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イブのおくれ毛76

时间: 2020-06-20    进入日语论坛
核心提示:空  閨「見渡せば西も東もかすむなり」今日この頃の春げしき。私はふと、口をついてこの歌が出る。遊びにきたカモカのおっちゃ
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空  閨

「見渡せば西も東もかすむなり」
今日この頃の春げしき。私はふと、口をついてこの歌が出る。遊びにきたカモカのおっちゃんに、
「あとはどうつづくんでしたっけ」
「知りまへん」
おっちゃんは、全くもって文学不案内。
「僕やったら、〈見渡せば西も東もかすむなり、酒を飲むのに絶好のとき〉」
おっちゃんなら、酒を飲んだら四季いつも絶好になるのだ。
「タシカ、九条武子夫人だったよ」
と私はいった。
「〈君は還らずまた春や来し〉となるんやったと思うなあ」
「ハハン、麗人が空閨《くうけい》をかこつ歌ですな」
空閨、なんて古いコトバの出るところが大正フタケタ、昭和ヒトケタのお年ごろ。
「いまどきのおくさんなら、十年も空閨をかこっていないでしょうね。すぐ離婚モノやねえ、これは」
「いまどきの女房《よめはん》族なら、空茎《ヽヽ》を怒る方でしょう。空閨でも空茎《ヽヽ》でも、三日と辛抱しよらへん」
「空茎《ヽヽ》て、なんでございますか」
「空なる茎、つまり、役に立たん男のソレです」
こんなおっちゃんとしゃべっていては、私の品位にかかわる。
時事放談にうつろう。
「受験シーズンも終りましたが、アレはいったいどうなってるんですか、この頃の新聞週刊誌、みな大衆に媚びて」
軒なみに大学合格者高校別一覧表なんてのせたりしちゃって、腹の立つことおびただしい。
ことにある新聞なんぞは、勉強塾の塾長の手記なんぞれいれいしくのせて、さながら有名高校、有名大学合格が世の中の最高の目標みたい。私はその進学塾の先生の熱っぽさが、ふしんに堪えないのである。更に、わが人生のすべてを、わが子の入試に投入して半狂乱になる親というのもワカラナイ。
自分に子がないからだといわれればそうかな、と思う。
親心というものは、しょせん、親でなきゃわかりませんよ、といわれると、それもそうかな、と思う。
しかし、すべてそう片づけて、子のない人にはわからない、式の論で反駁してしまうのも一種のファシズムみたいな気もします。
ファシズムはきらいだ。
私は、「私はこうしてわが子を東大に合格させた」なんて手記を書いて新聞や週刊誌や雑誌にのせている人に、ファシズムの匂いをかいでこわくなる。
一家じゅうが、受験勉強の子供を中心にハラハラして暮らしてるなんて、秘密警察時代の世の中みたいで、暗然となる。子供が入試勉強で精根すりへらしてたって、親父も職場でえらい目してるはずだ。
お袋だって毎日あそんでいるわけじゃない。
なぜ子供だけをいたわるのか、子供より親が大事。
進学塾の先生が、合格を最高目標のようにいうのは商売として当り前かもしれない。
でも、それは、合格テクニックの問題だけにしてほしい。
そこから精神面まで口出しして、更にさかのぼって親の心がまえ、生きかたまでいわれては、私はおそろしくなる。
三十年前、寒い冬の朝、講堂の板の間に坐らされて「みたみわれ、大君にすべてを捧げまつらん。みたみわれ、この大みいくさに勝ちぬかん」と唱和させられたような、あの戦争中の学校の、精神教育のおそろしさを思い出させる。
そうしないとこの世の中に勝ち抜いていけない、というのなら、なぜ負けてはいけないのですか、といいたくなる。そんなことでは大学へ入れませんよ、と叱られると、ではやめます、というてどこがあかんか、と思う。
所詮は、日本が貧しい国だからなのね、きっと。
大学を出ないでたのしくゆたかに暮らせる道がせまいからだ。もしそうなったら、誰もえらい目をして大学にいく者はなくなる。そうしてほんとに学ぶ意欲と必要のある人だけいく。入試地獄は解消する。
だって大学出たって、世間知らず、物知らず、役立たず、礼儀知らず、「ず」のつくヘンなのはいっぱい、いるもん。
私の大演説のあいだ、カモカのおっちゃんは大あくび。
「いやほんま、全くうちのムスコもどうしようもおまへん。入試に親が狂奔するのもムリのないとこもありますねん。ともかく、いうてきかしても、さっぱり勉強せえへんねんから」
「そうですかねえ」
「これは親が先に立って指図せんと、ほっといたらいつまでもダメです」
「やっぱり」
「授業中むつかしい話が出ると、すぐあくびして寝てしまう」
「ハハア」
「おとなしいな思うと、眠ってます。その代り、アホな話をすると、よろこんですぐ目ェさます」
「アホな話って」
「エー、つまり、空閨は訳すると、ダブルベッドで一人寝てること、とか、僕なら〈空茎〉であるが、おせいさんなら〈食う気《け》〉であるとか、さらには、〈空毛〉の人もあらん、とか、またさらには、月やくが上ってこの世で女のツトメを果し終えた人は〈空下〉であろう、とか——」
「なんの話してんです、このバカ」
「そういうバカな話してると、ウチのムスコはハッキリ目ェさまして元気そうに吠《ほ》たえるからこまります。こら、ちとおとなしィにして、まじめにむつかしい時事放談でも聞かんかい。見てみ、向いのお嬢さんはおとなしィにしてはるのに、おとなしィせい、ちゅうのに、こら」
とおっちゃんは、うつむいて、あぐらの内側を叩いていた。ヘンな人ですね。
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