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イブのおくれ毛39

时间: 2020-06-10    进入日语论坛
核心提示:プレイボーイ毎日、カモカのおっちゃんとお酒飲んでいると太平楽であるが、こうしている間も、老いは近づいてくるのだ。その用意
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プレイボーイ

毎日、カモカのおっちゃんとお酒飲んでいると太平楽であるが、こうしている間も、老いは近づいてくるのだ。その用意はいいのだろうか。
「——準備はできてるの?」
「ここででっか?」
とおっちゃん。何のこと? 何を考えてるんでしょうね。
「いえね、老境に近づく心の準備です。用意はいいの? ということ」
「なーんや。とつぜん、準備の、用意のというから、おせいさんむらむらと来て挑まれたのかと思《おも》た」
「ヒッ」
「こんな台所で、どないしょ、思てうろたえた。老いの準備はともかく、色ごとの準備はふだんできとらんので、いざカマクラというと、オタオタします」
「だーれが、おっちゃんなんか相手に。ヘン」
「そないいうたもんでもおまへん。これでも昔は、いくらかプレイボーイで鳴らしました」
「鳴かず飛ばずってのは、その後のおっちゃんのことですね」
「過去の栄光だけで、折れて曲るくらいですわ」
「しかし、プレイボーイのほまれも、そのかみのことになった、今はタダのとしよりが、いたずらに過去の栄光を吹聴、自慢しているのは、聞き苦しく、見苦しいものです」
「ナニ、そんなことおまッかいな。僕は、老いの準備というと、まず、そのことですな。かつてのプレイボーイとして、老いれば昔の赫々《かくかく》の武勲を、しゃべるたのしみがある」
「それがいやですねえ」
過ぎし日露の戦いに、というのはいちばん頂けない。
老いたるプレイボーイが、洟水すすり目ヤニ拭き拭き、手を震わせ、身ぶり手ぶりで、そのかみの戦果を誇大にしゃべりちらすなんて図は、物あわれである。
「プレイボーイいうのは、たえず現時点の栄光ですからね。過去の実績は問題になりません。そうして、プレイボーイというのは、老いたらむろん、若盛りでも、戦歴については黙して語らずが、よろしいのです」
「そら、ちがうなあ」
とおっちゃんは、捨ておけぬ、とばかり、身をのりだした。
「黙して語らず、というのは、若盛りはそうでもあろうが、年とったらそれではあかん。年とって、黙して語らぬ、いうのは、女にも浮世にも関心はなれた証拠で、棺桶に片足つっこんでますな。色気の無《の》うなった証拠」
「そうかなあ」
「入歯ガクガク、白髪ふり乱し、足もヨタヨタして、栄光の過去を熱意こめて語る、それがよろしいねん。プレイボーイの老いたのは、なかなか、旨味《うまみ》のあるもの」
「なまぐさいやありませんか」
「何いうとんねん——若いときプレイボーイやなんやといわれても、年とって、ツキモノおちたように脂気ぬけた爺さまになる人あり、こんどは若いもんに堅いこというて説教する人あり、そんなんはダメです。——腐っても鯛、老いても男、灰になるまで女に関心もたなくてはいかん。こう見えて、僕はいまも、自分では現役のつもり」
「実績ないじゃん」
「実績というのは、異性に対する関心のあるなしでいう——これはもう、不肖、若き日より、生生世々、つきせぬ泉のごとく湧いとりますねん」
口ではおっちゃんにかなわない。
「そうかなあ。すると、プレイボーイというのは、実績よりも、異性に対する好奇心と関心であると」
「さよう」
「そんなら男はみんな、プレイボーイではありませんか」
「これが案外、そうやおまへん。関心もっとっても抑えつけて、関係ない、いう顔しとる奴もあり、ちょっとひと年《とし》拾うと、すぐ女に関心なくして、子煩悩ひとすじという奴、小学生のわが子の成績自慢、または会社のロッカーにわが子の写真を貼りつけとる、いう手合い、こういうのが多いんですな」
「まだ壮年中年の男で、そんなハカナイもんですか」
「現代は、若年ですでに、そんな奴がふえておる。女にみとれるより、赤ん坊にみとれる、ちゅうような、婆さんの腐ったような男が多い」
「では、老年になって、女に関心と好奇心をもつ、ということは、たいへん、ありにくいことで……」
「そやから、それを真のプレイボーイ、という。若い男、恰好よい風をして車なんかころがして、安もんの女、次から次ひっかけとる、なんていうのは、これは犬ころのふざけ合いにすぎん。こんな奴がすぐ子煩悩になりよる」
いや、そういえば思い当りました。上方落語の御大《おんたい》、笑福亭|松鶴《しよかく》師匠、この方はもういい年だが、すごいプレイボーイ。実績だけではなく、好奇心と関心も物すごい。私はいつか、大一座の中で師匠によそながらお目にかかったことがあった。そのとき師匠は大一座をずーっと見渡し、私の所へ視線がいくと、(ハテ見なれぬオナゴがいよる)という風情で、じっと私を見つめられる。その視線というのが、じつに色けがあって、男の好奇心むき出し、値踏みするようにためつすがめつ、イキイキと面白がっていて、躍動する若々しい好奇心を感じさせられた。私は一ペんに師匠を尊敬し好きになってしまった。男というものは、あらての女に会ったときは、そういう風でありたい。私は師匠を男の中の男であると思ったが、おっちゃんにいわせると、
「それこそ、真のプレイボーイ」
なのだそうだ。
「僕も何かは以て松鶴師匠に劣るべき。老いの未来はプレイボーイ道《どう》に徹するつもり。バラ色にかがやいています」
「カモカのおっちゃんが死んだときの追悼句ができたな。『プレイボーイなどとよばれる人なりし』なあんてね」
追悼句というのは重々しく詠み上げると、何かおかしい所に特徴がある。
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