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イブのおくれ毛38

时间: 2020-06-10    进入日语论坛
核心提示:スレチガイニコニコと、カモカのおっちゃんがやってきたので、私は先くぐりしていった。「残念ですが、今日はどんなことがあって
(单词翻译:双击或拖选)
スレチガイ

ニコニコと、カモカのおっちゃんがやってきたので、私は先くぐりしていった。
「残念ですが、今日はどんなことがあっても飲めない。『イブのおくれ毛』が、ほんとにおくれてんの」
いつもならおっちゃんは、
「このくそばか、酒と仕事とどっちが大切や!」
と叫び、私も、
「そうだ!」
となる所だが、今夜は、タダならぬ私の顔色を見て臨機応変に、
「さよか、ほんなら一人でお先にはじめてます。どうぞごゆっくり」
ときたもんだ、こん畜生。ここでもう一押し、
「仕事なんかやめて酒や、酒や!」
といってくれれば、元来、性、軽佻なる私のこと、フラフラとつられていくのに、と少し残念。今日はおっちゃんの方が、風向きかわり、
「こら、こっちばかり見んと、早よ仕事せんかい」
などといい、臨機応変というのも中年男の特徴であるが(若いものだと、こうはいかない)、その、いかにも世の中を戦い抜いてきたという面魂《つらだましい》がにくい。何ていったって、中年男というのは、かたい甲羅の上にコケまで生えて、女の歯が立つシロモノじゃないのだ。
仕方なく、私、けんめいに仕事して出してきた。例によって航空便であります。私の係りの人は気の毒に毎週、綱渡りのスリルを味わい、心臓をいためはるねん。
帰ってみると、おっちゃんはすでにデキ上っていた。今日はヒトの家の氷を勝手に出し、ウイスキーを水割りで飲んでいる。いいご機嫌で、なつメロを歌っていた。いつもなら、かわいらしい風情《ふぜい》であろうが、何せこっちは入ってない。(いい気なもんだ)と思うだけ。
いそいで負けじと飲む。早く、おっちゃんに追いつかなくては、面白くない。片や酩酊《めいてい》、片やシラフということほど、白《しら》けることはないからだ。つまんない。
しかしおっちゃんは悠々として、
「短か夜の酒はええもんですなあ。一句、出ませんか」
「出ませんよッ」
「どうせ、おせいさんなら朝顔や」
「朝顔って、何ですか」
「いや、昔の小話にあります。朝早うに、垣根のすき間から隣りをのぞくと、寝乱れ姿の娘が、朝顔の花をながめてる。目もさめるようなかわいらしい姿、息もせずにのぞきこんでると、娘は庭におりた。何をするかと見れば、紫の朝顔の花を一輪ちぎっててのひらへのせて見ておる」
「ハハア。何してるんでしょ」
「歌でも詠もうという風情ですなあ。いよいよゆかしく見ておりますと、今度は葉をちぎった」
「何のために」
「何のためかと見ていると、チンと洟《はな》をかんで捨てた。ハッハハ」
「ヘン」
私、酔ってないから、ちっともおかしくない。私がいそいで飲むと、おっちゃんも飲む。だからその差は、いつまでもちぢまらない。
「仕事すましたあとの酒は何ともいえませんでしょうなあ」
「ふだんならそうでしょうが、今夜は何となく、スレちがっちゃった。そっちがあんまり、ピッチ上げてるんで、均衡上こっちは下がってしまう」
そこでおっちゃんと私は、スレチガイということについてしゃべった。
双方、同じようにのぼせたり、同じようにさめたりしているときは文句ないが、このタイミングがちょっとでもはずれてスレチガうと、もう最後まで、シャツのボタンと同じでかけまちがう。
酒もそうだし、演説もそう。演者ひとり熱演、聴衆は白けっぱなし、耳をかいたり私語したり、うしろの席と久濶《きゆうかつ》を叙したり、途中でトイレに立ったり、用を思い出して電話をかけにいったり。
ハヤリのすたれた歌手が身ぶり手ぶりで熱唱しても、○○ちゃーんといってくれる娘も花束捧げる子もなく、みなスレチガイの悲劇。しかしスレチガイにもいい所あるとおっちゃんはいう。
「つまり、こっちの方は熱がさめてるのに、女の方は、こっちがまだ惚れてると思いこんで甘えたり、ねだったり、指図したり、始末にこまるときがありますな」
「すっぱり、心変りしたといって、手を切ればいいでしょう。スレチガイをつき合うことない」
「そんなことしたら相手は女、猫化《ねこばけ》よりまだこわい。七生《ひちしよう》、祟《たた》られます」
「じゃどうするの、おっちゃんは」
「しかたないから、こっちも熱のあるふうにみせ、もう何が何でもベタベタまといつく」
私は、おっちゃんがそんなことをしてる恰好って、想像もつかなかった。
「そのうち、向うの方が熱がさめ、スレチガイに気づく。そうなると女の方は男とちがって、これは冷酷無残であります。男のように相手の気持を思いやるということなどせえへん。面と向って、ハイこれまで、というて背中を見せていってしまう。こういう風に、女と別れるときは、スレチガイを利用すればよろしい」
私は、おっちゃんにそんな経験があるとは到底思えなかった。
「まあ、別れのときは別として、女と仲よくひとつ部屋にいて、たのしいことをしてるときにスレチガイというのが最も困ります」
とおっちゃん。
「たとえば?」
「コトの始めは女が中々エンジン掛らへん。こっちは暴走しそう。そんなときです」
「あります、あります。ああいうスレチガイのとき、女は男が何となくアホに見えるもんよ、赤眼吊って迫ったりして。フフン、なんてものよ」
「その代り、コトがすんだら男はもうねむいばかり。それを、女はまだブレーキ利かずに突走って、ヤッサモッサして、あとのほてりをもてあましてる。そういうスレチガイを男は横目で見て、フフン、このアホが、てなもんであります」
「何ですって!」
あわやけんかになるとこだった。スレチガイっぱなし。
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