機動隊が出張ってくるんですか。それも特科車両まで引き連れて、千人近くを動員するなんて……」
「生徒数が千人近いという情報だった。それだけのことだ」
「だからといって、あそこまで危害を加える必要があるんですか。玄関先に達したら、あとは対話を持ちかけるべきでしょう」
「手ぬるいことは言っていられない。ただちに危険分子を排除しろという上層部の命令だ」
「危険分子だなんて。相手は高校生ですよ」
だが、水元に側近のように擦り寄る分隊長の巡査部長が、中志津を突き放した。「下がってください。妨害すると逮捕しますよ」
中志津は怒りを燃えあがらせた。いきなり本庁から介入してきたと思えば、この傍若無人な振る舞い。民主国家において、断じて許せることではない。
とはいえ、どうすることもできない。組織において、上の命令は絶対だ。自分ひとりが逆らったところで、県警の命令系統は従ってはくれまい。
なにもできないのか。このまま生徒たちの血が流されるのを、手をこまねいて見ているほかにないのか。
そのときだった。甲高いキーンという音と、落雷のような爆音が轟《とどろ》きだした。
なにが起きたのか、と中志津が顔をあげた瞬間、嵐のような突風が吹き荒れた。
砂埃のせいで視界が遮られる。暴動の騒音も、すべてがその音にかき消された。
やがて、信じられない光景を中志津は見た。
校庭に飛来したのは、巨大な迷彩柄の戦闘ヘリコプターだった。機体の左右に飛びだした、角ばった翼のような部分には、ミサイルとおぼしき兵装を備えている。
ヘリはきわめて低空で校庭の上に空中停止飛行《ホバーリング》し、校舎を守るかのように、機動隊に向かって機首をさげていた。
「な……」水元警視正が驚愕《きようがく》のいろを浮かべていた。「AH64アパッチ? 陸上自衛隊のヘリが、なんでここに……」
自衛隊。まさか……。
中志津はヘリのコックピットを見た。ひとりの女が乗りこんで操縦|桿《かん》を握っている、それもスーツ姿で。
やはり。中志津は愕然《がくぜん》としながら思った。岬美由紀か。
臨床心理士に転職してからも、古巣の自衛隊基地からレンタカー気分で装備を拝借する、まさに人間凶器。何度となく基地および所轄警察で始末書を書かされながら、常に人命救助に貢献していることから罰せられたこともなく、また本人もいっこうに反省したようすもなく、同じことを繰り返す。
だが、いまは応援したい。警視正は暴君も同然だ。この男の命令に誰ひとりとして従わないほど、一帯に恐怖を蔓延《まんえん》させてもらいたい。
そう思った次の瞬間、鋭く弾《はじ》けるような音とともに、機体から煙が立ち昇った。
ロケット弾の発射だった。直後、大地を揺るがす爆発音とともに、火柱が校庭に噴きあがる。
またしても悲鳴があがったが、今度は大人の、しかも男性の野太い声ばかりだった。機動隊員たちは逃げ惑い、校門のほうに引き返してくる。
アパッチは牧場の羊を追いまわす犬のように、しきりに校庭を動きまわって機動隊員たちを散らす。
容赦なく、さらに数発のロケット弾が発射された。いや、対戦車ミサイルかもしれない。本庁が送りこんできた特科車両が続けざまに爆発を起こし、轟音とともに四散して消し飛んだ。
チェーンガンが連射されて、校庭に弾幕を張る。機動隊員のなかには、這《は》いながら逃げている者もいた。校舎に突入を試みた隊員たちも、あわてたようすで飛びだして逃走に加わる。
よく見ると、ヘリは決して隊員を標的にしていないことがわかる。着弾は常に人から離れた場所に、正確に撃ちこまれている。特科車両も、爆発したのは無人のものばかりだった。
ヘリがこちらに向かってくる。まさに周囲のものすべてをなぎ倒すほどの強風が吹き荒れ、辺り一面に雑多なものが舞いあがった。
頭上を越えると、ヘリは高度をあげて遠ざかりだした。
妙だ。機動隊員を完全に校舎から撤退させるための威嚇攻撃としては、まだ十分ではない。
ほかに狙いがあったのだろうか。なにか別の目的が……。
そんなふうに感じたとき、中志津は視界の端にうごめくものをとらえた。
ごろりと転がってくる、直径三十センチほどの球体。それが水元警視正の足もとで止まった。
いつの間にか、男子生徒たちが警官隊に紛れ、司令本部であるこの場所に侵入していた。球体を放りだしたその生徒たちが、大急ぎで逃げていく。
横顔を見て、誰なのか判別がついた。五十嵐聡、石森健三、それに長島高穂。三人とも監視班がマークしていた生徒だ。
どうやって校舎内から抜けだしたのか。いや、それより、この球体は……。
はっと気づいた中志津は、水元をつかんで地面に引き倒した。「危ない。伏せるんだ!」
直後、鼓膜の破れるような轟音《ごうおん》とともに、突風が襲い、そして青白い稲光が瞬《またた》いた。
ただし、それは一瞬のことだった。辺りはすぐに、平穏さを取り戻した。
中志津は身体を起こした。
ヘリは囮《おとり》にすぎなかったらしい。生徒たちはわざわざ危険を冒してまで、爆弾をここに運んだ。いったいどうして……。
おかしい、と中志津は思った。奇妙な感覚に包まれている。
空気が澄んでいる。空が青い。それに、静かだ。
爆発音で耳をやられたのか。いや、人々のざわめきは聞こえる。
どうしたというのだろう。目覚めたときのように、頭がすっきりしているように感じる。思考がふいに冴《さ》え渡ったかのようだ。
呆然《ぼうぜん》とした顔をしながら、水元が起きあがった。
「警視正」中志津は手を貸した。「ご無事ですか」
「ああ……」
辺りはすでに静かになっている。機動隊員らも、こちらで起きた爆発に気づいたらしい。続々と集まってきていた。
中志津は水元にきいた。「警視正、これからどうします?」
「……そうだな」水元は、呆然とした面持ちで周りを見まわした。自分の命令によって引き起こされていた状況が信じられない、そんな顔をしている。
やがて、水元は静かにいった。「撤収しよう……。機動隊は、ここには必要ない」
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