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イブのおくれ毛33

时间: 2020-06-10    进入日语论坛
核心提示:それにつけても私は自分の作品をテレビ化されるのは本来好まない。小説とドラマではイメージがちがいすぎるのである。うまくいく
(单词翻译:双击或拖选)
それにつけても

私は自分の作品をテレビ化されるのは本来好まない。小説とドラマではイメージがちがいすぎるのである。
うまくいくときは、小説よりドラマの方ができばえよく、そうなるとわが作品の不手際が露呈されて、ほろにがい気分。
うまくいかぬ時も、居ても立ってもいられない。見ていてけったくそわるい。何も知らずけんめいにやっている役者さんにはわるいが、あまりにも原作のイメージから遠く、似ても似つかぬヒドイものだったりすると、これまた腹が立つ。
(うぬ、畜生、くそッ、くたばれ)
と悪態をつきたくなる(こんな悪態は、悪友の筒井康隆が私に教えこんだものなのだ。何事によらず、朱に交われば赤くなるということは、あるものだ)。
つまり、どっちへまわっても、作品をテレビ化されて心ゆくものができることは珍しい。
ことに、民放では珍しい。尤も、民放でも一人二人例外はある。ある局のあるディレクターを私は信用していて、この人の作ってくれるドラマなら絶対、私の原作をはるか上廻ったいいものになるのである。
たいてい、いつもうまくいくのはNHK大阪で作ってくれるドラマ。何のかのといっても、NHK大阪のドラマはいいのだ。ここは、いいディレクターと役者さんをあつめていて、安心でき、私にとってはいつも満足すべきものを作ってくれるのだ。永六輔さん、「大日本大絶讃」にNHK大阪のテレビドラマを入れてチョーダイ!
民放のある局なんか、原作とあまりにもちがうテレビドラマに、なんで原作のタイトルや登場人物を使うのか、とんと解《げ》せぬ。そのくらいなら一千万円くらい改悪料をチョーダイ!
カモカのおっちゃんが来たので、私は息もつかせず、それをしゃべっていた。おっちゃんは辛抱づよき御仁であるから、じーっと私のイカリに堪え、しばらくあって、
「まあ、そうかもしれんが、今日の新聞見ましたか?」
と問う。
「知りませんが、テレビドラマの批評でものっていますか?」
「いや、ある会社が四百何十億の負債で倒産しとるんですわ。関係者はここしばらくは夜も寝んとかけずり廻ってあがいとったでしょうなあ、�いよッ、お疲れさん�えらいこッてすなあ。——それにくらべ、おせいさんは、僕が来たら酒出して酔い浮かれ、太平楽やおまへんか」
「それが、どうしたっていうんです。倒産会社と何の関係があるの?」
「いや、そういわれると、どうちゅうことないが、テレビ屋に任した以上はもう、知らん顔してほっときなはれ。何も赤眼吊っていうこととちがう。破産の倒産のと、血便出して走り廻ってる、しんどい身分に比べたらなんぼ気楽な身の上か。ありがたいこっちゃと思わな、いかん」
「へん」
「それ、そういう反抗的な不逞な態度がよろしくない。じーっとわが身を反省し、よくよく考えてみれば、イライラキャッキャッとすることが、いかにおろかであるかがわかる」
私はじーっとわが身を反省し、よくよく考えてみたが、やっぱり腹立つものは腹立つ。
(あほ、ばか、とんま……)
こんな悪態は悪友の小松左京が私に教えたものだ。朱に交われば……。
「何をいうとんねん。体が達者で酒がうまく飲めれば、もうそれで、人生最高ですぞ」
とカモカのおっちゃんはいい、
「テレビや小説が何ぼのもんやねん——金もうけが何ですか。一方ではハダカで味噌をなめて酒の肴《さかな》にし、安酒飲んでええこンころもちになって浮かれてるときに、片一方では高価《たか》い服きて外車に乗って青息吐息で金策に走り廻る。いったいおせいさん、この両方の、どっちをとりますねん」
「それは、前者の方!」
「そんなら、下らんことを気に病んだり、腹立てるだけ、損というもの。まあ、一杯、いきまほか」
いつもこれでうやむやになり、最後は泥酔あそばす。
まあ、仕方あるまい。どっちでもええわ。
「そういうこと、そういうこと」
などと、酒をつがれてなだめられる。
「何しろ中年ですからな、一杯の酒で羽化登仙して、人生を終ればそれで上出来」
「でも、ときにはカッカとしなくてはいけないひともあるでしょう? 世の中には。たとえば、かの蓮見さんの仇討ちで、こんどは男の役人から機密を漏洩《ろうえい》させてやろうとたくらむ婦人記者だとか、女人禁制の大峯山へ、女性解放を叫んでデモる婦人だとか……」
「あることはありますやろうが、それも向き向きのもんですなあ。ところで、『根岸の里のわび住居』というのを知ってますか」
「何でもそれをくっつけると、俳句になっちゃうんだ」
「そうそう、夕立や根岸の里のわび住居。藤の花根岸の里のわび住居。それと同じで、どんな名句の下へくっつけてもたちまち狂歌になってしまう下の句がある」
「ウン知ってる。『それにつけても金の欲しさよ』」
「さよう、僕はいつも思いますのやが、『それにつけても酒のうまさよ』とかえたいですなあ。『古池や蛙《かわず》とびこむ水の音 それにつけても酒のうまさよ』、『春の海ひねもすのたりのたりかな それにつけても酒のうまさよ』」
「『われと来てあそべや親のない雀 それにつけても酒のうまさよ』ハハハ、これは面白い」
私は大喜びで、いくつも考え出した。
「お手討の夫婦なりしを更衣《ころもがえ》 それにつけても酒のうまさよ」
「五月雨《さみだれ》をあつめて早し最上川 それにつけても酒のうまさよ」
「あの、仰山ならべはりましたが……」
おっちゃんは私の言葉をさえぎっておずおずといった。
「あの、その中で十に一つくらいは、『それにつけても金のほしさよ』があってもよろしなあ」
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