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イブのおくれ毛24

时间: 2020-06-10    进入日语论坛
核心提示:昔 の 殿 様カモカのおっちゃんがまた遊びに来たので、二人で飲んでいた。春宵一刻|価《あたい》千金。いいきもち。灘《なだ》
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昔 の 殿 様

カモカのおっちゃんがまた遊びに来たので、二人で飲んでいた。
春宵一刻|価《あたい》千金。いいきもち。
灘《なだ》の地酒に、肴はフキのトウの酢味噌|和《あ》え。
「昔のお殿さまになったみたいな気分ね」
と私がいったら、
「うんにゃ。昔の殿様は、もっと若い美女を横においとったやろ」
とおっちゃんがいった。
「昔は、おしとねすべりというのがありましたからな。ご存じでしょうが」
「知ってますよ、将軍や大名の夫人は三十の声をきくと、夜のお相手を辞退して、みずからしりぞくことでしょ」
「あれ考えるたびに、僕は昔の殿様がうらやましいんですわ。昔の婦人は、つつましやかでしたなあ。昔の殿様になりたい」
私はあざわらい、おっちゃんにいってやった。
「おしとねすべりをするのは女の見栄からですよ。好き者だと思われるのは、昔の女にとっては死ぬより恥ずかしいことですからね。それに、元来、おしとねすべりの意味というのは、高年出産を避けるためだそうですよ。物の本によりますと、そう書いてあります。昔の殿様の正夫人など、京都のお公卿《くげ》さんのお姫さんがはるばるやってこられる、こういう人は風にもあてず育てられて弱い人が多い、よって、高年でお産すると死ぬかもしれない。高貴な出身や権門のお姫さんであると、婚家先で死なせたりすると政冶問題になるかもしれないので、いたわったのです。それがついに慣習となり、規律となったのでございます——ベつに、つつましくて、おしとねご辞退したわけではないのダ」
「なるほど、しかし何にしろ、三十といえばソロソロ味がわかってこれからようなるという頃おい。それをご辞退するのですから、やっぱり、大決断がいります」
「なあに。ああいうことは、女はクセのもんで、なけりゃないですむのよ」
「そうかなあ」
とおっちゃんは、なおも昔の女をほめたそうに、
「聞くところによると、昔の婦人はまた、嫉妬をつつしみ、自分がおしとねすべりをするときは、次の女性を推挙していったそうですなあ。じつにおくゆかしい。ああ、殿様になりたい。『わたくしの代りにこの女をどうぞ』などとすすめて去るとは、じつにしおらしいやおまへんか」
「そんなことができるのは正夫人だけでしてね。妾は身分卑しいから、次の女をすすめるなんて僣越《せんえつ》なことはできない。三十になると、だまって消え去るのみ。——正夫人の奥方は、奥向きに権力をもってますから、自分の召使いの中から見立ててえらぶのです、亭主に進呈する女を」
「ナヌ! そうなるとすこし考えもんやなあ」
とおっちゃんは考えこんだ。現実的なこの男のことであるから、殿様と奥方を、ただちに、自分と女房にあてはめて考えているのであろう。
「うーむ、女房《よめはん》がえらぶのか。それは困る。やはり、自分でえらびたい」
「そんなわけにいきませんよ。将軍やご大身の大名になるほど窮屈で不自由なんです。殿様だからといって、どんな女にでも『近う寄れ』というわけにいかない。格式やきまりがあって、手続きが面倒なんでございます。おっちゃんがバーのホステスをくどくようなわけにまいらない」
「しかし、しかし……」
とおっちゃんは身悶えた。
「僕はやっぱり、自分で見立ててえらびたいですなあ。女房《よめはん》の見立てはこまる」
「どうしてですか。長年つれ添った女房なら、亭主の気心も好みもわかっているんだから、そのえらんだ女はまちがいないでしょ」
「いや、ほんまいうと、女房はあまり信用でけん。女房というのは、そういうとき、口ではきれいなことをいうが、内心、何を考えてるやわからん。必ず、意地悪する気がする。つまり、わざと不感症の女をすすめるとか、美人やけど腹黒い奴とか、裸にしたら体に白ナマズがあったとか、髪を解いたら台湾禿げがある女をよこすとか……」
「そんなこと、最愛の殿様に向ってする奥方はいませんわよ」
私はうれしくってならない。おっちゃんを(男を)いじめるのは、だいすき。
「そりゃあもう、心しおらしくみめうるわしき、若いさかりの十八、九、ハタチ、なんていい子を推しますよ」
「いや、そうは思えん。何か、裏を掻きそうな気がする」
「この際、いっときますが、昔の殿様というのは、物の本によりますと、あんがい不自由なものだとありますよ。さっきもいったように下々の方が却って気らく。殿様なら手を鳴らしたら女がくる、思《おも》てるのかしらんけど、前もって指名しないと手続きが間に合わない。それにお寝間には、回数、時刻の記録係りがいて、不寝番がいて、ゆっくりむつごとを交すわけにはいきません」
「ウム、それは聞いたことがあります。しかし、それはかまわない。この年になりますと、そばに人が居ってもべつに、どうちゅうこと、ない。それに、記録係りも不寝番も、女でっしゃろ?」
「むろん、大奥へは、男は殿様一人しか入れません」
「ほんなら、記録係りや不寝番も引き入れて楽しく遊べるというもんです」
おっちゃんは不敵に笑う。どうしてこう、四十男というのはやりにくいのだ。
「えへん、毎晩、そんなことできると思うのがマチガイ。殿様は一代や二代ではなく代々つづいてるので、先代、先々代、先々々代の命日は精進潔斎で女人を近づけるわけにはまいらん。すると月の内、大奥へ入れる日は何日かしかないのです。この際、白ナマズでも台湾禿げでも文句いえない」
「しかしそれがようやく馴染んで気に入ったところでまた、おしとねすべりとなる……」
「そーんな、幾かわりもできるほど、おっちゃんが保《も》つと思ってんの?」
おっちゃんをやっつけたのは、私、はじめてだった。
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